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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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前線基地、8

 カシャ。



 転寝をしていたツバメは何かの音で目が覚めた。

 彼女がゆっくりと目を開けると、イグサが馬乗りになって見下ろしていた。


「……なんだ、私を襲う気か?」

「おはようございます、ツバメ。そろそろお昼行きましょ?」


「ん……わたしは、寝てないはず」

「30分ほど寝息立てて、スヤスヤと寝てましたよ。コリュウもツバメも昼寝が好きですね」


「そうか……」

「さぁ行きましょ」


 そういってイグサはツバメの上から降りリビングに向かっていった。

 ツバメは簡単に体を動かしてから手短に身支度、といってもひどいボサボサの髪を大雑把にヘアゴムでまとめただけだが、それを済ませ二人の後を追って部屋を出る。


「そうだ、二人に言っておくことがあった」

「なんです、仕事のことですか?」


「ああ、うん。仕事っていえばそうかな。イーターって言われる特定危険種に指定された生体兵器がこの付近で確認されたから緊急出動するかもしれないってだけ」

「特定危険種?」


 何それと興味があるのかないのかわからない感じのイグサ。


「イグサ、知らないか?」


 コリュウにそういわれイグサは黙り込む。


「また説明を聞いてなかったな。というかこれ、一般兵だった時に習っただろ。あんときは戦っちゃダメだって」

「えへへ~」


 呆れた様子でコリュウがしかるとイグサはごまかすように笑った。


「……隊長、イグサのためにきっちり説明してあげてください」


「あー、ごめん。私もさらっと撫でるだけの知識しかない」

「え……」


 視線が痛いとツバメは呆れている彼から目線を反らす。


「別にいいだろ生体兵器は生体兵器なんだから見つけたらやっつけるそれだけだ、ただちょっと戦いづらいか戦いやすいかの違いだけ、それだけの違い」

「よし、コリュウに詳しい説明を聞こう」


「ごめんって、ちょっとど忘れしただけだから、聞けば思い出す」

「教えてー、コリュウせんせー」


 二人に説明を求められコリュウは深く息を吐き咳払いをすると話し始めた。


「ったく。特定危険種、読んだまま、特定の種類の生体兵器を危険視したときにつけられるものです」

「称号的な?」


 黙っていることができず合の手を入れるイグサ。


「隊長、なんでしたっけ? 生体兵器の名前」

「イーター」


「ああ、イーター。それが生体兵器の名前。製造型名とは別の特定危険種のコードネームになってます」

「名前は人食いって意味のあるマンイーターから取ったらしい。そこは覚えてる」


「それで、特定危険種は精鋭でしか駆除できない生体兵器として、精鋭が討伐隊に選ばれるんです。一般兵で相手をするのが困難、または基地やシェルターに多大な被害を出した生体兵器のことを言っていて、現在その出没回数は増えていっていると言われています、って聞いてます?」


 コリュウが説明している間、眠そうに欠伸をするイグサと爪をいじるツバメ。


「聞いてる聞いてる」


 そういえばとつぶやいて隊服のポケットを探すツバメ。

 そして一枚の紙きれを引っ張り出すとコリュウの肩をたたく。


「ああ、そうそう、そんな話してた。おっけー、後は私に任せて」

「そうですか、じゃあお願いします」


 ツバメはポケットから取り出したクシャクシャになった紙を伸ばした。

 暇で書いた落書きが目を引くが、それに目を通しながら話す。

 しかしところどころ落書きが文字を潰していて読めない。


「んで、そいつがこの付近で確認されて、作戦行動中もしかしたら私たちが戦闘になるかもって話してた」


 コリュウの話を横から持っていく形になったがツバメはさも自分が話していたかのように胸を張った。


「ん、それを倒すのが仕事じゃないの?」


 別に誰が話していても気にしないイグサが質問する。


「いや、別の生体兵器が相手だ、それも特定危険種なんだが、そっちはグール、こっちは明日全体会議で説明があるよ」

「特定危険種が二匹……」


 --あ、喋っちゃった。後で口外しないようにいておかないと、もしこれが理由で基地全体に広まったら私面倒くさい説教を聞かされるころになるんだろう。まぁ二人が誰かに仕事の話をするとは思えないけどさ。


 などとツバメは軽く頭を掻き階段を下りながらそんなことを考えていた。


「でもほかにも精鋭この基地にいるんでしょ?」

「いるよ、ほかにも精鋭が数隊。まぁ、あまり連携は取らないだろうけど」


 さらったツバメが言った言葉にコリュウが引っかかる。


「何でですか?」


 コリュウが不思議そうな顔をした。


「いろいろあって……ね」

「わぁ、こわーい」


 そういってツバメは明るく笑って見せる。

 合同作戦中に起こした様々なトラブルを思い出すツバメ。

 腕のいい人ばかりだったから被害はなかったけど、ツバメの悪名はほとんどの精鋭が知っていることだろう。

 精鋭の中でも彼女は有名人で、その悪名は無名に勝っている。


「話し戻すよ、イーターの出したこれまでの被害ね。基地や移動中の車両団を好んで襲うらしく、すでに二つの基地が破壊されて、修復不能、基地を放棄、近くのシェルターに撤退余儀なくされたらしい」

「基地を破壊? 基地の人たちはどうなったの」


「大半は戦死した、その基地にいた精鋭も自分の身を守りながら撃退するのがやっとだったらしい」

「私たちで勝てなくない?」

「確かに、イグサの言う通り。昨日普通の生体兵器相手に結構てこずってましたからね」


 イグサとコリュウは弱気な発言をする。

 しかし作戦に参加する以上それでは困るツバメは何とか二人を勇気づけようと声をかけた。


「あれは疲労がたたってだな、本調子なら楽勝だった」


 ツバメはそう言ったが二人には嘘だとあっさりバレた。


「何で私たち相手に、嘘つくの?」


 イグサの質問に愛想笑いで答えると今度はコリュウが質問してくる。


「イーターって何匹なんですか?」

「昆虫の多脚型が一匹、データベースに情報が上がってるけど、見てもあんまし得るものはないと思う、この資料がそれのコピーだから」


 他は大したことは書かれていないため、これにもう用はないと、ツバメはその紙を丸め直し廊下の隅に置いてあったごみ箱に捨てる。

 作戦情報はまだ秘密らしいがイーターのことは話しても別にいいだろう。


 下手をすれば今この基地が襲われない理由はないのだから、前もって相手の情報は知っておくべきだと。

 もし、怒られたらそう言い訳しようと彼女は部下二名に後ろから腕を回し肩を組んだ。

 コリュウと慎重さがあったため彼はふらついたが、彼は無理にふりほどこうとはしなかった。


「とりあえずイーターと戦わなくっていいってことでいいんですか?」

「出会ったら戦うけど、出会わなかったらそれでいいってことだと思うよ」


 コリュウに答えると今度はイグサが話しかけてくる。


「作戦で戦った帰りには会いたくないね。それか、いっそ両方が潰し合ってくれればいいのに、それで弱ったやつを私たちが倒す」

「それが一番、理想的だな」


 イグサの理想にそうなればいいねとツバメは考えたが、実際そんなことは滅多にない。

 ツバメががまだ精鋭の一隊員だったころは特定危険種から逃げている最中に、別の特定危険種の前に出るなんてことをしたものだ、あの時は隊全員で暴れたなぁと彼女が隊長になる前のことを思い出し思い出し笑死をする。


「弱気になるなー、朝顔隊は強いんだから二匹とも倒すぐらいの気合でいかないと」


 今は自分が隊長なのだと実感し部下二人から不安を取り除こうと精一杯の元気さを見せる。


「えー」

「いや、普通の生体兵器相手で十分です。安全に戦っていきましょう」


 思った以上にイグサとコリュウはドライな反応。


「気合が足りないな、食後走り込みさせるよ?」


 そんな二人をツバメが冗談交じり脅す。


「なぜ食後!?」

「お腹痛くなりますから、せめて食前にしてください」


「走るのはいいんだコリュウ……」


 三人は兵舎を出て食堂へと向かった。

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