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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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戦場跡地、2

 基地を出てすぐに朝顔隊の乗った車は戦場跡地に入った。

 生体兵器の急な接敵と残骸に乗り上げての横転を避けるため車は速度を落とす。

 廃墟と変わらない長い草木、場所によっては草の生えていないところもあるが、あたり一帯をすごい数の戦闘車両が廃棄されていた。


 塗装が剥げ、むき出しになった金属が錆び、戦闘の爪痕か拉げたり横転して半壊していたりして放置されたどこまでも続く戦闘車両の残骸。

 とりあえず陣地を作っているであろう場所を探すため、軽装甲車はぬかるんだ地面にできた轍を追う。


 この作戦のために通行の邪魔にならないよう前もって道路わきによけたのか、轍を追っかけて進んでいくと道は壊れた車両の残骸をジグザグによけることなく綺麗な一本道を走っていた。

 何台もの車が通っていることもあって、うっそうと生えていたであろう草はぺしゃんこになっていてそこだけ見晴らしがいい。


 車両だけでなく飛行機の残骸まで戦場跡地には散らばっている、ここでどれほどの戦いが行われたのかシェルターに帰って調べても深くは書かれていないだろう。

 ここと同じような場所はあちこちにあるのだから、いちいち記録したものを全部持って逃げたとは考えにくい、廃棄された旧時代の基地を調べればどこかにあるのだろうがそこまでして知りたい情報でもない。


 ただ言えることは今回の戦闘に参加した兵士たちの何十倍とここで死んでいることだろう、戦闘車両は数台数十台なんて数ではないのだから。


「ちょっとばかし遅刻かなぁ」


 不安そうにいまだ見えない本隊を探しながらツバメが悪態をついた。


「怒られますかね」


 会話の時だけ天窓から出した上半身を車内に戻すイグサ。


「さぁてね、普通なら絶対怒られるけど」

「ツバメ、あれ! 正面!」


 突然、後部座席の天窓から頭を出しているイグサの大声が聞こえ言われた方向を見て、ツバメは身を乗り出す。


「ガッぅ」


 偶然にも車が何かに乗り上げツバメが低い天井に頭をぶつけたが、しかし痛がっている場合ではなく頭を押さえて外を見た。


「大丈夫ですか、隊長?」


 コリュウは運転しながらも彼女が怪我していないか心配し尋ねた。


 戦場跡地は霧がかかるらしいが幸運にも今日はかかっていない。

 その代わり白色ではない靄が出ている。


「おいおいおい、もう向こうでぼんやりと土煙上がってるよ。あちゃー、もしかして戦闘始まってるんじゃない?」

「あちゃー、やっちゃいましたね」


 生体兵器の姿が見えないので気を緩めて会話をするツバメとイグサ、ずっと気を張っていては戦う前に疲れてしまうからと言っていたが戦闘中もあまりそういうようには見えない。


「戦勝パーティー参加できなかったらどうしよう、不参加者は参加できないんですよね?」

「そん時はあきらめて、ここからさっさと出ていくさ」


 朝顔隊は今回の作戦のために呼ばれたのであって作戦が終われば長居する必要はない、だから戦勝パーティーでおいしいものをたくさん食べてからこの基地から出て生きたかった。


「あーあ、なんか他の生体兵器と戦ってて、それが原因で時間食って遅れちゃいましたーって、言い訳は通らないんですかね」


 後ろから聞こえてくるイグサの声にツバメは納得したかのように相槌を打つ。


「それだ! コリュウも少ししたらその辺にこの車止めてくれ。いいか、私たちは今のいいわけで車が故障したことにする。そしてそれとなく本隊と合流する」

「え、いいんですかそんなんで」


 完全にそれでいこうと急にご機嫌になるツバメに呆れた様子のコリュウ。


「いいのいいの、ばれなければね。隊長命令だから二人は悪くないよ」


 そういって笑うツバメに上からイグサが話しかけてくる。


「んで、どこに本隊がいるの?」

「知らないけどあの煙の下にいるんじゃない?」


 そういってツバメは土煙の方を指さす。


「あそこで戦ってるとは限らないでしょ」


 一本道だったがハンドルをきり残骸の隙間を抜けて脇にそれた。

 途端に物が大きくなり車内が大きく揺れる。

 コリュウは一度ため息をつくと車の速度落とした。


「イグサ準備しておいて、コリュウがどっかに車止め次第すぐに状況確認。コリュウは私についてこい」

「了解」


 隊長の言うことなのですんなりということを聞くコリュウ。


「んじゃ、さっきイグサが言っていた合流地点に向かっていたら、途中で生体兵器と接敵そのまま交戦していたという流れで」

「いいんじゃない?」

「戦闘音をだれも聞いていないというのは、ばれると思いますよ?」


 確かにコリュウの言う通りこの言い訳は苦しいが、これで言い通すしかない。

 それにそもそもエクエリの射撃音は静かだ。


 戦場跡地の隅傾斜のきつい丘の上で、苔や蔦に浸食されている大きな装甲車の陰に、コリュウは車を止めた。


「ここなら、バレないでしょう。ここからは歩いていくかないです」

「よし。コリュウ、イグサ、なるべく急いで行くぞ」

「はい」


 そういって進もうとしたが一歩進んだところで大事なことを忘れていることに気が付く。


「おっと、その前に消臭スプレー使っておいて」


 スプレーを体中にまき、三人は草の上に降り立つと装甲車の陰から周囲の状況を確認した。

 すでに戦闘は始まっているらしく、あちこちから何かが壊れる音と誰かが叫ぶ声が聞こえる。

 エクエリの射撃音は非常に小さいためここまでは聞こえない。


「周囲に生体兵器の姿無し」


 コリュウが辺りの様子を調べる。


「エネルギー確認、100%問題なし。二人とも短距離通信用のヘットセットつけて」

「100%問題ありません」

「同じく」


 携帯端末でも近場であればアンテナなしに電波が通じるが、使用時片手が封じられるのとヘットセットの方が軽いという理由で三人はこちらを装着する。


「よーし、少なくてもグールの生きてる姿を拝めるように頑張るぞー」

「これから死ぬんですけどね」

「私たちが、棚ボタ貰えますように」


 車からロープを持ってきて装甲車に縛り付けるとそれを伝って丘を下る、地面がもろく傾斜後きついため慎重に足を滑らせないように。

 6メートルほどのちょっとした段差程度の崖を降り、一番身軽なツバメが先行する。


「いないね、コリュウはイグサの後ろしんがり任せた。イグサは私が出合い頭で鉢合わせた時のためにいつでも撃てるようにしておいて」


 無言で頷くとイグサとコリュウは縦一列になってついていく。


「雰囲気ありますね」

「ところどころ地面ぬかるんでるから気をつけろよ」


 三十センチ前後の草に覆われ、足元の地面がぬかるんでいるかわからないが、踏むと靴にまとまった泥が付き足が重くなる。


「転ぶなよ兵器の欠片が、尖がった破片がいっぱい落ちてる」

「新品の隊服が泥だらけになるだけじゃなくて、もれなく肌がズタズタになるんですね。コリュウがもう少し近場に車止めてくれればいいのに、帰り私これ持ってさっきのロープ登るんだよ」


 大型のエクエリを叩きイグサがコリュウに不満を漏らす。

 強化繊維の制服は転んだ程度のダメージでは破けたりしないが泥で汚れるのを気にして慎重に進む。


「あの辺に停めろって言ったのは隊長だ、文句は隊長に行ってくれ」

「ごめんね、イグサ。後でタルトおごるから」

「許す」


 ツバメの即答にやりきれない気持ちのコリュウ。


「俺はこのもやもやはどこへやったらいいのでしょう?」

「どこか心の奥底にしまっておいて」

「ぬぬぬ……」


 立ち止まり周囲を見渡す。

 音が聞こえた、どこかで何かの足音が聞こえた気がして立ち止まる。


「どうかしましたか?」

「音がする」


 ツバメの問いにコリュウは周囲を見回すが今聞こえた音は彼には聞こえてないらしい。


「どこから?」

「あっち。あの鉄塊の向こう……で聞こえた気がする」


 答えたのはイグサ、彼女は聞こえた方向までわかっていたらしい。

 指さす先は横倒しになった戦車、柔らかい地面にその車体は傾き沈んでいる。


「そうか、んじゃちょっと寄り道して調べるよ。生体兵器だったら後ろから襲ってくるかもしれない。臨戦態勢」


 聞こえた音の正体を確かめるため戦闘音の聞こえる方向から少し離れ、エクエリを構えながらゆっくりと進む。

 ニチャッニチャッと足音が鬱陶しい。


「この辺か?」

「たしか」

「二人とも、こっちに足跡ありました」


 二人を呼んでいるコリュウの方に集まる。


「人? 生体兵器?」

「たぶん人。草と周りの泥がみんなくっついちゃって靴跡が見えない」


 足跡は靴底に泥ごとついていくので正確に人の足かはわからないが転々と続いていた。


「どっちに向かってる」

「戦場跡地の中央の方、俺たちが向かっていた方向ですね」


 方向を確認すると足跡を追うように移動を開始する。


「足跡を追うぞ、たぶん一般兵だろうけど合流しちゃおう」


 誰かと行動を共にすることで朝顔隊が戦場跡地にいたという証拠を作ろうと、三人はぬかるむ地面の上を走る。

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