砲火 3
戦闘区域を出たため銃座側の壁が閉じると、無傷で戦いを終えた一般兵たちが一斉に緊張から解き放たれ床に転がる。
「お、終わったのか?」
「そうです終わりましたよ、ジガク。もうエクエリから手を放しても大丈夫です。でも僕たち結局、数発当てただけで一匹も倒せませんでしたね」
同じ体制で撃ち続けていたため大きく体を動かし固まった体をほぐすギンセツ。
「生きてりゃそれでいいんだよ。あー、これがこれから毎日あるかもしれないと思うと気が重い」
「ジガク、汗すごいですねシャワーにでも……今は人が多いか」
戦いを終えた一般兵たちが同じ方向に一斉に移動しているのを見て、ギンセツは今いる位置から移動するのを諦めもう少しとどまろうと床に座りなおした。
戦いが終わってすぐにどこかに行ってしまったザンキが缶ジュースをもって帰ってくる。
「お疲れ様、二人ともよく頑張ったな次の戦闘に備えて気を休めておけよ、エクエリは向こうの壁に立てかけておけ。ほら、ジュースだ、甘いのは嫌いか?」
「もらいます、ありがとうございます」
「いただきます」
缶のジュースを受け取り甘い糖分と爽やかな炭酸が体にしみ込んでいくようだと、ジガクが精一杯の生を噛みしめ涙を流しながらそれを飲んだ。
「じゃあ、おれは飯行ってくるから。君たちも自由にしていていいぞ、しばらくの間の新兵の仕事は設備の使用方法とエクエリの使い方を覚えることと内外含めた鉄蛇の掃除だからな。寝室、君たちの荷物の運んである共同部屋はもらった説明書に書いてあるだろ。時間のあるうちに荷ほどきしておけよ」
自分のジュースを飲み干すとザンキは最後に銃座に固定されたエクエリを取り外すように言って食堂車のほうへと歩いて行った。
「見たかギンセツ……俺、生体兵器をやっつけたんだぜ」
「見てました、というか最終的にみんなの集中砲火で死んだんですけどね」
「いいんだよ。俺らもあいつに攻撃を当てたんだ、あいつを殺すのに俺らの与えたダメージも入ってるんだからな」
戦闘が終わったとたん元気になりだしたジガクとともに寝室を探す。
二階の通路にも攻撃用の銃座があり進行方向右側に非戦闘用の部屋や物置などが並んでいる。
シャワー室か食堂に人が集中しているだけあって、それら関係以外で移動中ほとんど人と出くわすことのないまま自分たちの寝泊まりする部屋の前についた。
「この部屋のようですね、ジガクとおんなじ部屋でよかったです。シアさんじゃないですけど、知らない人と過ごすのは少し気を使いますから」
「そうだな。でもとりあえず、もう今日はふとんで寝たいぜ」
「この後もまだ車内の説明があると思いますよ。緊急事態で戦闘があったとはいえ、まだこの鉄蛇について知らないことが多いですし。そもそもまだシェルター出て三時間ほどしかたってませんですから寝るには早すぎるとおもいます」
「腹減ったな……もう少ししたら飯食いに行こうぜ、何があるか知らないけどさ……っと、ここか」
振り分けられた部屋の前に到着するとノックをして扉を開ける。
部屋は四人部屋で部屋の中央に大きなテーブルが置いてあってその付近に各自の持ち込んだ荷物が置いてあり、両端に二段ベットが置いてある。
「意外と狭いな」
「テーブルが大きい分窮屈に見えるだけかも、足がたためるタイプのようですし使わないときは隅においておけばそれなりの広さは確保できると思いますよ?」
「どうする? 先に荷物あけて着替えもってシャワー浴びるか、それとも飯食いに行くか」
「先ご飯にしましょう」
「部屋の前でしゃべっていないで、入るか出るかしてほしいのだがね」
部屋の前で話し合っていると後ろから声をかけられる。
知らない間に二人の後ろに配給される弁当を持った背の低い男が立っていた。
「……今の声どこかで?」
ギンセツが振り返ると帽子を深くかぶった眼鏡をかけた背の低い男と目が合う、男は二人の間を抜けて部屋に入っていった。
「……なんでシアさんをケガさせたあの事件のあの男がここに」
こちらは相手に見覚えがあったが相手はこっちのことなど知らないようで特に何もないまま部屋に入っていく。
ギンセツが閉まっていくドアを睨みつけていると窓のほうが騒がしくなる。
あの男がここにいることと同じ部屋だということに苛立ったが、なんだろうと二人は窓際によりほかの一般兵につられて外の様子を見る。
「うわぁ、すげぇ……ギンセツ見てみろよあれ」
場所を譲ってもらいジガクに言われるまま窓の外をのぞいた。
窓の外にはD・サーペントの走っている線路より外側にさっきの戦いでより交戦区域に近かった場所で戦っていた鉄蛇が速度を落として走っている。
その鉄蛇が線路のポイント切り替えの場所の近くで、内側にシェルターのほうに戻ろうとD・サーペントが通りすぎるタイミングを待っていた。
ゆっくりと追い抜いていく鉄蛇を見て、ギンセツの戦闘が終わりほっとして緩んだ気が一気に引き締まる。
その鉄蛇では何両かで黒煙が上がり、変形した車両には一匹の生体兵器が鉄蛇の装甲を食い破って死んでいた。
「下手したら俺たちの乗ってたのがこうなってたのかもしれないと思うと怖いな」
鉄蛇の屋上や屋内であわただしく人が動き回り生体兵器の死骸に大量の水をかけたりしている。
「何やってんだあれ?」
「体液を洗い流しているんじゃ? ほら、有毒ガスとかが発生してたりとかするって」
「死んでもその死骸が厄介なんて、最悪だな」
生体兵器の攻撃で被害を負った鉄蛇を見届けると二人は食堂車のほうへと歩き出した。