霧と破壊 7
木材の動く音と砂利に落ちる音が地響きとともに辺りに反響した。
駅に明かりがつき鉄蛇用の鉄の扉がスライドして辺りが明るくなる、そして駅から人影が向かってくるのを確認すると一通りあたりを見回してからギンセツは下を見た。
プロトの頭部と上半身は木材に埋もれどうなっているかは確認できない、下半身に取り付けられている装置から白い霧ではない焦げ臭い灰色の煙が上がっている。
「頭が潰れたな、もう動かんだろう。おとなしく降参したらどうだ? もう自慢の人形は動かないぞ」
声の方向を見ると、今にも泣きだしそうな顔でキーボードを打っている男のそばにメモリが立っていた。
「シアさん、そんなそばに近寄ったら危ないんじゃないんですか?」
「ギンセツ、君なかなかすごい手を考え付くな。音がお腹の底まで響いたぞ、ほっとしたらお腹すいてきたな、帰ったら夕飯は作れそうか? それにもうこの男は脅威ではないだろう。事情説明は君に任せる、私は疲れたよ。久々に外に出てみればこれだ。もう、しばらくは外に出ないことにした」
ギンセツは野槌から降りると落したレンチを拾いあげ自棄を起こして何か起こすのではないかと警戒しながらメモリのそばによったが、男は頭を掻き毟りながらノートパソコンに夢中になっていた。
「今日は疲れたな、ご飯食べてお風呂に入ってもう寝たいな。この腕だしその前に、病院に行かないとだめだろうけども」
「そうですね、大事ないといいんですけど……本当に」
やがてキーボードを打つのをあきらめると男は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「倒れた」
「綺麗な倒れ方でしたね、フツッと崩れ落ちて」
「落ちた衝撃で液晶が割れたな、もうこれも使い物にならんだろう」
「高価なのものなのにもったいない」
「やっと人が来たな、もう全部終わった後なのに」
「これで駅に勝手に入ったことがばれますね。これって僕たちも怒られますかね?」
「どうだろう、褒められはしないかもな。怪我してるから逃げられはしないし、もうここは大人しくしてようじゃないか」
「ごめんなさい、僕がもっと早くシアさんのところへ行っていればこんなことには」
「私が調子に乗りすぎたんだ、それよりも君はこの状況をこっちに来ている人に説明してきてくれ」
「わかりました、ちょっと行ってきます。すぐに終わらせて病院に行きましょう」
大きな音に気が付き武器を持って集まって来た人に、ギンセツは事の次第を伝え男は連行されていく。
崩れた木材やプロトの死骸に騒然としていたが、治安を守る一般兵が現場を取り仕切り野次馬たちは追い払われた。
一般兵に連行される眼鏡の男は何の抵抗もせず抜け殻のようになっていて、ギンセツも事情を聴くため彼らと一緒に詰所へと同行を求められる。
「君は私と一緒に来ないのか?」
「僕は今日のことをの説明しないといけないので一緒には行けないですけど、一人で大丈夫ですか? 怪我の状態とか痛いとことか知らない人に伝えられますか?」
「うぅん……ちょっと、がんばってみる」
メモリは痛みで動かせずだらりとした腕やぶつけた体を調べるため救護班に病院に運ばれ、こうしてプロトとの戦闘は終わった。
後からプロトの戦いで霧を吸い込んだ喉や目を調べるために一般兵に連れられてギンセツも病院へと送り届けられた。
取り調べに時間がかかり日を跨いですでに日は高く昇っていて、徹夜の取り調べの疲れと眠気に襲われ検査は何をしたかはあんまり記憶に残っていない。
ふらふらと診察所から出てくると部屋の向かいの廊下に腕にギプスをつけたメモリが車椅子に座っていて、彼を見つけると動かせる方の腕で小さく手を振る。
「おはよう……君は寝ていないようだな」
「すごく眠いです。それでシアさん……腕は、どうでしたか」
「安心しろ、腕は折れていなかったよ。肩が外れていたらしい、結局痛いから何でもいいんだがな。あとヒビや突き指などもあって一か月はこのままだそうだ。しばらく大きめの本は読めそうにないな」
「ここに来たついでに、なんか身体検査まで済ませられちゃいました」
「ああ、一般兵入隊前の健康診断か。どこか悪いところはあったかな?」
「いいえ、すごっく健康だそうです。すみませんシアさんは大怪我しているのに」
「そうか、残念だ」
腕にギプスをつけ車椅子に座るメモリと絆創膏だらけだが、いたって元気なギンセツ。
どこかに怪我でもしていればそれを言い訳に入隊を延期されられたのにと、メモリは考えていたがギンセツはそんなことは知らず不思議そうな顔をしている。
「どうかしました?」
「いいや何でもない。それで、犯人は何と? ちゃんといつもの手で聞きだしてきたんだろうな」
「ええ、それなんですけど、始めはただ脅かすつもりっだったが、少年……シアさんが生意気だったため少しお灸をすえようとしたとこ、抵抗されさらには自慢の作品に穴をあけられ逆上したとのことだそうですよ」
事の全容を聞きたがるだろうとギンセツはまとめられた内容の紙に書かれた内容をざっくり話す。
彼女は高層の住人で彼女の親の名前を出すだけで、ある程度の情報を教えてくれる。
それがいつもの手、集めてきた情報を結果だけを聞いていたメモリは、話を聞いた後いつも自分がその場に立ちあえたら面白そうなのになどと言っているのだが今回の一件で痛い思いをしたのだから懲りてくれればいいのだけどと心配するギンセツ。
「子供か! 背丈だけじゃなく心まで子供なのかあいつは!」
「変に力持ってるから余計にたちが悪いですね。刃物を持った人間を怒らせるなということですかね? そうそう、下の階にお菓子とジュースの飲み放題ありましたよ、一緒に貰いに行きませんか」
「君も子供か! ……お茶と和菓子はあるんだろうな」