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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧と破壊 1

 着替えることなく衣装のそのまま遊び歩き日が落ちて夜になる。

 散布塔の霧の散布開始時刻前になる鐘の音が収まってしばらく、あたりに霧が出始めた。


「すっかり遅くなってしまった。遊びすぎたな、もうじき坂だ、家まで下るだけだぞ」


 街灯の光に当てられ楽しそうにメモリが笑っている、ここ数日いや日ごろから家に籠っている彼女にはいい気分転換になったようで、その結果シェルターの反対側まで遠出してしまい霧の発生時刻になっても家についていないのだが。


「もう、こんなに歩き回ってシアさん明日筋肉痛になっても知りませんよ」

「なっ、私が日ごろ運動不足だからってバカにするなよ。この程度なら問題ない。というか君そのスカートでよくそこまで走れたものだな」


「シヤさんが遅すぎるんですよ」


 霧が町を包み徐々に視界が悪くなっていく中、道に迷わないように大通りを通る。

 大通りには分かれ道ごとに住所の描かれた看板が立っており濃い霧の中でも自分の位置を確認することができた。


 もっとも同じ建物が並んでいて住み慣れた土地勘がないと霧が無くても迷子になる、このシェルターに住んでいても家に籠っていてたら迷子になる可能性があるのだが。


 とある施設の前を通っている最中ふとメモリが立ち止まる。


「まて、今変な音が聞こえたな、あっちは……駅……と鉄蛇の車両基地か? 明かりが落ちているから誰もいないはず?」

「そうですか? たぶん気のせいですよ、休憩ですか?」


「駅だ、向こうだ」

「僕には何も聞こえませんでしたが」


「私は耳がいいのかもな。いくぞ、早く、ギンセツ私についてくるんだ」


 メモリは嬉しそうに走り出す、疲れやすい彼女は施設につく前にバテそうな勢いで霧に霞む建物へと向かった。


「僕、今これスカートなんですけど、もうじき一般兵になるのに駅の関係者の誰かに見られたら、もうこのシェルターで生きていけないんですけど。スカートだから,早く帰りたいんですけど!」

「静かにしたまえ、近所迷惑だろう」


 駅は夜間誰もいない、防犯カメラや警備システムが付いているだけで無人。

 荷物を入口のそばに置き二人は建物へと入る、ギンセツも最初は止めたがちょっとした興味があり軽く口で言っただけだった。


 この間来た時と同じ道を通ったが人がいない分広く、背の高い大人がいない分遠くまで見えた。

 建物の中には霧は入ってこずホームの端から端まで見渡せる。


「おお、無人だ。昼間は狭く感じたが誰もいないとやけに広く感じるな」


 稀に鉄蛇の臨時停車がするが、それは前もって連絡が入り補給や医療班などの迎えがいる。

 そういったこともなく駅は無人、ホームに鉄蛇の姿はなく電気も消え明るめのオレンジ色の非常灯がホーム全てを照らす。


 二人の足音がその広いホームに反響する。


「誰も居ませんね。戻りましょうよ、警備システムに引っかかったら大変ですから」

「……いや、警備システムは扉と窓に集中しているんだ。ここに入った時点で警報が鳴ってもおかしくない……はずなんだギンセツ」


 日ごろ人が多く壁側からしか見ることのできなかったホームを歩き、少し辺りを警戒しながらもテンションが高いまま疲れを感じさせないメモリは線路を眺める。


「何で入ってきちゃったんですか、シアさん今すぐ戻りましょうよ」

「警報が鳴らなかったということは、何か起きていると考えるべきだろう」


 淡々と語りホームから離れさらに奥に行こうとするメモリの手をつかむ。


「ならまずいじゃないですか、早くここから離れましょうよ」

「大丈夫シェルターの内側、一つ叫び声をあげれば誰かしら来るさ」


 彼女がギンセツの手をふりほどいてさらに奥に進もうとすると背後から声がかかる。


「建物の外ならばね。いや、そもそもこのシェルターの建物の壁は特別厚い、聞こえないだろう。だがね、そもそも駅は騒音対策として防音対策がなされていてね、この場所なら大きな爆発が起きても外にほとんど聞こえないのだがね」


 背後からの男の声に二人は驚き振り返り、メモリを守るように彼女の前に出てギンセツは声の主を探す。

 ホームの二階、夏場のこもる熱を逃がす換気用の窓を開ける為だけの通路に男が立っていた。


 そこにいたのはノートパソコンを脇に抱えた度の強い眼鏡をかけた不健康そうな骨のような男性。


「すごく、背ちいさいな。私や君と同じくらいじゃないか、声の低さに違和感を覚えるレベルだ」

「聞こえちゃいますよ」


「……困ったものだね、なぜこんな場所に子供がいるんだか」


 男の眼鏡は非常灯でオレンジ色の光を反射させ余計に怪しさを出していた。


 ギンセツと話すときは問題ないのだが、見ず知らずの人に話しかけるのに緊張と動揺を隠せないままメモリが男に質問を投げかける。


「あ、あなたが警備システムを壊した人のようですね。どのような要件があってこんな時間にこんな場所に」


 語尾に行くにしたがって声が小さくなったが、静かな空間ではそんな小さな声でも相手に届いた。


「壊す? いいやただただ電源を切っただけだがね。この時代に破壊はいけない、物は大切にしないといけないよ」


 帽子を深くかぶりなおし相手を意識しないように、ギンセツに向かって話しかける。


「壊さずに駅に進入できるなど、ここを管理する一般兵の駅員係か軍の上層部暮らすだろう、失礼だがあなたはそう見えないが」


 メモリが話しかけているのは目の前のギンセツだが彼自身に話しかけていない。

 その意味はもちろん相手に伝わる。


「まぁそうだろうね、武器を持って戦うなど私の肌には会わないからな」

「まぁ、その話はどうでもいいとしてなんでこの時間にこんな場所に」


「ああ、テストだよここにはテストに来たんだ。全く毎日少しだけ移動させてようやくここまで来たというのに、よりによってそんな日に君たちにばれてしまうだ。やれやれ、困り者だね」


 メモリと男の間に立ち二人の話を黙ってみていると、背後に何かが動く気配を感じギンセツは振り返った。

 ホームの下から出てきた彼女の背後にいた大きな影。


 何時からいたのか真後ろに黒い影を落として立って居るそれに、メモリは気づかずギンセツをとおして二階にいる男に話しかけている。


「シアさん!」


 そこにいたのは爬虫類型の生体兵器。

 前足より何倍も太い後ろ足にとさかのついた頭、厚い鱗に大きな口鋭利な爪が生えている。

 男の方に意識を向けているメモリを抱き上げ全力でホームを走るギンセツ、彼女はいきなりのことで小さな悲鳴を上げていた。


「なっ何だ! いきなり、君! 突然、ん? んあぁ? ……生体兵器だぁ!?」


 抱き抱えられたメモリは自分の後ろに居た影に気が付き驚きの声を上げた。

 しかしよく見ると本来の生体兵器とは違う点だあった、頭や体の一部を覆う金属の装甲、何らかの機械が取り付けられている。


 後頭部に伸びていくとさかの生えた頭に、でっぱりの多い兜のような装甲が付いており目のある部分まで覆っていて、カメラのレンズのようなものが複数ついている。


 それはギンセツの動きに合わせてピントを合わせていた。


 胴体にも何らかの装置が付けられていて、背負ったリュックのような感じに乗っている。

 腰の機械全体に六角形のタイルのような鈍い棘のついたもので覆われていて尻尾は完全に金属。

 尻尾が覆われているのではなく根元から切り取って新しく作ったものらしく、体に対して少し細く長かった。


「生体兵器を飼いならしたというわけではなさそうだな、なんだこいつは?」


 突然現れた生体兵器らしきものに驚きと興奮をしメモリは大きな声を上げる。


「改造生体兵器とでも言おうか。生体兵器の死骸を貰い私の技術力で蘇生、新しい命を与え私のしもべとして扱っている。私の研究がこのプロトを動かしているのだから」


 もう、人見知りどころではないのかそれとも完全にさっきまで話していた男の事を忘れてしまったのかギンセツに話しかけるときと同じ声色のメモリ。


「説明ご苦労なことだ、よほど自慢したかったと見える。プロトというのかこの生身と機械のツギハギは。生身というかあれは死骸か」

「接合部分ひどく痛々しいですね、体に鎖やベルトを巻いて釘が杭のように打ち付けてあるだけ。死体で血が流れないから打ち付けるのに失敗した穴もくっきり残ってるし」


「気にしないだろう、過去の生体兵器駆逐するときの戦闘にもあったシンプルな作りだ。神経が破壊されていなければあの装置が脳の役割をして神経に電流を流す、胸のは本来砲台とか乗せる奴なのだがそういうのはないから、おそらく千切れた部位をつなぎ合わせているものだろう……腰のは何だろうな、砲台でも取り付ける予定でもあるのだろうか?」

「あれ生身の部分、腐りそうですよね」


「頭と背中の装置を死んだ別の生体兵器に付け替えればいいのだから、そこさえ守ればどれだけ部位欠損しても構わない人形のようなものだ、腐ろうが関係ない、動けばいいのだ」

「なかなかひどいものですね、死体を無理やり動かしてるんですか」


「そもそもあいつはそれを今の技術で再現したにすぎん、昔の技術の劣化版だ。新しい技術でもなんでもない、だから私の興味を少しもひかないものだ、つまらない。……それよりギンセツ、あの男はどこに行った?」


 プロトと呼ばれた半機械化生体兵器に気を取られていた間に二階の窓際の通路にいた眼鏡の男はいなくなっていた。


「わかりません、さっきいた場所から消えてます。見失いました」


 そうこうしているとプロトが動き出す、カメラのレンズがあの男同様オレンジ色に反射させて。


「あれに自立志向などはない。あの装置はおそらく遠隔操縦で動かしている。リモコンさえ破壊すれば、ただの人形になり果てるだろう」

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