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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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家に帰る 6

 カガリは隠れることなくまっすぐ歩くと、近くにいた一般兵に話しかけた。


「こんばんわ、星の綺麗な夜ですね」


 驚いて自分の足に躓いて転んだ一般兵の顔をカガリは覗き込む。


「お前どこから来た! その服装っ強化繊維か、ということは精鋭!!」


 大きな声に他の一般兵たちが集まってきてカガリを取り囲んだ。


「ご説明どうも」


 集まった一般兵はエクエリしか持っておらず取り囲むだけだったが、後からゴム弾銃を持った一般兵がやってきて銃口をカガリにむける。

 彼女は両手を上げ手に持っていた団扇とエクエリを地面に捨てる。


「どうも、こんばんわ。どこかのシェルターの統治者のご子息の捜索は順調ですか?」


 緊張感もなくのんびりとした口調で尋ねた。

 しかし返事はなく彼らは彼女をどうするか話し合っている。

 時折、一般兵の会話の中に美人だと聞こえてきてゴム弾銃を突き付けられながらもカガリは気をよくしていた。


 テントの中から責任者のような男が来たことで話し合っていた一般兵たちが黙り込む。

 集まっていた一般兵をゴム弾銃を持った数人を残し解散させ、その輪の中央にいたカガリを見て彼は舌打ちをする。


「何事だ、必要ないものは持ち場に戻れ。くそっ、移動の指示が出たってのに面倒なことを。おい、この女にあれを見られたか?」

「わかりません、しかし。先ほど大きく暴れていましたから、勘づかれていると思います」


 話していた一般兵の二人がちらりとカガリを見た。

彼女はあれとは何でしょうととぼけたような口調で首をかしげる。

 二人と目があった時にカガリがトレーラーの中身のことですか? と話しかけ一般兵の会話を聞いて彼女も会話に加わろうとするが返事は帰ってこなかった。


「仕方がない。殺してどこかに埋めておけ。せっかく眠ったのに、今あいつを動かすわけにはいかない。その後テントは解体して我々は崖の上に向かう」

「人を殺すのですか」


生体兵器と戦う訓練しか受けていない一般兵は驚きの声を上げる。

 カガリが人殺しはいけませんよ、重罪ですものと先ほどより大きな声で声をかけたがまた無視をされた。


「今更人殺しがなんだというんだ、もう何人も死んでいるだろう」

「しかし今まではあいつがやったことで……」


 あいつとはトレーラーの中身ですねー、一目見せてもらえないでしょうかー、と語尾を伸ばしていったところでリーダーの男がカガリに怒鳴った。


「五月蠅いぞ、精鋭だからって殺されないと思っているのか!」


 顔に向けられたのがゴム弾銃からエクエリに代わってもカガリはにこにこと笑っていた。

 カガリの余裕は彼女に向けられたエクエリはみな震えていためで、生体兵器と戦う一般兵は人を狙うのに抵抗がある。


「あら、いいのですか? 私、王都の人間なのだけど……こんな時代に人同士の戦争はしたくないでしょう? もし殺したらあなたが戦争の引き金になるのですよ、そんなことになったらみんなあなたを恨むわね、べー」


 彼らは一般兵、シェルターには家族がいて知り合いや友人もそこで暮らしている、生体兵器が現れて人同士の争いは大きなものは起こっていない、そのため対人用の武器より対生体兵器用の武器の開発されていた。


 もっとも他の国ならいざ知れず、元は島国として同じ国民だった者同士が争うなど誰も考えていなかった。


「っう……拘束しろ」


 勝手な判断でシェルター全体を危険にさらすわけにはいかないとリーダーの聡明な対処でカガリは拘束される。

 もしかしたらリーダーの男も自分でカガリを撃つ度胸がなかっただけかも知れないが。


「あれを、あの箱をもっとよく見たいんです」

「黙って向こうの車両まで歩いてもらおうか」


「王都から来た使者に対して危害を加えることはよろしくないと思います」

「……連れていけ」


 腕を縛られてはいるが彼女が王都から来た精鋭だからか髪の美しい女性だからか、数人の一般兵に気を使われやさしく車両へとエスコートされた。




 建物を壊している最中のようで半壊の建物とその周囲に瓦礫や誰かの持ち物だったであろう家具の残骸が山にしてあった。

 解体用の重機や運搬用のトラックなどの轍ででこぼこになった地面を進んでいると先を歩いていたレイラが立ち止まる。


「ルリ様、小屋です! 小屋を見つけましたよ、これでやっと休める」


 かすれた声でレイラが小屋を指さす。


「……キカがまだ来てないけど」


 ボロボロの建物が無くなった開けた場所であたらしく作られた小屋を見つけ脱力気味に喜んだ。


「キッカさんも疲れていることでしょうし、冷たい水をもっていけばいいじゃないですか。ルリ様が水飲んで休んで元気な姿を見せれば喜んでくれますって」

「……でも」


 注意力が無くなり廃シェルターに入って何度か瓦礫に足をつまずかせているレイラ。

 彼女は小屋を見つけるまで小さな声でこんなことになるなんて聞いてなかったととつぶやいていた。


「見てください! 給水塔! やっぱり水はありますよ」


 セイショウがシェルターを見つけたときより喜ぶ様子を見て、レイラも疲労が限界のようだった。


「……じゃあ、水飲んだら迎えに行こ」

「わかりました、水飲んで休んでから迎えに行きましょう。大丈夫ですもうすぐですから」


 給水塔を見たまま掘り返ることなく力強くルリの手を引いて歩きだすレイラ。

 おそらく彼女にはもう何を言っても聞き入れてはくれないだろう、そう思ってルリは何も言わずセイショウをおんぶして歩く。

 暗く防壁が暗い夜闇に幕のようにどこまでも伸びている後ろを、ルリは何度も振り返りキッカの姿を探した。

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