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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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前線基地、6

 サカキ・コリュウは彼女を追って入隊した。

 彼女と一緒にいたかったからただそれだけの理由で今、彼は命がけの戦場を渡り歩いている。


「教えてくれないなら、当ててやるー」


 イグサはコリュウが精鋭になった理由を当てようと必死に考えていた。


「お、当てられるかな。まぁ無理だろうな」


 それには、彼女がコリュウの気持ちに気が付いていないとおそらくわからないだろう。

 彼は彼女が絶対に当てられないと知っていた。

 当てずっぽうでも当たる可能性あるが。


「ちゃんと当たったら当たりって言ってよ」

「当ててからいってくれ」


 むきになっているイグサにからかうように答えるコリュウ。

 彼は不機嫌なのか楽しんでいるのか深く考える彼女を少しだけ思いに、気が付かれないかハラハラしながら見守もった。


「ぬぬぬ……」


 イグサは横になったまま腕を組み空を見上げる。

 そして何か思いついたようで体を起こした。


「女! わかったコリュウはモテたいんだ、うわっだとしたらドン引き。どう当たってる?」


 一言の間でひらめき、蔑み、疑問とコロコロと声と表情の変わるイグサ。

 コリュウは一瞬ドキリとしたがそれは唐突にイグサが大声を出したからで、当たってはいない。


「はずれ、精鋭ってモテるのか? 今までまったく実感ないぞ」


 イグサの答えにコリュウは軽く笑い飛ばそうとしたのだが。


「えー、私はよく声かけられるよ」


 イグサが冗談でそういうと笑いかけのまま表情が固まりコリュウは彼女を見る。


「ごめんウソ、そんなに私がモテるのが以外?」


 よほど大きなリアクションで驚いていたのかイグサは少し不機嫌になる。


「びっくりした、そういうことじゃないけどさ……」


 機嫌を損なうと少し面倒なのでコリュウはどう謝るか考える。


「今まで見たこともない表情だったよ、そんなに私がモテるのがそんなにショックか。私だってそれなりにモテるんだからね」

「わかったって、わるかった。そういう意味じゃないんだ」


「ツバメの話では、住んでいるシェルターに好きな人がいないから、恋人探しに精鋭になるって人もいるらしいよ、コリュウはそうじゃないの?」


 今の質問に少しだけコリュウの体が反応したのを彼女は見逃さなかった。


「本当は好きな人を探しに精鋭になったんでしょ?」

「だから違うって」


 コリュウが否定するも彼の反応がそれに近い何かだと思いイグサはむきになる。


「じゃあ何なのさって聞いても、どうせ教えてくれないんでしょ。精鋭の人の中には復讐とか、人の多いところが嫌いとか、戦いが好きとかあるらしいけど、コリュウはこれと違うでしょ?」

「まぁな」


「んー、わかんなーい……もういいや。いつか絶対当てるから、とりあえず帰ったらツバメに聞くからね」

「いやいや、それはずるいだろ!」


「あー、ここはあったかいなー」

「おい」


 抗議の声を上げるコリュウに取り合わず聞く耳を持たないイグサ。


「隊長に聞くのはなしだから、だめだからな」

「ツバメは知ってるんだー。コリュウも横になってごらんよ、ポカポカしてあったかいよー」


 話は終わりとばかりの雰囲気だったのでコリュウはそれ以上精鋭になった理由の話は言わず話を終わらせた。


「確かに今日は日が出てるからな、風もいい感じに吹いてるし」


 イグサに言われてコリュウも鉄骨の上に横になる。

 木材の上で寝ているイグサと別々の資材の上に座っているため横並びとはいかなかったが。

 鉄骨は日の光で温まっており気持ちよかった。


「硬いなぁ、枕がほしい」

「自分の腕でも置いて我慢しろ」


「そうする。ねぇ、そういえばここに来た理由って何?」

「さぁな、そこまでは説明受けてなかったな。今隊長が出てる会議でなんかわかるだろ、たぶん」


「じゃあいいや、私がこのまま寝たらコリュウ起こしてくれる」

「当然、さすがに放置はしてかないよ」


「お腹に掛けるタオルか何かほしいなぁ……コリュウの制服、上着貸して」

「自分の制服をつかえよ」


「やだ」

「ったく、新品なんだから地面に落とすなよ」


 そういうとコリュウは上着を脱いでそれをイグサに渡す。


「風で飛んでいかなければ、平気」


 彼から上着を受け取るとイグサは小さく畳んで頭の下に敷いた。


「体にかけるんじゃなかったのか?」

「枕にした、真新しい新品のにおいがする」


 匂いをかぐイグサを見て少しコリュウは顔を赤らめた。


「まぁ、新品だからな……というか寝ないのか?」

「眠くはない、寝たら起こしてくれるか聞いただけ」


「そうか、とりあえずこのあと帰ったら戦闘の準備でもしとくか」

「そうだね。私のエクエリはあんまし撃ってないけど、バッテリーは変えとかないとね」


「昼食べてからでいいだろ、会議終わったら隊長とも合流するだろうし」

「そうだね」


 ポカポカとした日の光、たまに吹く心地い風、工事の音も遠い、程よい暖かさでだんだんと眠くなってきた。

 だんだんとコリュウの意識が薄れていく。



 ……



「コリュウ、コリュウ起きてもうすぐお昼だよ」


 耳元でやさしく名前を呼ぶイグサの声が聞こえコリュウは跳ね起きた。

 彼のすぐそばに彼女の頭があり、眠そうな半開きの目が寝顔を覗き込んでいた。


「びっくりしたぁ。……ん、あれ。もしかして俺が寝てた?」

「私もだよ、危うく頭と頭をぶつけるところだった」


 また寝てしまったと慌てて起きるコリュウ。

 今回は放置されることなくイグサが起こしてくれたがその顔が近く、顔をほてらせイグサから距離を取るコリュウ。


「うん、起こすのが悪いと思うくらい気持ちよさそうに。だから、寝顔の写真撮って携帯端末に保存したんで、コリュウを起こす前にツバメに送っておいた」

「なんてことを!」


「声裏返ったよ、大丈夫?」

「急に変なこと言うから……本当に撮ったのか、送ったのか」


「うん」

「まじかー、まじかー、うわー」


「今更、なにも恥ずかしがることもないけど……」

「……え、なにそれどういうこと」


 イグサが小さな声で呟いたのを聞き逃さなかった。

 なぜか嫌な予感がすると身構えるコリュウに、彼女は携帯端末を取り出し画面を操作し始めた。


「実は前から何枚か寝顔写真撮ってるだよね」

「え」


 見せられたのはコリュウの寝顔、寝顔、寝顔。


「まだ枚数少ないけど、コリュウの寝顔のやつ。昨日もシャワー浴びる前に撮ってるし」

「え、え、え?」


「ツバメのもあるけど、見る? かわいいよ」

「それは見たい……けど今はそれどころじゃない、話をずらさないでくれ。それ写真って、フォルダー作るってどれくらい前から集めてたやつだよ。いつから撮り溜めていた」


「精鋭に昇格してから、ずっと。そりゃぁ同じ隊だもん。撮る機会なんていっぱいあったし。表出たら野宿だし交代交代の見張りの時なんて撮り放題だよ」


「なんてこった……っく、それを渡せっ」

「お断りします」


 咄嗟にコリュウは手を伸ばしイグサから端末を奪おうとする。

 彼女はしかし素早く躱し、彼から一定の距離をとるとその端末を胸ポケットにしまう。


「んじゃそろそろ帰る」

「いや、その前に写真を消せよ。フォルダーごと」


「やだ」

「俺の寝顔なんて集めても仕方ないだろ」


「そうだけどなんとなく、ツバメの寝顔はかわいいよ、子供みたいで」

「そういうことじゃない」


「後で一枚、いいのを選んでコリュウの端末に送るから」

「話を聞いてくれ……」


 女性の胸ポケットに入っている以上力ずくはできない、コリュウは消すようにお願いすることした出来なかった。

 しかし彼女は写真を消すことなくそのまま二人は兵舎の借りている部屋へと戻っていった。

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