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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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帰るまでは 1

 

 検品が終わり荷物を抑えるベルトの固定状態を確かめると冷蔵車を下りて、日の光を浴び区切られたシェルターの外の広い世界を見ていた。

 荷物を下ろし終えたトラックが陣形を作って元来たシェルターへと帰る用意を進めている。


「すごいですね、シェルターの外ってこんなに広かっただなんて」

「アカバネ君、君は外から来たのでは?」


「そうです、ほかのシェルターから……あれ? クグルマさんに僕のこと話しましたっけ?」

「入隊時の履歴書、それに個人的な資料もあるからな人通り目は通すさ。ヤソバ君もそうだろう」

「そうです……でもあの時は突然のことで頭がいっぱいで、シェルターの外だとか……そんなことを考えては……」



「そうか……悪い、いやなことを聞いたな」


 三人の後方で止まっていた冷蔵車が動き出す。


「動き出した?」

「ああこいつは単体でも動ける。予備電源で走ってるんだ、冷蔵用に回す電源で自力で走れる。とはいってもシェルターまで走って帰るほどの電力はないから、この付近までほかの鉄蛇で持ってきて、自力でここで止まって、また別の鉄蛇で持ち帰ってもらう感じだな」


 運転席はなく列車の外にいくつものレバーが付いていて、その部分の操作で冷蔵車はD・サーペントの最後尾へと連結させられる。


「連結完了。さて出発までまだ時間があるから、適当に時間潰していいぞ。また用があったら呼びに行く、それじゃあ俺は戻る」

「どうする、ギンセツ俺らも戻るか?」


 ザンキが車両に乗り込むのを見届けると、冷蔵車に見覚えのある整備士が近寄り操作系統を興味深げに見ているのに気が付いた。

 ギンセツはその度の強い眼鏡をかけた背の低い整備士に近づいていき、思い切って話しかける。


「今度は生体兵器の死骸に上に操縦席でもくっつけて背中にでも乗る気ですか?」

「やれやれ、君とは初対面な気がするが随分と棘のある言い方だね。あの事件に巻き込まれたのは君の友人だったかね?」


 突然後ろから話しかけられ驚いて振り返ると、男は帽子を深くかぶり直しずれた眼鏡を直してギンセツの質問に答えた。


「そうですね、すごい大事な人でした」

「あの時は私も頭に血が上っていた。生体兵器を意のままに動かせるようになり全てはこれからというところで私の計画は台無しにされたのでね、そうか君はあの勇気ある少女と少年の知り合いかね。あの二人、いやあの少女と似たような声だとは感じていた、暗くて顔はよく見えなかったがあの少女は君の兄弟なのかね?」


「別にそんなことどうだっていいじゃないですか、それでこんなところで何を?」

「そんな私の行動すべてが、何かの悪事につながるという考えはやめてくれたまえ」


「ただ、何しているか聞いているだけじゃないですか」

「そう威圧的に話しかけないでくれないかね。見ていたのは私がただ機会に詳しくて少し気になったからという理由だ」


「ふーん」

「信じていないようだね、まったく……しかたない私はもう戻るとするよ、難癖つけて殴られたくはないからね」


 そういうと整備士は小走りで逃げるように鉄蛇へと戻っていった。


「今の小さいおっさんはギンセツの知り合いか?」

「別にそういうわけじゃないよ。ジガクは新聞とか読まないの?」


「うちにそんな金はないぜ」




 鉄蛇の最後尾に冷蔵車をつけて何日かした日の夜、戦闘時に開く二階の壁の掃除をしていたジガクは浮かれていた。


「やったな。いよいよ、明日にはここともおさらばだ!」

「早いものですね、この一か月鉄蛇の掃除をした記憶しかありません」


「馬鹿野郎、一生トラウマ夢見るような地獄を見なかっただけ、俺たちは幸運だろうが! 兵役を終えたら俺はすぐにでも職を決める。兵役を終えれば職の開放で下層市民でも就職できるようになるから、すぐに職についてすぐに中層に上がる。二度と鉄蛇なんかに乗るもんか」


 二人が話しているとゴツンゴツンと鉄蛇の装甲に外から何かが当たる音がする。

 二人が音の発生源を探しあたりを見渡す。


「なんだこの音?」

「誰かが表から叩いてる?」


 思わず扉を開くスイッチを押そうとしたジガクを、あわててギンセツが止める。


「怖いこと言うなよここ二階だぞ。それにちょっとやそっとじゃ分厚い装甲は音すらならないぞ、ハンマーか何かで思いっきり殴ってるってのか?」


 直後電源が落とされ非常灯に薄暗さの中生体兵器との戦闘を知らせるサイレンが鳴り響く。

 その瞬間二人は気持ちを切り替えた。


『諸君、現在D・サーペントは多数の生体兵器の攻撃を受けている数は未知数、人の頭ほどの小型の生体兵器がとにかく多い……なっ、どこにこんな数が、早く蒸気を出せ、くそっこんなところにまで。全速力で戦場から離脱だ、全車両の攻撃扉を閉めろ室内戦になる……ガァ!』


 その後は雑音だらけとなり叫び声や怒号、走り回る音がうっすらと聞こえるだけとなった。

 この一か月近く毎日のように行われていた戦闘態勢を整えるだけの日々が体に染みつき、条件反射として二人は迷うことなくエクエリのしまってある一階の棚へと全力で向かう。

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