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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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戦いのない時間 1

 ドタバタした入隊式から一週間、時折戦闘があるもののD・サーペントが付く前にはほとんど排除されあれ以来二人はエクエリを撃ってはいない。

 広い車内の掃除を毎日やらされる日々が続いていた。


「僕たちって鉄蛇を掃除するためにここに来たんでしたっけ?」


 二階建ての列車の屋上でギンセツは砲台を磨き、ジガクは土埃で汚れた砲台につけられた追加装甲を外して地面に置きデッキブラシで擦っていた。


「いいんだよ、平和なのが一番だろうがよギンセツ。一歩間違えば死ぬかもしれない生体兵器なんかとそう何度も戦いたくないだろ」


 二人が鉄蛇の屋根の上で風を受けながら掃除しているとザンキが様子を見に来た。


「喋ってないで、手を動かせよ二人とも。じゃないと飯に行く時間が無くなるぞ、昼めし食う時間が、夕飯食う時間になっても知らないぞ」

「へーい。だってさ、急いで終わらせちまおうぜ」

「僕のほうは終わりました、ジガクのほうが終わってないんですよ」


「げ、まじかよ」

「んじゃ、アカバネ君は休んでいていいぞ。ヤソバ君の手伝いはしなくてもいい、彼の分は彼にやらせるんだ」

「はい。そういえばクグルマさん、生体兵器って今までずっとここのシェルターに攻撃してきてるんですよね? あいつらに線路は壊されないんですか」


 ジガクが必死になって装甲板を磨いている間、二人は雑談を始めた。


「いいや、今までに何度かあるな。生体兵器は学習が早いから、それを覚えられる前に皆殺しにしないといけない。だから必ず逃げ出した生体兵器も一匹残らず殲滅している。奴らは一時的に引くことはあっても諦めて逃げることはほとんどない、そんなことができるのは災害種くらいだろう。あくまで相手がいなくなるまで攻撃するように作られた生き物たちなのだからな。そういえば、以前駅であったときに一緒にいた女の子は元気か?」

「え、ええまぁ」


「ああ警戒しなくていい。あの子の母親、ハクアとは昔からの知り合いだ」

「そういうことなら」


「それであの子メモリは元気か?」

「ええ元気ですよ。怪我しておとなしくするどころか、わがまますぎて困るくらいに」


「そうか先日の事件で、あのこが怪我をしたと聞いたが怪我の具合はどうなんだ?」

「しばらく生活に不自由が出るとは言ってましたけど、ひどい後遺症は残らないって話でした。体を強く打っただけだったので顔とか肌に傷跡もそんなにできませんでしたし」


 ジガクは磨き終わった装甲版をもとの位置に取り付けていく。


「よかった。まだ子供なのに重い障害とか残ったら、あいつを許せる気がしなかった」

「あの事件の犯人この鉄蛇に配属されてたんですね、ばったり会ったとき思わず殴ってやろうかと思ってしまいました」


「意外と過激だな君。ここで変な面倒ごとは起こすなよ、アカバネ君までいらないペナルティーを受けてしまう」


 装甲の取り付けを終えたジガクがデッキブラシとバケツをもって二人に合流する。


「よし、終わったぜ! さぁ、メシだ!」


 二階の物置にバケツやデッキブラシなど掃除用具を放り込むと、三人は昼食をもらいに下へと降りる。


 一階に降りると自主トレやくつろぎ用のスペースに工具を広げて陣取っている一団があった。


 机の上には一人一つ大型のエクエリが置いてあり、それを分解して何かの作業をしていた。


「あの人たちは?」

「ああ、一般兵にも鉄蛇の整備士志望もいるからな、整備の手ほどきとかしてるんだ。機械に詳しいなら鉄蛇やエクエリの整備に、料理が作れるなら厨房に、やらせて何もできないなら索敵か鉄蛇の掃除だ。ほら、あの事件のあいつも機械に詳しいからいるぞ」


 目立たないように帽子を目深にかぶった眼鏡をかけた一般兵も他と同様黙々とエクエリの整備をしていた。

 印象というより背の低さで他より目立つ彼らのよこを通り過ぎ車両を移動する。


「あいつの名前は、わかりますか?」

「ああ、新人の名前は一通り頭に入ってるからな。志願してきたやつ、仕方なく来たやつ、問題を起こして送られてきたやつ……まぁ、そう腹を立てるなよアカバネ君。あの子のことを思ってくれるのはうれしいが、それで君が鉄蛇に乗る期間が増えたらあの子が悲しむだろう」


「……別に怒っているわけでは。クグルマさんはどういった理由で鉄蛇で働いているんですか?」

「俺か? すごく単純だぞ。シェルターに惚れた女性がいて、誰でもなく俺が守りたいと思ったからだ。今は娘もいるしな」


「でも、ここで働いていたらいつか不運で死ぬかもしれないんですよね」

「だからと言って、誰かがやらなければならないだろう。それに不運というなら君たちが受けた事件も不運に入るだろ? あれも運が悪かったら死んでいたかもしれない、違うか?」


「そうですね」

「シェルターで働いたって事故なんかに巻き込まれて死ぬ時もある。結果的にあいつらと戦って家族を守るか、シェルターで働いて家庭を守るかの違いだろう。まぁ、家族を置いて俺は死ぬ気はないがな」


 しばらく黙って聞いていたが、まじめな話をしていた二人にジガクが割り込んだ。


「そろそろ行きませんか? 腹減ったんで、続きは昼食後じゃだめですか?」

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