家に帰る 2
草から出るころ合いを見定めているとセイショウと寄り添って寝ていたルリが目を覚ます。
「……どうかしたのキカ?」
「置きましたか、なんでもありませんよ、ルリ様。もう門の前です、もう少ししたらもう一度一般兵も前に出る予定です。今度は保護してくれればいいですけど」
「暗さもちょうどいいころ合い、今行けばたぶん近づくまで人影が誰だかわからないでしょうから今なら出て行っても下手に撃ってはこないはず。……行きますか。しっかりついてきてくださいよレイラ」
「ちょっとまって、キッカさん。向こうから誰かきました」
レイラの指さす先にこの門にまっすぐ向かってくる複数の車のヘットライトが見えた、暗くなり今日の捜索を諦めた一般兵たちだろう。
森から出ようとした三人は急いで隠れていた草むらに潜みなおした。
「まぁ、隠れますよね」
「仕方ないことでしょう。まだゴム弾当たった箇所が痛むし、誰が味方かわからないいじょう人間不信にもなりますよ」
門の前で車列が止まる。
シェルターに入る手続きをしているようで目の前にとまった装甲車の運転手が出ていき、少ししてからキッカたちの隠れている装甲車から中の会話が漏れてきた。
「もう、ぜんぜん、失敗じゃないか!」
「申し訳ございません」
声の一つは子供で抑えることのない金切り声のような声を上げている。
もう一つの声は弱弱しくも聞き取りやすいしわがれた声、身の回りの世話役かなにかだろう。
「爆薬で崖を爆破してがけ下に突き落とせば、ツララさんを惑わすあの人形みたいなやつが死ぬのは間違いないって言ったじゃないか」
「ええ、本当ならあの雨風がやむのを待ってから帰る予定でしたから、急に夜のうちに帰ると聞いて急いであの廃シェルターまで車を飛ばしました。車のライトをとよりにタイミングを計り崖を爆破、死体があのような状況でしたから、報告があるまで食べられたか土に埋まったものだと思われました」
キッカもレイラもあまりの驚きに唖然とし動けなかった。
なんかすごいこと聞いたぞとキッカとレイラは額を流れる汗も拭かず耳を澄ませる。
装甲車の装甲はぶ厚く音漏れがするのは変だと思ったが、換気か周囲の警戒かで小さなのぞき穴が開いていた。
「それは聞いたよ、僕が言いたいのは他の奴らに見つかる前に早く殺せってこと。こっちへと帰ってきてるんだって?」
「はい、我々のシェルターで見回りさせていた一般兵が見つけたのは幸運でした。しかし逃げられてしまい、逃げた方向を重点的に捜索させています」
話を聞いているうちに握った拳に力が入るキッカ。
「戻ってこないようにしないと、こんな機会もう二度とないかもしれないんだぞ」
「すでに門の見張りの買収は住んでおります。ここへ戻ってくるのであればすぐに取り押さえられフクラシェルターへの報告の前に我々に報告が入ります」
「手際がいいな」
「まぁ、所詮は一般兵ですからね。いくらでもなりますし、こちらで用意もできます」
「だが逃がしたんだろ」
「無能ゆえに一般兵という言葉があります」
「知ってるよ、学も才能もない力仕事しかできない奴らだろ。なんでもいいから早く捕まえろよ」
「かしこまりました」
門が開き駆け足で走ってきた運転手は装甲車をシェルターの中に移動させた。
最後の車両がフクラシェルターの内側に入っていき門が閉まってから、キッカたちは大きく息を吐いた。
「……全部聞いちゃったのだけど」
周囲に誰もいないことを確かめるとゆっくりと森の中へと移動する。
聞いた話が正しければ見張りの一般兵はすべて敵だ。
「ええ、なんか私たちがここに隠れていること知ってって語ったのかと思った」
「そのあとバーンてくる奴ですね、秘密を聞かれたからには生かしておけないって」
「レイラはドラマの見すぎ」
「休憩中はみんなで刑事ものかサスペンス見てますから、そういう想像が得意なんです」
「楽しそうね」
「キッカさんも今度きますか? お菓子とお茶出ますよ」
「今無事に帰れるかどうかかなり怪しくなったとこなんだけど」
「そうでしたね、セイちゃん起こしておかないと」
「それで、さっきいたあれは昨日の生意気な子供……一体、誰だっけ?」
「年が近そうでしたが、ルリさんの知り合いではないんですか?」
その問いにルリは首を横に振る。
進んで話しかけないルリに同年代の子供の友人は少ない。
いずれ統治者になるみとしてその消極的さは親だけでなく従者たちも悩みどころだった。
「昨日私の癒しの時間に後ろから話しかけてきたどこかのシェルターのお偉いさんの子供。顔を知らなかったから連合内のシェルターの統治者ではないはず?」
「そうですか。誰かわかれば、どうにかなりそうだったのに」
「無理でしょ。お金で法を捻じ曲げられるんだから、難癖付けて私たちが悪人にされちゃうかも」
「やりたい放題ですね。上流階級の方々は、あ~あ私も高層の家庭で生まれたかった」
「毎日勉強勉強で遊びがなく、たまにの休みぐらい派手にさせてあげてくださいよ。旦那様だって会議が建て込んだり急ぎの書類を処理したりして何日か20時間働く時だってあるんですから」
「ふーん」
レイラは落ちていた棒で木の棒で地面に不公平と書き始める。
トランクを開け使えるものがないかもう一度確認するキッカ。
「お金使えば動く人間は多いですからね、さっきの話にもあった一般兵はいつ死ぬかわからない未来の見えない生活をしてますし、お金をためて事業を起こすのが戦場に出ないで生活する安全で手っ取り早い方法ですからね。これからどうするんですか?」
レイラに言われ少し悩むとルリの青い目を見て答えを決めた。
「シェルターのスイレンに向かおうかと。遠いですが目の前のフクラシェルターに入るよりもずっと簡単だと思うし」
「どう思いますか、ルリ様。明日またあの暑い中を歩くんですよ? 明日こそ私が干からびちゃう、こうなったらここで待ち伏せして車の下とかに潜り込んでこっそり侵入したりしましょうよ」
「レイラさんはドラマの見すぎ、途中で落ちたらぺちゃんこだよ……キカの言う通り道を戻ってスイレンに行く。道は廃シェルターを通ってでいいの?」
戻るといわれうんざりとした表情のレイラ。
今日一日をかけて歩いてきた道を戻る、そして同じ距離ある別のシェルターへと行くのだ食べ物も飲み物もなく。
「はい。あの場所は防壁が修復され建物の撤去が進んでいる最中で、借り宿泊施設と食糧庫がありますから。私たちの捜索で人がとられそうですし、真っ先に調べていないとわかったら、おそらくあの場所には誰もいないでしょう」
「戻るんですね、崖の近くまで……」
セイショウをゆすり起こすと4人は移動する。