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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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捜索 1

 シェルタースイレンにルリたちが帰還していないと報告が入り、夜会の終わった会場に寝間着姿の落ち着きなく部屋中を歩き回るツララの姿があった。

 寝ぐせの跳ねたままの彼女のそばには一人、背筋のピンとした灰色の老齢男性の使用人がたっている。


「事故が起きてもう6時間がたつというのに、まだ新しい情報は入らないのですか!」


 不安からのいら立ちでツララは彼に八つ当たりとして、彼女は老使用人を怒鳴りつける。


「申し訳ございません。なにぶん崩落の範囲が広く、思うように機材と人員が入れていないのです。それに、天然ダムの存在が確認されそちらの対処も行わないといけなく……」


 深々と頭を下げる老使用人。

 窓や扉から入る太陽の光がふいにちらつく。


「なら、もっと人を送り込めばいいのでは? 生体兵器の表れない安全区域なのですから人は余っているはずでしょう!」


 そちらに目を向けると駆け足で部屋に入ってきた若い使用人が持ってきたバインダーが老使用人に渡される。


「それが現れたのです、生体兵器が。すでに討伐したとの情報ですが、他にも生体兵器がいないか警戒態勢で作業を行っており。警戒、捜索、ダムの対処で人員がさかれて、人を増やそうにも他のシェルターへと派兵しておりまして、今いる人員で何とかしなければなりません」


 バインダーに挟まれた紙に目を通しながら使用人は彼女の返事を待つ。


「その派兵している方たちは、すぐには戻せませんよね?」


 ダメでもともとと聞いて見るツララ。


「ええ、月単位の貸し出しでお金が発生しておりますのでそうなると手続きなどで時間が……。操作のためだけに帰ってきてもらうというのは現実的とは言えません」

「……わかっていました、ダメもとです。早くルリさんの無事を確認する方法はありませんか」


「その前に一つ言っておかないといけないことがありまして」

「なんですか? ルリさんに関わること?」


「ええ、関わると言ったらそうですね」

「なんですか、もったいぶらず早く言ってください」


「水連家の当主の息子、スイレン・ルリ様の車の運転手と乗り合わせたはずの護衛。彼らの遺体が水連家の宿泊する予定のホテルで発見されました」


 事故と関係のない話だと何を言っているのだろうとツララは首を傾げた。


「え、どういうことですか? それと事故とどんな関係が?」

「つまり、昨日一晩このシェルターで宿泊し帰る予定だった車の運転は、運転手に扮した何者かの運転で帰還しようとしていたわけです」


「ではだれが帰りの運転を?」

「不明です。現在調査中ですがこのようなことはおそらくシェルターの人間ではないかと。他のシェルターの一般兵に運転を任せてしまったせいで、スイレンの人間には運転手が変わったことに気が付かなかったものかもしれません」


「その方たちの目的とは? 事故にあったかもしれないというのもそれを隠すための……」

「さぁ、わかりません。しかしツララ様。ひとまず、お着替えになられてはどうでしょう」


「しかし……」

「我々が事故現場に向かうとしても、その姿ではすぐに行動できませんし」


「わかりました着替えます。そしたら私をすぐにでも捜索に連れて行ってくださいね、イガラシ。私一人置いていくことは許しませんからね」

「かしこまりました、安全な場所までですが。それではツララ様、私は旦那様に許可を取ってまいりますので、その間に」


「ええ、すぐに着替えてきます。それまでに出発できるようにしてくださいね」


 老使用人のイガラシは、さらにかしこまりましたと返事をするとツララはそれに満足し着替えさせようと彼女を迎えに来たメイドに連れられ部屋を後にする。


「さて、では許可をいただくのと車の容易をしないと怒られてしまいますね」


 もう一度バインダーに目を通すとフクラ家の使用人の中で車両の扱いに慣れているものを探しに出ようとした。

 通路に出ると酒の抜けた先でイガラシは、シェルターグレンの統治者カイセイと鉢合わせる。

 お互い住んでのところで体を傾け回避するとお互いを確認する。


「おっとすまない」

「おや? こちらこそすみません、私の不注意でした」


 昨日のシェルターの統治者として恥ずかしい状態ではなく、きちんとした正装の男性。

 無精髭はそのままだが。


「これはグレン様、おはようございます」

「急ぎのようで誰もいなかったから勝手に上がらせてもらったぞ」


 夜会の片づけ、屋敷の掃除、事故の情報集めでバタバタしているフクラ家のお屋敷。

 客人ならきちんとした接客をするのが当たり前なのだが、カイセイは気まぐれで大した用もないのにふらりと現れ、本当に用のないときはイガラシや使用人たちと大したことのない会話をして帰っていく……。

 いつ来るのか何しに来るのか暇なのか全くわからない存在のため、彼はいつしかフクラ家の屋敷の出入り自由になっていた。

 そんな彼がいつ仕事をしているのかなど各地のシェルターの使用人の小話のタネになっていた。


「申し訳ございません、朝から慌ただしくちゃんとした対応ができないようで」

「俺の……スイレンの統治者たちの消息がわからなくなったと聞いて、情報を聞こうと来たのだが?」


「それでしたら。お手数かけますがお二階へ、旦那様は執務室から捜査の指揮をとられております。申し訳ございませんが私は少し急ぎの用がございますので、応接室でお待ちを、今他のものに案内をさせます」

「そうか、わかった。そちらも忙しいのはわかっているつもりだ、悪いな電話もなしに来ちまって」


 屋敷内を移動する、歩いている最中グレンは少しでも今集まっている情報を集めようとイガラシに話しかけた。


「スイレンの統治者がフクラシェルターから帰る途中で消えたと」

「そのようですね。その確認でフクラは現在慌ただしくなっておりまして、お騒がせしております」


 イガラシはカイセイを二階へ案内しながら答える。


「もっと早く、連絡がほしかった。俺があいつと兄弟なのはお前も知っているだろ」

「すみません。しっかりとした情報が手に入るまで不用意に情報を漏らすなと言われていましたので」


「途中の道は崖が崩れていたというが、無事だと思うか?」

「ええ、そう信じております。すみませんあとは彼女に任せます、私はお嬢様から少し用事を頼まれていまして」


 そういうとちょうどよく進路上で雑巾がけをしていた使用人を手招きで呼びことを説明してカイセイを応接室へと案内させる。


「表に出すのかあの子を? 生体兵器が出たとさっき言っていたじゃないか?」


 カイセイは少し驚いたように足を止める。


「その点ならご安心を、私がここで働く前は何をしていたかご存知でしょう?」

「もう10年近くも前の話だろう、大丈夫か?」


 その質問にイガラシは静かに答えた。


「ご心配なく、腕はなまっておりませんので」


 カイセイの案内を任せると、イガラシは屋敷内を移動する。

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