防衛線 2
日が傾きオレンジ色の空、D・サーペントは全速力で戦闘区域へと走っていた。
『A・八岐大蛇とF・大物主が現在戦闘中、D・サーペントとF・ナーガ、V・ミズチは現場に急行する。今回の戦闘は中型の生体兵器を軸とした編成とみられるが、半年に一度あるかないあの大規模なもので大型と小型の姿も複数確認されている。各員、覚悟をもって戦闘に挑め』
お互いが見えるほどの近さで密集して走る鉄蛇。
鉄蛇の走る線路は二列ずつ並んでいるがすべて同じ方向に回るように走る。
ほとんどの線路は一定の間隔で走らされているが、シェルター手前と一番外側を走る線路が特に密集して走らされており、生体兵器がシェルターに近寄る前に倒すのともし大量に攻めてきたとき用の最終防衛ラインとしての意味合いがある。
その数の多さにジガクもギンセツも、もうじき交代だからということで最後ぐらい多少手柄を土産にでもしようと意気込んでいた。
「やれやれ、昨日今日と連戦かね」
ザンキが抜けた分の補充のため他の三人一組で負傷者で欠けた者たちを集め、チーム決めを行い背の低い眼鏡の男がギンセツとジガクのチームに入った。
だが、その男とギンセツはほとんど言葉を交わさない。
「今日が終われば最後だなジガク」
「そうだな、数が多かったらどっちが多く倒せるか勝負でもするかギンセツ」
戦闘区域に入る前に壁が開き、銃座に大型のエクエリを固定する。
「固定するの早くなったね」
「ああ、完璧だぜ。それにしても鉄蛇が多いな、今回もすぐにけりが付くといいな、んで明日の朝までぐっすり寝て明け方の霧の散布が終了したら鉄蛇での仕事におさらばだぜ。コトハとうまいもんでも食いに行くかなっと、あっちの上に何かいるぞ?」
戦闘区域上空を低い音を立てて飛ぶ四匹の蜂。
遠目からでも形がはっきりわかる大きさからして生体兵器に間違いはないのだが、夕闇に浮かぶ四匹は特に攻撃をするでもなくその場で滞空し続けその姿は戦場を傍観しているようであった。
「あれが俺たちの最後の敵ってことでいいんだよな、あれを倒せば帰れるんだよな?」
「ですね」
二人が鉄蛇の進行方向遠くを飛行する生体兵器に気を取られていると、手前の森の向こうからY字の角の生えた巨大昆虫が飛来する。
森の中から飛んで来る巨体への存在に気が付き視線を下に落としたときにはもう遅い。
鉄蛇の減速を肌で感じながら、戦闘区域までもう少しだと待機していた一般兵たちは突然の奇襲に対処できなかった。
鉄蛇が来ることがわかっていたかのようにタイミングよく列車の上に着地、薄い壁などを貫通しその勢いと重量で装甲を押しつぶす。
すでに戦闘用に壁は開かれ、その衝撃で何人かがふらつき開かれた壁から落ちていく。
「戦闘区域は向こうじゃないのか!? ウオッ、こっちも後ろに当たったか!? こっちまで揺れたぞ、くそ脱線とかしてないだろうな!」
「速度に変化はなく無事に走っているから問題なさそうだがね」
「広がっている? こっちにも飛んでくるかもしれないし、ジガク少し後ろに下がったほうが……嘘!」
飛んできた大型の生体兵器の何匹かがF・ナーガの機関車両にほぼ同時に衝突、その衝撃は地面と機関車両を大きく揺らし線路から外れた列車が勢いのままレールのない地面を走りもう一本横の線路へと暴走し進む。
そこへ、その線路を走っていたV・ミズチが突っ込んだ。
金属片、火花が派手に飛び散り、その破片がギンセツとジガクの間をすり抜ける。
二両のぶつかった音と衝撃波は骨や内臓に大きく響いた。
『V・ミズチおよびF・ナーガ脱線!! D・サーペントは交戦区域に突入、各自の判断で戦闘開始……野槌でも白蛇でもいいから非番の兵隊を乗せて応援をよこせ、違う、災害種クラスの相手だ、全部だ全部こっちへ回せ、鉄蛇に乗せる精鋭が足りなくても人出は多いほうがいい、シェルターに行かせるな!』
人の背丈と同じくらいかそれ以上の大きさの無数の昆虫型の生体兵器の死骸が折り重なり流れ出る体液が混ざり合って異臭を放っている。
「どれが生きてるやつだ!?」
「動いてるやつ」
「どれだ!?」
「知らないよ!」
戦闘区域に入ったがD・サーペントは生きている生体兵器を見つけられない。
数匹とか数十匹とかと戦ってきた今までと違う戦場の光景にギンセツも身震いした。
いつでも戦闘が始められるように武器を構えたまま戦闘区域に入るが、それからも鉄蛇の動く音と風の音だけが聞こえるだけで生きている生体兵器の姿が見えない。
「おい、先見ろよ。あれ、群がられてるけど鉄蛇か?」
「あれは……」
そして一つ先の線路の前方を走っていた炎を上げて走るF・大物主を追い抜いた。
「……なんだこれ、なんだよこれ」
「数が多い」
火を噴きながら走る車両に取りついた黄色と黒の縞模様の百足、車両に突き刺さるY字の大型生体兵器、装甲を音を立てて引きはがす顎を持った乾いた血のような赤い蜘蛛、黄緑色に発行する部位を持った細見剣のような足の長い深緑色の蜘蛛。
「鉄蛇にも霧が噴射できる装置があるんじゃないのか? この間みたいな甲虫の時ように」
「使い切ったとか? 貯蔵タンクに穴でも開いたか、噴射するボタンの所に人がいないとかじゃない」
攻撃開始と誰かが叫んだ、誰もが夢であることを願ったがその掛け声で現実に戻され一般兵たちはエクエリを構えた。
鉄蛇F・大物主に向かってエクエリを撃つ。
エクエリの弾丸は生物の体を撃ち抜くことはできるが金属などの非生物などには効果が薄いという利点を生かし、開かない壁側にいる生体兵器たちを当たる当たらないにかかわらず引きはがしていく。
装甲に取り付いていた昆虫たちがエクエリの弾丸を交わし地面に落ちるとD・サーペントへと狙いを変えてくる。
「やべぇ、こっちに来たぞ!」
「しっかりと当ててくれたまえ」
「来る前に倒せばいいでしょ! 喋ってないで手を動かしてください」
それだけでなく攻撃する機会をうかがっていたように一気に森を抜けてくる多様な生体兵器の群れ。
大型のエクエリの弾が当たれば一撃で粉々にだが一匹二匹倒したところでその勢いを止めることはできず、さらに次々と森から生体兵器は現れる。