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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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防衛線 10

「ジガク無事ですか」

「そっちこそ、生きてるか」


 他の鉄蛇の一般兵たちが戦いながらギンセツ達のいる線路まで上がってきてくれたおかげで怪我をすることなく数で囲んで赤い蜘蛛を倒すことができた。


 下層の人間はそのほとんどが一般兵で仕事に就けなかったものを置いておくほどシェルターは寛容ではなく強制的に仕事へと尽かせる。


 現在、仕事がない人間というのはごく限られておりそのほとんどは、ほかのシェルターから移住してきた者たちだった。

 その彼らには生体兵器への知識が多少なりあり、バラバラに逃げ孤立すればどうなるか10年前の記憶が嫌でも思い出させる。


 それゆえに彼らは生存率が高くなるように一カ所に集まった。

 この最後の防衛線に。

 そして彼らが集まってすぐに災害種が上ってきた。

 その姿は深い地の果てから這い上がってくるかのよう。


 十メートル以上の足の長い蜘蛛四匹、三メートルの黄色と黒の百足数匹、二メートルほどの赤い蜘蛛十数匹をつれて。

 災害種は頭を出した瞬間、集まっていた一般兵たちの集中砲火を受けることとなる。

 しかし


「なんだこれ!?」

「エクエリが全く効かない」


 災害種の凸凹したその巨大な外骨格は脚や角の先端まで隙間なくボロボロになった鉄で覆われ、その酸化した鉄の強度に関係なく生き物にのみ通じる弾丸はすべて無効化された。

 甲冑をまとった巨大な塊、進路上にあるものすべてを破壊する歩く無砲塔戦車。


「なんだよこいつ、目も触覚もないぞどうなってるんだ!」


 体についたいくつもの傷は実弾兵器か何かでその鎧がはがされただけ、薄くだがその部分の修復もされている。

 災害種には何も見えていないただまっすぐ歩くだけ、それを横の生体兵器が右へ左へと先導をしている。


「ジガク下がりましょう、ととで戦っていた人たちも後ろの人たちと合流してます」


 見上げる巨体を見て二人が唖然としていると、後ろから聞き覚えのある精鋭の女性の声が聞こえた。


「線路の裏まで後退、はい下がって下がって。そのあとは災害種以外のを狙って、数を減らして、はいボーっとしていないで構えて」


 振り返ると斜面を登り息を切らし走ってきたのは生体兵器の体液と赤土で汚れた白い制服の女性。


「つくづく君たちをよく見る日だね、少年たち。君らまだ生きてたんだ、驚いた。すごく運がいいんじゃない? じゃあ、君らも下がって」


 いるのは鈴蘭隊の隊長のシロヒメだけ、周囲を見ても彼女の隊の仲間はそこにいなかった。


「精鋭の他の人たちは?」


 ジガクは恐ろしいことを聞いてしまったのではないかと口にしてから思ったが答えは単純なものだった。


「まだ下で戦ってる。特定危険種もいないようだったから竜胆隊のじっさまに私の隊を預けて私は用があって先にここに来た。足の速さなら自信があるし、つらかったけど……そんなこと言ってる場合じゃないか」

「用って」


「そうそう、今話すから黙って聞いてて」


 シロヒメはギンセツとジガクの背を押して線路の後ろまで下がる。


「指揮を執るのは苦手だけど……」


 彼女は大きく息を吸い込むと、最後の防衛線で戦う一般兵たちに向かって叫んだ。


「さぁ、最後だ、死にたくないし死なせたくないだろう、だったらここで食い止めてくれ! あと十数分でここに全速力の鉄蛇が突っ込んでくる。そいつであれを撥ね殺す! さすがにあの質量は生体兵器じゃ止められないさ。それに残った生体兵器はあいつの周りにいるので全部だ、脱線させようとするやつがいるならそいつから仕留めればいい。もうすぐだ、かつぞ!」


 言い終えたと満足げな顔をするシロヒメは線路をまたいで敵のほうへと向かっていく。


「自分で線路の後ろへ下がれって言っておいて……」


 固まっている一般兵より孤立した精鋭を狙い生体兵器は彼女を取り囲む。


「さぁ、迎えの時間まで楽しもうじゃないか」



 戦闘開始から数分、ウォーカーの体にどれだけ攻撃しても効果がないとわかり、攻撃は脚の関節部へと集中した。

 しかし蜘蛛の糸で縫い付けた金属がその攻撃をしのぐ。


「脚まで守られてるのかよ!」


 関節部は繭のように糸度ぐるぐる巻きにされそこに金属が挟んである、糸は切れても金属で攻撃は無力化された。

 ジガクが舌打ちしてほかの生体兵器に狙いをつけていると、誰かが撃った弾が冷蔵車の上を飛び越え災害種の付近で爆発する。


 その爆発に歓声が上がった。


「おおお!! やったか!」

「ジガクよそ見しないで!」


 爆発からウォーカーを守った災害種の上にいる一匹の生体兵器、平たい体は今まで災害種の体を覆う腐食した鉄に擬態していた。

 それがウォーカーを守るために飛び上がり空中で爆炎を浴び、粉々になって落ちていく。


「何かがあいつを守るために犠牲になった!?」


 何かに攻撃を阻害されダメージは与えられなかったが、熱か衝撃か音のどれかが効いたのかウォーカーの動きが極端に鈍くなった。

 戦闘の合間を縫ってギンセツはずっと冷蔵車を動かそうとしていた背の低い眼鏡の男に話しかけた。


「これはもう動くんですか」

「ああ、だがしかし逃げる先がないのだがね。下の線路は八岐大蛇の脱線した列車が残っているし、後ろから鉄蛇がきているらしいね」


「それはどうでもいいんです、これは走るんですね」

「ああそうだがね、いったいどういうことかね」


 すでにウォーカーの取り巻きの最後の一団も半数を切り、敵の勢いが落ちてきている。

 しかしまだ災害種には何のダメージも与えられていない。


「これをあいつにぶつけるんです」

「本気か!? こいつの装甲じゃこっちがつぶれて終わる気がするぞ」


 ギンセツの後を追ってきたジガクが口を挟む。


「やめた方がいいと思うがね」

「あの鉄と固めた装甲を砕ければ、そこから攻撃が通るはず」

「なるほど、たしかにあの鎧が砕ければエクエリで倒せるなギンセツ! この大きさなら小さいやつで防がれることもないし」


「そうか……まぁ私の役目は終わったようだね」

「まだです、こっから働いてもらいます。あの日、シアさんを怪我させた罪の分付き合ってもらいます」


「それはあの少年のことかね!? 前々から気になっていたが君は何なんだね!?」


 眼鏡の男に操縦を任せるとギンセツとジガクは冷蔵車は前の車両との連結を切り離し後ろへと下がる。


「だったらギンセツ、その脚を全部回収して動く冷蔵車へ運ぼうぜ!」

「何に使うんですか?」


「ダメもとで、この尖がった足で奴を突き刺す」


 ギンセツとジガクは脚の両端をもって何往復もして足を冷蔵車に乗せ、廊下の窓から脚の先端を突き出す。

 準備は完了した、そこへちょうどよくウォーカーが差し掛かる。


 災害種は壊れた冷蔵車を角で弾いた。

 軽く突いたのか強く突いたのかわからないが冷蔵車は簡単に壊れ、周囲に散らばった食料。

 そこで災害種の動きは止まる。

 肉魚果物その他あらゆるものが散らばり、その匂いにウォーカーが反応していた。


「これ最大のチャンスじゃないか」

「もう一歩前に出てくれなければ角と頭の先にに当たるだけです、もう一歩……」


 いよいよ突進を開始しようとしている矢先、冷蔵車に乗った三人の元へシロヒメがやってきた。


「今は線路から離れてて危ないから、そんなもん乗せてあんたたち何をする気なの?」

「シェルターを守る一般兵として、未来永劫語り継がれるために戦うんだぜ」

「この冷蔵車を災害種の鎧にぶつけて砕くんです! 他の人にそのこと伝えてもらっていいですか」


「全部喋っちゃうのかよ」

「作戦しっかり伝えないと、せっかくのチャンスが無駄になるでしょう。先にあの金属の部分を剥がすんです、弱らせれば……」

「あはは、正気!? ていうかこれから別のこれよりもっと質量のあるのをぶつけるんだってば、発想は面白いけど非現実的……でも、うん面白い。まぁやろうとしていることはわかるよ、攻撃が通れば弱らせられるかもしれないし。でもこれ手動で操作するのよね、最後の最後までこのレバー握ってる気なの」


 レバーは放すと元の位置に戻ってブレーキがかかる、だから最後まで下げっぱなしでいないといけないそういうと試しにと眼鏡の男がいくつかの装置をいじり最後にレバーを下げる、すると冷蔵車は後ろへと走り出した。


「これは抑えていないとこの通り……」


 次に眼鏡の男がレバーから手を放すと自然とブレーキがかかり車両は速度を落とし始めた。


「ここまで来てだめかぁ、ギンセツのアイデアいいと思ったんだけどなぁ」

「ざんねん、ここまでね。それじゃあこの車両から離れてもう一分あるかないかだから」


「ジガク、あの装甲まだお腹に入ってますよね」

「お、おう」


 ジガクから受け取った鉄板をレバーへと近づける。

 するとレバーを下げた隙間にぴったりとはいかなくも何とか収まった、手を放すと戻ろうとするレバーを装甲版が戻らないように押さえつけている。


「ピッタリ、あははいいね。その作戦を試してみようか」


 そして冷蔵車両は前へと走り出す。

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