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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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防衛線 1

 甲虫は部屋の隅へと転がっていった。


「爆発しなかったな。やっぱ踏みつけるとか潰すとか、強い圧を加えると爆発するらしいなこいつ」

「でもブラシで押さえつけたときは何ともなかった……蹴っ飛ばすのは大丈夫なのでしょうかね?」


「やるなら俺から離れて試してくれよギンセツ、破片の巻き添えを食うのはごめんだ」


 ジガクは弾いた甲虫はひっくり返ったままはばたくと正常な状態にもどり、そのまま誰に向かってくるのではなく階段のほうへ二階へと飛んでいく。


「逃げるぞ」

「追わないと!」


 階段を駆け上がり生体兵器を追う。

 あちこちぶつかりながら二階へと昇った甲虫は着地に失敗しひっくり返ってもがく、起き上がる前にジガクが掃除用具入れから転がっていたバケツを拾い上げかぶせた。


「捕まえた……が、このバケツをエクエリは貫けない。どうする、だれか呼んでくるか? 俺は怖いからそのバケツあけないぞ」

「じゃあ自分で開けます、ジガク離れてて」


 ジガクがバケツのそばから逃げ出すとギンセツがエクエリを構えてバケツの前に立つ。


「行きますよ」


 バケツの取っ手につま先をかけわずかに開けるとそこにエクエリの銃身を突っ込んだ。

 そして引き金を引いた。


 勢いでひっくり返るバケツの中には体液でべとべとになった体のない甲虫が残った足でもがいていた。


「おえ、気持ち悪い。ギンセツ、もう一発撃っておけよ」

「そうですね」


 汚いバケツをデッキブラシでつつきながら掃除用具入れに戻すとザンキの元へと戻ろうとする。

 二人が階段を下りていると、割れた窓から聞こえてくる風の音以外に外から低い音が聞こえてきた。


 音は一定で機械のモーターが回るようなブーンと鳴り相手を見ることはできないが近づいたり遠ざかったりしている。


「外に何かいる」

「怖いこと言うなよ、まだあの甲虫が引っ付いてるんじゃあないのかよ」


「違うよこの羽音、もっとでっかい何か」


 外に向かってギンセツが大型のエクエリを構えるとジガクがその陰に隠れた。

 しかし、何事もなく聞こえていた低く重い音が遠ざかっていく。


「いなくなった?」

「本当か? もう大丈夫なんだな? じゃあ戻ろうぜ」


 走って下の階へと戻って戦闘を続ける。



 昼を迎えるころには甲虫の一掃も終わりD・サーペントは、負傷者の回収に来た白蛇にけが人の移送をしていた。

 装甲に受けたダメージは少なかったがサーペントの受けた被害は決して少なくなく今回の戦闘で20名の負傷者と行方不明者がでた。


「二人とも無事か?」

「はい……」


「あの……足……」


 赤く汚れた包帯を分厚く巻かれたザンキの足、膝から下を失い痛々しいその姿を直視するのをためらうジガク。


「ああ、ドジッちまったな。悪いな俺がお前たちより先にシェルターに帰っちまって」

「いえ、その、お大事に」


「なに、あと一日でお前たちもシェルターに戻れるんだから。見舞いにはきてくれよ」


 軽口をたたきながらクグルマ・ザンキは白蛇へと収容されると、彼を乗せた鉄蛇はシェルターへと引き返していった。






 たたき起こされ着替えさせられ、髪の乱れたままエプロンと三角巾をつけたメモリはキッチンの前に立っていた。

 徹夜でラジオから聞こえてくる通信に耳を傾け安心して眠ったのが早朝、昼にコトハに起こされ意識がはっきりする前にこの場に立たされていた。


「さて、家庭料理初級をクリアしたメモリンには、お菓子作りをしてもらおうと思います!」

「……初級も何も、私はこの間の料理の時包丁を持たずに終わったぞ。それに料理とお菓子作りは難易度もジャンルが違うのでは?」


「怪我で片腕が使えず猫の手もできないメモリンの包丁の持ち方は危なっかしかったんだもん。大丈夫、もう腕は動かしても大丈夫なんでしょ。それに、私が一緒だしレシピさえ見ていれば作れるから。生地が完成したらデコるのは任せるよ。さぁ、メモリン今の気持ちは?」


「不安しかない」


 コトハが来ない日にこっそりレシピ本を読んで実践しようとしたのだが、その通りに作ろうとすると本はいくつか作業工程が省かれて書かれており、その部分を感でおぎなった結果最終的にひどいものが出来上がった。


「それじゃあ今日も張り切って作っていこー」


 眠気より鬱陶しさに脱力感を感じかといって断ることもできずしぶしぶ調理器具に手を伸ばす。


「少し前から思い始めてたんだが、私が寂しくないようにって君は来ているが実は君が寂しいから来ているのではないか?」

「まずは、これをだまができないようにかき混ぜてくれるかな」


「無視か」


 騒ぎながら、散らかしながらしたこともない菓子作りに挑戦し、台所を汚く散らかしながらも二人は生地を焼くことに成功した。

 手についた粉を払いコトハは台所を振り返る。


「ふぅ、何とかここまで行けたね。こりゃ、後片付けが大変だ。でも次からは一人で作れるよね」

「私は部屋に戻るぞ、もうたくさんだ」


「生地が焼けたら、呼ぶからそれまでは休んでいていいよん」

「あれで完成じゃないのか!?」


「あれは生地、メモリンはケーキ食べたことないの? お楽しみはこっからだよ」

「……料理は疲れるな」


 エプロンを外すと階段を上る。

 自室に戻りラジオをつけると聞こえてくる音が騒がしくなった。


 別にそれ自体は珍しくもなく、いつも昼夜を問わず流れることがある音だったのだがその暗号化された通信を聞いてメモリの動きが止まる。

 しばらくして生地が焼け、飾りつけにメモリを呼ぼうとコトハが書斎へと入ってくる。


「どうしたの、メモリン? もう少しで完成だけど疲れちゃった?」


 隣にいたコトハの声は届かず、ラジオのほうを向いたままメモリはうわごとのようにつぶやいた。


「さいがいしゅ……だと……」

「戦闘? D・サーペントの? 最後の一日でまた戦いなんてついてないね、兄さんもギンも……どうしたの、いつもの戦いでしょ?」


 それから数分後、高層の住民に秘密裏に暗号化された避難勧告が出され。

 数十分後、シェルター全体に危険を知らせる警報が鳴る。

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