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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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夜会 5

 目的もなく二人は屋敷の中をふらついていたら、キッカの長身と白髪があまりにも人目を引くのでルリが気を遣いそのまま大広間まで帰ってきた。


「結局ここに戻ってきましたね」

「……ここならキカが目立たない」


 華やかなパーティ会場は隅にいれば視線は会場の中心に集まりさほど目立たない。


「隅っこにいれば、ですけどね。別に私のことは気にしなくていいですよ? 私に集まる視線が気になって嫌だというなら距離を取って離れてついて行きますし。ご主人は人に囲まれるのは苦手ですものね」

「……それはキカが……ううん、何でもない」


 何かを言おうとしたがルリは首を振って黙りこむ、キッカはそんな彼を特に気にはせず会場を見回した。


「何か食べますか? スイレンでは見られない、いろいろ珍しい食べ物がそろってますよ?」

「……いい、お腹すいてない」


「育ちざかりなんだから、しっかり食べないとだめですよ」

「……夕飯はしっかり食べたよ?」


 広間の中央を見ながら歩いていると二人の後ろ壁の方から声がかかる。


「よぉ、遠くからでもわかるその白髪とその凹凸のはっきりした容姿、水連とこのキッカだな、ということはその辺にルリ坊もいるな。」

「……目の前にいるよ。おじさん」


 ワザとらしい説明口調と遠くを捜すようなそぶりをする、会場の端っこで一人地べたに座り食事をしていた男が話しかけてきた。


 なんだかよくわからない荷物おそらくはこのシェルターで買ったお土産にも見えるガラクタのようなものと食器も地面に並べられており、キッカたちと同じく部屋の隅で周囲から一定の距離を置いていた。


 無精ひげを生やし清楚な衣装に着られている、この場に似つかわしくない風貌。

 小汚いとは言ってはいけないのだろうが小汚い男、グレン・カイセイ。

 紅蓮家は水連家の当主は兄弟でルリの叔父で水連家の近隣にシェルタースイレンの援助で自分のシェルターをもち、今も水連家と紅蓮家の統治者同士の関わりが深い。


 どう話しかけたらいいのか会場に来ていたカイセイの知り合いたちは遠巻きにこちらをちらちらとみていた。



 カイセイは若干お酒が入っているようで顔が赤くなっていた。


「これはカイセイ様、お久しぶりでございます」

「おっ、水連の坊主元気か? また大きくなったな。相変わらずキッカにべったりか?」


「おじさん…久しぶり」

「キッカの方もまた少し大きくなったじゃないか」

「胸やお尻ではなく、私の目を見て話していただけると助かります」


 ルリのお世話係としてではなく、知り合いとしての軽い感じに受け答えをするキッカ。


「それとこんなところでなんですが……」

「なんだ? そんな畏まって」


 場所を変えようとも思ったのだが、過去にそれで逃げられたこともあったのでそのまま話題を切り出した。


「あの……カイセイさま……大変言いにくいのですが、そのぉ……旦那様から借りたお金の方を……そろそろ……」

「んっ、あれか……。もうちょっとだけ待ってくれないか」


 時折、水連家にお金を借りに来るカイセイ、借りには来るものの返しには来ない。

 理由としてはシェルターの武装強化や前線基地の維持、内政関係といろいろある、新しくつくられたシェルターだけあってまだうまくシェルター運営に軌道に乗らず彼はあちこちから借金をしていた。

 いよいよ食べるものにも困っているらしく、床に広げてあるお土産の一部がタッパーに詰まったここで出されている料理だった。


「カイセイ様は会うたび、いつもそればかりかと……」

「まぁ……なんだ、お前さんも一杯飲んで細かいことは忘れようや」


 ワインの入ったグラスをキッカにかざした。


 その言葉を聞いてキッカは到底、身分が上のシェルターの統治者に向けるような態度ではないが非常に冷めた目で床に座っているカイセイを見下ろす。

 ルリは普段通りの無表情。


「……そう怖い顔しなさんな、……忘れようは冗談だ」


 無言でジトリと睨むキッカ。


「……ん?」


 返事が返ってこないのでカイセイが不思議そうな顔をする。


「ルリ坊、助けてくれ。お前の従者の無言の圧力が重い」


 キッカは無言のまま、ルリは立っているだけ。


「……なんだ?」


 表情は変わらないので気が付くのに遅れたがルリもキッカ同様ジトリと睨んでいた。


「ルリ坊、おまえもか」


 無言の圧を与え続けると、酔って上機嫌だったカイセイもさすがに素面に近い反応をするようになる。


「わかった、わかったから、今度返しに行くからなんか喋ってくれ」


 ばんざいと両手を上げ降参したカイセイにキッカはにこりと笑う。


「では心からご来訪の方お待ちしてます」

「じゃあ、おじさんまた今度……」

「ああ……わかったって、またなルリ坊、キッカ」


 酔いがさめたのか、少しブルーになったカイセイを置いて再び大広間を移動し始める。

 歩きながら欠伸をして瞼をこするルリ。


 夜会はすでに時間は真夜中を過ぎていた、夜通しそれこそ明け方になるまで続くようなことに子供のルリの体はついていけず眠いと音を上げる。


「そろそろ時間ですね、車に戻りますか?」

「うん……そうする……」


 回れ右をし、再び欠伸をするルリの手を引いて……外に出る途中、カイセイの前を通るため彼にさらに念を押してからキッカは表に止めてある、帰るための車へと向かった。


 移動の途中でルリがふらふらとなり、キッカはルリを抱きかかえて出口へとたどり着いた。

 腕の中で完全に眠ってしまったため時間まで出入り口の見張りをしていた車の護衛班の一人を連れて車に向かう。

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