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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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友人 1

 それから数日メモリが部屋に籠るようになり日中ギンセツは自由な時間が増えた。

 食事を作って置いておくとリビングでテレビを見ながらギンセツは時間を潰す。


 机や床にも二階の本棚に入りきらなくなった本が積んであるが彼女の持つ本は難しいものが多く、読めはしても理解できるものが少なかったためギンセツは近場にそれが置いてあっても手を付けようとはしなかった。


「静かだなぁ」


 騒がしくわがままな命令し振り回すメモリがいないため、お茶を飲みながらボーっとしているギンセツ。


 メモリの買い物の頼みも急ぎでないため夕食の買い出しのついでに買ってくればいい。


 ーーこうやってまったりしていられるのも、あと少しかぁ。


 他のシェルターから来た移民、限りある土地の中で生きていくには階級制が必要と作られた三段階ある市民クラスの一番下にある下層市民。

 技能や能力があれば中層に職を得て市民権を入れられるが、残念ながら普通に生きて普通に育ったギンセツにはそういったものはなかった。


 都市や健康状態などの条件を満たしあと一か月もすれば鉄蛇の乗員としてギンセツも徴兵され、一般兵としての兵役を受ける。


 魔都にも近いこのシェルターには前線基地がなく何両もの鉄蛇がシェルターの外を魔法陣のように伸びている線路の上を走り生体兵器襲撃の際、鉄蛇を一気にその場所に急行させ強力な火力と数の暴力で敵を倒すまさに走る要塞。


 鉄蛇での仕事は死者こそ少ないが同じ空間で数日、長いところで一か月以上暮らすことになり、狭い空間に大人数がいることもあって生体兵器より人的なストレスの方が大きい。


「……買い物でも行ってくるかな」


 それを伝えるためのメモリに書置きを残しギンセツは表に出る。

 暖かい日が差す広場で行われている野外商店にやってくると、朝方物資輸送用の鉄蛇で運ばれてきた新鮮な食材が並べられていた。


 整列され種類ごとに並べられた見慣れた野菜や見慣れない甲殻類を見ながら市場を歩き回る。

 ギンセツは色とりどりの食材に気を取られ正面から来た少年に当たってしまいその拍子に相手の買った荷物が地面に落ちてしまった。


「あ、ごめんなさい。よそ見をしてました」

「何、気にすんなって。こっちもよそ見をしていたんだからさお相子さ」


 相手が落とした荷物を拾い返すと、それを手伝いギンセツはぶつかった相手を見る。

 トゲトゲした短髪で暗い金色の髪、ギンセツと同じくらいの年の男の子。

 下層階級に出回っている質の悪い繊維で出来た服を着ていて彼はここで食料を買った帰りだった。


「ほんとすみません」


 ギンセツが頭を下げると相手は困ったように笑った。


「いいっていいって。それよりさ、このぐらいの背丈の金髪の女の子見なかったか?」

「女の子ですか? うーん、見なかったですねごめんなさい」


「そうか……悪かったな。お互い、前にはさ気を付けようぜ」

「もしよかったら一緒にその子を探しませんか? 人は多い方が見つかりやすいと思うんです」


「いいのか? もしかしたらさ、あいつここじゃなくて向こうの資材売り場に言っているかもしれないんだが」

「大丈夫です、僕も資材売り場にこの後用があったので」


 食材を買いメモリに頼まれていたものを買いに移動する。



 二人は食材売り場のにぎやかさから離れ、地下へ続く階段を降りる。


「なんでまた俺の人探しを手伝おうとしたのさ」

「半分はぶつかったこと、もう半分は時間を持て余していたので」


「ということはさ、手伝ってくれるのはただの暇つぶしか」

「はっきり言ってしまえば、ごめんなさい」


「おまえ、正直で変な奴だな」


 笑うとお互いにまた歩き出す。


「いいのか? お前高層の人間だろ、俺なんかと一緒に居たら学校とかで立場が悪くなるんじゃ」

「その点は大丈夫です、僕は学校にはいってませんから。それに僕も下層の人間です。いまちょっと主人の家に住み込みで働いていて、それにふさわしい服をと僕の主が与えてくれたものなんで」


「ふーん。そういや自己紹介がまだだったな。ジガクってんだ、ヤソバ・ジガク。今度一般兵として鉄蛇で外に出るからしばらく会わないだろうけどよろしくな」

「アカバネ・ギンセツです。それって次の一般兵募集の事ですか! 奇遇ですね僕も今度鉄蛇で外に出るんです。もしかしたら同じ鉄蛇に乗れるかもしれませんね」


「お前も次のやつに出るのか、高層で働いてるやつはああいうの免除とかされないのか?」

「無理だと思います。僕の主人からそういった話は聞いたことないですし」


「おっと、ついた。ここにいてくれればいいんだが」


 着いた先はいろんな機械の部品からエクエリの補助パーツなどが売っている地下の商店街、ちょうど真上にある広場の食料品売り場とは天と地ほどの差があるほど汚く埃っぽい場所。


「探してるのって女の子なんですよね。こんなところにくるんですか?」


 二十四時間営業している店は夜間に発生する霧の影響を受けないように換気扇と除湿機のついている地下に店を持っている。


 籠に山と積まれた部品の数々、通路にまで並べられた鉄板、天井からぶら下がるコード、客も大きくガタイのいい一般兵のような人たち。


 狭くはない通路を圧迫する大人たちをかき分け、二人は地下商店街の奥へと進む。


「ジガクさん、ここどう見ても女の子が来るような場所には見えませんが」


 ゲーセンのように五月蠅くギラギラ明るい照明が点滅しているが、すべて何らかの機械のパーツで体のどこかしらに大きな傷のあるむさ苦しい店主たちが店番している。


「呼び捨てでいい、年近いだろ俺もギンセツのことは呼び捨てで呼ぶさ。んで、言ってなかったな、探しているのは整備士志望のやつなんだ」

「整備士? 鉄蛇のですか?」


「いや、普通にエクエリのさ。何でもただ守られているだけじゃなくて、最前線で戦う人の役に立つ仕事がしたいんだと」

「立派な人ですね」


「そうか? あいつはその技能職のおかげで中層階級に一人で行っちまった薄情な奴だけどな」

「すごいですねエクエリの整備士なんて、僕の主の人もエクエリの整備士やってるんですけど、遊んでばっかりで……その人の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです」


「まぁ、整備士は出来高制だから貯金のあるなら、そういう暮らしもできるだろうな……ん? ギンセツ自分の主悪くいってないか?」

「いいんです、あの人はいまごろ書斎で本読んでるか寝てるかのどっちかでしょうから。どうせ耳には入りませんし」


「悪いやつだな」

「内緒ですよ」


 笑いながら話していると本日二度目、ギンセツは人にぶつかった。


 背丈が低いことからまた同い年くらいの子とぶつかったのだと思ったが、今度の相手は背中を丸め荷物を抱え込んだ度の強い眼鏡をかけたガリガリの骨のような男性だった。


「ごめんなさい」

「……全く、気を付けてくれ。危うく買ったばかりの機械を落とすところだった」


「すみません」

「……フンっ」


 そういうと機械の無事を確かめ、ずれた眼鏡を直し男性は行ってしまった。


 男性がいなくなったことを確かめるとジガクが小さい声で言った。


「お前今日よく人に当たるな」

「厄日ですかね」


「つまり、俺と会うのが厄とだったと」

「ちがう! ……ます}


 じゃれ合うように度付き合いながら二人は商店街を進む。

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