夜会 2
小さく咳ばらいをするとツララは得意げに王都の仕組みについて説明を始めた。
「王都の命令系統に加わって、その指示に従っての物流の管理。連合に入っていない他の外のシェルターにも物資を送り、また外のシェルターから物資をもらうんです」
「……何か悪いことでも?」
「ご主人、現状、私たちの連合は今のままでうまくいっているんです食べ物も物も足りているんです」
「ええ、だから我々は自分たちだけで自給自足出来るときっぱり断れればいいのですが、連合を含め全てのシェルターは強力な生体兵器と戦える精鋭を借りているため無視もできないのです。前線基地を熟練の一般兵だけで戦わせては戦闘での被害が大きくなってしまう、圧倒的な強さを持った精鋭は実に魅力的。なにせ自分のシェルターの人ではない人が戦ってくれるのです。シェルターでの活動予算の使い道の上位に、生体兵器と戦って戦死した一般兵への殉職金が入っているのですから……」
仮にもシェルターの権力者が堂々と不満を声に出すのはまずいとキッカがツララを制止させる。
「よそから来た精鋭が死んでも、殉職金は王都が負担してくれるのでシェルターには損はなく。逆に精鋭が死んだおかげで被った被害額を請求でき、それはあの災害種にも適応されるのです。仮に王都から来た使者の人を不快にさせ連合に精鋭が派遣されなくなると、シェルターの防衛だけでなく前線基地の維持も難しくなります。つまり戦力となる精鋭はほしいが、自分たちで何とかなるため物は必要ないというわけですご主人」
生体兵器と正面切って戦える戦車やエクエリ、強化繊維などは王都と交渉して手に入れられるものであり、その辺の工業系シェルターが作っても似たようなものは作れても、高性能の良いものは作れない。
国が崩壊した後にできたシェルターで、あちこちから良いものを集められるほどの力を持っているのが王都。
「いいことがあるとしたら、食べ物や陶芸品など物珍しいものが手に入るくらいでしょうか、ツララ様?」
「ここにはない技術系のものが手に入るということもありますよキッカさん。人の出入りもありますし……いや、これはマイナスか……」
連合間で回してきたお金の流出、人材の流出も考えられる。
良いものが手に入れば良いものがほしいのは当然のこと。
「なんであれ、今やっと出来上がりつつあるシェルター同士の深いつながりが、王都から来た人達によって乱されているんです。一番問題なのは優秀な人材がほかのシェルターへと流れてしまうこと、王都は有能な人間を残らず引き抜いていくことで有名ですよ」
「前に連合に入っていたシェルターが物が豊かになるからと王都側について、一気に機能不全を起こしたってどこかで聞きましたね。それで代わりに王都から派遣された人たちが好き勝手にやり始めたとか……」
シェルターの重要人物たちが王都へと移住してしまったりすれば人的資源の大きな損失となる。
それを埋めるべく王都から代わりの人材を雇う、すると彼らは商人なら物流を政治家なら法をと好き勝手に自分たちに利益のあるよう都合のいいようにいじり始める。
結果、下層中層の市民たちの不満が高まり荒れたシェルターもあるという。
全ては噂だが。
「ええ、しかし自分のシェルターはそういうことはないとか噂は噂とか信じていない人もいて不安なんです。そういえば話変わりますけど、この間ルリさんのシェルターに生体兵器が入ってきたとか、被害の方は大丈夫ですか重大な被害とかでしたらこちらの方から復興、支援などの物資を送ったりできますが?」
ルリが困った顔で話を聞いていたのでツララは話題を変える。
「……特に被害も犠牲者も出なかった。平気、防壁飛び越えてきたけどそこでやっつけたらしいから」
この夜会に来ている人間の中で一番の規模を持つシェルタースイレンは、その程度で他から援助を受ける必要はない。
「そうですか、本当に犠牲者が出なくって本当によかったですわね」
「うん、そう思う……ツララは? 変化ない?」
しかしこの夜会に参加しているすべてのシェルターの統治者たちに、災害種が襲ってきた際住民を受け入れてくれるように頼みこんであり、その代わりに他のシェルターへの援助は惜しまないでいる。
昔にこの近くで一つのシェルターが滅んだことで、もうそんなことは起こさないように作られた連合。
そのため水連家の評判は良く、いろんな目的ですり寄ってくる人間が絶えない。
集まっているシェルターの統括者たちと水連シェルターの統治者は仲が良いが、貧しい思いをしている下層市民が何らかの方法で警備を騙し夜会に紛れ込んでいないとも言えないためこうした護衛は他の重鎮たちもやっており珍しくはない。
「ええ、特に大きなこともなく毎日平和です。夜会が功を奏し、だんだんとうちのシェルターが物流の拠点となって一層活気が満ちてきた感じはしてますが、あまり視察に行かないので何とも……。それで……」
世間話を早々に切り上げツララは本題に入る。
「……どうでしょうか私と、少し……気分を変えるために外を、夜風でもあたりにお散歩でもしながら、おしゃべりでもいかがでしょう?」
ルリの横に立つ白髪の従者は多忙な職務には目を向けず、高層の人間は遊び贅沢に暮らしと思っているよな羨み妬む人間から身を挺して主人を守るボディーガードを兼ね備え、その関係で普段からの彼の周りの人間と話す機会も多い。
ツララとも堅苦しい場所でなければ好きに言い合える親しい間柄でもある。
「いい……」
「え……」
顔を赤らめてツララは二人っきりになる提案をするが一言で拒否される。
戸惑うツララとあきれる従者。
「話すならここでも大丈夫。……違うの?」
「そう、なのですが……その……ね?」
ツララは助けを求めるように白髪の従者を見た。
白髪の従者が主人であるルリの非行動的な態度にしびれを切らし、二人の会話に加わる。
「ご主人、私でよければ中庭でもお散歩ならお付き添いしますが?」
「……え?」
従者はツララに近づき隣に立つとそっと耳打ちする。
「ツララ様、私も連れ出すお手伝いをいたしますよ。ご主人はあまり目立ったことが嫌いで、自分から動かないから強引にでも連れ出さないと」
「そうですね。ルリさんを連れだすには多少強引でもそれぐらいとしないとですね。毎回、協力して頂き本当に助かりますキッカさん」
「いえいえ、ご主人を中庭……外に連れ出した後はツララさまにお任せします、頑張ってください」
声は抑えたものの賑やかな会場では少し声が大きくなり距離的にどう考えてもルリに筒抜けな、二人の密談が終わり二人はルリに向き直るとキッカは右手をツララは左手を握り彼を出入口方面に引っ張る。
「ご主人様達、さぁ、行きましょう」
「ルリさん。さぁ、まいりましょう」
「……わかった」
観念して二人に手を握られ両腕を引っ張られるまま身をゆだねて、彼女たちはルリを連行してパーティー会場の外へ。
会場である大広間から出ると、ツララはルリとその従者を連れて人をかき分け中庭へ向かう。