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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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悪 4

 淡いオレンジ色の電気ヒーターの光が室内を照らす。

 暗く温かい部屋でキンウは服を剥がれて鎖につながれて寝かされていた。


 艶のある髪がオレンジ色の光を反射させながら動いている。


「あ、気づかれましたか。驚かせてしまいましたね、ここは私たちの所有する装甲トラックの中ですよ。驚かれるかもしれませんが、あなたは捕まっています」


 資料を渡しにいったシェルターで話したときのように優しい声でカガリは赤い強化繊維のコートを手にしたままキンウに話しかける。


 暗い部屋に繋がれ恐怖で声が出なかったが、それでもなんとか絞り出したかすれる声でキンウは尋ねた。


「なんで、わたしを?」


 しかしカガリは質問に答えずキンウの方の傷にそっと触れる。


「この傷はどこで?」

「いつっ。……資料を取りに行ったとき生体兵器に」


「そうですか。ではこの傷は私のせいなんですね」


 肩の傷を撫でまわし強く押したりかさぶたを剝がしたりするカガリ。

 キンウには自分が痛がるのを面白がっているようにも見えた。


「ここはどこ、何で私は繋がれてるの?」

「私はね、魔王になりたいんです」


 それが質問の答えと理解するまで数秒かかったが、カガリの答えた意味は分からず平然と魔王という単語使ったカガリにキンウの背筋は凍る。


 怯えた様子のキンウを見てカガリは嬉しそうに話をつづけた。


「話がひどく飛んでしまいましたね。変な誤解をしないように言っておきますけど、私はゲームが好きでして、そこに登場するボスキャラ、魔王にとても興味があるんです」


 カガリが言い直してもキンウはその言葉の意味を理解できず、彼女に対する恐怖だけが蓄積していく。


「それで何がしたいかというと、魔王にとらわれたヒロインを助けようとする主人公の姿が見たいのです。わかりますか? 私は魔王であなたがヒロイン、まぁ、退治される気はありませんが彼が来たら、こちらから条件を出しあなたを助ける気があるか確かめます、ああ、かっこいい台詞が聞ければいいですね!」


 もはや何を言っているのかすら理解できず、自然とキンウの目に涙が浮かぶ。


 そんなことは気に留めず、徐々にテンションが上がっていくカガリは次第に青ざめていく彼女を見下ろす。


「ところであなた、この近くにあるヒバチというシェルターに行ったことはありますか?」

「そこは……もともと私はあのシェルターの生まれです」


 反抗的な態度は危険と判断しカガリを刺激しないように丁寧に答える。


「ほう……では、あなたはあのシェルターについて詳しいのですか? シェルター全てに電力を送る発電所の位置とかあのシェルター地下街が複雑でしょう、そのあたりとかわかりますか?」


 カガリがなぜ廃棄されたシェルターヒバチに興味を持っているかわからないまま、キンウはその質問に黙ってうなずいた。


「そうですか、それはなおさらこれを試す価値がありそうですね。それではお喋りはここまでにして、あまり自信はありませんけど私の悪役っぷりをどうぞ身をもって体験してください」


 そういうとカガリはコートを畳んでキンウのそばに置き壁の棚から一本の注射器を取り出した。


 同じ棚から取り出したアンプルの中身を注射器の中へ移すと、ポケットから小さなベルを取り出すとキンウの肌にその針を刺す。


「ま、まって」

「ちなみにいくら叫んでも今は誰も助けに来ませんから。防音ってこともありますけど、そもそもここは廃シェルターですしね」


 注射器の中身をキンウに移すとカガリは手にしたベルを鳴らしながら数歩キンウから離れ柔らかな笑顔を浮かべる。


 ベルからは耳障りの良い柔らかい音色が響いた。


「それでは、痛みが引いたころに戻ってきますから、ごゆっくり」


 キンウに薬の効き目が現れ始めたのを確認するとベルを鳴らしながらカガリは扉を開け部屋から出ていく。

 声が出なかった先ほどと違い喉がつぶれるほど絶叫し、痛みで暴れるも繋がれた鎖はちぎれることはなくキンウを床に張り付けた。



 どれくらいたったか、しばらくしてカガリが戻ってくる。

 その手にはストローの入ったコップが握られており、それをゆっくりキンウに飲ませた。


「気分はどうですか? お水持ってきましたよ」

「何で、私が何をしたの?」


 震え枯れた声でキンウは尋ね怯えた目でカガリを見た。


「いえいえ、あなたは私に大事な資料を届けてくれました感謝しています。おかげで白紙に戻った計画を再始動させることができます」

「そんなの知らない。何でもいい、なんでもする、殺さないで、誰にも言わないから、助けて」


 雰囲気づくりが予想以上の効果を発揮し、彼女は発狂寸前いつ理性を手放し暴れだすかわからない状態になっていた。


 首を振ってこたえるとカガリは小さくため息をつき、明かりをつけ彼女が落ち着くのを待つ。


 繋いである手足を開放すればもう少し落ち着くだろうと思ったが、その瞬間襲いかかられると抵抗できないので彼女には寝たままでいてもらうことにした。


 落ち着きを取りもどすとキンウの横に折りたたまれておいてある衣服を取り、カガリは彼女に見せるようにして話を変える。


「シェルターの通行書、これを手に入れるの大変だったでしょう。書類何枚も書いてお金集めて」

「そうでもないです、昔の仕事仲間が作ってくれたので」


「昔の? 今いる彼とはそれほど長い付き合いではないんですか?」

「はい、彼とは半年前に……これ、どこまで話したら解放してくれますか?」


「解放? しませんよ、言ったでしょう私は魔王だって。魔王はそんなことしませんもの。あなたゲームしたことはありますか? 命乞いを無視し命を軽視し悪逆の限りを尽くす魔王」


 絶望した表情を浮かべキンウはカガリから目を放し何もない空間を見る。


「ところでこれは強化繊維で出来たコート、精鋭の支給品のものですね。色も落ちて破けてるしかなり古いものですがこれをどこで?」

「もらったんです」


「ほう、誰から? どのような経緯で? 強化繊維は簡単に人に渡してはいけないんですが……さてさて」

「これがほしいのなら差し上げます。だから、私を開放して」


「いえ、それはあまり関係ないんですけどね。ただ気になっただけで。それでは二度目と行きますか」

「やだ、やだやだやだ」


 つけた明かりを消し、再び手にした小さなベルを鳴らしカガリはキンウに注射を始めた。




 ひび割れたアスファルトとこの間降った雪が解けぬかるんだ地面を、セーギとヒナたちが乗った装甲車両は出せるだけの速度を出して大通りを疾走していた。


 走る先には柔らかくなった地面につい最近ついた大きな轍があり、車はそれをたどっていた。

 ヒナ同士の会話でセーギはアウェイを感じながらも黙って車を走らせている。


「タイヤの跡追うのはいいけど、壊れた防壁の場所はわかってんの」

「相手は何人だったホマ……。ああもう、もうこれ自己紹介してもいいよね、どうせこの男、そのうち死ぬんだし」

「だなもういいか。いくら誰が誰だか名前がわからないようにって言ったって、ヒナって俺らは言いなれてないし、ややこしい。そもそも攫われたらそれまでだもんな」


 好き勝手に話していたヒナたちはセーギを見る。


「あ、俺がいつ死ぬって? 前線基地から走ってここまで逃げてきた、俺の生命力の高さなめんなよ。壊れた防壁の場所も知ってる。というかこのままこのタイヤの跡追えばいいんだろ」


 急に不吉な言葉を添えて話をふられセーギは機嫌を悪くする。


 セーギ話など少しも聞いておらず、キンウが聞いたら何と思うかここまで隠していた名前を名乗り自己紹介を始めた。


「いいから黙って運転してて、私はユメ。なれ合う気はないからね」

「私はホマレ、短い間だけどよろしく。アンタの横に居るのはユウ。趣味は木彫りの何か」

「ん、自己紹介とられちまったし。まぁ、よろしく。って、木彫りのなにかってなんだ木彫りで十分だろ」


 ニット帽のヒナ、ユメが自己紹介を終えるとマフラーを巻いたヒナ、ホマレが自分の自己紹介とファーのついたフードのダウンジャケットのヒナ、ユウの紹介をした。


「へたくそで何作ってるのかわからないんだもん。ね、ユメ」

「前に私にくれた奴は頑張った渾身のできなのかもしれないけど、ウサギってぎりぎり分かったレベルだからね」

「まだ練習中なんだよ……って、ユメお前喜んでたじゃないか」


「言い訳かな、ユー?」

「そりゃあんな自信満々に渡されて、いらないって返せないでしょ。あの時は空気読んだの」


 セーギは口に手を当て、今からトンネルへ引き返して旅行気分ではしゃいでる三人を本気で置いてこようか悩んだ。

 キンウを助けに行って逆に外へ出たことにうかれたこの三人が捕まる様な気がしたためだ。


「それ今言う話か、お前ら本当にキンウを助けに来たんだよな? それを理由に外へ抜け出したとかじゃないんだよな」


 ヒナたちに向けていったその言葉は誰一人聞いておらず、セーギのむなしい独り言となった。

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