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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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家に帰る 5

 レイラに手を引かれながらルリは来た道を振り返る。

 完全な暗闇ではないとはいえ、ルリの目には夜の闇に阻まれ遠くが見えない。


「……キカ置いてきちゃったけど、いいの?」

「大丈夫ですよ、キッカさんもきっとすぐに追いついてきますって。早くシャワーを浴びに休める場所を差がなないと。ルリ様も嫌でしょう、蒸し暑い中おなかすいたまま水もなくずっと歩き通しで」


「……でもそれはキカも同じのはず」

「あの人はいいんですよ、泥臭いところ好きだし」


「そうなの?」

「力仕事とかガーデニングとか、汗を流すのはあの人の好きなことですからね。お屋敷でルリ様がお勉強なされている間は、警備警護のキッカさんは仕事ほとんどないですからね」


「……知らなかった」

「まぁ、ルリ様のほうがキッカさんと暮らした時間が長いからあの人について知ってることも多いでしょうけど」


 レイラに引かれ歩くルリの開いた手を握るセイショウ。

 両手でつかむセイショウの手は震えていた。


「それならツララとカイセイおじさんもかな。カイセイおじさんとこのシェルターにも、フクラシェルターにもキカは何年か行っていたから」

「そうなんですか。じゃあキッカさんはずっとルリ様のそばにいたわけじゃないのですか」


「キカは自由だからね」

「羨ましそうですね、まぁルリ様は一日中お屋敷でお勉強ですからね」


「……一日でも早く統治者としての必要なことを覚えないといけないから、仕方がないよ」

「まじめですね、さすが流石じき統治者。っていうか、今日よくわがまま言わずに歩きましたよね、しんどかったでしょう」


「……疲れた」

「キッカさんの前で言えばいいのに」


「キカだって我慢してたよ。休憩中飲まなかった余りの水もセイショウにあげて、ずっと先を歩いて道を探してくれてたし」

「セイちゃんもう大丈夫だから、もうすぐ休めるから」


 壁沿いに歩いていると廃シェルターの門を見つけた。

 車両用の巨大な扉は閉まっていたが、レイラは一般兵の旅行用カバンからサバイバル用のナイフを取り出すと人間用の扉の近くの金属板を外し中の機械の配線をいくつか切断する。


「ちょっと待っててくださいね。ここがちゃんと修理されていれば、そうら、こわせ……た!」


 すると扉は少し動き、道具をしまったレイラは力を入れて押す必要があったがゆっくりと開いた。


「開きましたよ、さぁどうぞ」

「……すごいね、これキカとかセイショウとかみんなできるの」


 セイショウは首を振る、怖くて静かなのだと思っていたがいつのまにかうとうととたったまま寝ようとしていた。


「え、ええ、私の個人的なあれですから、まぁ、ね」

「どういうこと?」


 レイラは答えをはぐらかし、ルリの手を引いて扉を抜け廃シェルターの中へと入った。




 キッカたちが山を登り、ルリたちが廃シェルターの中へ入ったころ、崖の下の森の中で散歩気分で蒸し暑い森の中を歩くカガリたちの姿があった。

 全員手には小型のエクエリを持ち、生体兵器の目撃情報もあり目立たないようにライトを消してゆっくりと音に注意を払って歩く。


「さて本当なら私たちは王都に向かって帰っているはずだけども、面白そうだから残ってみました。どうでしょう」

「怒られるのではないでしょうか、王都から指定された期日に戻らないのは」


「今回のお話が失敗したら私たちの改革に支障が……どうなってしまうか少し不安はあるものの、今は今を楽しみましょうか」

「ダメだと思います、そういう気分や思い付きで行動するところが」


 一応は捜索に参加しているツタウルシ・カガリ率いる、冬桜隊。

 カガリは額に書いた汗をシャツの袖でぬぐい、カラコロと音を立てる氷が入った水筒の水を飲んだ。


「冷えてておいしい。それにしても失敗したら私たちの計画は凍結されるなんて完全な嫌がれせよね。あ、計画の凍結と水筒の氷とは関係ないですからね」

「自業自得かと、元はカガリ様が命令もなく勝手に王都を抜け出し、特定危険種の拠点壊しの討伐作戦を近場で見たいというから」


「蒼薔薇隊が律儀に計画書を送ってきたから見物しようと、でも結局見れなかったじゃない。私たちはあの資料を手に入れただけ、それだけじゃない」

「そういう話ではないかと、見れた見れなかったとか。何も言わずに抜け出したのは事実ですから」


 勝手な行動をしてしばらく行方不明扱いになっていた彼女たちは、王都に戻り次第怒られ取り組もうとしていた計画の中止と罰として仕事を押し付けられていた。


 暗い森を歩いていると、ぼやっと明かりが見える場所が見える。

 行きあてもなく夜の散歩を楽しんでいたカガリは、その明かりのほうへと引き寄せられていった。

 近づいていくとだんだんと光を放っているのが、車両のヘットライトやランプの明かりだとわかってきた。

 その周囲にはエクエリだけでなくゴム弾銃を持った一般兵もいて、喋りながら周囲を警戒していた。


「あんな大きな声で喋って生体兵器への警戒がなってない。人の多さで安心しているのかしらそれとも安全な場所だからか、それともだたたんに一般兵になるような人の集まりだからかは知りませんけど。それにしても大きなトラックですね。いったいあれは何でしょう?」


 カガリが見つけたのは捜索とは無関係そうな巨大なトレーラー。

 資材回収班がまだ使える戦車を分解せずに運んだり、履帯が切れたり軟弱地盤で装甲の重さから動けなくなった戦車を入れる大きな運搬車。


 しかしその荷台は改造され、その荷台には様々な装置の付いた鉄の箱が乗っている。

 扉は大きなものが一つしかなくどこにも窓はない、しかも一枚しかない扉の取っ手には鎖がまかれ錠がかかっていて、箱の気持ち程度のシェルターの紋章などのごてごてした装飾がいかにも何か隠しているとカガリはすぐにわかった。


「私たちの乗っているトラックと似ていますね、だとするとあれはハイテク空間の高官の私室か、シェルターでできないような簡易の移動研究施設、あるいはこういう変域ではありがちな人を閉じ込めておく檻か、いったいあの中には何が入っているのでしょうね?」


 トレーラーの近くに装甲車やアンテナ車が密集して止まっており、大きなテントまで張られ野営施設のようになっている。

 木の影からこっそりとその様子を観察していると、前触れなしにトレーラの荷台に乗っていた大きな箱が大きな音を立てて揺れた。

 人の力で揺れると思えない大きな鉄の箱の中身を想像し、暑さでだれていたカガリの目が輝く。


「あの中に何かいますね、すごく興味がわきます。あれもう少し近くまで見に行きませんか?」


 振り返ると逃げ出していた部下たち。


「おー、見事に置いていかれました……逃げ出した。しかし、まわりこむことはできなかった、帰ったらお仕置きしましょう、はぁ。よし」


 彼らを見えなくなるまで見送りカガリは単身、野営施設に向かって歩き出した。

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