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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧のシェルター 5

 

 メモリが書類にいろいろ書きこんでいる間、ギンセツは彼女の見える位置で自分の貯金で買った暖かい珈琲を二つ持って待つ。


「どうした少年、こんなところにきて?」


 急にギンセツは話かけられて驚いた拍子に顔を上げる。


 ギンセツを見下ろすように薄く色の入ったメガネをかけた無精ひげの生えた男性が話しかけてきた、汚れていない制服と背中に背負った大きな荷物を見てこれから鉄蛇に乗る一般兵なのだとわかった。


「新しい鉄蛇を見に来たのか、だとしたら残念だったな、あれは今試験走行で護衛をつけて表に出ているんだ。次はこの駅ではなく北の車両倉庫に停車する」

「そうなんですか?」


「ああ、なにぶんハギが破壊されて初の新型だからな」

「ハギ……」


 工業系シェルターハギ、多くの兵器工場があったシェルターで戦車や装甲車だけでなく都市戦艦用の部品やこのシェルターホウキ用の鉄蛇などを作っていた。


 しかし、10年ほど前にハギの防壁を破壊し、災害種クラスの生体兵器の侵入を許しシェルター内の建物などに大破壊をもたらし現在は修復不能とされ放棄されている。


 ギンセツがメモリから聞かされた話によると、ハギのシェルター統括者はシェルターの放棄が決定されたとき最後まで避難せず今も生きていれば中央区画に住んでいるという。


「どうかしたか?」

「いいえ別に、大丈夫です。鉄蛇の最新型が見れないなんて残念です。新型にはどんな新しい設備が付いたのか気になっていたんですが」


 メモリの知らない知識情報が手に入れば彼女を悔しがらせることができ、そういった情報を何か聞き出せないかとギンセツは話に食いついた。


「ここは開発系で工業系のシェルターでない分、シェルター自体の建造技術力が足りず、機械に詳しい人間が足りなさ過ぎて鉄蛇自体がこの十年出来なかったからな。このシェルターの連中は紙に線を引くのは得意でもペンより重たいものを持てないやつらだから。そんなんでも、自分たちが作った新型だこのシェルター自体は喜んでいるが、あの新型。フフ……旧型とほぼ横並びの性能で新型と呼ぶにはお粗末なものだ」

「それって、何でもない一般人の僕なんかに言って大丈夫なんですか?」


「さあな、でもそのうちどこかから広まるだろうし。二人目の娘が生まれて俺も浮かれてるのかもしれんな。だが君は一般兵になるんだろ? 雰囲気で分かる。服こそいいものを着ているが高層の嫌味ったらしい空気を纏っていないからな。さっきまで一緒にいた女の子のお世話役といったところか、君は遊びたい年頃なのに年の近い子の命令に従わないといけないなんてつらいな」


「え、ええ。あなたは」


 メモリを馬鹿にされたような気がして少しむっとしたがギンセツは言葉にはしなかった。


「俺はクグルマ・ザンキ。鉄蛇Dサーペントに乗るいち一般兵だ。今度俺ん所の鉄蛇も一般兵募集をかける予定だから機会があれば共に戦えるだろうさ」


 ザンキは一方的に話すと返事を待たず荷物を背負い直し鉄蛇の方へと歩きだした。


 途中で足を止めギンセツに振り返る。


「もう一度行っておくD・サーペントだ、特に行くところもなく興味があれば来てくれ」

「わかりました、同じ鉄蛇で働けたらご教授お願いします」


「ああ、その時はな。それじゃあ俺はそろそろ行かなければならない。待ってるぜ」


 鉄蛇に乗り込んでいくザンキを見送りギンセツが振り返ると隣に不貞腐れて座っていたメモリがいた。


「私を放置して、誰と話していた」

「あ、シヤさん終わりましたか。缶コーヒー飲みますか?」


 返事もせず受け取ると一気に飲み干す。


「まったく私が決意を固めて人と話していたというのに、その勇士を見ずあんな奴と話しているなんてな。受け取った荷物は重くて持てないから君が持って来てくれ。あの大きな奴だ」


 メモリが指をさす方向には他のシェルターの印が書かれた細長く大きいトランクがあった。


 トランクは背の低いメモリの伸長からするとかなり大きく見えるを。


「大きいですね」

「そうだな。さぁ私がここまで頑張ったんだ、今度は君がこれを家まで届けてくれよ。大切なものが入っているんだから絶対に引きずるんじゃないぞ」


 メモリに言われギンセツがトランクを持って駅を出た。


 長い髪を揺らし鼻歌を歌い来る時よりずっと軽い足取りで家へと向かうメモリは、人のいない時だけギンセツを置いて先に進む。

 駅から離れ人気のない道を通って帰っているとメモリが急に立ち止まる。


「やはり我慢できないな、ギンセツ、君ちょっと封を切ってその箱を開けてくれ」


 ギンセツは言われるままトランクを下ろすと彼の首元に長い髪がかかる。

 振り返るとすぐ横にメモリの頭があり、彼女は彼を押しのけトランクを開ける。


 細長いトランクに仕舞われていたものもやはり細長かった、大きく長いっ鉄塊それに引き金が付いていて一緒にバッテリーがしまってあった。


 間近で見たことはないがこれがなんだかそのシェルターで暮らしていればわかる、本来は精鋭の一部しか持たない物。


「これって……」

「ああ、いいなぁ年季があって。ほぉ、これはまたいいものを仕入れられた」


 そこに仕舞われていたのは塗装が剥げ傷だらけのボロボロになった大きなエクエリ。


 塗装が剥がれていながらも本体には大きな傷はない、それがエクエリの強みであり最悪牙や爪などの攻撃を防ぐ盾にもできる。

 盾にする場合は生体兵器からの攻撃の威力を受け流せない場合、腕などが折れるかちぎれるかの覚悟が必要だが。


 泥などは洗い落とされていながらもところどころに血のようなものが付いていた。


「シアさん?」


 トランクの中身に見とれる彼女にギンセツの声は届かなかった。

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