家に帰る 1
キッカたち4人はどこからかもう一度フクラシェルターへと入ろうと森の中から扉を目指している。
ゴム弾の当たったお尻をさすりながらキッカはルリの手を引いても道沿いに森を進んでいた。
飛んできたゴム弾の命中はルリは守られセイショウは運よく一発も当たらなかった、一般兵に近かったキッカが5発、遠くにいたレイラが2発当たり、すべて背中や腰に当たり痛みで歩けないや物を掴めないということはなかった。
それでも内出血を起こし丸く青あざができている。
「なんで私たちはいきなり撃たれたのでしょう、レイラ何か心当たりは?」
「ありませんよそんなもの、私たちが小汚いからとか? 泥まみれだし服装に気を遣おうにも着替えがないものですもんね」
「もうおうち帰りたい」
トランクとエクエリの入った旅行用かばんを持ったレイラが後を追う。
「私とルリ様は着替えていて、汚れているのはセイショウとレイラの服装だけだけど」
「キッカさんだって髪の毛半分茶色じゃないですか」
「それにしても、警告もなしに撃ってきたことがわからない。結局どうしたかったんでしょうかね」
「ルリ様の顔を知っているのは、高層の方々くらいでしょうし。ましてスイレンシェルターでない、他のシェルターの一般兵。自分の生活以外に興味のない一般兵ですもの、とりあえず動けなくして捕まえようとかガサツな考えだったのかもしれません。だとしたら難民? ……身代金目的にこんな大掛かりなことを……?」
一般兵はシェルター内で能力上仕事を見つけられなかったか生体兵器に恨みなどがあり見つける気がなかったかの二通り。
生まれながらに快適な暮らしをしている上流階級であるルリを見て何か思うことがあったのだろう。
「汗で服がもベッタベタなんですけど」
キッカがレイラと話している間、鼻血の止まったセイショウをルリが手を引いて歩いていた。
「……鼻血は止まった?」
「はい、でも気持ち悪いです……うぅ」
「大丈夫セイショウ? キカ、セイショウがきもちわるいって」
息を上げ柔らかい地面を歩く、目の前に防壁はあれど出入り口となる門までは遠い。
すぐ横に硬く補正された道路があるというのにまた一般兵に攻撃を受けるかもと思うとうかうか大きな道にも出られない。
「汗がまだ出るだけましでしょう、でなくなったら体温の管理ができなくなってぶっ倒れますからきをつけてねレイラ。ルリ様のために何とかして水を手に入れないといけないのだけど、川は濁流、どこか水溜まりでも探さないと、雑菌いそうだけども」
「熱中症でしょう、なんで水全部飲んじゃったんだろ。こんなんなるってわかってたら大事に飲んだのに」
お互いの汗でも舐め合いッこでもしますかとまだ軽口が叩けるレイラ。
ルリはもともとあんまり喋らず他人の顔色を見て返事をするので大丈夫と聞くと平気と答えてしまい本心がわからない。
急に倒れられるとどうしようもなくキッカはそれだけが心配だった。
「なんにしても、シェルターに入ってしまえばいいんです。もう目の前なんですし」
「でもキッカさん、一般兵に見つかったらまたゴム弾撃たれるかもしれないんですよ、やめた方がいいのでは?」
「いやいや、真正面から行ってフクラ家の誰かを呼んでもらえばいいんです。また撃ってくるようならば私がトランクを盾にしてルリ様だけなら守りますから何とかしてください」
「何とかって、危険すぎます……私も守って」
「危ないのは承知の上です」
「でも私も道連れなんですよねキッカさん? 私は安全だと確認できるまで後ろに隠れててもいいですか?」
完全に日が落ちるのを待ち、木の影から門の見張りの様子をうかがうキッカとレイラ、ルリは歩き疲れセイショウと肩を寄せ合って眠っている。
暗くなり門のあたりだけ明かりがつく、少し前に大型の装甲車が城壁のような門の中に入っていったのを見た。
門の周りは開けていて森からかなりの距離があり一度出たら引き返している時間はないだろう。
「やめておきましょう、危ないですってルリ様を危険にさらすつもりですか!? スイレンシェルターに向かいましょうよ、それでも行くならキッカさん一人で行けばいいんですって、安全だとわかってから私たちが出ていきます」
「ご主人のためなら命はる覚悟ありますけど。いくら私だって、私一人で行くのは怖いんですから。レイラも一緒に、ね?」
キッカは暑さと背中のルリの体温、なれない環境での汗と疲れ、それに加えて理由不明な攻撃を受けセイショウを置いてきて精神的にかなりの負荷がかかっていた。
「ああ、事故さえなかったら、今頃何してたんだろうなー。あー、あー疲れた、対人格闘は習ったけどサバイバルなんて知らないもん、なんで目も前にあるのにあんなに遠いんだろ」
「キッカさん? こんな時に暑さでおかしくなったりしてませんよね? この状況であなたがおかしくなられるとすっごい私が困るんですけど」
「熱帯夜があっついなー」
「キッカさんん!?」
普段から立ち仕事が多いとはいえ家中クーラーのガンガンにきいた快適空間での仕事だ、休憩だってあるし氷菓子の差し入れだってある職場から、急に炎天下の中を休みなく歩き回る羽目になるとは思いもしなかった。
キッカの仕事は外出の際ルリを守ること、それ以外は大体スイレン家の屋敷内での力仕事の手伝いをする程度。
ルリに丁寧に話すのはルリの父親、亡くなってしまったが彼やグレン・カイセイに恩があるから、彼のそばでルリに嫌われないようにと性格を作っている。
「今はご主人が寝てんだ、聞いてない普段通りに喋らせてよ。ごてごてした喋りは疲れるんだから」
「暑さでまいってますか?」
「そりゃ、水もなく歩きっぱなしだから」
「日が落ちた地面も蒸し返すように暑いですものね」
「こんな時にあれだけどレイラはなんでスイレン家で使用人しようと思ったの」
「え、うぇぇっと、ですね」
「どうしたのそんなにビックリして、なんか返答に困る質問した?」
「いいえ、なんでもないです。話の振りがいきなりすぎて」
「それでさレイラ、あの崖なんで壊れたんだと思う?」
「どうしたんですか急に。話とびっとびですよ」
「あの崖、これまで一度も崩れたことがないんだよ。あの道はいくらシェルターが放棄されて手入れがされていないからと言って大雨程度で崩れるような崖じゃないんだ、本当にスイレンからフクラに続く道だから使うたびに道の安全の確認だってしてるはず」
「それで?」
「あんなタイミングよく崖が崩れるわけがないって話してんの」
「ごめんなさい何を言いたいのか、頭に糖分足りてません。金平糖食べたい」
「お腹すくから食べ物の話すんな」
「ごめんなさい」
「なんで崩れたかなぁ……」
「さぁ、専門の方に聞いてください」
ルリは寝ているが、三人はもっと日が暗くなるのを待った。