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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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雪中の逃走 3

 白い息を吐き、うっかりエクエリを落とさないように感覚のなくなりかけた両手でしっかりと抱え持つ。


 闇に消えた後ろの方では瓦礫が崩れる音が聞こえている。


 ――走って逃げきれるか……いや無理だな、どこかで振り切らないと。


 額から流れる血を拭いセーギは防壁とは反対側、町に向かって走りだした。

 居住区へ建物に逃げ込めば建物の間取りを利用して逃げ切れると考えて。


 ーー血が流れてる頭よりもケガしてない指先の方が痛いってのはどういうことだよ。


 そんなことを考え走っていると割れた道路の小さなでっぱりに躓いて派手に転んだ。

 すぐに起き上がり落としたエクエリを探す。


 ーー足跡……4人分、ヒナと合流してちゃんと逃げたか。


 転んでも運よくどこも痛めていなかったらしくエクエリを拾い上げ泥を払わずそのまま走り出す。


 工場のある防壁付近からようやく抜け出しセーギは三階建ての建物が立ち並ぶ中央区画へ向かうほど階の高さが増していく市街地へと入る。


 目立ちやすい大通りを避け小道へと入ってより暗く道がわからないと後悔した、視界の悪い中どこの建物へ逃げ込むかとあたりを見渡しながら足をとめずに考え続けた。


 そして見えてきた一軒の建物、金物もの探しか何かで扉は破壊され中に入るのは容易そうで進行方向正面に見えそのままその建物へとすべりこんだ。


 荒らされた形跡があり壊れた家具以外何も残っていなかった。


 ーーせめて明るければ逃げるにしろ、戦うにしろ何とかなりそうなんだけどな。こうなるなら、爆薬余ってたの持って来ればよかった。


 放棄されたシェルターとはいえ場所によってはライフラインが生きている、切れていない電球さえあれば明かりはつく。

 ここはあくまで治安が悪くて生体兵器が稀にいるだけなのだから。


 生体兵器とまともに戦えそうなものはないため一階に用はなく周囲を見渡し手探りで二階へ上がる、入口に真上にあった窓から生体兵器が接近していないか覗き込んだ。


 見える限り遠くに生体兵器に影は見えずほっとしたが、緊張がほぐれ力を抜き目を落としたすぐ真下に音もたてず動く大きな影があったため思わず窓の淵から手を滑らせ落っこちそうになった。


 ーーこれはかなりまずいんじゃないか。どうすれば逃げ切れる? どうすれば生き延びられる?


 息が荒くなり鼓動が早くなる。


 寒さでかじかみ体が言うことを聞かないこともあるが前線基地から逃げ出し半年、いま手にしているエクエリもキンウがずっとどこかに隠し持っていたもので使いなれない仕様と体力、射撃の腕、戦う覚悟にひどい衰えを感じていた。


 距離を稼いだ気になっていたが生体兵器の音を立てない接近で大通りを振り返らず逃げていたら、生体兵器に気が付く前に死んでいたかもしれなかった。


 怖さなのか寒さなのかわからないが体の震えを無理やり抑え込み、生体兵器が家の中に完全に入るとセーギはタイミングを見て2階の窓から飛び降りる用意をする。


「セーギ!」


 建物から窓のふちを伝い隣の建物からゆっくりと降りていると聞き覚えのある声が響いてきた。


「生体兵器倒したの? すごいじゃん、さっすが、心配して損した!」


 匂いを追って建物の中に入って行った生体兵器が辺りに反響する大きな声を聴いて先ほどセーギが外を覗いていた窓から顔を出す。

 途端に来た道を全速力で走り出そうとしてスッ転ぶキンウ。


「バカが! ヒナ連れて逃げてろよ!」


 思わずそう叫んだが生体兵器はセーギのことなどすでに眼中になく、キンウの方を見続けていた。


 ーー戻ってこなければいいものを、地下から逃げ出せたのも蟷螂を倒したのも全くの幸運だっただけなのに。


 今更慎重に行動する必要もないため、キンウの方へ全力で駆け出す。


 少し遅れて後ろから生体兵器は窓を破壊して道路に降り立ち、その首に窓枠をつけたまま走り出した。


 エクエリを後ろから追ってくる兵物兵器に撃ち込むがそれを躱すと向かってくる生体兵器がセーギを狙っていないことに気が付いた。


 ーー俺じゃなくてエクエリを持っていないキンウを狙う気か!


 反射的にセーギは横を通り過ぎキンウに狙いをつけた生体兵器に飛びついた。

 窓枠に腕をかけ引きずられる両足、怪我をしていなくとも当たると痛い風。


 しかし寒さの影響か大きな痛みは感じない、防寒着を突き抜けてきたいくつかの毛が肌に刺さり暖かい血が流れている感触だけは感じていた。

 頭に向けてエクエリを撃つ。


 重要器官までには達しなかったが後頭部と首の間を大きく抉り、生体兵器はキンウを通り越し暴れた。

その勢いでエクエリはセーギのかじかんだ手から離れていった。


 ここで手を離せば自分が食われるとセーギは必死にしがみ付き、棘のような体毛が防寒具を裂き無数の血が辺りに飛び散る。

 しかし老朽化していた建物の窓枠の耐久力に限界がきて壊れ勢いでセーギは上へと投げ飛ばされた。


 そして近くの建物の屋根に落ち、そのまま天井を突き破って室内へと落っこちる。


「……ツぅ、もー無理だ死ぬ……。寝てる場合じゃねぇ、キンウが!」


 よろよろと立ち上がり壁を伝って表へと出るセーギ。

 キンウは転がっていったエクエリを拾いに走りセーギの元へと戻って来た。


「生体兵器はどこに行った?」

「わかんない。セーギ振り払ったらそのまま逃げてった、怖かったね。あはは、酷い怪我。早く帰ってすぐに手当てしないとね」


「馬鹿! 止まるな、生体兵器は……」


 生体兵器は一時的な撤退はあっても逃げない。


 そう言おうといていたそばから建物の上から降って来た生体兵器がキンウを吹き飛ばしブロック塀に叩きつける、そしてエクエリを撃とうと伸ばした腕に噛みついた。

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