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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧のシェルター 3

 

 霧を撒くのは一般兵の索敵能力が下がる夜間だけだが、その間は空からも街を覆い隠すことができる。


 シェルター全体は散布塔の霧に合わせ、建物の外観は腐ってしまうため木製のものはなく、どれも煉瓦や切り出した石やコンクリートなどで出来ていた。


「それで結局、散布塔に入れもしないのに何でここに来たんですか?」

「入れない? なら忍び込めばいいじゃないか、まったく何を言っているんだか」


 メッキの剥がれた箇所から下に向かって錆色を流す、灰色の街灯に手をかけメモリは一息つくとまた歩き出す。


「何言ってるんですかはこっちのセリフです。そんなことして見つかったら怒られますよ!」

「声が大きいなぁ、一緒に怒られてくれる約束だろう」


 散布塔は夜間だけ使用することもあって昼間は建物周囲の警備や装置の点検などをしていて敷地内には誰の姿も見られない。


 散布塔から伸びている用水路から二人は敷地内へと忍び込む。


 地下からくみ上げ雨の日や風の強い日など散布塔で使われなかった時だけ使われるそこにも、当然立派な柵で人が入れないようになっているのだが、身長の低く体の細い子供の二人には体を横にしてぎりぎり通り抜けることができるスペースだった。


「頭ぶつけるなよ、痛いぞ」

「ぶつかればなんでも痛いでしょう、というか本当に通れちゃうんですね、この柵の隙間」


「もう少し成長していたら無理だったな。もう少し胸やお尻が成長したらつっかえてしまうところだった」

「身長の話じゃないんですね」


 そしてメモリとギンセツは散布塔周辺を見回る警備の目をやり過ごして塔まで進む。


「あぁ……」

「こんなに簡単に入れるとはな! 欠陥だ、重大な設計ミスだな!」


「怒られる……」

「覚悟を決めたまえもう手遅れだ、さぁ塔へと入るぞ!」


「声大きいですよ……」


 塔の中は多くの配管があちこちから伸び機械の音がほぼほぼ無人の廊下に響く。


 何かの記録など無数の張り紙が壁に貼られ、何かの機械が乗った台車がその辺に置き捨てられていた。


「それでここに何しに来たんですか? 霧が濃くなる理由なんて僕たちじゃわからないでしょうに」

「頭が悪いなぁ、君は本当に」


 メモリはギンセツに憐れんだ視線を送る。


「なんです?」

「装置の故障じゃないとしたら、誰かが意図的に霧を濃くしているに決まっているだろう」


「それなら昨日の当番の人を取り調べたら犯人がわかるじゃないですか」

「それがわからないから、いまだに犯人が見つかっていないんじゃないか。だからここまで足を運んで、なにかそれっぽい証拠がないか探しに来たんだ」


「それで、まず……どうするんですか?」

「建物の中に入ったからな、適当に見て回ろうじゃないか。こっそりと巡回に見つからないようにな」


 それから二人は散布塔の設備を人がいる場所以外くまなく探したが、メモリは原因の手がかりを探すというより設備そのものを真剣なまなざしで見ていた。


 散布塔を誰にも見つかることなく見て回っていると、あっという間に時間が経ち昼になる。


「お腹がすいたな、そろそろ帰ろうか。結局何も見つからなかったしな」

「シアさんそもそも機械ばっかり見て、手がかりなんて探す気がなかったじゃないですか。人のいた調合室の中まで覗いてしかも散布機まで見に行って」


「ここは散布塔だぞ、調合液と散布機を見ないで帰れるわけがないだろう。君は、私のことをもっと知ろうとしたまえ」

「本当に犯人探す気あるんですか?」


 散布塔から離れ人の多い道をさけながらメモリとギンセツは町を歩く。


「ここはたまたま手がかりがなかっただけだ、次に行くぞ次に」

「つぎ?」


「せっかくずっと籠っていた家から外に出たんだ、他のところも見てみないと」

「もっと家から出ないと散歩でもシヤさんの好きな屋台に食べに行くのでも。普段から僕に買い出しさせてないで、一緒に買い物に行きましょうよ」


「それは……デートのお誘いかな?」

「ちがいますぅ!」


「顔が真っ赤だな。うぶでかわいいやつめ、チューでもしてやろうか?」


 さらに顔を赤くして無言で速足で歩き出すギンセツを、ケラケラと笑いながらメモリは追いかけた。


「それにしても今日はいいものが見られた」

「そればっかりですね」


「なんていったって霧の原液の配合表まで見ることができたからな」

「それってまずいんじゃないですか?」


「ああ、そうだな。ふふん、バレれば市民権の剝奪、シェルターを追い出されるか一生鉄蛇ですごすようなものだ。かなりヤバい」

「え」


「一人じゃとても怖くてできないけれど、君と一緒なら怖いものなしだ!」

「自信満々にそういわれましても」


 頭を抱えどうか今日のことが誰にもバレませんようにと神に祈るギンセツ。


「ギンセツ、そっちじゃない。私たちが向かっているのはあっちだ」

「ここは……」


 メモリに指をさされた場所。

 見送りに来た家族に別れを告げ建物の中に移動する一般兵と、汚れ疲れ顔で建物から出てくる一般兵とそれを迎える家族たち。


 ひっきりなしに建物から出入りする一般兵たち。


 建物の中はシェルターの外から入る埃と土の匂い、それに鉄臭いにおいが充満する八つホームのある駅。


 ホームには対生体兵器兵器搭載装甲列車『鉄蛇』がとまっていた。


 鉄蛇、対生体兵器用に作られた兵器の一つ、目的は一般兵でも死者を出さずに生体兵器を一方的に倒すこと。


 実際はそんなにうまくいかないこともあるが他のシェルターと比べて、生体兵器にやられる被害者数は圧倒的に少ない。


 とりついた生体兵器を追い払う刃のついた刺々しい装甲、二階建ての列車にある無数の覗き穴から飛び出るエクエリの砲身、ひろい屋根についた戦車の砲塔や砲台、戦闘用の列車以外に貨物を乗せる役割、生体兵器の死骸を持ち帰る役割などの車両が役割ごとに整備を受けホームの隣にある車庫に並んでいる。


 駅構内は大量の荷物とバラバラになった生体兵器の死骸が積まれ一般兵たちがそれを片付けている。


「駅に来るのは久しぶりだったかな?」

「そうですね。このシェルターに来た時以来……ですかね。あまり寄り付きたくない場所だったので」


 シェルターにはホウキには東西南北四つの駅があり、駅のそばには兵器工場、整備基地、車両倉庫、最後に病院やその他施設が隣接しているここはそのうちの一つ。


「そうか、君にはいい思い出が無い場所か。まぁ来月には君もここに来ることになるだろう、徴兵でな」

「そうですね、それでここに来た理由はなんですか?」


「まだ君にはないしょだ!」

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