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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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戦場跡地、1

 解散後一般兵は隊ごとに分かれて丘の手前、兵舎の奥の駐車場に向かっていた。

 朝顔隊を含め他の隊もすぐには動かず、一か所しかない出入り口をふさいでいる一般兵がいなくなるのを待っている。


「私たちは、ここにいていいんですか?」

「今行っても入口は通れないよ、何で出入り口一つしかないかね。それに彼らが先に行って生体兵器の数を減らすのを待つ」


 生体兵器と戦うための部隊、精鋭とは思えない発言。

 席に座ったまま食堂入口の方を見る朝顔隊。


「5キロの地点ですからね、目的地まですぐです」


 説明されたことを確認するように資料を見ながらコリュウが言う。


「じゃあこのままここで待機?」


 何か時間が潰せるものがないかきょろきょろと辺りを見回すイグサ。


「人がいなくなるまでだけどね。あ、そうだ、ちょっと待っててね、そういえばあれが……」


 そういうとツバメは厨房の方へ小走りで走っていった。


「なんだろ?」

「さぁ?」


 コリュウとイグサは首を傾げツバメが帰ってくるのを待つ。

 一般兵がほとんどいなくなると、他のテーブルに座っていた精鋭の人たちが移動を開始した。


「朝顔隊の隊長に遅れるなと伝えておいてくれよ」

「むしろー、いない方が楽にー、仕事終わるのではないでしょうかー」


 去り際に両隊長からそんなことを言われたが二人とも軽い会釈で返す。


 しばらくして完全に一般兵も精鋭もいなくなった食堂は、この基地の清掃員や料理人たち非戦闘員たちによって机などが運び込まれ、元の状態に戻されつつあった。


「お待たせ~」


 窓の外の車列を見送っていると、厨房の奥からツバメが満面の笑みを浮かべ白い紙の箱を持って帰って来た。


「なんですそれ?」

「昨日の夕飯食べ終わったら食べようよ思ってたんだけど、すっかり忘れててさ」


 白い箱を勿体ぶりなかなか机に置こうとしないツバメ。


「スイーツ?」


 その謎な焦らし方から普通の食べ物ではないことを察しイグサが思いついたことを口にする。


「イエス、あたり!」

「おお! スイーツいぇい!」


 当てたことにツバメが嬉しそうにするとイグサもつられて喜びだす。


「まだ残ってたから貰って来た、んじゃ食べようぜー」


 テーブルに紙の箱を置くと、自分で効果音を付けながらを仰々しく開ける。

 箱の中身は赤、黄、紫、緑、色とりどりのフルーツで彩られた焼き菓子だった。


「フルーツたくさん乗っけたると~」

「おおー、カラフル~お洒落~」

「隊長が作ったんですか?」


 コリュウが何気なく質問するとツバメは彼の頭を軽くはたく。


「んなわけないじゃん」

「コリュウもツバメの料理のできなさは知ってるでしょ」


 目を輝かせながら箱の中を覗き込むイグサと、その鮮やかさから自分でも驚いているツバメ。

 数か月、携帯用の味の薄い携帯食料しか口にしておらず。

 ここにきても肉料理を中心にしか食べていなかった二人は、今にもよだれが垂れそうな勢いだった。

 リアクションの薄かったコリュウも唾をのんでいる。


「果物がどんな味だったか覚えていないな」

「わたしもです、早く早く食べましょう」

「待ってろ今切り分ける」


 早速、まだ切られていない綺麗な状態のタルトをイグサは携帯端末で写真を上から撮ったり、横から撮ったりしてはしゃいだりしていた。

 イグサが落ち着きを取り戻し席に座るとツバメが自前で持っている調理用のナイフを取り出してそれをタルトに突き立て切り分けていく。


「私、私この大きいのがいいです」

「だめだそれは私用に切ったんだから」


 一欠けらをかけて口論になるイグサとツバメ。


「ずるい」

「私が頼んだんだからいいじゃん」


 お互いに一歩も引く様子はない。


「でもずるい」

「コリュウも食べる?」

「俺の分はないんですか? 俺にも下さいよ」


 まるで初めはなかったような口ぶりに驚きながらコリュウは話に参加する。


「お願いしたらあげてもいいよ」

「俺にも甘いものをください、お願いします」


 年上でも子供っぽいことを言うツバメにコリュウは素直に従った。


「ふふん、よろしい」


 3回刃を入れタルトは6枚に(意図して大きく斬られた不自然な形のもあるが)切り分けられる。

 取り皿を取りにツバメが席を立つと、イグサが人目を盗んでつまみ食いを始めた。


「意地汚いぞイグサ、それお前のだからな」

「こっちのにも唾付けとこ」


 つまみ食いをしてなめた指を他の欠片に伸ばすイグサ。


「やめろ。それでタルトは六等分、一人二切れだな」

「コリュウは一切れでいいよね、食べない分はわたし貰うよ」


 コリュウの方の欠片を自分の方に寄せるイグサ、彼は急いでその手を払う。


「いやいや、俺も二切れ食うよ」

「コリュウ、ご飯よく噛んで食べないじゃん。どうせ味わうことなくペロッと食べちゃうんでしょ」


「欲張るな」


 そのまま無言の攻防を続けていると後ろから声をかけられた。


「二人とも、喧嘩するならあげないよ。全部私が食べる」


 そしてツバメが戻ってきて笑いながら仲裁する。


「ごめんなさい」

「喧嘩なんてしてないよー、私たちはいつだって仲良しだもん」

「ほんとか~」


 慌ててイグサはコリュウと手をつなぎ抱き着いての仲良しアピール。


 抱き着いたときはびっくりしていたしそれ以降目を合わせてくれなかった、最近のコリュウは謎の行動が多いととをつないだ時のことも忘れイグサは彼の顔を見ている。


 そしてツバメが席に着くと、もらってきた取り皿にタルトを移し食べ始めた。


「これ食べたらすぐ向かうからね」

「わかってます、甘いなぁこれ」

「食べて急に運動するわけですね」


 コリュウの発言に軽く頷きながらタルトを食べ進める二人。


「うまいなぁ、帰ったらもう一回作ってもらおう」

「大賛成、お願いします」


 タルトをゆっくり時間をかけて味わい尽くした三人は駆け足で食堂を後にした。

 イグサは大型のエクエリを持つだけあって速く走れず、二人は速度を合わせて走ってくれている。


「思った以上に時間を食った、急ぐぞ」

「おいしかったなぁー」


 まだ口に味を残したままイグサがついさっきのことを思い出しにやつく。


「また食べられるようにしっかり戦果残さないと」

「あー、そっかー」


 駐車場には一台だけぽつんと茶色と緑の迷彩模様のトラックに天井をつけ、そこに装甲版を張り付けたような軽装甲車が出発できる状態で止められていた。

 ドアのロックもかかっておらずすんなり乗り込む。


 ドアを閉めるとすぐに窓を全開にしてツバメが助手席でエクエリを構える。


「コリュウ、運転頼んだ」

「了解」


 イグサは最後に乗り込んで後部座席で天井のハッチを開け、大型のエクエリを銃座に乗せると手際よく固定し固定し終えると彼女は風を見に受けた。


 車の上で大型のエクエリを手で持って扱うには車の揺れが大きく、狙った場所から大きくそれてしまうため、固定し構えやすくするための旋回性ある台座が取り付けてある。


「固定完了、目的地、戦場跡地。レッツゴー」

「出発……で基地出たらどっちへ行けばいいんですか」

「知らん、タイヤの跡を追えば大丈夫」


 アバウトな説明にとりあえず車を発進させ基地内を進む。


「ナビついてないのー?」

「ナビ操作してる時間がない、隊長お願いします」

「いいって、適当に走ってたらつくから」


 軽装甲車は基地を出て速度を上げる。

 天窓から半身を出し受ける風が気持ちがよくイグサは大きく伸びをした。


 目指すは戦場跡地。

 まるでこの日を待っていたかのようにこの辺り一帯を霞ませる霧はどこまでも澄み渡りどこまでも遠くを見渡せた。

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