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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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すれ違い 1

 日が長くなったこの時期の空がオレンジ色に染まり始めたころ4人はシェルターの前まで来ていた。

 雨の後ということもあり蒸し暑く汗をだらだらとかきながら4人は歩く。


「みずぅ……」

「考えなしにみんな飲んじゃったでしょ」

「大丈夫ですかルリ様?」

「うん、へいき……だとおもう」


 細かった道も次第に大きな道と合流し、4人は道なりに歩いていると大きな分かれ道に到達する。

 一つはフクラシェルターへ続く道、それと車で走った廃シェルターとその近くを通る道、そして4人が歩いてきた他のシェルターへと続く道。


「もうじき防壁ですルリ様、つきました!」

「……まだ少し遠いね」


 何時間も歩いてようやくたどり着いた、遠くに見える町に指を射し無邪気にはしゃぐセイショウ。

 それと同時に疲労と不安から移動中ずっと周囲を警戒してキッカとレイラが纏っていたピリピリとした空気が消える。


「もう一息ですね、ルリ様。あと少しですし休まずこのまま歩きますか」

「大丈夫。……キカは大丈夫?」


「ええ平気です。頑張って歩きましょう」

「うん」


 キッカが笑うとルリもつられるように嬉しくなる。


「やっと、スイレンと連絡が取れる訳ですね。はぁ疲れた」

「シャワー、お風呂とか入りたいな」

「私もう一生シェルターから出ない。これからは私お留守番しますからね」

「……先に……ツララとかおじさんとかに連絡しないと……心配してると思うし」


「そうですね、何はともあれ壁伝いに門まで行かないと」

「どこよ、出入り口?」

「道沿いに歩けば、つくと思ます」

「……だから歩いてるんだよねセイショウ?」


 周囲に生体兵器を警戒する一般兵の姿はない。

 滅多に現れることがないことがないため、フクラシェルターは防壁の損傷個所をアラームで知らせるシステムがある程度で警戒する一般兵の姿も砲台も監視塔もない。


「あのシェルターに戻ったら、また車に乗ってスイレンに向かうんですかキッカさん?」

「ええ。いろいろ報告しないといけないでしょうし、まだいればグレン様にもお話しないと……」

「だったら始めから、スイレンに向かえばよかったんじゃないですか?」

「……ごめん」


「ルリ様は悪くないですよ、ツララ様を安心させたいって気持ちよくわかりますから! セイショウも余計なことを言わない。中に入ったらいろいろと事情を聴かれるでしょうが、すぐに終わって帰れますよ。帰ってもしばらくはごたごたしそうですが……」

「帰るのってご飯とか食べてからですよね? 髪が砂でゴワゴワしてるし服の中も気持ち悪いからお風呂にも入りたいし」

「帰ったらゆっくり寝たい、柔らかいベットで大の字になってすやーって」

「……」


 泥で薄茶色に染まった髪を気にしながらキッカが足を止める。

 他3人も足を止め何事かと道の先に目をやると、数台の車が前方からやってきていた。

 20人ほどの一般兵が乗れる大型のトラック。


「見てください、車です!」

「車ですね、スイレンに私たちが返っていないから誰かが探しに来てくれたのかも!」

「前から車が来ました、私たちを探しに来たのかも!」


 向かってくる車列もこちらを見つけたのか速度を落として止まる。

 すぐそばにとまってくれればいいものもキッカとトラックの距離は100メートルほどある。


「車に乗せて帰らせてもらおう。ルリ様まだ歩けますか? 足が重いなら私がおんぶしましょうか?」

「……大丈夫、歩ける」

「競争しますか、競争」

「あれだけ歩いたのにまだ走れるの!? セイショウ……子供って元気ねぇ……」


 トラックから次々と一般兵が降りてくる。

 一般兵の一人が拡声器で質問を投げかけてきた。


『あなた方はスイレン家の人ですか?』


 若干距離がある一般兵との距離に不信感を覚えたが、泥で汚れた知らない相手に不用心に近づいてこないのだと自分を納得させるキッカ。


「そうです、土砂崩れに巻き込まれて私たちだけが生き残ったようで、保護を頼めますか!」


 拡声器はなく、くたくたに疲れたキッカががんばって声を出した。


『了解した、こちらには水と食べ物がある。一応、両手は見えるようにしてこちらへ来てくれ』


 暑い中の移動中独り言をぼやき始めた体力の限界が近かったはずのセイショウが「水がある!」と言って一人我先にと走り出す。

 ルリものどが渇いていることだろうと先に行った貰って来ようとキッカがその後を追った。


「なんで拡声器? こっち来てくれれば早いのに」

「さあ?」

「……難民と勘違いされてるのかも?」


 後ろでレイラとルリが首をかしげる。


 車から降りた一般兵が横一列に並んでいて、その手には武器が持たれているのをレイラは見た。

 しかしキッカは走り去ってしまい、仕方なくレイラはルリに報告する。


「ルリ様、あの一般兵対人用の武器を持っています。なんかいやな予感がします」

「何それ? 止まって! セイショウ、キカ、キカ!」


 珍しく大声を出したルリは、やや速足になっていたキッカとセイショウを呼び止めた。


 後方でルリが叫んだのにすぐ反応し足を止めるキッカ。


 キッカが一人走っていこうとするセイショウの手を引き急に来た道を戻り始めたので一般兵たちは慌ててゴム弾の銃を構える。

 ルリの目から見てざっと見てゴム弾銃を構えているのは20人以上いるだろう。

 大人数に狙われ飛んで来る弾丸を一発も当たらず逃げるのは無理がある。


「あの子供には当てるなよ、子供と高価な服を着ている成人男性は見つけ次第無傷で確保だ。狙うのは一般兵風のあの女と使用人たちだけだ。構え!」


 ゴム弾の入った銃口がそれぞれを狙うためにわずかに動いた。


「セイちゃん! 戻ってきて!」

「キカ、セイショウ!」


 キッカも一般兵がこちらに武器を向けていることに気が付くと、さらに力を入れて走ろうとしたが間に合わない。


「撃て」


 ガスの噴射音とともに彼女たちに向かって一般兵たちが向けた暴徒鎮圧対人用ゴム弾が発射された。

 飛んで来る拳ほどの黒いゴム弾はセイショウ、キッカ、レイラへとむけて飛び、一番近くにいたセイショウが多くのゴム弾に当たる。


 だが、キッカが発射音が聞こえると同時にセイショウを引っ張る手を強く引き片腕で彼女を脇道の森へ投げ飛ばす。


「レイラ、ルリ様をつれて、森へ。走って!」


 トランクで頭を守りながら頭を下げ身を低くし走るキッカが叫ぶ。

 遠くへ行くほど威力が落ちるとはいえ、あたりどころによっては失明などをする威力だが背を向けて逃げる四人には関係なし。


 ぶん投げた草むらでセイショウの悲鳴が聞こえたが、逃げるのに忙しく彼女の状況を確認したものはいない。


 レイラとルリも必死に逃げ道路わきの森へと逃げ込んだ。

 後ろからはゴム弾の銃口を向けて一般兵が追ってきている。


 一番最後に動きやすい服装だったキッカが先に森に逃げ込んだルリとレイラに追い付いた。


「どうしましょうキッカさん、なんで私たちはいきなり打たれたのでしょうか?」

「知らない、私が聞きたいわ! ……知りません、今はとりあえず逃げましょう。理由はわからないけどこんなの普通じゃない」


 混乱し思わず怒鳴ったキッカだったがすぐに冷静さを取り戻しルリの様子を見る。

 遠くにいたからかゴム弾銃で狙われたセイショウと違って彼は驚いてはいるものの、一般兵からの攻撃から逃げるこの中で誰よりも落ち着いていた。


「キカ、セイショウがいない」


 レイラに抱きかかえられたルリに言われ、キッカは走ってきた道を振り返る。

 置いていかないでと泣きながら鼻血を流しキッカたちの後を追ってきた。


「頭ぶつけた、ひっぐ、痛い……ぐずっ」

「無事だったのね、よかったセイちゃん。それでキッカさんとりあえずどっちに逃げますか? もう一般兵に助けを求めるのはやめましょういきなり撃ってきたんです、次も何されるかわかりませんし」

「キカ、どうしよう?」


 キッカはその質問に答えることはなくルリも何かを察しそれきり何も言わなかった。

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