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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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戦場跡地、3

 泥に沈んだ戦車を越えてぬかるんだ地面にできた足跡をたどっていくと人影が見えた。

 しかし声をかける前にすぐに残骸の角に消えて行ってしまう。


「いた、やっぱ一般兵だった。ちょっと走るぞ二人とも」

「はい」

「こんな足元悪いのに走るのですか? 転んだら擦り傷じゃすまないんですよ」


 コリュウは足元に散らばる錆び付いた金属片を蹴飛ばすが、ツバメとイグサは足を止めず人影の見えた方向に歩いていく。


「じゃあ、止まってもらうよう大声で頼んで見る?」

「戦場で何言ってんの?」


 彼のまじめな返しに一瞬キョトンとするイグサ。


「あ、忘れてた。だってここに来てからまだ一発も撃ってないんだもん、歩きつかれたー」

「おいてくぞ」


 そういって先に進むコリュウをイグサは文句を言いながら追いかける。


「……待ってよ、私のエクエリ重いんだから」


 近くに生体兵器がいるかもしれないのでエクエリ構えながら小走りですすむ。

 イグサのエクエリは大きく重い、構えながら走るのは大変だろう、体力だけでなく目や耳で周囲の警戒をするので集中力も必要でかなりの神経を使う。

 不時着した飛行機や朽ちたバリケードをなどを乗り越え人影を追ったが、離されてしまったようだ。


「足跡が消えた、どっち行った?」

「わからない」


 周囲の地面を見るも濃い密度で草が生い茂り足跡を完全に見失ってしまう。

 燃料や毒物が地面にしみていると草は生えないがそうでない部分は草がすごい密度で生える。


「見失ったか」

「どうだろ、この辺に潜んでたりとか? ちょっと高いとこから見てみる」


 コリュウが地面に深く沈み込んだ車両に飛び乗って周囲を確認しようとしたら、ブーツについた泥で足が前に滑っていきこけかかった。

 転ばなかったものの恥ずかしさで彼は顔が上がらない。


「……何してんのコリュウ?」

「うわっ、恥ずかしい! 今、ちょっとカッコよく飛ぼうとしたでしょ!」


 ここぞとばかりに突いてくるツバメと笑っているイグサ。

 いつ生体兵器に襲われるかわからない戦地の真ん中でいつものようにふざけている。


 戦地であるにもかかわらず緊張感がないのが朝顔隊なのだが。


「それにしてもすごいね戦場跡地。どこもかしこも旧時代の兵器ばかりだ、鉄臭い。こういうとこくるの初めてだよね」


 錆と草に覆われている車両を警戒ついでに見回し感想を述べるイグサ。


「普段は立ち入り禁止だからな、そうそう来れるところじゃないんだから新鮮味があるな。でも聞いた話だと結構危ないらしいぞ」

「不発弾とか?」


 足元の落ちている錆び付いた楕円形の破片からさりげなく距離を取るツバメ。


「それもあるけど物が多くて死角が多い、それにここはどのくらいの生体兵器が住んでいるのかわからないだろ」

「あー」


 それからしばらく足跡を探すがみつからない。

 草をかき分けても探したが見つからず、これ以上探しても見つからないと判断してツバメは足跡の捜索をあきらめまた歩き出した。


「そういえばここにきて結構立つけど、グール討伐の報告ないね」

「まだどこかで戦ってるんじゃないかな」


 通信機器をいじってみて電波が拾えないか試す。


「それにしても、グールもだけど私たち生体兵器と会わないね」

「みんなグールに食べられたんじゃないか?」


 イグサの質問にコリュウが適当な調子で答える。


「おいおい、そんなんなったら竜胆隊が負けたほどの強力な生体兵器だぞ? 繁殖でもして増えたら手が付けなくなる」


 ツバメがそれだけは想像したくないとうんざりした様子で答えた。

 会話はするが誰もお互いの顔を見ない、三人で別々に三方向を向いて生体兵器の奇襲を警戒している。


「グールは2匹いるの?」

「グールってのは特定危険種に判断された一匹だけ、名前みたいなものだよ。同じ種類の生体兵器だったらその辺にもいるだろうね、この辺でも同じ種類はいるっしょ」


「種ってことはたくさんいるんじゃないの?」

「昔はその種類ごとに、危険度を割り振っていたんだよ」


「うじゃうじゃいるのは嫌だなぁ、蜘蛛でしょ気持ち悪いなぁ」


 イグサは溜息をはくと重たいエクエリを構えなおした。


「怪我を直すためどっかにたくさん食べて体を休めてんじゃないか? 再生されてまた暴れられても厄介だ、倒すなら今のうちだろ」


 コリュウはそういうと若干歩く速度が落ちたイグサと並んで歩く。


「早く見つけて、さっさと倒そう」

「おー」


 完全に緊張感がなくなって来た隊長の端末に着信が入る。

 どこにいるかわからない本隊は通信範囲を拡大する為のアンテナ車か何かを持ってきているようで、通信距離に入り戦場跡地内での通話が可能な場所に来たようだ。

 コリュウとイグサに周囲警戒の指示を出すと隊長であるツバメは端末を取る。


「はいはーい、こちら朝顔隊。ちゃんと戦場跡地にいるよ、私たちが今どこにいるかわからないけど」

『こちら鬼胡桃隊、ターゲットを確認した。戦場跡地の中央大きな全翼機の残骸の中だ、誰か今の場所から見えるか? 見えないならわかりやすいように信号弾を打ち上げるぞ? んで、お寝坊さんはたらふく食って穴倉でぐっすり眠ってるらしい』

『こちら、さざんか~た~い。うぃうぃおっけー飛行機見えるよー、急いでいくよー、合流しちゃう? 待ってられなかったら先におっぱじめてもいいよ。たいちょ~、聞いてます? 見つかったそうですよー、まだ通信機壊れてるんすか? 隊長怪力で無線変形させちゃったの笑えるでしょ!』


 一対一の会話ではなく複数人を交えた会話で現在の状況を報告しあう。


「朝顔隊、了解、ここからじゃ見えないから私たち抜き出ててかってくれて構わない。撃ちあげてもらえるなら合流する、合流したらうちのエースが仕留めちゃうぜー」

『ハハハ、無理無理。簡単にできたら俺たちだけで倒してるんだつーの。というか集合地点にいなかったから来ないかと思ったぜぃ、雑魚は4匹倒したけどそっちはどんな感じかな~ふっふぅ!』

『こっちは運が悪くて1匹しか。そもそも戦闘は朝顔隊はいない方が楽に倒せる気がするが、一応信号弾は撃ちあげてやる。というか遅刻だぞ、朝顔隊』

「了解、できる限り急ぐから挽回するから……だってさ、行こうぜ」


 通信を切ると端末をしまいながらツバメが歩く速度を上げる。


「遅刻、バレてますねツバメ」

「こりゃ、素直に謝った方がいいね」

「初めからそうするべきです」


 通信を終えてしばらくすると信号弾が撃ちあがった。

 数秒光ったのち白い煙を残して消える、割と近い距離で。


「あっちですね」

「だね」


 信号弾の上がった方へ近づいていくとエクエリの発砲音が聞こえる。

 どうやら生体兵器もすぐ近くにいるようで、次第に発砲音が増えて複数の音が重なり合う。


「本格的に戦いが始まったみたいですね」


 コリュウが周囲を警戒して声を潜めた。


「サボり扱いされないようにサッサと合流しちまおう」


 そういってツバメは少し歩く速度を上げる。


「この残骸登ってったら、すぐ着くのに」


 そういうとイグサは横転した装甲車に登ろうとし始めた。


「触るな怪我するぞイグサ」

「大丈夫、大丈夫登って状況確認するだけだから」


「滑って転ぶぞ」

「さっきのコリュウみたいに?」


「う……」

「コリュウみたいに?」


 装備を外しカバンと大型のエクエリをコリュウに押し付ける。


「重い、コリュウちょっとこれ持って」

「だからやめとけって」


 俺に自分の装備を渡すと身軽になったイグサは装甲車の上に上って周囲を見渡す。


 とっさにコリュウは目をそむけた。

 かrの位置からはスカートの内側、タイツだがスカートの中が下から見えていたためコリュウはなるべく気にしないように視線を少しの間逸らしていた。


 イグサは上に立つと周囲を見渡しそのまま数歩歩くとコリュウ同様、彼女もブーツについた泥で足を滑らせ転んだ。

 そのまま装甲車から転落すると彼女が落ちるだろうと待ち構えていたコリュウが受け止める。


「ほら転んだ」

「あ、ありがと。一瞬ひやっとした、私重かった?」


「別に普通じゃないか、装備も外してたしそこまで重くなかった。でも、もう危ないから登るなよ」

「うん、そうする」


 降ってくるイグサを支え痺れるような痛みを顔に出さないように隠すコリュウ。


「ほらコリュウイグサ、二人とも遊んでないで早く来い」

「ごめんなさい、今行きます」


 イグサがコリュウに渡していた装備を付け直し、先に進んでいったツバメを追う。

 二人がごたごたしているうちに彼女は20メートルぐらい先にある、両羽のとれた大きな輸送機の陰から奥の様子を窺っていた。


「悪ふざけしててすみません。隊長」

「そこから戦ってるとこ見えますか?」


 質問の返事はなく代わりに隊長が二人の方へ全力で走ってくる。

 その表情は焦り、彼女は血相を変えて走って来た。


「走れ!」


 嫌な予感がするコリュウは身構える。


「えっ?」

「どうしました」


 何かの聞き違いかと思って聞き直す二人。


「走って戻れ、全速力で!」


 しかし、ツバメの言うことは変わらない。


「なんです、どうしたんですか?」


 二人を追い越しざま隊長が叫んだ。


「戻れ戻れ戻れ! グールがこっちに逃げてきた!」

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