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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧と破壊 5

 駅の外は霧で視界が数十メートルしか見えない、しかし逆にここで距離を取ってしまえば逃げ切ることができる、そう思ってギンセツはメモリ背負い線路の上を全力で走った。


 不安定な砂利の上を走る音が気になり洗車時に水を流す側溝の上を走る。

 彼の耳元で必死に痛みをこらえている聞いていたくない痛々しい呼吸が聞こえる。


「……大丈夫ですか、シアさん」

「がまんできる、だいじょうぶだ。わたしをきにせず、はしれ」


 無理押して声を出しているメモリの返事を聞いてギュッと下唇を噛んだ。

 二人の背後で大きな音がした、プロトが扉に体当たりして隙間を大きくし出てこようとしているのだろうと二人は容易に想像できた。


「あいつがくるな……すぐ追いつかれる。わたしを下ろせ、さすがに囮になる気はもうないから」

「このままどっかに隠れてやり過ごしましょう」


 ギンセツが逃げ込んだ先には二両の鉄蛇が並んでいた。

 一つは貨物列車、F野槌。


 他のシェルターから荷物を運び入れるコンテナ、液体燃料やガスを入れるタンク車、室内改装用の木材が積まれた貨物車両や生鮮食品等を運ぶ冷蔵車などが連結している鉄蛇。


 もう一つは純白の非戦闘用、A白蛇と呼ばれる装甲列車。


 生体兵器との戦闘で脱線した鉄蛇を回収したり、毎日何両もの鉄蛇が走るレールの摩耗や歪みなどを検知、交換修復させる特殊車両だった。


 見上げれば列車を掃除や整備する高い足場や梯子が縦横無尽に伸びている。

 霧が出ていても足場の上に登っては動く人影でバレるだろうと二つの鉄蛇の間を進む。

 巨大な装甲列車に挟まれ視界は前と後ろと上しか見えない。


 町の方にも戻ろうとしたが、それは駅の向こう側で戻らなければならない。

 駅以外の周囲は高い壁とフェンスで囲まれていて、人が不用意に入ってこないよう霧の影響で錆びた有刺鉄線が上についている。

 メモリを担いではとても登れない。


 仕方なく人が集まって来るまで逃げ隠れすることを選んだ、ある程度人が集まって来た状態で叫べばあとは数の暴力で何とかなるだろう。


「これ武器になりますかね?」


 進んでいく途中で大きめの鉄の箱が置いてある。

 箱のふたは開いていて中にはドライバーやレンチなどの工具が使いっぱなしの状態で置いてあった。


「……整備用の工具か、こんなところに置きっぱなしで片付けないなんて、霧の影響で錆びてしまうというのに。でもこれは武器にはならんだろうな。取り付けてある機械ならどうにかできるかもしれんが、死肉でも生体兵器の部分には通らないだろう」

「そうですか……でも無いよりはましですよね」


 鉄蛇は二両ともどの車両の扉も硬く閉じられ中に入ることはできなかったが、車高が高く車両の下にもぐることができた。

 ギンセツがどの車両のしたに隠れようかと場所を探していると、後方から足音が聞こえてきた。


「来るぞ、君早くどこかに隠れないと」

「何で……霧があるのに」


 砂利を踏む音は確実にこちらへと向かってきている。


「音か、あるいは霧の散布量が薄いんだ……霧は濃くないと効果が薄い、奴の何かしらのセンサーで私たちのいばしょがばれている」


 振り返り、霧で建物の輪郭しか見えなくなった線路の先を見る。

 耳を澄ますとどこかで建物の警報装置が鳴っており、遠くで明かりが動いていた。


「シアさんとりあえず鉄蛇の車両の下に、少しでも見つかりにくいところへ」


 メモリを白蛇の下に下ろすとギンセツは準備運動を始める。


「早くこっちへ。君は、どこへ行く?」

「ちょっとシアさんの仇取って来ます」


「待ちたまえ! 無理だ一人では」

「出来ます。もうすぐ僕も一般兵になるんですから、あんな出来損ない倒して見せます」


 ――ほんとは助けが来るまでの時間稼ぎができればいいんだけど。


 メモリのそばからゆっくりと離れていくと霧から一つは小さく、一つは大きく異形の二つの影が向かってくる。


「大した自身だね、随分と馬鹿にしてくれるね」


 顔まで見えないが聞こえてくる男の声は相当苛立っている。

 ぼやけていた視界から現れたプロトは、何回も駅の壁に自分からぶつかっていったことから皮や鱗が剥がれ生々しい傷となっていた。


 しかし、どんな大きな傷を負っても少しも弱った様子はなくプロトは問題なく四足歩行で迫ってくる。

 メモリは自力で這って白蛇の下へと潜りこんでいく、大きな列車はプロトサイズの生体兵器では押しても引いてもびくともしないだろう。


「操縦が下手で動きが単調だから、動きをよく見てれば何とかなるはずだ。無理しないでくれよギンセツ」

「わかってます、無理はしません」


 彼女が潜っていくのを見守るとギンセツは白蛇のそばに置いてあった工具を拾い上げる。

 まだ体の成長途中のギンセツが持つと斧のような大きなレンチ、それと手ごろな大きさから金属の電動やすりを拾った。


 何でもいいから置いてあった工具の中でとりあえず武器になりそうなものを手にしてプロトと向かい合う。


「あの人はこれ以上傷つけさせない」


 こちらに向かってくるプロトたちに向かっていうと眼鏡の男からの呆れた返事が返って来た。


「そういうセリフは男の子が言うものではないのかね、どちらにしろもう時間がない人が来てしまう前に君たちを……」


 プロト突進してくるのを急いで梯子を登りその攻撃をかわし彼の下を通り過ぎると、鉄の尻尾が地面を鞭打ち砂利が跳ね飛ぶ。


 飛んできた石は勢いがなくギンセツに当たったが、当たっても痛い程度のもので怪我をする程のものではなかった。

 その石が落ちる前にキャッチすると奴を操作する眼鏡男に投げつけた。


 ――僕に注意を引き付けていればシアさんはその間安全だ。というか、早く誰かこっちに気が付いてくれないかなぁ……。


 当たったかどうかわからないがプロトが向きを変え戻ってくると二足で立ち上がり前足を伸ばしギンセツのいた場所を叩いた、その勢いで足場は拉げ大きく揺れる。


 足場が傾きギンセツは白蛇に飛び移ったが霧の湿気で濡れていて足を滑らしてプロトの方へと落ち、振り返られる前に彼はそのまま、足場を壊したプロトの背中に飛び移った。


「頭は……ここからじゃ届かないか、なら他の装置を」


 飛び乗ったのは背中と腰の間のくびれ、機械化されておらず生々しい傷やメモリに撃ち抜かれた穴が開いている。


 きっと頭の機械がプロトを動かしているのだろうと思いレンチを振り上げたが、首元までしか届かず仕方なく背中の機械に目標を変えた。


「壊れろ!」


 そういうと背中の装置を叩こうとギンセツはレンチを大きく振り上げた。

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