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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧と破壊 6


 離れた場所からプロトの操縦をしていた男は眼鏡の位置を直すとキーボードを叩いてプロトへ指示を出す。


「ひ弱そうなのに勇敢な少女だ、これはまだ調整が必要なのだがね」


 直後、体を大きく震わせギンセツがバランスを崩すと同時にプロトの腰の装置から白い煙が噴き出した。


「霧!?」


 煙を吸ってギンセツはむせ返る。

 本来、人体に害のないレベルまで薄められてから散布されているだがプロトから発生している霧は濃度が濃かった。

 目は刺すような痛みが走り、鼻は痺れのどが熱くなる。


「ぐぅぅ」

「ひゃァぁァあ!」


 ギンセツだけではなく少し離れていた場所に隠れていたメモリもプロトを中心に広がっていった濃い濃度の霧を浴びたようで白い世界の向こうから悲鳴じみた苦しむ声が聞こえた。


「隠れていた少年も見つけた、そろそろ終わりのようだね」

「何で霧がこいつから!」


 ギンセツの苦しむ声に優位に立った男が親切に答える。


「散布塔にある用水路、あの柵は背の低い人間なら通ることができるのだよ。そこで手に入れた霧の調合法、それをもとに作ったのがこの霧なのだ!」


 レンチを手放しギンセツはプロトから転げ落ちる、まともに呼吸もできない濃度の霧からいそいで距離を取る。


 しかし目を開けていられないほどの激痛とプロトから落ちた時にどの方向を向いていたかがわからず、闇雲に走った先で鉄蛇に頭をぶつけた。


 全力で金属にぶつかったはずの衝撃はそれほどでもなく、何かがクッションとなったようで頭をさすりながら顔を上げると、霧で腐らないようにビニールシートに包まれた太い丸太が山と積まれた貨物車両のシートの丸めてあったあまりにぶつかっていた。


 貨物車両は丸太が転げ落ちないように何本もの太いワイヤーで固定され、ギンセツはそのワイヤを伝って霧の湿気で滑るビニールシートの上を登る。

 霧はその高さまで上がってこず鉄蛇の下に滞留している。


 ――シアさんの悲鳴でも人は来ないか……もっと大きい音を出さないと気付いてもらえないか……。


 プロトは依然濃い霧の中でメモリの声も聞こえない。


 ギンセツは自分の手にしたものを見つめながら何ができるのか考えた。




 ギンセツが貨物車両の上に登っているころ、メモリは動く方の腕と足を使って必死に霧から逃げていた。


 霧は空気より重く下に流れ出る、よって鉄蛇の下にいたメモリは腕の激痛に加え目とのどの痛みにも襲われ続けていた。


 ――死ぬ……呼吸がつらいのにさらにつらい……早くどこかから出ないと……これは霧を悪用されないように散布塔が立ち入り禁止だというのもわかるな。ざる警備だったけども。帰ったら母様に言っておかないと。


 プロトの反対側の鉄蛇の下から這い出るととりあえず、砂利の音を立てないよう鉄蛇と並行して伸びる側溝の上を歩いた。

 激痛で流れた涙をぬぐい、連結部分からプロトとギンセツを探す。


 霧の中にいるプロトと霧の反対側の野槌にいるギンセツ、残念ながらどちらも発見することはできなかったが代わりにプロトを操縦する眼鏡の男が見えた。


 ――流石に守衛室から操縦するには無理があるから出てきたのか、あのノートパソコンで動かしているようだな。何か私ができることはないか……。


 男の付近に石が飛んできた。


 石は男にかすりもしない場所に落ち、プロトの操縦で石が飛んできたことにすら気が付かなかったが、それを見たメモリは痛む体を無理に動かしすぐに手ごろな大きさの石を拾って投げた。


 コントロールが悪いのと力がないのが合わさり男のそばにしか落ちなかったが、何度目かの挑戦で男の後頭部にあてる。

 どうせ当たらんだろうと次を投げようとしていたメモリは喜ぶ暇もなく急いで隠れた。

 痛みと突然のことで驚いている男は石の当たった場所を抑え周囲を見回している。


 ――ギンセツはどこに行った? あれだけのことを言っておきながらやられたなんてことはないだろうな。……しまった、ギンセツの行動を見てから石を投げればよかった……。


 霧の噴射をやめたのか濃かった霧はあたりに散っていき、うっすらと貨物列車に乗るギンセツとその下にいるプロトを発見した。




 プロトは少女を狙い貨物車両に乗りあがる。


 ――長い髪の清楚な服を着た少女はその見た目に合わず、少年を背負ったり走ったり武器を持ったりと好戦的で行動的だ。それにどこからか何かが飛んできたが近くに少年がいるらしい、早く少女の方を動けなくしてこっちの対処をしなければ。


 霧が出る事故むまで家に籠り今日が祭りの日だと知らない男はメモリたちの性別を間違えたまま戦っていた。


 少女は鉄蛇の上に上がってしまい降りることができなくなってしまったようで手に何かを持ったままプロトを見下ろしている。


 ――そこに逃げたのは失敗だったようだね。その付近に足場はない、飛び降りるにはその場所は高いだろう。


 プロトの鋭い爪でビニールシートが裂けた。


 ――全くこの私が一体何年がかりでプロトを作ったと思っているんだか、こんな子供二人に邪魔をされてたまるものか。世界には多くの生体兵器がいる、その死体を使って何が悪い、ここは魔都に近いシェルターの一つ中型大型の生体兵器の死体に困ることはない。それなのに上の連中は疫病だの匂いだのと難癖を……この私の才能に嫉妬しているんだ。


 足場がぐらつくと少女は隣の車両に移動しプロトに向き直る。


 ――そしてこの子供たちだ、昔の技術だ失敗だの言いたい放題言ってくれて。好奇心は身を亡ぼすということを身をもって知るがいいのだ。


 プロトに搭載したカメラに映る追い詰められた少女の顔には怯えた様子も怖がる様子もない、むしろ落ち着いていた。


 ――手に持っているのは電動のやすりか。やすりで何ができるというのかね、それは物を磨く削るための道具なのだがね。装置はそんなものじゃ壊せないし生体兵器の部分にも効果は薄いだろう、自棄でも起こしたと……。


 パキンと音がしワイヤーがプロトの頭を鞭打つ。


 ――なんだ今のは?


 遠目では千切れたワイヤーを確認できずプロトのカメラには何も映らない、少年の投げた石が飛んでこないよう気を付けながらプロトのそばによる。


 そこで何が起きているかを理解した。


 プロトの不安定な動きで二本目、三本目のワイヤーもはちきれた勢いで車体の裏まで音を立てて消えていった。


 電動やすりで何本かのワイヤーに傷をつけ強度が弱った状態でプロトの体重が加わる。


 それだけの重量を支え切ることができずワイヤーは切れた。


 ――しまった、これは!


 急いでプロトに撤退の指示を出す、しかしもう遅かった。


 残りのワイヤーだけでは支えきれず、木材を支えていたワイヤーが一斉に千切れ固定されていた木材がなだれ落ちる。


 それをつかんでいたプロトもろとも地面に転がり落ちた。

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