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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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それまでの時間 5

 いよいよ明日ギンセツはこの家を一時的に離れる日なのだが、二人はいつも通りの午後を過ごしていた。

ラジオをBGMにお茶をすするメモリ。


「時がたつのは早いな」

「ええ、明日。いよいよ僕、鉄蛇で外に出るんですね。シェルターの外に出るのは小さい時以来です」


「忘れ物はないか?」

「全部確かめてあります。そもそもそんなにいっぱい荷物なんて持っていきませんから、後で駅まで運んで荷物預かり所に預けてこないと」


「そうか……なにか、私にできることはあるかな?」

「僕がいない間、カップ麺ばかり食べないでバランスのいい食生活をしてください。あと、こまめな掃除と洗濯を……ああそうだ、乾燥機時々調子が悪いんで……」


「そういうことじゃなくてだな……今できそうなこと、とかだ」

「んー……あ、ありましたよ」


「なんだ、言ってみてくれ!?」

「書斎の掃除、また本を読みっぱなしで置いてありましたよ」


 メモリが松葉杖から手を滑らし床に転んだ。


「大丈夫ですか!?」

「すまん、大丈夫だ。今すごく力が抜けた」


「僕がいなくなっても時々、コトハさんがここに様子見に来てくれるように頼んでおきましたんで」

「また勝手な、私はあの馴れ馴れしいの嫌いだ」


「苦手の間違いでは」

「どっちでもいいだろう」


「シアさんの態度があんまりだから、この間来た時の帰り迷惑だったのだろうかって本気で悩んでましたからね」

「実際迷惑だったがな」


「だから、いつもあんな感じですって言っておきました。今後ともよろしくお願いしますって」

「余計なことを」


「普段のシアさんならともかく、今は怪我していてまともに動けないんですから支えてくれる人がいないと」

「この家の中で私ができないことは整頓と料理くらいだぞ、別にそこまで困りはしない」


「そういえばエクエリは大丈夫か? 弾種変更のスロットを減らせばもう少し軽くもできるが」

「あ、いや大丈夫です。もう十分軽いですし、その、大型のエクエリの弾種に少し興味がありまして」


「整備はしたが試射していないから癖とかは私にわからない。君が向こうに行ってなんとなくで慣れてくれ」

「わかりました、やってみます」


「ところで何でD・サーペントなんだ? ほかにも鉄蛇はあっただろうに倍率高いだろうけど噂の新型とか、非戦闘用の鉄蛇とか」

「前に駅に行ったときたまたま話しかけられた人がD・サーペントの人で……あの、鉄蛇とかに最初についてるあの、DサーペントのDって何ですか?」


「ああ、あれは改修の回数だ。Aが初期状態で生体兵器の攻撃によって機関車両が壊れたり故障したりすると改造や新設備の増設でABCの順に変わってくんだ」

「最初の字が後の方なら、それだけ壮絶な戦い抜いてきたってことか……じゃあサーペントが壊れたのは4回目?」


「正しくは故障だな。たしかサーペントはまだ大きな破損はしていないはずだ、古いから時々設備の一部が使用不能になるんだったかな? 霧の影響で湿度が高いからなどこからか入って錆びさせているのだろう。多くの戦いを耐え抜いた歴戦の鉄蛇だよ」

「そうですか、僕のほうではあんまり鉄蛇の情報集められなかったので助かります」


「図書館は階層で読める本の種類が変わるからな、そういうのは私に行ってくれればよかったのに」

「シアさんはずっと部屋に籠ってたじゃないですか」


「あーあの時か」

「あの時のことです」


 いつも通りの生活をすることであっという間に時間は立って、その日は来た。


 事件のあった駅は破損状態がひどく復旧に時間がかかり、そこで行われる予定だった入隊式は別の駅で行われることになっている。

 そのためその分、ほかの駅に集まる見物人が多くなっていた。


「メモリンは意地っ張りだなぁ」

「でしょ~、人に弱みを見せないように頑張る子なんだから~。いかにギンセツ君を信頼していたかがわかるよね~」


 メモリが駅での式に自分の足では間に合わないし車椅子では坂の上り下りができないと一人で嘆いていたところ彼女を迎えにコトハが来た。


「メモリンのお母さんも綺麗な黒髪ですね」

「そう、よく言われるわ! 私の旦那の告白も、髪がきれいですねって声かけられたのが知り合ったきっかけなの!」


 ギンセツのいない状態でそのやり取りはひどいものだったが、コトハの来たすぐ後にきっと式を見に行きたいだろうと思って会いに来た母ハクアと出くわし、なんとかメモリはハクアとコトハに付き添われメモリは駅に向かうことができた。


「メモリン、ギンはどこにいるのかな」

「あ、あんまり、道の真ん中を歩くのはやめてくれ。ギンセツは着替えて入隊式までどこかで控えているんだろう」


 駅は入隊する人の家族が集まりお祭りのようになっていた。


「それは私じゃなくて、コトハちゃんに言ってね~。メモリはね~人が多いところは道の端を歩くの、人が怖いみたいなの、話すのもね……あ、私用事で来たから、また後でね」


 ごった返す人ごみの先に誰かを見つけたようでハクアは二人を置いていなくなってしまった。


「あ、ちょ、母様……」

「二人になったねメモリン、うわっ凄い顔」


 露骨に嫌な顔をするメモリを連れてコトハは奥へと進んだ。



 メモリたちから離れたハクアは、駅の様子を見ていた薄く色の入ったメガネをかけた無精ひげの生えた一般兵に話しかけた。


「やぁ、久しぶり。今回もお疲れ様、ザンキ」

「わざわざここまで来てくれたのか、ハクア。体の調子は、もう動いて大丈夫なのか?」


「もう何日たったと思ってるの? 十分休みを取ったしもう普通に日常生活に戻って問題ないわ。……あれ、さっきまであの辺にメモリがいたのだけど、どこに行ったのかしら?」

「メモリはあっちに行ってしまったよ、少し過剰にかわいがりすぎでは? それだから一人暮らしをしたいと言い出したのではないか?」


「そんなことないわ、きっと、たぶん。それで、私のかわいいメモリとは話した?」

「ああ、俺の娘でもあるがな。この間駅で見かけたがあの後すぐに髪を切ってたよ」


「あなたの乗る鉄蛇に、メモリの数少ないお友達が乗ることになるわ」

「知ってるよ、あの少年は俺が誘ったからな」


「そうなの?」

「ああ、あの子に仕事のついでに娘の日ごろの様子を話してもらおうと思ってね」


「あ、ずるい。私だっていろいろあの子の生活について聞きたいのに抜け駆けよ!」

「じゃあ俺は式が始まるから戻る。次仕事から戻ってきたら娘二人の姿が見たいな」


「あーそれね、ごめんなさいね、あの子は今日の式の邪魔をしないようにおばあさまに預けて来ちゃった。また今度、帰ってきたらメモリとお世話のあの子を連れて家族写真撮りましょうね」

「ああ」


式が始まる時間になったのでザンキはハクアと別れ鉄蛇へと歩いて行った。

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