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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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雪中の逃走 1

 装甲トラックが防壁の外へ向かっていきヒナたちはキンウのそばにより無事を確かめる。

 キンウが全員の頭を撫でたあとヒナたちが勝手に抜け出してきたことを怒り、反省したところでその場はお開きになる。


「終わったし帰る? お腹すいた」

「ほんとに大丈夫? 痛いとこない?」

「うう寒い、ちょっと服取ってくる」


 動きずらくなるからと脱ぎ捨てた防寒着を探しに行くユウとユメ。

 ホマレはキンウに抱きついて暖を取っていたが、二人がホマレのことを放っておきさっさと行ってしまったためそれに気が付いてから後から走って取りに行った。


「さっさととってこい。暗くてよくわからないけどまだ顔色悪いよなキンウ、気分悪いならお前だけでも車に乗っててもいいぞ。とめてある場所は……」

「ん、大丈夫。あはは、優しいね」


 セーギに寄り添いキンウがそっと手を握る。

 キンウが手に触れた瞬間セーギは自分の手をポケットに入れ中身を守る。


「このカードはお前にやらないぞ」

「あはは、やっぱバレた。惜しいなぁ、もう少し寂しそうな声でいいよれば行けたかな」


「半年間過ごしてきたけどここ最近でお前がどういうやつかはよく分かったからな」

「でも怖かったのは本当だよ、助けに来てくれたことに感謝もしてる。後はそのカードだけ、何てねあはは」


 そんな二人に強めの風が吹く、キンウは風に背を向けたが動かなかったセーギは飛んできた雪の塊が顔にはりついた。


「冷たっうう寒い。あいつらが帰ってきたら車向こうに止めてあるから、早くいこうぜ。こんな天気、外にいつまでも居たら風邪ひいちまう」

「そうだね。でもその前にヒナたちを先生のところに返さないと」


「またあっちまで戻るのか」

「あの装甲車にみんな乗れるかな? 荷物積んだままだし、まさかと思うけど捨ててきてないよね?」


「そうだ、それ、あれガス欠起こしたから普通の車できた。防壁の内側ならこれで走ってても問題ないだろ」

「あ、そうなの? だから私を助けに来るのが遅れたのかな? それ、ちゃんと隠してきた?」


 急いでいて家の前に放置したままできたためセーギが黙って目を背けると、脱ぎ捨てた防寒着を拾いに行っていたヒナたちが走って来た。

 明かりもなく暗闇にたたずみ闇と同化しかけているため、キンウが手を振って居場所を教える。


「もうそんな走らなくていいんだぞ、転ぶからやめとけ」

「そんな急いで来なくてもおいていかないよ?」


 戻って来たヒナたちはキンウの手を取って走り出す。

 キンウはセーギの手を離さずそのまま引っ張られセーギも走り出した。


「違う、大きい声を出さないで」

「隠れて、どっかの物陰に」

「走って。今のうちに遠くへ」


 焦るヒナたちは声を合わせて走り出した理由を二人に告げた。


「生体兵器」


 それを聞いて引っ張られ仕方なく走っていた二人もまじめに走り出す。


「そういうことは早くいえ」

「動物型? 昆虫型?」


「わかんない、でっかいのがのそのそ歩いてた」

「たぶん四本足だから動物型だったと思う。暗くてよくわかんなかったけどでっかかった」

「人じゃないのは確かだよ、野良犬でもないでっかい何か」


 車をとめた位置を知っているのはセーギだけなため、せかされながらセーギが先頭を走る。


 工場や瓦礫が多くその陰に隠れて移動してきたらしく、ヒナたちがたまたま見つけただけでもしあのまま誰も気が付かなかったら誰かしらあの場で死んでいてもおかしくなかった。


 元一般兵だったセーギよりキンウやヒナたちの方が足が速く、背中を押され転びそうになったり足が遅いと罵倒されながら必死に走った。

 後ろから大きな物音がした、大きなものが崩れる音に交じって何か低いうなり声のようなものが聞こえる。


「見つかったかな、誰か後ろ見て」


「怖いもん、やだ」

「どうせ暗くて何も見えません。それより車はどこ」

「振り返って足元滑らせたら終わる」


 セーギが立ち止まり振り返る。


「こんなに遠くはなかったはず。一本道を通り過ぎた、後ろだ」

「んなっ」


 全員彼を置いて走って逃げていたため、声を上げるまでだれもセーギが止まったことに気が付かなかった。


 来た道を戻りすぐ後にキンウが後に続き二人を追い越したヒナたちが急いで戻る。

 正面から咆哮があがる、暗闇でよく見えないが気配と大きくなる足音が聞こえた。


「バカ、セーギ。もう手遅れ生体兵器に見つかった。あいつをまいてどっかに隠れないと!」

「全く見えない。車はすぐそこだ何とか……」


 キンウに止められ立ち止まると直後にガラスの割れる音と轟音と金属の拉げる音、キンウの舌打ちそれと目の前にある大きな生き物の影。


 それぞれ悲鳴を上げて逃げていくのヒナたちを確認すむ間もなく急いでセーギはエクエリを構える。

 そして目の前の影に光の弾丸を撃ち込んだ、エクエリの弾丸で一瞬だけ生体兵器の全体像が見えた。


 動物として無駄な筋肉のついていない体に針葉樹の葉ような刺々しい体毛の狼をベースにした生体兵器。


 撃っておいてセーギは自分で驚いた。

 エクエリの弾丸は生体兵器の体に当りドロドロした血を流して苦しんでいる。


「こいつ、人間相手に戦ったことないのか」


 生体兵器は戦いを学習して強くなっていく。


 何百何千と戦闘経験を積み重ねていくうちに、前線基地全体の装備や精鋭でないと倒せない特定危険種、さらにその上の精鋭が束にならないと倒せないようなシェルターを破壊する災害種へと強くなっていく。


 だがこの生体兵器は人との戦闘経験がない、冷静に対処すれば生体兵器と戦える。


「なら撃退できる、かもぉぉぉう!」


 暴れる生体兵器から転がって離れたセーギは周囲を見渡す。


 キンウはそこに居なかった、地下の時と同じく彼女は逃げた気配感じさせずに消え去っていた。


「あいつは逃げたな」


 改めてセーギは生体兵器と向かい合う、降る雪は細かくなっていた。

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