家に帰る 10
キッカの寄り道で最短で廃シェルターの外へと出る道を外れ、次第に徐々に建物の数が減っていく。
しかし建物の大きさは次第に大きく広くなっていった。
「あれです。あれが、私の家……懐かしい!」
キッカが一軒の建物を指さし嬉しさから思わず叫んで全員に静かにするよう注意され、キッカはおとなしくセイショウとルリの手を握る。
鉄格子のような巨大な門は蔦が絡み緑色の壁となっていた。
「あの建物って、なんかでっかくない?」
「……ここシェルターの中心、だよね。キッカさん。あんたって何者?」
「雰囲気あるねー。うわぁ、薄気味悪い……何か出てきそう。ごめんキカの家なのに」
「何年も放置されれば、草も伸び放題で荒れ放題でしょ。出てくるとしたら生体兵器ですね」
キッカの返事を待たずして好き勝手喋るミチルとレイラ。
草をかき分け玄関の扉までやってくる。
見事な彫刻が入った木の扉も腐り、苔と合わさり不気味なでこぼこした模様となっていた。
「鍵はかかってないから、蹴破らなくて済む……んじゃ、お邪魔します」
「失礼します」
扉をくぐるときルリの耳に小さな声でただいまと聞こえた気がした。
手を引くキッカの顔を見ようとしたがさっさと廊下へと上がって先へと進んでいった。
黴臭く薄暗い玄関を靴を履いたまま上がり埃の溜まったろうかに足跡をつけていく。
「玄関も広いね、私の自室より広いかも」
ミチルが廃墟の玄関を見て感心したような声を上げる。
しかしセイショウ以外はその言葉にキョトンとした。
「え、これぐらいは普通では? ねぇルリ様。というかこの程度の狭さの部屋ってどうやって生活するの?」
「わからない」
「普通の暮らしって高層の人間と一般兵じゃ、天と地ほどの差があるのではないでしょうか?」
「馬鹿にすんな。これだから高層の連中は、嫌いなんだ馬鹿にして。っていうかあなたたち従者は元は下層市民でしょ!」
ミチルとレイラがバカにしあっている横でルリたちは廊下を進む。
「ん、誰か最近ここにきてるよキカ」
「なんです? いったい誰が?」
二階まで吹き抜けのラウンジでキッカの探し物が見つかるまで休憩していた。
「それにしてもでっかい家……」
「キカ、高層の出身だったんだ」
「向こうの壁、だいぶ前に何かに壊されてるね」
建物はところどころ、破壊されたかのように壊れている。
老朽化と違うと思えた場所は他はなんともないのに丈夫そうな壁がその部分だけ壊れ、何かが突き抜けていったかのように他の部屋まで数枚の壁を突き破っていた。
「ここが災害種に襲われたときに、そこから生体兵器が入ってきたんですよ」
そういって両手に大事そうに抱えたアルバムを持ち直しキッカが穴の開いた壁を見る。
そこに生体兵器の姿はなく外は陽炎が見えるほど日が照っており、日と影との境目がくっきりとしていた。
レイラがそれを見てうんざりとした顔をする。
「キカ、写真見つかった?」
「ええ、おかげさまで。では行きましょうか」
立ち上がり埃を払って表に出る用意をした。
キッカがトランクにアルバムをしまいそれをもって立ち上がると、吹き抜けのラウンジの上の部屋から足音が聞こえる。
「だれ!?」
返事は聞き覚えのある声だった。
「誰といわれると。まったく、心配させやがって、悪ガキども」
二階から一階を見下ろし階段を下りてきたのはシェルターグレンの統治者、無精ひげのグレン・カイセイ。
彼の手にはエクエリが握られている。
「どれだけお前たちを心配したと思っている」
ルリを守ろうとトランクを盾に立ちふさがるキッカ。
しかし相手を見てすぐにトランクを下ろした。
「あわっ、カイセイ様!」
「カイセイ様!」
「グレン様!」
「おじさん!」
声をハモらせて同時に誰という残り二人。
カイセイは階段を下りるとエクエリをキッカにむける。
「さて、と。では、キッカ。話を聞かせてもらおうか」
驚き変な声を上げて後ろに転ぶレイラと手元にゴム弾銃がなくエクエリを構えるか否かオロオロするミチル。
表情一つ変えずまっすぐカイセイを見るキッカと彼女の前に立つが頭一つ分守るには身長の足りていないルリ。
「お前たちは、なぜ逃げる?」
オロオロしていたがミチルがキッカを狙うエクエリに電源が入っていないことに気が付き、ほっと胸をなでおろす。
誰にも伝えていないのでミチル以外安心できていないが。
「簡単に言えば、狙われているからです」
「狙われている?」
逃げる様子も襲い掛かってくる様子もなくエクエリを下ろす。
カイセイはもしかしたら襲い掛かってくるかもしれないとひやひやしていたが何事もなくほっとした。
レイラとセイショウは手を取り合って喜ぶ。
「残念ながら相手の名前まではわかりませんが。夜会で見た顔なので一目見ればわかるんですが」
「おじさんは味方でいいんだよね?」
「敵なわけがないだろう。とりあえずもっと詳しい話を、ここは暑いな場所を変えよう。向こうに車を止めてあるクーラーが効いている」
「もう歩かなくていいんだ!」
「ふう、生体兵器見てから胃がきりきりしていたんだ。もう警戒しなくていいんだ、よかった」
そういってカイセイを含めた5人は元キッカの家を出る。
最後に名残惜しそうに振り返りわかれを告げるとキッカはルリとカイセイの間に入る。
「ルリ坊、お前この二日で少し日に焼けたな」
「ルリ様はこの暑い中文句も言わず偉かったんですよ」
「ああ、ルリ坊は疲れるといつも以上に口数が減るからな」
「え、そうなんですか!? あれ、私といる時はそんなことなかったのに」
「キッカと会うってなると前の日から元気だったからな。二人ともお疲れ様」
「おじさん五月蠅い、ほっといて」
足早に進むルリをキッカは笑いながら追いかける。
そして草の壁となった門を出てカイセイが車を置いたという塀の角を曲がると、そこにグシャグシャニなった装甲車とトカゲ型の生体兵器がいた。