霧のシェルター 1
生体兵器。
過去の戦争時に使われた兵器の一つ。
世界中を巻き込んだ戦争で、兵士を戦場に送ることなく行われた戦争。
車より早く走る歩兵に、断崖絶壁の崖をよじ登る戦車、管制塔や滑走路なしで離着陸できる戦闘機…本来の生物を基に多種多様の生物兵器が作られた。
生体兵器は一定の時間と餌さえあれば簡単かつ大量に量産でき、多種多様で用途、目的や環境、地形に応じて作られている。
象や恐竜などの大型生物が当たり前のように見えるくらい、大きさも上限がない怪物たちが考えなしに次から次へと作られていった。
どこからか生体兵器が逃げ世界中の国同士で戦っていたころは、どこの国も躍起になって新しい生体兵器を作り混乱の中敵国に送り込んでいた。
だが…いや、やはりというべきか、いつしか増えに増えた生体兵器は野生化し、暴走を始めて、戦争と無関係な国や戦争で国を追われた難民を襲い始めた。
いつしか国同士での戦争は自然に消滅し、生体兵器の脅威を逃れ生き残った人々は自らが作った生体兵器の対処に追われていた。
その数は生存している人間の数の何倍にもなっていたが。
今や生体兵器から逃れるため残された人々は、生体兵器の脅威から逃れるため兵器で武装した高い壁や生体兵器の目撃情報がすくない土地、地下、高い壁で囲ったシェルターに避難していた。
東の地、王都の近いシェルターの一つ、工業シェルター「ホウキ」は濃い霧に覆われていた。
三軒先の建物がぎりぎり見えるような濃い霧の中を一人の少年が歩いている。
彼の手にはビニールの袋を握りられており袋の中にはインスタント食品がたくさん入ってる。
彼は前の見えない道をなれた様子で早歩き気味に黒色のレンガ造りの建物と赤レンガ造りの道路を、霧の中にぼんやりと浮かぶ街灯の光を頼りに彼は自分の住まう家へと向かっていた。
甘い香りの霧の中彼はようやく自分の家にたどり着くと袋を持ち替えポストから朝刊を抜き取り、自分たちの部屋の鍵を開ける。
シェルターの高層市民の一般住宅、五段階ある市民階級の上から二番目というだけあって内装は豪華。
花をかたどったランプの灯る玄関、霧の入ってこないよう除湿装置の置かれた二重の扉の奥にある廊下にはどこかの画家の書いたこのシェルターの絵が飾ってある。
外観のレンガと違い室内は木造で、壁にば除湿器が付き彼と一緒に入ってきた霧に反応して静かな音を立てていた。
「シアさん。ただいま帰りました」
扉を開け暗い廊下の先に声をかけるが彼の声に返事はない。
この家の主は彼ではない。
「シアさん?」
新聞を玄関の隅に置き少年は家に上がると細長い間取りの家の中を歩き回り、深夜に夜食を買いに行かせた自らの主人を探す。
隠れて脅かすような人間ではなく罠を仕掛けてそれを忘れ自分で引っかかる様なうっかりやなため、廊下やドアに罠がないか注意しながら彼は主人を探した。
一階を調べ終わると階段を上がり二階へと上がる、そこで主人の書斎から明かりが漏れていたのでその部屋へと向う。
「シアさん、入りますよ」
何度かノックをしてから少年は扉を開ける。
「失礼します」
書斎は幾何学模様の灰色の絨毯の上に赤いソファーと大きな机が一つ置いてあり、部屋の壁は一面大きな本棚があり大きさ厚さ様々な本で埋め尽くされていた。
そしてソファーの上で本を読みながら少年の主人、シア・メモリが寝そべっていた。
「んん、ああ。お帰り、ずいぶんと遅かったのではないか」
「霧が濃かったんですよ」
「んー? 今日はこの地区が霧が濃いのか」
「はい、行くときはなんでもなかったのに帰りの時に急に。何なんでしょうね、散布塔の不調じゃないみたいですし」
「そのうちにわかるだろうよ。ところでギンセツ、例のものは?」
「買ってきましたよ」
ギンセツと呼ばれた少年はビニール袋をみせてからメモリから少し目を反らす。
ソファーに仰向けに寝そべるメモリは上半身は横を向き、足は彼の方へ向けていて、片方の足を背もたれに乗せる珍妙な格好で本を読んでいた。
読んでいる本自体は問題ないが問題は彼女がスカートを履いていて白く細い足を大きく広げていて、彼の目に彼女の下着が否応なしに移りこんでくることだった。
「シアさん。本を読むときの姿勢が悪すぎます! 女の子なんだからもっと気をつけてください!」
「ここは私の家なのだが? それに君以外誰も見ていないのだからどんな格好で本を読もうと私の勝手ではないか」
「僕が見てます!」
「すけべめ」
「見てるってそういう意味じゃないです!」
声を荒げるギンセツだったが本から目を話すことなく片手間にメモリは話を続け、きりのいいところでしおりを挟んで本を閉じると、切りそろえられた腰まで伸びる黒い髪を揺らし彼女はソファーから立ち上がる。
「さてさて、では夜食? にでもしようか。ギンセツ、君は先にしたに行ってお湯を沸かしておいてくれ」
「僕が買い物行く前にも何か食べてましたよね、太りますよ」
「気にしない気にしない、私はまだ育ち盛りだ。さぁ、いつまでそこに突っ立っているんだ、行った行った」
手を払う仕草でを追い出しメモリは本を本棚に戻すと彼の後を追って部屋を出た。
日中は暖かくなりつつあるがまだ夜は冷えるため、椅子に掛けてあったポンチョを羽織りメモリはギンセツの元へ向かう。
「ほら私が下に行く準備が整ったではないか」
「一緒に行けばいいじゃないですか」
「寂しがり屋さんめ!」
階段を下り一階にある台所に向かいその横のリビングの大きな机に、買い物袋の中身をぶちまける。
多種のインスタント麺に続いて別種の食べ物が机から転がり落ちた。
「おや、ワッフルじゃないか」
「あ、それはダメです! それ僕のお金で、ああ!」
やかんに火をかけメモリはギンセツの言葉など聞く耳を持たず拾い上げると、素早く封を開けワッフルを口にくわえる。
ギンセツの悲痛な声をスパイスにワッフルを一口齧り机の上に置くとインスタント麺のふたを開けた。
「何か言ったか?」
「もういいです」
「いじけるな、ギンセツ。ほら、半分分けてあげるから」
「もともとは僕のですよ」
「男なんだから終わったことをうじうじ言うんじゃない。先のことを前向きに考えないと、プラスに考えろ私の食べかけだぞ」
「だから何ですか、僕が買ったお菓子のほとんどはシアさんの食べかけじゃないですか」
「わかりやすいところに置いておいたら、つい食べてしまうじゃないか」
「ちゃんと隠してますよ! 隠しててなお見つけて食べてるじゃないですか!」
「私の家だからな、後君の考えからしてどこに隠すか幾つか目星がつくしな。後はそこをしらみつぶしに……おっと」
やかんがけたたましい音で鳴きメモリは急いで台所へ戻る。
「話はあとにしよう。私はこれから夜食……いや、朝食を食べる。そうだギンセツ新聞はまだ届いていなかったかな?」
「……今持ってきますよ」
カップ麺ができるのを待っている間に残りのワッフルを頬張りながらやかんをリビングに持っていくメモリを、ギンセツは恨めしそうに見ながら玄関に置いてきた新聞を取りに行った。
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