悪 6
軽装甲車両は隠れ家の前にとまる。
「ついたぞ。降りろ、荷物をさっさと下すんだから黙って動けよ」
すぐにセーギは後部へ回りトランクを持って隠れ家に続く建物の階段を上がる。
ユウが後部座席のドアを開けるとユメとホマレが悲鳴をあげながら荷物とともに転げ落ちた。
「うう寒っ」
「風が出てきたね」
「おれらこんなことしてる場合なのか?」
「こんなの捨てればいいのに」
「でも、外装の装飾は綺麗だよね。捨てたくないってのもわかるけどさ」
「これどこに持っていけばいい」
ヒナたちがダラダラとしているうちに上の階にトランクを置いてきたセーギが三人を一喝する。
「上だ、この建物の上に運べ!」
トランクを二つ持ってセーギは階段を上がっていく。
そのあとを軽いトランクを一つずつ持ってユメとホマレが追い、見栄を張りセーギと同じくトランクを二つ持ったつらい表情のユウが追う。
「こんなところに住んでるの?」
「上を見上げてないで、大きく割れてるから足元気を付けてよホマ。転んだら大変だよ」
「……重い、これ中身が入ってるやつか」
「早く来い、急いでるんだから」
「わかってる、今行くよこれ何階までもっていくの」
「うわ、虫死んでる。あ、ホマ踏んだ」
「いいから先に登ってくれ、腕が……」
荷物はすべて下すわけでなく助けたキンウが乗れる分を開けるだけで十分なため、車から荷物を下ろすのは一往復で済ませ急いで車の元まで戻る。
「荷物置いたらさっさと行くぞ、家の中はキンウ助けてから案内してもらえ」
「急いで助けに行かなきゃ」
「あ、ホマまた踏んだ。おっとと」
「ユメ、階段で急に止まるな危ないだろ」
荷物を家の前まで運んだ4人は急いで階段を下る。
「あいつ待ちくたびれてるだろうから、さっさと行くぞ」
駆け足で車に乗り込む、ユメとホマレはようやく並んで座ることができた。
セーギがエンジンをかけようとしたが車は動かない。
「どうしたの?」
「何で出発しないの?」
「早くいけよ、後は助けに行くだけだろ」
「この短時間で冷えたか、いやガス欠か? おいおいだってメーターは……壊れてるのかよポンコツめ、暖房意外にも壊れてるなら行っておけよ、この忙しいときに……お前ら下りろ別のでいく、あれはどこだったけか」
動かなくなった軽装甲車両を捨て冷たい風が吹く外を四人は走る。
注射を打つたびに手当てした肩の傷口が大きく開き、そのたびにカガリはキンウの手当てを繰り返す。
ぐったりとして虚空を眺めるキンウはカガリが手当てしている間、解放してと小さな声で懇願していた。
「それにしても来るのが遅いですね、車に何かしかけられてないか警戒でもしているのでしょうか? それにしても真っすぐここへ来ればもう来ていてもおかしくない時間でしょう? 迷子にでもなっているんでしょうかね」
「……ない」
「え、なんですか?」
「セーギはここに来ない、来るわけがない!」
「え? えっと……」
「あなたとあの彼は仕事以外でも一緒にいる仲なのでしょう?」
「まだあって半年だし、報酬は未払い、仕事は重労働は押し付けてばかり、まぐわったこともない、セーギの嫌がるからかってばかりだし。それにこの間生体兵器がいるところに置いていった」
「……彼の事すき……なんですよね?」
「わからない、知らないよ。おとうさんもおかあさんも死んだし私を助けてくれたヒバリさんも死んでしまった。心を許せば失った時の悲しみが大きくなる、だから」
「人に心を開くのが怖いのですね。一度話を変えましょう、話している間は注射しませんから」
「本当に!」
「ええ、では話をしましょう。あなたは今までどうやってこの廃シェルターを生きてきたのですか」
「セーギ以外にも前線基地から逃げ出した一般兵はずっと前からいた、そのなかでもどこにも属さずにいたはぐれ者に声をかけ私の仲間にしてきた。複数名いると私を襲おうと考えるだろうし、たとえ一人だったとしても睡眠時襲ってきたやつもいた」
希望にすがる思いで考えるより先に思いつく限りの言葉を吐き出す。
「法も秩序も理性もない、実に野蛮な。私があなたとの会話中、ええとシェルターに資料を届けてきてくれた時にいた彼しかいないということはほかは皆死んでしまったのですか?」
「ええ、だいたい3割は生体兵器に……7割は私が、でもでも私は悪くないです。全部向こうが先ですから、私は後日後ろからさくりと」
言っていい話かどうかわからなかったが会話を止めるわけにもいかず、精神的に疲労したまま言葉の内容を自分が理解する前に注射を打たれたくない一心でとめどなく言葉があふれだす。
「あなたもたいがい非道ですね、張り付けておいて正解でした。でも、殺人級の事件は……シェルターの外だとそういうのは日常茶飯事なのでしょうか? まぁここは裁く人もいませんしね」
なんとなくで人を攫い意味もなく激痛を伴う薬を気まぐれに投薬し続けるカガリは、このシェルターの生活に怒りと呆れを見せる。
「なるほど……でも、もし今日中に、夜までにしましょう。それまでに彼が来なければここをたちます。それで、あなたはこのまま連れて帰ることなりますが、その後私の道具となってもらうか特殊施設シェルタータタラへと送ることになるでしょうね……どちらがいいかは移動中に考える時間がありますので、その時は覚悟してくださいね」
カガリは一度大きく伸びをするとキンウから離れる。
「この部屋は暖かくて少し眠くなってきました、あなたの血でゴミ箱がいっぱいになってしまいましたし外の冷たい風を浴びるついでに、表に捨ててくるので少しばかりここで待っててください」
手足をつながれ精神も消耗し暴れる力すら残っていないキンウは、カガリがこのまま戻ってこなければいいのにと外へ出ていくのを見送った。