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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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悪 5

 装甲車はまっすぐ壊れた防壁へと向かっていたが、途中で急に方向を変えた。


 特に道の先に何かがいたわけでもなく、曲がる道を間違えたわけでもなくセーギは運転を続ける。


「あれ、タイヤの跡と違う」

「何で? どこ行くの?」

「トイレ?」


 突然の道の変更に首を傾げるヒナたち。


「一度家に帰る。キンウ助けても荷物が多くてこの車にもう乗れないだろうが」


 振り返らずとも後部座席はユメとホマレの二人が抱き合うようにして崩れた荷物に埋まっており、これ以上人の入り込むスペースはない。


 今こうして走っている間も段差や瓦礫に乗り上げた拍子にどこかの荷物が崩れている。


 ーーホマレに言っていた壊れた防壁で待っていると言っていてことが本当なら、キンウは何かしらの交渉の材料にされる可能性が高い。


 ーーキンウを誘拐した理由が金の返金だとしたらその金はすでにない、今更返せと言われても手遅れだ。


 生体兵器のいる廃基地に行く前から危険な感じはしていたが、仕事が終わっても嫌な感じが続くとなると次辺りは本当に命がないかもしれない。


「何で、荷物何てその場で降ろせばいいじゃん。今こうしているうちにあの人が……」


「いい加減あの人って呼ぶのやめろ。キンウが偽名って知ってるがイラっとする。呼び方は普通にキンウって呼べばでいいだろ」


 セーギが少し口調を強めに言ったこともありそれきりヒナたちは黙り込む。


 キンウ自身の名前も偽名だと知っているヒナたちは彼女の本当の名前を知っているのだろう、しかしセーギの知っている彼女の名前はキンウだけであり本名が知りたいわけでもない。

 優先すべきは彼女の救出だが、そのまま連れ帰らずに待っているということは何らかの取引があるということ、荷物を下ろして彼女を救出したとして助けた後であれがないこれがないとうだうだ言われるのは好きではない。


 だからあの人と呼んで意識して名前を隠しているあたりに苛立ちを覚えた。


「……ねぇ」


 しんとしていた車内でユメが恐る恐るセーギの機嫌を探るように話しかける。


「なんだ」


 運転を続け振り返らず返事だけ返す、それを怒っていると感じたのかユメは弱弱しい声のまま話を続けた。


「本当にあの人……キンウさんを助ける気はあるの? だって、一度生体兵器の囮役に置き去りにされたんでしょ」

「ああ、そうだな。でも俺が仕返しする前にいなくなられると、俺のもやもやが晴れないだろ」


「ほんとに助けてくれるの、信じていいんだね」


 屋敷の前で話してきたユメと同じ人物かと思うほどに少し弱々しい口調に、セーギは自分が怖がられていることに気が付いた。


 ヒナたちはまだ子供であり、セーギがキンウに侮られていたこともあって少しばかり調子に乗っていたのだが、すこし強めに言った効果で現在三人ともおとなしくしている。


「逆にお前たち乗せてここまで来て俺どうする気なんだよ。養えないぞ。言っとくけどな俺は半年間キンウと暮らしていて、貴重品や金属探し以外したことないから一人にされると俺が困るんだ」


 ユメだけでなく他のヒナたちも黙ってしまい、大きなため息をついた後セーギは自分ができるだけ優しい声を作って答えた。


「……わかった、ならこの寄り道も黙ってるよ」

「どこで荷物下すの、ヒモ男」

「こっちは夕飯までに帰りたいんだけど、それまでには終わるよね」


 声色から怒っていないと判断すると、またヒナたちの明るい声のボリュームが上がっていく。


「好き勝手言いやがって、特に二番目。ついてきたのはいいとして、大体お前たちとキンウにどんな関係がある。もしかしたらキンウを助けるときに怪我するかもしれないんだぞ」


「俺は親とはぐれ一人で戦場となったこのシェルターで、行く当てもなく彷徨っているときにあの人と出会った、精鋭の人と一緒に先生のもとまで送り届けてくれて、あの人との出会いが無かったら生体兵器に食われてたのかもしれないし攫われてどこかに売られてたのかもしれない、まだ助けられるなら俺は戦う」


 ユウは決意を固め黒いナイフを取り出す。


「先生のところで友達もできなかった一人だった私にあの人は優しかった。親に捨てられ生体兵器の侵入で精神的に傷ついてた私をあの人は夜も付き添ってくれて、まっとうな精神状態に直してくれた。その恩があるもの、私はあの人を助けるためにできることならなんだってやってやる」


 ユメも言葉に強い意志を込め荷物に埋まりながら答えた。


「私にもあの人には恩がある。それも二人とは比べ物にならないほどに。……私は一度攫われた、そとの景色が見たくて少しだけ……その抜け出したときに。偶然だったとはいえ非合法の人身売買の奴隷商の取引現場にキンウさんとその時の仕事仲間の人が金属探しの帰りに出くわして助けてもらった。今度は私が命に代えてでも助ける」


 ホマレも荷物に埋まりながらキンウ救出に覚悟を決める、そして体を起こそうとした際にさらに荷物がバランスを崩し二人の上に空のトランクが落ちる。



 意識が回復すると気を失う前のことが夢ではなかったことを再認識するキンウ。

 そして虚ろな目をしたキンウが動く人影に向かってかすれた声で訪ねる。


「なんで、何で私の居場所が分かったの?」


 突然話しかけられたことに人影はかわいらしい声を上げ驚く。


 人影はキンウに近づき目にペンライトの光を当て意識がはっきりしているか確認すると返事を返した。


「ああ、それですか、簡単な話です。あなたが私と出会った資料を持って来てくれた時に発信機をね、こっそりとつけさせていただきまして。その発信機を追ってドローンと飛ばしあなたを追ってきたわけです、特定危険種を追うときと同じやり方ですね」


 かいた汗を拭きとり、そのついでに白い肌からあふれ出す肩の傷口の赤い血を一緒に拭いた。


 傷口に触れられた際小さくうめいたが手当てをすると多少なりキンウは落ち着き、恐怖におびえる目でカガリのことを見た。


「りゆうは、私をねらった理由」


 自分の言葉を確かめるように最初の言葉を言い直すキンウの頭を撫でながら彼女の耳元でカガリは囁く。


「え、ああ。面白そうでしたから」


 キンウが抵抗の意を示したが手足をつなぐ加瀬はびくともせず彼女のすすり泣く声が部屋の中に響く。


「シェルターにはいないんですよ、こう……なんというかあなたみたいな、人を人として好きになる人がね。誰もかれも収入や顔で決めつけ飽きたら次に移るという人を物や飾りとして、ステータスとして付き合い苦楽を共にしようとせず嫌になったら分かれるという愛も恋もないい恋愛ばかりで、それであなたに目を付けた。面白そうだったから」


「そんな、そんなことで私は」


「ええ、たまたま私の興味を引いたからというのが大体の理由ですかね」


 会話を続けながら注射器でアンプルの中身を吸い出す。


「もうやめて……抵抗しないから……」


 キンウが祈るようにつぶやいた声にカガリは聖母のようなほほえみを浮かべ。


「いやです」


 と答えた。

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