後日 1
災害種との戦闘から二日後、食べ物の値段が一部上がったり欠品したりしたがシェルターの中はいつもの日常に戻っていた。
メモリの家に電話がかかってきて、ギンセツは鈴蘭隊のシロヒメに呼び出しを受ける。
呼び出された先は窓から駅の見える軍の施設、ほかの建物と区別するためか煉瓦の色が白みがかっている以外ほかの建物と差ほど変わりはない。
室内は煉瓦造りの外見とは別で、木造でできている場所が多い。
シロヒメは列車内で見た精鋭の白い制服ではなく、灰色の長袖のシャツに黒のタイトスカート。
開いた隠す気のない胸元から絆創膏や湿布が見える。
ギンセツは建物の食堂へとつれられ適当な席に座らされる、彼女がカップアイスを持って帰ってくると話を始めた。
「どう、調子は?」
一口アイスを頬張るとスプーンの先をギンセツへとむける。
「え、ああ。大丈夫です」
「まぁ二日たって元気にここへ来られたんだから大丈夫か、一昨日戦闘のあった後ゆっくり眠れた?」
「はい、疲れがどっと出てお昼過ぎまで」
「あはは、それは結構結構。なら私の目に狂いはないか」
「何のことですか?」
握った拳ほどの細かい装飾のなされた物が差し出される。
勲章。
「受け取って」
差し出されよく見ようと手を伸ばしたが、それに触れる直前で本能的に彼の手が止まった。
「受け取ってってば、早く。アイスが溶ける」
手を伸ばしたが受け取らないので、彼女はそれをギンセツの手をつかみひっこめないようにして手のひらに優しく乗せ握らせる。
見た目よりずっと軽くおそらく勲章の大部分は金属ではなさそうで、しかしプラスチックや木製にも見えない。
「今回の災害種から削り取った勲章だよ、破片さえ持ち帰れば作ってくれる記念品。こういうの記章っていうんだっけ?」
手にした勲章に見とれていると彼女はアイスをまた一口、口に運び話を続ける。
「ここまで手の込んだのを作ってくれるのは、軍の偉い人とか私たち精鋭の功績をたたえるための依頼でしか作ってくれないから装飾的な価値ならすごいよ。じゃあこれ受け取っておいて。そしてこっちが……賞金の決済カードが入っている。一般兵には出ないから私のポケットマネーだけど、まぁ使わない額、端数をおつりを君に挙げる感じ、気にしなくていいよ」
白色の決済カードを差し出され机の上に置かれる。
「君、精鋭になる気はない? すっごい簡単な実地テストを受けるだけだよ」
「僕がですか?」
「そうそう。言っていいのかわからないけど、今王都では精鋭の数を増やし戦力の増強をかなりの速度でしている。王都の人間の動きも慌ただしいようだし、おそらく数年のうちに大きな戦いがあると思ってるけど、本当のところはどうだか。それで君にも戦力、精鋭になってほしいんだよね」
「なんで僕なんかを? あの戦いにはもっといろんな人がいたでしょう」
「確かに大勢いた。だけど君のような、誰も思いつかないような発想と誰かを守るために一歩前に出る勇気ある人材を私たちは探している。聞いた話では一昨日の戦闘、君は友人を見捨てて逃げずに勇敢に立ち向かったそうじゃない。あれ、ぴんと来てない……小さい蜘蛛だよ君と一緒にいた子の肩とかを傷つけた……違った? そう聞いたんだけど?」
「え、たったそれだけで?」
スプーンを加えたまま、なにが言いたいのかと不思議そうな顔をした。
「ええまぁ、それだけ、何か問題でもあるの? そういった状況で知ってる人知らない人に関わらず誰かのために戦えるってのは誰にでもできることじゃないじゃない?」
「あれは、たまたまで……もう一回やれって言われても、できないかもしれませんしそもそもあれは小さかったから何とかできると思って」
「一回出来たってことは二回目もできるだろ、小さいとはいえ生体兵器相手に前に進むことはそうそうできることじゃない」
倒した生体兵器をやたら小さい小さい言われ、次第に自信を無くすギンセツ。
「でもやっぱり無理です」
生体兵器と戦うことはできても戦局を変えられるような戦力にはなれそうにないと断る意思を伝えると、ギンセツは帰ろうとするそぶりを見せた。
そんな彼を見てシロヒメは大きなため息と咳払いをする。
「……あー、そうか。うん、その意思は尊重しよう。この手はあんまり好きじゃないんだけど、シェルターの権限で君を強制的に精鋭にすることもできるんだよね、精鋭の推薦が付けばテスト抜きの即採用だけど?」
「そんな、僕に拒否権なんかないじゃないですか!」
「テスト受けてないとお試しで他の隊に入れてもらったり研修とか、精鋭の戦う技術の引継ぎとかなくて生存率悪いよ」
「話を聞いてください!」
食堂にいた全員の注目を集めるほど声が大きくなってしまったが、気にすることなく彼女はカップを持って残りをすべて口の中へと掻き込む。
「拒否権? ないよ、当たり前じゃん。私たちは、今、いや今前もこれからもずっと戦争してるの。嫌だからやりたくないってのは通用しない、人を守る力あるものがその力を振るわないってのはサイテーなことだからね。君には力がある、生体兵器に立ち向かう力がね。その力を使わずに放っておくほどこの世界は優しくない。詳しいことは面倒だから手続きとかは後日シェルターの人間にやってもらうけど、自発的にしろ強制的にしろ君は精鋭としてこれからその手足千切れるまで戦ってもらうことになるけど、どうする?」
「そんな!」
「……だからさ、テスト受けようよ。楽しいよ精鋭、普通に生きてるだけじゃ味わえないスリルがある。いやなら……おすすめはしないけど、手足食い千切られて落第ってのもできるからさ。これにサインして今月中に提出してね」
書類の入ったファイルごとギンセツに渡すと席を立ち食堂から出ていった。
テーブルの上にはからのアイスのカップとスプーン、決済カードと書類の入ったファイル、彼は何も言えないまま彼女を見送った。