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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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防衛線 11

 冷蔵車は徐々に速度を上げまっすぐと災害種の頭へと向かっていく。


「行け、このまままっすぐ当たれ!」

「しゃぁ! 行け行け行け!」

「ぶっ潰せ! ぶっ壊せ! ぶっ殺せ!」

「精鋭のお嬢さんは口が悪いのだね」


 冷蔵車の接近に気が付いたウォーカーは向かってくる車両に頭を向け弾き返そうとした。

 よく言えばそれを投げ飛ばし足元を騒がす邪魔者を一網打尽にしようと。


 だが、冷蔵車の装甲は薄くその角は簡単に装甲を貫いてしまった。

 力を入れたとたんに裂けてしまいひっかけて持ち上げることもできず、冷蔵車にウォーカーは頭からぶつかる。

 衝突での衝撃や地響きなどはなく、金属が避ける音だけがその場に響いた。

 ぶつかった衝撃でぐしゃぐしゃになった冷蔵車の圧縮された空気が扉や窓を通じて食べ物が噴き出て地面を汚す。


 車両が災害種にぶつかった瞬間、災害種のほうからも何かが飛び散った。

 冷蔵車を走らせたギンセツ達は角度の問題でぶつかった結果を確認できず、走って見える位置まで移動する。


 足の速いシロヒメと軽量化された大型のエクエリを持ったギンセツが先につき、あとから運動不足の眼鏡をかけた背の低い男と重たいエクエリを担いだジガクが追い付いてきた。


「ギンセツ、あいつはどうなった?」

「失敗ではないようですけど……どうでしょう?」

「私は運動不足で疲れやすいんだ……これ以上走らせないでほしいね」


 速度が乗らずウォーカーにダメージはない、しかし頭の部分の金属は脱皮したかのように剥がれていた。

 そしてあることに気づく、体を覆う鉄は多少の衝撃で剥がれないように糊の役割として蜘蛛の糸で体と密接に接着されている。


「ダメか! 少しだけ剥がれたけど、本体にダメージは入らなかったか」

「隙間は空いた! ここから広げればいいだけの話、下で特定危険種どもを倒した私の仲間たちも上がってきた。生体兵器も残り少ない、あいつをこのまま線路の上に足止めできれば勝ちでしょ」


 衝突の衝撃でウォーカの腹部から側面にボロボロになった鉄として擬態していた生体兵器が、一斉に羽をばたつかせギンセツ達に飛び掛かってきた。


「デカい蛾、まだこんなのを隠し持っていたのか!? うわっ、こっち来やがった!」


 羽に穴の開いた個体は地面を跳ね回るようにばたつき、無事な個体は一般兵へと飛んでいく。

 しかしそれは特に攻撃性能はなく飛んできてただ顔や腕にくっつくだけ、人の頭より大きな蛾が。

 シロヒメは飛んでくる蛾を冷静にエクエリの銃身で叩いて地面に落としその体を撃ちぬいた。


「体の毛に触れるなよ、触れた場所が死にたいくらい痒くかぶれるぞ!」


 先日の甲虫の件があり小さくてまっすぐ人に飛んでくるものに逃げ惑う一般兵、混乱しているそこへ生き残った生体兵器が攻撃を加える。


「うわぁ、どんどん被害が大きくなるな」


 対岸の火事を見るように感情のない声で周囲を見渡し動き出したウォーカーを見るシロヒメ。

 その横でギンセツは我が飛び去った後のウォーカーを見ている。


「何冷静に状況見守ってるんだよギンセツ、冷蔵車が失敗したんだほかになんか考えないと俺ら……」

「いや、もう大丈夫みたいです。ほら」


 蛾が飛んで来るのだけ警戒しギンセツは戦場とは違う方向を指さす。

 明かりを消し線路の上を走ってくる鉄の塊、主に物資を運ぶことを目的として普段の戦闘時に戦いに加わらず外に出ることのないほかの鉄蛇より大きめに作られた野槌は最大速度で走ってきた。


「おお、来たか。よしよし全員退避! 死ぬ気で逃げろー」


 シロヒメは叫ぶと誰よりも先にシェルターのほうへと向かって全速力で走り出した。

 逃げたくても逃げられない状況から全力で逃げろという指示、しかしシロヒメが走り去っていくのを見て誰一人迷うことなく走り出した。


 一般兵は一目散に逃げるが、ほかの精鋭は撤退を邪魔しようとする残りの生体兵器を排除する。

 もう脅威となるような大きなものはおらず、残ったのは不落のウォーカーのみ。


 ギンセツはジガクの走る速度に合わせて走りだすと速度を緩めず後ろを振り返る。


 ウォーカーの横っ腹に最大速度で走ってきた野槌が衝突するその瞬間を見た。


 いくつものエクエリや砲台の攻撃を受けても貫通することのなかったその装甲も、かなりの質量のある鉄蛇の直撃を受けて無事なはずがない。


 しかしそれだけではその外骨格にひびを入れただけで終わっただろう。

 とどめとなったのは冷蔵車の中にあった蜘蛛の脚。

 冷蔵車では脆すぎ災害種ではなく冷蔵車のほうを貫いてしまったが、野槌は分厚い装甲が蜘蛛の脚をはじきその尖った脚は杭を打ち込むように衝突され、ウォーカーに深く刺さる。


「やった!」


 腹に響く重い音が鳴り、撥ね飛ばされたウォーカーは、その場に踏みとどまろうとしたが脚の爪はウォーカの重量をたたえきれず脆く地面を抉りとり山の斜面を転がっていく。

 野槌はどこか壊れたのか脱線したのか、ぶつかった途端に火花を散らして減速し始めていた。


 ギンセツは目を凝らし当たった時に乗っていた人はどうなったのだろうと考えたが明かりの消えた後ろの車両にも人の気配はなく、野槌の去った後から軍用の大型トラックを改造して自立して線路も走れるようにした車両が何両か走り去っていく鉄蛇を全速力で追いかけていった。


「こっからは精鋭の仕事、よしよし災害種を屠ったって知ればバメもトヨも驚くだろうな。ククッ、私が旧朝顔隊で最初の災害種からシェルターを守った英雄の仲間入りだ」


 シロヒメが嬉しそうにエクエリのバッテリー残量を確認すると、来た道を引き返そうとしてギンセツ達と合流する。

 眼鏡の男はそのまま逃げていきジガクとギンセツはシロヒメに声をかけられた。


「お疲れ、冷蔵車はダメだったけどいい足止めになった。そうそうあの蜘蛛の脚いいアイディアだったね、串刺しになったし、大ダメージ与えたわ」

「終わったんですね、ああ終わったぁ長い夜でした」


 シロヒメが脱力したギンセツの肩を抱き寄せ喜ぶ。

 その後ろでジガクが座り込む。


「ああ……もう一歩も動けないぜ、これで兵役終わったしもうこれを持つこともないな。もう絶対帰ったら仕事見つけるんだ俺、こんなことしてたら命がいくつあっても死ぬ」


 あとは精鋭の人に頑張ってもらおうと大型のエクエリを下ろしジガクが一息つくとシロヒメが彼の背中をたたく。

 小さい蜘蛛に刺された傷が痛み、ジガクは奇声を上げえびぞりに飛び上がる。


「何言ってんの? 君らここまでやったんだから私と一緒に最後までやろうよ、ほら行くよ。災害種を完膚なきまでにぶっ殺す」

「まじかよ」

「僕ら一般兵なんですけど……」


「私も昔は一般兵だった、ほかに言いたいことは?」


 そういうとシロヒメは二人を連れて盛大な衝突のあった線路の方へと向かう。

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