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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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夜会 1

 大戦中、国に見捨てられた人々は各地に数千人程度の小さなシェルターを作り、そこに避難していた。

 その後、それら小さなシェルターが複数集まることで、独自の法と文化を作っている。


 厳重な警備に遠くにいても目立つほど派手に飾り付けられたこの屋敷には、今その国を作る各地の小さなシェルターを治める統治者や領主やその家族、使用人が一同に集り月に一度行われる夜会が行われていた。




 西の地、工業系シェルターフクラ、中央区画、吹浦邸、夜会会場。


 その夜会の会場の端に西方の最大の規模を持つ生産系シェルタースイレンの統治者の息子、深い海のような青い瞳の少年、スイレン・ルリが使用人とともにいた。


「ご主人、あっちのテーブルにおいしそうなスイーツが」

「……もう食べた」


 遠くからでも目立つ腰まで伸ばした白髪、背の高く体の凹凸がくっきりしていて、夜会に来ている女性陣の中で一二を争うの美貌の持ち主、警護兼お世話係の従者が退屈そうなルリに話しかける。


「ご主人、今旦那様とお話しされているあちらの方はツララ様のお兄様ですよ」

「……うん、知ってる。もう挨拶はした」


そしてまた無言の時間が過ぎる。


「ご主人」

「……なに?」


数分、あるいはそれ以上の時間を壁際で過ごすのを耐えられない従者。

普段から表に出る音はなく屋敷で本ばかり読んでいる彼が、仕方なくとはいえ屋敷のもっと言えば自身の住むシェルターの外に出たのだからもうすこし積極的に動いてほしいと願う従者であった。


「家の用事とはいえ、遠出してきてせっかくのパーティーなのに、ご主人もあちらでお話しに参加してくればよろしいのに……ご主人と年の近そうな子が集まってますよ」

「ここがいい……めんどう……」


 夜会に子供なんてほとんどいない、そもそも夜やるから夜会なのだ時間帯的に普通の子供は寝ている。

 今起きている子供はもうじき帰るかただ眠れないから起きている程度で、ルリ同様に気怠く親などのそばに立っているだけで元気はない。


「だめですよ、ご主人。そんな次期シェルター統括がこんなところで面倒がっては。この場で少しでもコミュニケーションをとって歳の近いお友達を作らないと。ただでさえお屋敷から出ないのに、こういった場で友人作らないでどうするんですか」

「……ほっといて」


見渡すがほとんど子供の姿は見られない。

いたとしても立ったままこくりこっくりしているか、ルリとは少し年が上に離れているような子供たち。


「ほら、ご主人。男の子でしょ、勇気だしてレッツゴーですよご主人」

「わかった……」


 無責任な従者に促されてルリはしぶしぶ壁から離れた。

とはいえ行く当てなどない。


 スーツ、軍服、ドレスの彼ら彼女らの利害関係を求めてのご機嫌取り、物を売り込むための前置き、情報を聞き出そうとする駆け引き、騙し騙される人間関係を目にしてため息をつくと、退屈で窮屈な人ごみへと向かっていった。


 ルリの私的には友人などおせっかいな従者を含めた数人だけでよかったのにと思いながら振り返る、数歩後ろを従者が付いてくる。

 従者に促されしぶしぶ人ごみの中へ向かっていると、まっすぐこちらに向かってくる人影があった。


 雪のように白く華やかなドレスに輝く満月のような綺麗な金の長髪をなびかせ、この夜会の主催者でありこの土地の統治者、吹浦家の娘、走るたびに周囲に花弁が舞うような可憐な少女、フクラ・ツララがルリを見つけあいさつに来た。



 フクラ家が治めるシェルターは、周囲を他のシェルターが囲みその周囲にさらに各シェルターが前線基地を広げているため、このシェルターフクラの周りには生体兵器が全く現れない内地で比較的安全でこういった場所を用意できる。


 また、だいぶ昔に取りつくしてしまい他のシェルターの防衛区域に入らないと金属回収が満足にできないため、他から金属を主とする資材を売ってもらわないと成り立たない小さいシェルターではこういった場所で友好関係を築き、そして食料品や物資などを援助してもらうように交渉する場を作っていた。

 ルリが嫌いとする人間関係は友人の工業系シェルターの運命を握っている。


「毎回毎回、遠距離からわざわざ今夜も来てくださったのですね、ルリさんありがとうございます。それと従者のキッカさんもお疲れ様です」

「父さんに付いてきただけ……」


 ツララと目が合い、ルリの従者がかしこまったお辞儀をした。


「私はただの付き添いですから」


 水連家は、吹浦家と次期頭首の年齢も近いことから、非常に友好的関係にある。

 ルリのことを知らない者は気が付かないが、普段無表情なルリがわずかに微笑む。


 彼のその表情変化に気が付けるものはツララと従者を含めてこの会場には10人もいないだろう。


「ツララ……久しぶり……」

「ルリさん、お久しぶりです。いかがですか今日の夜会は? 今夜は北の方から取り寄せた食料品をふんだんに使った料理と名産品でコーディネートしてもらったんですよ!」


 言っていることとは別に、会場でも料理でもなく身に着けた宝石やリボンのついたドレスを見せる。


「綺麗だね……」


 無邪気な笑みを浮かべその場でくるくると回って見せ動きで喜びを表現するツララ。


「ありがとうございます。褒めていただいてよかったです。是非、お腹いっぱいたくさん食べていってください」

「……今日はいつもより人が多いね」


「ええ、やっぱりわかります? 一昨日王都からの使いの人が来ていまして、精鋭の派遣のこともありますし邪険にもできないようで今夜の夜会に誘ったのです。それを一目も見ておこうということで今日は大勢が参加してくださいました」


 キョトンとしているルリに代わってキッカが口を挟む。


「王都からというのは、やっぱり連合のことですか?」

「ええ、流石ですキッカさん。ここは精鋭だけ借りられれば王都の力がなくても物流が回る場所なんですけど、あの人たちは、是非王都の仕組みに加わってくれって」


「……仕組みって?」

「ご主人……」


 キッカは小さく授業で習ったでしょうと嘆きをつぶやくと、ルリは小さくあやまった。

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