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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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雪中の逃走 2

 夜目がきくキンウは瓦礫が多く暗い足元でも走れ、先に逃げていたヒナたちの元へ合流した。


「あいつが囮になったおかげで逃げ切れそうだね」

「生体兵器に勝てるとでも思ってるのかね、一般兵ってバカなのかな」

「今のうちになるべく遠くへ」


 ヒナたちがキンウの無事と後ろから生体兵器が追ってこない安堵から喋り始めた。


 ーー逃げた。


「一般兵って強くないんでしょ? まぁ時間稼ぎにはなるか」

「私たちが逃げ切れるまで抵抗してくれればいいでしょ」

「このまま走ってどこに逃げる? 真っすぐ走ってたって追ってきたらすぐに追いつかれる」


 ーーまた置いていった。

 ーー何も言わず置いて逃げた。


「生体兵器が追ってこられないような狭いとことかは?」

「老朽化した建物の壁くらいなら壊せるんじゃない? 生体兵器と戦ったことないからわからないけど、見たのも初めて!」

「だったら高いところはどうだ……俺らが昇れるような場所なら生体兵器なら簡単に来れるか……」


 ーー地下に行ったとき囮にするため逃げ出し、その後別の生体兵器に見捨てられてもおかしくなったあの状況で助けてもらったのに。

 ーー知ってはいたけど最低だな。私。


 キンウは自分の情けなさに思わず笑ってしまう。


 それを生体兵器が追ってこず逃げ切ったと思い込んだヒナたちの会話は明るくなる。


「でも、話しに聞いていたより生体兵器って怖くないね。大きくなった動物じゃん」

「普通の生体兵器だったからでしょ、強くないやつ」

「俺だったらあの武器さえあれば戦えたかもな」


 ーー戻りたくはない。

 武器を持っていても勝つ確率の低い生体兵器の一対一の戦闘。

 精鋭の昇格試験の際は周囲の生体兵器を排除し邪魔の入らないようわざとそういう状態を作って戦いをさせるというが、一般兵をやめ半年間戦場を離れていたセーギには不利すぎる戦い。

 そもそもセーギにその力があるなら前線基地から逃げたりしない。


 ーーせめてエクエリで急所を狙えるように気を反らせたりできれば、勝率は大きく変わるのだろうがセーギ一人ではそんな芸当できはしないだろう。


「今度こそ死んじゃうな……」


 ーーこの前みたいな生体兵器のいる地下から生還するなんて奇跡はそうそう起きない。


 工場の中身はほとんど金属回収の際に持っていかれ建物はただの箱になっている、隠れる場所も盾になる物もない。

 このままだと間違いなくセーギは死ぬ。運が悪ければ骨も残らずに。


 嫌だ。


 ーーただ生きるために機械的に働いていたときに不意に訪れた暖かかった日々。

 シェルターを出る機会が多く2,3か月ごとに新しい囮を用意したけど、セーギとは一番長く暮らしてきた。

 私を欲望のままに押さえつけようとせず、助けたことを恩に感じ私のわがままに従ってくれた。

 そんなセーギが死ぬ。


 嫌だ。


 ーーそういえば、前はあんなに騒いでいたのにセーギ叫ばなかった。


「どうしたの? ついにこっち来た?」

「大丈夫? 私には何も聞こえなかったけど、あいつ殺して生体兵器がこっち向かってきた?」

「何で泣いてるの?」


 ーー殺される。


「嫌だ」


 足を止め踵を返した。




 棘のような体毛に触れまいとセーギは生体兵器から距離を取る。

 エクエリの命中に一気に勝負をかけようとしたが、連射できないことを忘れていて一気に走って距離を取った。


 背を向けて走ればその瞬間死ぬ。


「当たったのは最初の一発だけかぁ、辛いなぁ」


 エクエリを警戒し真正面から突撃してこなくなった生体兵器は暗闇に消え、セーギの周りを瓦礫の欠片を踏む音だけが響く。


 ーー地下にいた幼体とか蟷螂を倒したときにもしかしたらと思ったけど、全然強くねぇなぁ。


 改めて自分がただの一般兵程度の実力であることに苦笑いを浮かべ後ろに下がり続ける。

 生体兵器の気配はすぐそばにあり、セーギが隙を見せるのを待っている。


 ーーあいつらを逃がせただけで良しとするか。というより……逃げてったんだけどな。


 死ぬ気になれば倒せるような気がするが大怪我は覚悟しなければならないだろう、廃シェルターでは医療施設が機能していない以上大怪我などしたら失血死の確率が高い。


 それでなくとも手足が取れたり後遺症は残るだろう。

 深く積もるほどではないが雪の降りがまた強くなる、凍傷にはならないだろうが手足の感覚が鈍い。


 朽ちた工場の壁を簡単に破壊できる生体兵器にとって障害物は自分の逃げ場をただ単に減らす行為、生体兵器が周囲を走り回っている間にセーギはカガリと装甲トラックがとまっていた、ある程度開けた場所に戻って来た。


 ーーせめて、明かりがほしいな……10メートル先なんかほぼほぼ見えない。


 街灯も家の明りもないこの場所で、ビルの立ち並ぶ市街地はぼんやりとした輪郭も朧げな影としてしか見えない。

 そんな場所で生体兵器と戦う。


 ぼんやりと壊れた防壁が見えることで辛うじて自分がどっちを向いているかはわかるが、自分の周りにどんな建物があるかまではわからない。


 ーー相手の姿が見えないってのは割といいかもな、あの牙で噛まれたらとか、あの爪で裂かれたらとか想像しなくていい。


 闇の中から唸り声が聞こえる。


 ーーいや無理だ、相手の動きが見えずどこから来るのかが怖い。


 音の聞こえる方向を最大限警戒していたつもりだったが生体兵器が突撃してきた。


 躱すため飛び込んだ先に防壁の瓦礫があり体を強くぶつけたが攻撃は間一髪でよけ、向きを変え噛みつこうとする生体兵器にエクエリを撃つ。

 狙わず当てずっぽうに撃ったので外れてしまったが再び暗闇に姿を消す生体兵器。


 セーギは跳ね上がるように起き上がり逃げた生体兵器に一発撃ち込もうとしたが、エクエリはエネルギーの充填中で数秒に一発しか撃てないためしっかり狙ってたのだが弾は出なかった。


 舌打ちをし無意味にエクエリを叩くと頭に着いた泥を取ろうとして自分が流血していることに気が付く。


「痛ぇ」


 耳を澄ませ生体兵器の足音に注意する。

 急に足音がとまった、そして足音の消えた方角から汚い租借音が聞こえてきた。


 怖さ半分、隙をつければと何をしているのか確認するためゆっくりと生体兵器の方へ進む。

 生体兵器は瓦礫の陰に捨てられたゴミの匂いを嗅いでそれを食べいる。


 ーーなんだあれ、あのゴミになんかあるのか? ……何であれ今しかない。


 セーギはエクエリを構え暗闇に動く影に狙いをつける、カガリの捨てたキンウの血が沁み込んだゴミに夢中になっている生体兵器に撃ち込んだ。


 光りの弾丸を躱そうとし飛び移った工場が崩れた。


 建物の崩壊は数秒間続き生体兵器を完全に瓦礫の下敷きにした、これくらいでは生体兵器は死なないだろうが動きを封じた。


 ーーもし精鋭だったらこの場合、やつのそばに行ってとどめを刺しに行っただろう、仲間がいる状態だったらこの間に囲んで一斉攻撃の準備を整えたんだろうか……俺は……。


 セーギは生体兵器に背を向け暗闇を全速力で走り出した。

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