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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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取引 2

「それで、条件ってなんだ」


 キンウとカガリだけで会話が成り立ち、放置されていたセーギは声を低く苛立ちをあらわにしながら本題を切り出す。


「では本題に。ストレートに聞きます、この子のことを私に売ってはくれませんか?」

「何だと?」


「話なら聞きました。この子がお金を独り占めしたというのを、あなたはそれに納得がいっていないということも」

「キンウから聞いたのか?」


「その名前は偽名だそうですよ? 本当の名は……」


 カガリは相手の知らないことを知っている優越感から勿体ぶった話し方をしたが、雪が降り風が冷たく傘をさしている向こうと違い興味もなく早く話を終わらせようとするセーギにさえぎられた。


「どうでもいい。売ってくれとはどういうことだ、初めから攫う気があるなら何も言わず連れ去ればいいだろ」

「ええ、そうですね。ですがそれではあなたがこの子を追って連れ去った先を見つけ出し助け出そうとするかもしれない。そう考えるとここでお金を払って諦めてくれた方がお互いに遺恨が残らないというわけです。私がこの子を欲しいと思った理由は、生体兵器が乗っ取った前線基地から無事にこの資料を持ってきていただいたからですかね。彼女を調教して私の部下にすれば危険な場所の調査がうんと楽になるからですかね」


「少し無理かもしれないな、キンウ一人じゃな。逃げ足の速さは保証できるが」

「あなたが一緒に来てくれますか? フフッ、彼氏さん」


「……みんな勘違いしてんのな、メンドクサイ。俺とあいつはただの仕事仲間だ」

「そうですね、そういうことにしておきます。それでお金は同額のものを用意しました。このカードでこの子のことをあきらめてはくれませんか?」


 そういうとポケットから決済カードを取り出すとセーギに見えるように腕を伸ばした。

 カードだけでは外見から金額はわからないためカードリーダーを助手に取りに行かせた。


「……ああ、わかったわかった。じゃあカードをよこせそしたらキンウはお前たちにやる」


 セーギはカガリに向かって腕を伸ばし、こちらに渡すようにジェスチャーをした。


「……え、本当にそちらでいいんですか?」

「ああ、金さえもらえれば食いつないくこともシェルターに戻って暮らすこともできるしな」


 迷いなく金を選んだことにカガリは確認を取る、セーギは頭に積もった雪を払いながら面倒くさそうに答えた。


「ええと、この子はどうなってもよいと?」

「そう言ったろ。早くカードをよこせ」


「そ、そうですか……どうやら私の見込み違いのようです。残念ですが、こういうこともあるのだと理解しておきましょう」


 ベルをちらつかせ顔を青白くするキンウに決済カードを持たせセーギの元へ運ばせた。


 キンウは真っすぐセーギに向かって歩く、カガリから十分離れいつ逃げ出してもいいころ合いだったが彼女は真っすぐセーギに決済カードとカードリーダーを渡す。


「ひどい顔だな何かされたか? 疲れてるなら先に帰っててももいいぞ、俺も何とかしてここから逃げるから」


 セーギがその二つを受け取るとキンウは元来た道を戻っていく。


「おい? 逃げないのかキンウ?」

「無理ですよ。見た目は自由ですが、精神的に彼女は鎖につながれていますから」


 このままだとカガリの元へ戻っていってしまうので、最後まで呼ぶ気はなかったがセーギは大きく息を吸い叫んだ。


「ヒナ!」


 瓦礫の陰から三人のヒナが一斉に飛び出す、同時に防寒着を脱ぎ薄着になると屋のごとく走り出した。

 三人とも走りながら黒いナイフを抜き構える、


 ユメが目くばせでホマレとユウに指示を出し二人はキンウの方へ向かう。

 助手は薄情にも装甲トラックの中へと逃げ込みドアを閉めた。


「あら? かわいい子たち、あの子はさっきの子ね」

「ヒナ、なんでここに!?」


 ユメが向かってくるのをカガリは興味深げに見ており、傘に積もった雪をユメに向かって振りまいた。

 一瞬怯んだもののユメはすぐに体勢を立て直す。

 しかしカガリは首を狙った攻撃は傘の柄で跳ね返された。


「初めまして、足早いのね」

「っち」


 距離をとりホマレとユウがキンウの手を引いて逃げるのを確認するとユメも急いで逃げ出した。


 ヒナ二人に連れられたキンウはセーギの後ろまで連れられて止まる。


「私を売ったんじゃあ?」


「お前俺と初めて会った時にここでのルールみたいなこと言ってたよな。んっと、まず自分の安全だろ、俺は無事だ。次に物の安全、このカードの事だろ。最後に他人の安全とか言ってたな、協力者がいたからそっちはついでだ、どうだこれでいいんだろ」


 決済カードをカードリーダーにかけその金額をキンウに見せる。


 傘を捨て逃げ出したユメを雪が積もりだした冷たい地面にねじ伏せ取り押さえ、カガリはセーギに向かって言う。


「おお……これはこれは……予想外です。すばらしい、少しばかり余計なものが多いですが、勇者はパーティーを組んで来たということにしましょう」


 キンウをセーギに預けホマレはユメの救出に向かう。

 流石に二人も一人で取り押さえることはできないためカガリはユメを離してトラックの方へ逃げ出す。

 隙をついて逃げだしたユメはホマレと一緒にカガリに立ち向かう。


「下手に動くとその綺麗な顔と髪ズタズタにするよ」

「ほんとすっごい綺麗」


 ユメとホマレがカガリをトラックの側面に押し付け追い詰め顔に黒いナイフを突きつける。


「それは……少し怖いですね……。ごめんなさい、これで見逃してくれませんか?」


 まさか閉められたドアをロックしているとは思わずトラックに逃げ込めなかったカガリは、ひきつらせた笑顔でポケットからベルを取り出す。

 手のひらに収まる様な小さなベルで鳴らすと透き通る音が鳴った。


「馬鹿にしているの?」

「こんなもの貰っても嬉しくないんだけど?」


 二人が不愉快そうな顔をしたが後ろからかかった声にカガリにナイフを突きつけていることも忘れ振り返った。


「それを取ってどっかに捨てて!」


 キンウが震え声で叫ぶのでユメとホマレは不思議そうな顔をしてお互いに顔を見合わせ先ほどの意見を変えた。


「よくわからないけど、それを渡して」

「わかったそれでいい。渡したらさっさと消えて」


 前進に力を入れ体を固くしてキンウが強張った口調で要求をのんだ。


「あいつを人質にお前なら逆に交渉すると思ったんだけどいいのか、キンウ?」

「……うん」


 ユメがそのベルを受け取り二人はカガリから離れた。


「ごめんなさい。今後一切私はあなたに手を出しませんから、このまま行かせてくれませんか?」


「わかりました。じゃあさっさと行ってください」

「もう二度と私たちの前に現れないで」


 予備の鍵でカガリは装甲トラックに乗り込み助手の腹に拳を撃ち込むと、トラックはエンジンをかけすぐに防壁の穴から廃シェルターから出ていく。



 装甲トラックを見送り、一息ついた一同は一か所に集まる。


「終わったな」


 エクエリを使わずほっとしつつ防壁を抜けていく装甲トラックが途中で考えを変え引き返し、轢き殺そうとしないか警戒しながらキンウに話しかける。

 その手に決済カードを持ったまま。


「うん。助けに来てくれるなんて思ってなかった」

「こいつらが五月蠅くてよ。どんだけ慕われてんだ」


 不思議な顔をしながら戻って来たヒナからセーギはベルを取り上げる。


「お前何でこんなもの欲しがったの?」


 セーギは手にしたベルを数度鳴らす。

 するとキンウの体が硬直し彼女の額に汗が噴き出てくる。


「やめて……下さい」


 注射を打たれるたびに聞かされた音色でそのベルの音を聞くたびに体中に激痛が走る感覚がよみがえる。


 頭でもう注射を打たれないと思っていても心が体がその痛みを覚えている、そして言うことを聞かなければ打たれ反抗しても打たれる記憶があるためキンウはセーギであっても強く出ることはできなかった。


「どうした? おいおい冗談だろ、演技とかじゃなくてか」


 ふざけて鳴らしていたが抵抗せず奪おうともせず突っ立ったまま震えるキンウを抱きしめセーギはベルを握りつぶした。

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