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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧と破壊 2

 目の前で暴れる半機械半死骸の巨体。

 生体兵器が指の長い脚を上げ線路からホームへの乗り上げる。


「あの男を探さないと」

「ここで逃げるという判断がないのは立派じゃないかギンセツ。一般兵の寮まで走ったとしてその間にあいつは逃げてしまうだろう」


 その動きは鈍く、大振りの動きをよく見ていれば避けることができた。


「ここで捕まえて、このへんてこな生体兵器のことを知らせないと」

「そうだ、見方によればシェルターの脅威になる物を作ったのだから鉄蛇送りは確実だろう。でもそれはあいつから逃げ伸びるのが先だ、あの男の死角になる場所ならあの化け物も正確に私たちを狙えないだろう。避難するぞギンセツ、避難」


 動きは鈍いもののその大きさで一歩の歩幅が大きく、メモリの足が遅いこともあって逃げている距離は一向に大きくならない。


「シヤさん、あんなものどこで作っていたんでしょうか」

「さぁな、工場ではバレるだろうし、空き家はシェルターで管理されている。大きな家か屋敷……でも高層ならばあれくらいの部品や資材を注文して調達できるだろう。機械部品を扱っている地下商店街もあるしな。でもあの装置については本でそういう方法があると見ただけで、作り方までは書かれていなかったからな詳しく話わからない」


「残念、シアさんの読書が役に立つ日が来ると思ったのに」

「なっ、おい。今十分役に立っただろう! 君、なんか私に冷たくないか? 私が部屋に籠りっきりだったから、愛想をつかしたとかじゃあるまいな! あれか女装か根に持っているのか!」


「いいから、早く来てください。追いつかれてしまいます」

「根に持っているのか!」


 生体兵器を目の前にしてもメモリはギンセツとじゃれあうほど余裕だった。

 現実を理解していないのか理解する気がないのか、体力がほとんどないのに逃げ切る自身があるのか彼女は笑っていた。


「シアさん生体兵器ですよ、そんなふざけて笑ってる場合じゃないですって」

「何安心しろ、要はあの男の死角に入ればいいだけの話なんだ。リモコン操縦って言ったろう、あの生体兵器が見て考えて動いていうわけではない」


「でも、あいつ自身にもカメラが……」

「確かに、だが話した感じだと完成してここまで持ってくるのにそこまで火は立っていない。要は操縦は素人なんだ、それに……」


「あれは新聞に書かれていた霧に浮かぶ影かもしれん、確かこの区域だっただろう。だとしたら、私たちの手柄だぞ」

「でも殺されてしまえばそれまでじゃないですか」


「よほどの馬鹿じゃない限り殺しはしないだろうさ、大怪我までならシェルター追放は免れる。シェルター市民を傷つければ移住権は取られて死ぬまで鉄蛇勤務になるだろうがな」


 足の遅いメモリを先に行かせて荷物預かり所へと逃げ込む。

 カウンターを飛び越え奥に入ると振り返った。

 プロトは荷物預かり所までおってこず、まだ後方で何やらもたついている。


「急に動きがおかしくなりましたね」

「燃料切れか、機械トラブルかあるいは私たちが隠れたから追うかどうか迷っているのだろう。相手はあの動く死体ではなく操縦している人間だ、生体兵器のような行き当たりばったりでどんな状況にも対応してくる化け物ではない」


 そういって彼女はつづけた。


「それにここなら、逃げられるだろう。この先は棚に積まれた荷物の壁が永遠と続いている。背を低くして進んでいけば、駅員専用の車両基地方面の出入り口がある」

「とりあえずそこから外に助けを呼びに行かないと」


 せき込みながらメモリが移動しカウンターの陰から壁の案内板を指さす。


「停止している防犯警報の場所がわかれば、電源を入れるだけでいいんだがな。君、ひとっ走りして探してきてくれないか? 守衛室か、送電室、この建物の外か、隣の建物にあるはずだ」

「すごい走るじゃないですか、守衛室ってここらへんが見渡せる二階ですし」


「あ。あいつ守衛室にいるんじゃ……」


 見上げる守衛室、窓はすべてマジックミラーで中の様子を見ることはできないが先ほど男が立っていたのも二階、おそらくあそこから見下ろしながらプロトを操縦していたのだろう、メモリも横で確かにと小さく呟いていた。


「よし乗り込んであいつを捕まえよう。多分外に出るより簡単だ、あの死体は二階に登れない、壁を登るなんて高度な技ができるようには見えんからな」

「どのタイミングで行きます?」


「ここギリギリまで引き付けて、あいつの頭のカメラで私たちを探そうとしたときだろうな。そうすれば操縦画面に夢中でホームを走る私たちを見つけるのはこんなんだろう」


 メモリは立ち上がろうとしたが、ふらつきギンセツに向かって倒れ込んだ。


「シアさん?」

「……すまない」


 彼女の足はけいれんしガクガクと震えている。


「……ここまで無理をしてきたがもうだめみたいだ。休憩したら一気に疲れが、喉も肺も苦しいし私はそう走れはしない。おとなしくここで隠れている、君だけでも行ってくれ」

「ダメです、シアさんを置いてはいけません」


 心配させまいと強気でいたメモリも笑顔でいる余裕がなくなり、苦しそうに呼吸をし胸を抑えている。


 ――限界だ、これ以上走らせるのはシアさんには無理……


 どのみちメモリを連れたまま逃げ切るのは無理だと考えており、メモリを逃がす口実に何かないか探していた。

 彼女さえ逃げてしまえば、他の出口からそれほど動きが早くないプロトから逃げきることもできる。


 ――僕を囮にシアさんが逃げ切れれば。


 今は犯人捜しよりメモリの無事の方が大事。


「わかりました、僕一人で行ってきます。だからシアさんは奥にある出口から外に避難しててください、霧の中なら見つからないでしょう」

「そうだな、外で助けを呼んできて君の吉報を待つよ」


 そういうとギンセツはカウンターから飛び出した。

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