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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
3章 幽霊たちの日常 ‐‐捨てられた場所で揺らめく光り‐‐
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中央 4

「それで、その金の使い道は? そんな大金ここで何に使うんだ?」


 セーギが隣に座っているキンウに言うと向かいの席の教師がその場で固まり部屋が静まり返る。

 溜息をつくと教師がじろりとキンウを睨んだ。


「なんだい、あんた何にも教えてなかったのかい?」


 彼女は慌てて席を立つと教師に頭を下げる。


「違うんです、言うかどうか迷ったんです。今まで……こんなこと今までなかったから、私どうしたらいいかわからなくてなんとなくでここまで……連れて来ちゃって。今急いで説明します!」


 そういうとキンウは席を立ちセーギの手を取って部屋の隅へ移動する。

 机に置くタイミングを逃し酒の入ったコップを持ったまま移動するセーギ。


 小さな部屋のため一、二歩移動しただけなのだが。


「ええっとね……このお金は、ここにきてうすうすわかってくれていてくれると嬉しいんだけど、ここの子たちの生活費に使ってるの。食事だけじゃなくて着替えや日用品とかもあるしそれなりの負担がね。んと、それで希少なものとか金属とかをその辺から集めてくるのは子供たちだけじゃ危ないし、他にここには仕事がないから。ここで育った誰かが代わりにお金を稼いで援助をしないと、行けなくて。ええっと、何て言えばいいかな……。あー、もう! とにかくそういうこと! わかった!」


 セーギを部屋の壁に押し付けちらちらと教師の方を見て、待たせてはまずいのか少し早口で話をするキンウ。


 他人を見捨てても自分だけは生き残るという、自分第一のような彼女が他人のためにそんなことをしているというのは信じがたいが、照れて恥ずかしさから顔を真っ赤にして頭を掻きながら俯くキンウをみてセーギは半信半疑のまま話を聞いた。


「この酒とかは?」


 そういうとセーギは手にしたコップを指先で弾く。

 弾かれたコップから物悲しい音が響いた。


「それは……」


 キンウが目を反らして黙り込む、代わりに教師が答えた。


「その辺は目を瞑っておくれよ」

「全然子供たちのためじゃねえじゃん。思いっきり自分のために使ってるじゃないか」


「まぁ、そういうこともある。息抜きには必要さ」

「あっちゃダメだろ、何やってんだ」


「ごちゃごちゃ五月蠅いねぇ。男なんだから細かいことは気にすんじゃないよ!」


 机を拳でたたきながらこの小さな部屋では必要のない大声で怒鳴る。

 ただの逆切れなのだが教師のその気迫がすごく、セーギは何か言い返そうとしたがあまりに迫力がありすぎて物怖じし何も言えななくなり口を閉じた。


 二人のやり取りを見ていたキンウは話を切り替えるように明るい声でセーギに話しかけた。


「それじゃあ話も済んだし、これは渡しちゃっていいよね」

「あ……あ、ああ」


 目の前にある途方もない額の大金をなんも未練もなく渡そうとしているキンウをセーギは納得はできないもののただただ見ているだけしかなかった。


 キンウが持てばそれなりの大きさがあった黒い決済カードは教師に渡され、大きな手のひらへと消える。


「はいよ、確かに受け取った。それじゃあ私はほかの子の面倒を見なくちゃならんからもう行くよ」

「はい、せんせー。私たちはもう少しここをふらついてから帰りますから見送りはいいですよ」


 決済カードをポケットしまうと返事を返し教師はまた大きな音を立てて扉を開き廊下へと消えた。


「何のためにこの部屋に来たんだ?」

「まぁ、聞かれたらだめなことと逃げ出そうとした相手が逃げられないように閉じ込めるような部屋。セーギがカードを奪って逃げだしても、その扉が硬くてすぐには逃げられないから捕まえるのが用意ってこと、私はその心配はしてないけどね」


「よそ者だから信用無いんだな」

「私は信用してるよ」


「カード受け取ってきたとき俺にナイフ向けてきたよな」

「あはは。あと外にヒナたちの何人か見張りがいて、先生以外が先にここから出ようとすると実力行使でとっ捕まえるの。本来ここはお酒を子供の手に届かないところにしまっておくための部屋なんだけどね、センセーがこっそりお酒を楽しむ場所だったりも」


「まぁいいか、帰ろうぜ」

「そうだね。あ、そうそう、閉めるときセーギここの戸閉めてね。私じゃ、この扉、押しても引いてもびくともしないから」


 開いた扉の方を見ながらそういうとキンウは酒に口をつけた。



 大金がなくなり祝杯ともいかずセーギは残った酒を飲み干す、チミチミと少しずつ酒を飲むキンウを待つと二人は部屋を後にした。


 教師は数秒で開け閉めしていた扉は重く硬く、二人係で押して数分かけてようやく閉めることができた。


 二人係で扉を押して閉めようとするその様子を、二人の子供が見守っていた。


 セーギたちを見ていた二人は扉を閉め帰ろうとする後をつけてきている。


「後から二人ついてくんぞ」

「ヒナだよ、セーギ。私たちの見張り、まぁ私たちというよりセーギのなんだけどね」


 後ろをついてくるのは二人の子供、ニット帽を目深にかぶった長い髪の女の子とファーのついたフードをかぶったダウンジャケットの男の子。


「俺に、なんで?」

「家族じゃない人、よそ者には見張りが付くんだよここではね。ここに来る時に外でも畑でもヒナが付いてきてたでしょ」


 そういわれセーギは一度後ろを振り返り後をつけてくるヒナを見た。

 セーギを警戒していて彼が振り返ると同時に二人は身構える。


 ニット帽の子は腰にポーチをつけていて文庫サイズの本が数冊そのポーチから顔を出していた。


 ファーのフードの子は黒いナイフのほかに数本のナイフを持っており、たくさんポケットのついたダウンジャケットから見え隠れしていた。


「そのひなってなんだよ。誰かの名前じゃないのかよ」

「んーとね、ここで育つちいさな雛鳥。要は子供がいることがばれちゃうと誘拐してどこかに売られたりものとしての扱いを受けたりされちゃうから、代わりに別の呼び方を決めようってなったの。本名や偽名は鳥じゃないの多いけどね」


 キンウは立ち止まり後ろを振り返るとついてきていた二人に飛びつき抱き寄せる。


 二人とも急なことに驚いていたが、すぐに頬を赤くして嬉しそうに頭を撫でたり冷たい手を防寒着の中に突っ込んだりキンウにされるがままになっていた。


「それで、まぁ、私を拾ってくれて人がヒバリさんだったからってのもあるけど、雛鳥ってね。ちなみに私がここで育った子供では一番年上なんだよ、知ってた?」


 ヒナ二人と肩を組んでセーギと合流するキンウ。


 それでもヒナたちは腰の黒いナイフにいつでも手が届くようにしてセーギの方を警戒していた。


「知らないし興味ないな。じゃあここにいる子供たちみんなヒナって呼んでるのか?」

「そうだよ。お客さんがいるときはね、いない時は普通に名前で呼んでるよ」


「それでここで育った他の子はどこにいるんだ、そいつらはここでは何で呼ぶんだ?」

「成人したら巣立つよ、それこそ鳥と同じようにね。独り立ち。近くのシェルターに移住権買ってそこに住むの」


「移住権? 保護じゃないのか?」

「本来なら保護してくれてもいいんだろうけど、異例というか特別なんだよ。そもそも、この近くのシェルターはハギとヒバチの生存者を受け入れたから、そんなに人を受け入れる空きがないの。年単位だけど短い期間中に二つもシェルターが壊れるとは思ってもないからね」


「ふーん」

「受け入れたシェルターはあまりにも人が増えすぎて一般兵を増やして前線基地に送って数をへらそうとしたんだけど、優秀な人が豊作だったみたいで連戦連勝。少し離れた所の他のシェルターへの移住や前線をあげて今新しい前線基地を作ってるよ、この辺りのどこのシェルターもね。そのおかげでこのシェルターの周りもグリーン地帯、滅多に生体兵器は出てこないんだけどね。とっとと、話しがずれた」


 そういうとキンウは一呼吸おいてから話をつづけた。


「まぁ、そういうわけでお金のない私は移住権が買えなくて、今もこの廃シェルターで暮らしているの。人の多いところあんまり好きじゃないから私はいいんだけどね。生体兵器だって地の利がこっちにあれば逃げられないこともないし、私が暴漢目的の大人の男性相手に負けないのも知ってるでしょ」


 嘘をつき少しを置いてからキンウは小さい声でセーギに尋ねた。


「セーギはシェルターで暮らしたい? 家に帰りたい?」

「まあな、生体兵器がうろついてなくて安全だし、道路も綺麗だし部屋だってガラクタだらけじゃないからな」


 ここに来た当初、多少の不便さは感じたものの半年も暮らせばそれにも慣れてしまい、今となってはあまりどうでもいいことなのだが、それでもシェルターで暮らして悪いことはない。


「ふぅん、ごめんね聞いてみただけ」

「あー、半年も音信不通になってれば戦死扱いになってるかもな、俺」


「戸籍抹消、移住権買わないとね」

「働いても給料の入らない仕事で、俺は文無しだけどな」

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