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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
4章 存在価値の低い者への徴兵 ‐‐霧の結界と駆ける要塞‐‐
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霧のシェルター 2

 アカバネ・ギンセツがシア・メモリの下にいるのには理由がある。


 もともとギンセツは別のシェルターの出身だった。


 魔都に住む、特定危険種のさらに上位の危険種。

 精鋭が束にならないと勝てないとされる災害種にシェルターを完全破壊、復旧不能にされ逃げ出した難民の一人。


「私はこれを食べるから、君にこのワッフルをあげよう」

「これも、もともと僕のなのに……」


 災害種、分類上通常の生体兵器の対人戦、対陣地戦に特化した生体兵器である特定危険種の上ににいる存在。


 単体あるいは複数匹で百の軍隊をも凌駕する力を持ち、この国を国としての形を破壊した生体兵器の兵器としての最終形態。


 精鋭たちが災害種の発生を抑えるため特定危険種を退治しているが、その生体兵器はある程度の期間で現れる。


 ギンセツの住んでいたシェルターヒバチは魔都を根城とする災害種、陣地防衛用、自由飛行種、報復追撃型、兵器名クラックホーネット、コードネーム死の演奏家あるいはアークエンジェルによって多大な人的被害を追い放棄、まだにその災害種も健在なため廃シェルターヒバチに近寄ることすらできない。


 記憶に新しいのは王都直属の精鋭赤薔薇隊の隊長と相打ちとなって討伐されたが、工業シェルターハギを襲った精鋭殺しのブラットナイトだろうか。


 今現在討伐されず生存している災害種では生産シェルターイノハタを襲った精密射撃のアシッドレイン、工業シェルターミナギを襲った歩行不落要塞のウォーカーなどだろう、遠方の情報はわずかにしか入ってこないためほかの地区の災害種に関してはわからない。


 新たな災害種になりえる存在としては、軍部の要警戒無線に頻繁に上がっていた拠点壊しなのだがここ半年ほどその名を聞かなくなったのは気になる、他の特定危険種にやられたかどこかに身を潜めているのだろう。


「今日はどこへ行くんですか?」

「そうだな、面白そうな記事は不自然なほど霧の濃度が濃くなる夜とそこに現れる巨大な影、それと待ちに待った鉄蛇の新モデルお披露目といったところかな。私の個人的に興味があるとすれば、女装男装して夜通し騒ぐ男女逆転祭くらいか。まぁ、とりあえず近場だし今日は散布塔の周囲でも見て回るとしようじゃないか」


「散布塔? なんでまたそんなところへ」

「今はなしただろう。霧が濃くなる夜って調査は何度も行われているのに故障は見られない、ということはだれか関係者が意図的に霧を濃くしているのだよ。犯人、捕まえようじゃないか」


「変なことに首突っ込んでまた呼び出し受けて怒られるんですね。僕も一緒に怒られるんですから勘弁してください」

「なら私一人で行くよ、悪かったね巻き込んで。明日いいや今日は君はお留守番だ、良かったな、フンッ床を鏡のように磨いてきれいに掃除でもしていたまえ」


「拗ねないでくださいよ、わかりましたついていきます」

「ふふん。ああ、苦楽を共にし死するときも共に一緒に居ようじゃないか」


「そこまで一緒にはいたくないです」

「つれないやつだな、君は」


 食事を終えギンセツに片付けをさせると、メモリは霧の散布終了時間まで書斎で本を読んでいた。


 そして霧が晴れるとメモリとギンセツは外出の準備を整え表に出る。


「早い時間は人が少なくていいのだが、やはり昼間は暖かくなるのだろうか? 寒いな」

「だと思いますよ、厚着は朝と夕方だけですけど」


 歩けど歩けど煉瓦造りで代り映えしない景色の中、外見はすべて同じ建物で差をつけるために一軒ずつ多少煉瓦の色の違いがあるが暗くなり霧が出る夜にはどれもすべて同じにしか見えない。


 そんな同じ建物続く中作りが違って大きく目立つ遠くに六本建っている散布塔。


 シェルターホウキはシェルターとしての規模が小さく、そのため山を基盤に掘って作ることができ、削られた山はカルデラのようになっていて霧はシェルターの表に出にくくなっている。


 そのため散布塔は町を囲む一番高いところにできている。


「坂を、上るのは、辛いな」

「日ごろ、家でゴロゴロしているからですよ」


 額に汗かき緩やかな傾斜を登っていく二人。


 日ごろシェルター内のあちこちに向かわされているギンセツにはなんでもない道なのだが、家にこもりっきりのメモリは久々の外出が遠出で緩やかとはいえ坂なので意気揚々と先頭を歩いていたがすぐに体力を使い果たし、彼女の足取りはふらつき息切れを起こして心配して歩く速度を落としたギンセツの隣にいる。


「本を読んでいるんだ、人を無気力者みたいな言い方をするな! 知識や情報は力だぞ」

「体力も力なんですけど」


「ぬぅ、物理的な力、なんか、私には、必要ないな」

「今まさに必要とされているじゃないですか」


「五月蠅い五月蠅い……」


 メモリを背負いギンセツは散布塔へと続く坂を上っていく。


 小さなシェルターのため小道が多く大通りは数える程度。

 自動車は人を運ぶバスか荷物を運ぶバスくらいしかなく、ほとんどはバイク移動が基本となっている。


「せめて、君が免許さえ取れればなぁ」


 メモリは追い越していったバイクを恨めしそうに見送る。


「シアさん毎日暇しているんだから、シアさんが取ればいいんですよ」

「嫌だ、外に出ない私には必要がない。バスで十分だ」


「じゃあせめてこんな朝早くじゃなくて、バスが走っている時間帯に移動すればいいじゃないですか」

「人が多いのも苦手なんだ、わかるだろう君なら」


 以前ギンセツがメモリともに彼女の母親に連れられて要人の集まる食事会へ行ったとき隅っこでおどおどしていたのを思い出す。


「そうですね、思い出しました。シアさん人見知りすごいですからね」

「君の背中からでも、いま君がにやけているのが何となくわかるぞ」


 そしてギンセツはメモリの手を握って坂を上り切る。


 振り返れば後ろは街を一望できる場所、霧が発生しているときは視界が悪くなるが本来はかなり澄んだ空気のある場所にあるシェルター、遠くにまだ準備中の露店が並ぶ広場、朝でも人の通りの多い鉄蛇の駅、シェルターの中枢にある議事堂などが見えた。


「もうすぐ着きますよ、そろそろ自分で歩いてください」

「わかっている」


 景色など見る余裕のないメモリは壁に手をつき額の汗を拭う。


 二人の正面には散布塔、本物の霧と違いをつけるため若干甘い香りのついた人体に無害な霧を散布するためだけに作られた塔。


 シェルター全体に撒かれる霧は人の鼻には若干の匂いしか感じ取れないが、嗅覚が何百何千倍もの嗅覚を持つ生体兵器には霧の中に置いて完全に匂いでの追跡をできなくさせる、動物型生体兵器を近寄らせないためのもの。


 また熱を拡散させることもでき、熱感知での追跡も振り切ることができる。


「散布塔ついちゃいましたね。このままシヤさんの体力の回復待ちですか?」

「そうだな、私がいつまでもへばっているわけにはいくまい。散布塔の前には見張りもいる、こんな姿見られたら恥ずかしいものな。休憩だ、どっか自販機でお茶を買ってきてくれ」

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