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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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悪 1

 ヒナたちを連れたままキンウはセーギとともにここに住む子供たちの描いたであろう落書きだらけの廊下を歩き建物の外を目指す。


 移動中ずっとキンウはセーギを警戒するヒナたちのここ最近の近況報告を聞きながら歩いていて、その先頭をこの建物の間取りの知らないセーギが歩き道を間違えるたびに、彼の存在を思い出したかのように彼女が訂正する。


 何度か道を間違え建物の外が見えたところでキンウはヒナたちから離れセーギの腕をつかむ。


「セーギはこの建物で待ってて。私いったん車に置いてきた荷物持ってくるから」

「ここでか、何で今更? もうここでの話は済んだだろ、俺も戻る。なんだか知らないが荷物なら俺が持ってきた方が早いだろ」


 そういって外に出ようとしたがキンウは強くセーギの腕を引いて止めた。


「大丈夫、すぐ戻ってくるから」

「まてまて、俺ここで待ってるってこの二人とか? ちょっと待てって、この二人俺の事監視してるんだろ、気まずすぎるだろ!」


 振り返ることなくすぐ戻るからというとキンウは、セーギとヒナ二人を残して走って緑の壁の迷路へと消えていってしまった。


 視界からキンウがいなくなるとヒナたちはセーギから一定の距離を取る。


 ヒナに見張られているセーギは、畑を作るときに剥がした石畳が積まれている場所に腰を下ろしてキンウの帰りを待つことにした。


 ファーのついたフードのヒナは木片を拾い上げポケットから取り出したナイフで削り始めた。


 ニット帽をかぶったヒナはポーチに入った本を取り出し読書を始め、しかし二人ともちらちらとセーギの方を見て彼の一挙一動を警戒している。


 外は風が冷たいので建物に戻ろうとも考えたがヒナたちが付いてくると考えると、建物の中より外の方が開放感があり少なくとも狭い空間よりかは居心地がいいのでセーギは仕方なく寒さに耐えることにした。


 しばらくして読書をしていた方のヒナがセーギの方へと歩み寄ってくる。


「……ねぇ」

「なんだ?」


「……あの人とどんな関係」


 静かに話すニット帽をかぶった髪の長い方のヒナ。

 セーギは座ったまま彼女の冷たい表情の顔を見上げる。


「あ? 仕事なか……なんだっけ家族だっけか、合言葉は」


 帽子のヒナの問いにセーギはうっかり平常通りの答えを答えそうになり、キンウに言われたことを思い出して急いで訂正した。


 溜息をつきセーギを見下ろすヒナは少しいらだった様子を見せながら話しかける。


「そういうことを聞きたいんじゃない。敵意はないのは観察していて分かって、だからこっちから話しかけた。で、どんな関係なのか知りたい」


 ナイフで黙々と木片を削っていた方のヒナもセーギに行動に注意を向け、木片とナイフをしまい二人の会話に耳を傾けている。


「どんなって、どんなだよ? どういう答えを聞きたいんだよ」


 ナイフを向けられるのにも慣れてきたセーギは目の前に立つヒナを見上る。


 見上げられたニット帽のヒナはみるみる顔を赤く染めていき、声を上擦らせながらセーギを見下ろす。


「……そ、っその……に、肉体的な関係なのかとか……」

「バッカじゃないのか! 子供のくせにませやがって」


 間髪入れず言うとニット帽のヒナはさらに顔を赤くして顔を伏せる。


「……違うの?」

「違う違う。そもそもあいつにそんな気持ちはねぇよ。都合のいい時だけ猫なで声で甘えてきて、一番大事な時に素直になって、だます時だけ急にまじめになって、それだけだよ、なんもない」


「そう……」


 反応はすごく腑に落ちない感じだったか、それきりヒナはしゃべらなくなった。


 喋らなくなったがしばらく彼女はその場から動くことはなくセーギを見下ろし続けた。


「なんだよ?」

「いや……別に……。ただ、初めてあの人がここに仕事の人連れてきたなぁと思って」


「ああ、俺の前にも何人かいたんだっけか。いつだったかみんな生体兵器に襲われたって言ってたけど、あれたぶん嘘なんだろ。あいつが自分だけ逃げる為に囮に使ったんだろ?」


 それを聞いたヒナは目を丸くし驚いた様子を見せたが声は静かさを保ったまま、……そこまで知っててなんで一緒に? と疑問を投げかける。


「まぁ、あいつのところに住む以外他に居場所がないからな。ここから故郷のシェルターに帰るにしたって地図がないことにはどうしようもないし、この間半年間暮らしてきて初めてあいつがこの辺り一帯の地図を持ってること知ってちょっとショックを受けたよ」


 時々、質問をやめようかどうしようか口を開きかけては閉じ迷いながらもニット帽のヒナはセーギに質問を続ける。

 その話をファーのついたフードのダウンジャケットのヒナもずっと黙って聞いていた。


「あの人がそういう人だと知ってて、次は自分が囮にされるって思わないの?」

「されたよ。ほんとつい最近な、今考えてもよく生きてたと自分でも感心してるよ」


「そんなことされてるのに、怒ったりしないの? 殺されかけたんだよ?」

「な、でも殺そうとしてるのは生体兵器だろ。あいつは俺を逃げただけであいつが俺を殺そうとはしてないだろ。いくらか許せない部分があるが生体兵器を見て逃げ出すのは当然の反応だろ」


「そんなの捉え方の問題じゃぁ……生体兵器のいるところに置き去りにされたりしたことないの?」

「だからそれをついこの間されたんだよ。まだ話どっかでこんがらがってるのか?」


 セーギは立ち上がり目の前に立つヒナの正面に立つ。


 どこからか足音が聞こえキンウの消えていった方角からマフラーを巻いた少女が走ってくる。


 ここに来た時畑でキンウに頭を撫でられていた少女で彼女はセーギを視界に収めると一段と走る速度を上げる。


「お前は、畑にいた時に後をついてきていたヒナだったよな? なんか用か……ちょ、おい、止まれ!」


 全速力のまま減速することなく走って来たヒナはそのままセーギに体当たりする。


 目の前でとまると思いセーギには彼女を避ける気がなかったので、ぶつかった衝突の勢いでよろけてしりもちをついた。


 何事が起きたのかわからないまま他のヒナたちは仲間を助けようと反射的に黒いナイフをセーギの首元に突き付けていた。


「なんだよ! 俺は何もしてないだろ!」


 頭をさすり体を起こしセーギが怒鳴ると、彼の上に馬乗りになったマフラーを巻いたヒナが涙目になって口を開く。


「助けないと! こと……キンウさんが攫われた! 捕まっちゃった!」


 痛みから半分意味が分からず、少したって痛みが引いてきてからセーギは自分の上に乗っている泥だらけの少女の言っていた言葉の意味を理解する。


「攫われた? なんであいつが?」

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