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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧のシェルター 4

 駅に入った途端メモリは人の多さに落ちが着きなくなり。

 怯えるようにしきりに周りを気にしつつ人を避けながら彼女はギンセツの陰から駅を見渡す。


 人見知りで数少ない知人以外の人間と目が合うと体が硬直してしまうのでメモリはずっとギンセツだけを見ていた。

 彼だけを見ていれば他の人の目を気にすることはない。


「うきうきしているシアさんってなんか新鮮ですね、日ごろあんなに怠そうなのに」

「かわいいか?」


 ギンセツが率直な感想を述べるとメモリが自分に指をさして彼の反応を待っていた。


「自分で言っちゃうのはちょっと」

「じゃあ、ギンセツの方から私にかわいいと言ってくれないかな。君はいつもはぐらかすじゃないか、私だって女の子なんだぞ! さぁ、かわいいと言え」


「そんなことより、人多いけど大丈夫なんですか?」


 ギンセツの腕を両手で強く握り人の多いホームまでの道のりを歩く。


「ん、ああ、すっごく怖い。でもすぐに済ませるさ。別に今日でなくてもよかったのだが、今月中にここへは来なければならなかったのだよ」

「何か用があるのですか? まさか僕以外に……」


「ん? ああ、君以外に誰か新しい付き人でも雇うとでも思っているのか? 私は極度の人見知りだからな、そう何度も新しい人間を私の家に招いたりしないさ。そもそも君だって私が一人で暮らすって決めた時に親が勝手に用意したのだ。それなければ、君も私とは一緒に暮らすことはなかった、初めは心開かなかったが、それも最初だけ今となってみればこれも運命だなギンセツ」

「初めて会った時のシアさん、すごく怖かったですトゲトゲした空気でムスッとしてて」


「かわいかったか?」

「今、怖かったって言ったじゃないですか」


 二人は壁側を歩きながらホームにとまる鉄蛇を見ていく。


 人の出入りの多い理由としては一般兵の送り迎えだけでなく、ほかのシェルターから届いた荷物が受け取れるという点もある。


 そのためいろんな職業の人間が他のシェルターに注文していた荷物を受け取りにやってくるのだ。


 休息用に作られた石のベンチにメモリは登り、その低い背を伸ばしホームを見渡す。


「あれでもなくそっちでもない……新型の鉄蛇はない……か、この駅ではなかったようだな、残念」

「ああ、朝言ってましたね。それを見に来たんですか」


「いいや、それはついでだ用事はほかにある」

「直売所とかですか?」


「違う少しお腹が減ったが別用だ。それは帰りに食べていこうじゃないか、その前に少し休憩していいかな」

「歩き疲れました?」


「すこしだけな」


 壁に貼り付けられた大きな鉄板の案内標識の前で、久々の運動と人の多さに緊張して疲れたメモリが座り込む。


「話は変わるが君も来月にはこのシェルターホウキの一般兵としての下層市民に課される兵招集義務があり、鉄蛇に乗って外に行くんだな」

「年に一か月でしたっけ」


「人によっては数か月ってのもあるが大体そうだ、一定年齢達すると下層に人間は戦場に送られる……悲しいことだが人の価値だな。有能、必要な人間を守るために不必要な人間を生体兵器と戦わせる。どこのシェルターでも手に余る社会不適合な人間を、一般兵としてシェルター防衛ではなく前線基地へと送っているが、そう思うと特別ここはひどいな。下層であれば女性でも鉄蛇に乗せられ生体兵器と戦わされるのだから」

「でも感謝しています、シアさんにおかげで僕は下層市民の中でもましな生活ができているんですから」


「もっと感謝したまえ。まぁこのシェルター、鉄蛇での生体兵器との戦闘死者数は少ないのが救いだから。特定危険種や災害種、よほどのことがない限り一般兵は死んだりはしないだろうさ、安心したまえ」

「で、ちょっといい加減手を握るの何とかしてもらっていいですか? シアさんのかいた手汗でべとべとなんですが」


「まてまて、手を離されたら心細くて手以外も汗をかいてしまう。今人の多さに慣れている途中なんだから。日ごろ私が君に悪さをしているからって、今ここでそのお返しをしようとか考えないでくれよ。そんなことされたら、私はまた人間不信になってしまうぞ」

「……そうなると僕が困りますよね。またあんなおどおどしたシアさん、僕も接し方に困りますから」


「そんなにひどかったか? 昔の私がどのくらいひどいのか覚えてないが」

「僕が話しかけようとするとすぐ書斎に逃げ込んでましたものね。シアさんのお母様に仲良くなれって言われて連れてこられたのに、おかげでちっとも仲良くなれなくて困りました」


「懐かしいな、そんなこともあったな。人見知りなのに一人暮らしがしたいと駄々をこね、それで心配した母が君を連れてきた……って、無駄話をしている場合じゃない。ギンセツ、それよりも荷物の預かり所にいってくれ」

「他のシェルターに何か頼んだんですか?」


 シェルターは一つだけでは成り立たず、複数のシェルターが協力し合って存続を維持していてしていく。

 他のシェルターから食料や生活物資が運ばれてくる際にある程度の権限を持った人間があれがほしいこれがほしいと言っておけば、後日他のものと一緒に送られてくることがある。

 場合により届かないこともあるが。


「半月ほど前に頼んだ荷物を取りに来たんだ。身分確認と本人確認があって、私がいないと受け取れないから君一人でここに取りに行かせることができなかった」

「でも、シアさんは一人でここにこれなかった」


「……五月蠅いぞ君」


 そういうとメモリはカウンターに歩いていく、用件を伝え荷物預かり所の人間と話していると時折不安そうな顔でメモリがギンセツのいることを確認している。


「荷物の受け渡しはカウンターでしてくれるそうだ。君にとって来てもらおうと思ったが、調べたら本人でないとダメらしい」

「そうですか、じゃあシアさんが行くんですか?」


「ああ、仕方ないが、すこしだけお別れだ。信じていないわけではないが決済カードだけでなくサインとかあるからな、ここにいてくれよ。ギンセツ、絶対にどこにも行くないでくれよ、お願いするからな」

「わかってますよ。ここで待ってますからシアさん」


 そういうとメモリはカウンターに向かって歩いていく。

 数歩歩いて深呼吸をし、振り返るたびに顔色が悪くなっていく彼女をギンセツは口パクで頑張ってと応援した。

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