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創生世界 ラグノガード ~アドネル-Y-ニクド神話外伝~

作者: ひすいゆめ

この話はシリーズの前回に作られた世界、ラグノガードと剣技の一族と異界の戦士の話の続編です。

新たな事実も出てくる微妙なシリーズの話です。

                    プロローグ

 少年は湖で木刀を振っていた。そこに水中から巨大な存在が現れた。それは彼に言う。

 「我はアドネル-Y-ニクド。上の異なる次元の者だ」

 しかし、彼はそれに対し無視して素振りを続ける。彼はさらに続ける。

 「いずれ、ここに我と同じ世界の者が来る。その前にここを去れ」

 そう言い残して消えて行った。

 次に鎧を着た存在が現れる。彼から発せられる気配に少年は手を止めて一瞥した。

 「我は断界の12刀将の1将、星流ほしながれ下弦かげん。この辺りにアークを狙った闇なる存在、魔将、月食童子げっしょくどうじが現れたはずだが、童よ、見なかったか?」

 しかし、話が見えなかった。首を傾げたが、下弦を待ち構えていた漆黒の鬼が木々の中から現れて、巨大な大剣を振り下ろした。

 「龍王剣奥義、業火斬」

瞬時に少年は下弦を庇って木刀でそれを受け止めた。

 「ほう、この剣を受け止めるか。ただの肩慣らしだが、人間の小僧が受け止めるとは見上げたものだ。我の家来にならんか、悪いようにはせん」

 彼は睨んで叫んだ。

 「走火斬」

 炎を走らせて少年の木刀は月食童子の胴に振られる。しかし、軽くかわされて剣先を鼻先に向けられた。

 「待て、狙いは我であろう。その者には手を出すな」

 下弦が剣を抜いて構えた。

 お供の遣い、12刀将が異界より召喚した聖獣ヴァジュラが矢のように跳んできて少年を咥えて童子から距離を取った。

 ペガサスのような角と羽根を持った白馬は脳内に直接声を送ってきた。

 「ここは逃げよ、下弦様を含め我らでは叶わない」

 そこに月食童子は剣を振り被って強大な力を発揮した。

 「僕はいい、彼を全力で助けろ」

 ヴァジュラは少年を落とすと、刹那、下弦の前に立ちはだかって光のバリアを角から発した。しかし、それは漆黒の鬼の大剣を抑えるのに5秒も持たなかった。

 と、同時にバリアが破壊されると同時に下弦はヴァジュラの上を飛び越えて剣を振るった。大剣はその剣を弾いて闇の雫を放つ。

 下弦の体は徐々に石化していった。

 漆黒の鬼は溜息をついて、少年に言った。

 「まあ、気が変わったら言え」

 そう言い残して姿を消えた。

 石化した下弦を見た森の民達が現れた。ヴァジュラは姿を隠した。

 「これはどういうことなんだ」

 人々が次々に現れ、長老が現れた。

 「荒神様を、なんてことをしたんだ」

 荒神というのは下弦のことらしい。

 そこで月食童子が現れる。

 森の民が跪いた。

 「奇神くしがみ様、お助け下さい」

 そこで、彼は意外な言葉を口にした。

 「少年、我は断界の12刀将の1将、月食の可畏かいである。お主が石化した者は同士であり、この村を納める3柱でもあるのだ」

 そこで、自分が図られたことに気付く。

 「荒神を戻すことは我でも叶わん。その少年を追放して時を待つのだ」

 彼の無情な言葉に村人は口々に少年を攻撃した。

 「悪魔の子だ」

 「なまじ、巨大なキャパシティの力等持っているから、こういうことになるのだ」

 「神早見家の一族の恥だ。また、技を乱発して石化系の剣技を誤って出したのだろう」

 「すぐに出て行け」

 森の民に言われ、彼は長老から荷物を与えられ放られてしまった。


 逃げるように森の中を北に駆けていると、湖の方からアドネルが再び現れた。

 「だから、言っただろう。あの場所から消えるようにと。かつての借りを返そうと思ったのだが」

 「借り?」

 「前世の話だ、気にするな」

 そして、北の山を指差した。

 「運命が待っているとだけ言っておこう。何があっても諦めるのではないぞ」

 その言葉に頷いて振り返るが、既にアドネルは姿を消した。

 さらに北に向かって少年は歩き出すと、追手なのか影の兵士が現れた。刀を抜くと彼に向かって襲ってくる。

 「目撃者を消すつもりだね、自分で来ればいいのに。…動けない理由があるのか」

 目を細めて少年は叫ぶ。

 「護硬受閃ごこうじゅせん

 少年は木刀でその剣を受ける。影は動きを一瞬止めた。

 「木刀で切れるのが不思議かい?俺の剣技は日本刀に使うものだから、まず折れたり刃こぼれのないように刀を強化するのが基本中の基本なんだ」

 距離を取って後ろに飛び退くと、上段の構えをした。

 だが、勝てる自信ははっきり言うと少年にはなかった。感覚的に相手の方が腕が上だということは肌で感じていた。

影が剣を構えて態勢を低くして駆け出したところで、胴が真っ二つになった。途端に切れた黒い紙人形になって2つになって風に飛ばされていくと、その背後に鎧を着た剣士が立っていた。

相手が敵か味方か見定めようとした。剣を納めるが気当てが続くので少年が尋ねた。

 「まさか、下弦の仇討ちで来たのか?」

 彼は優しく首を横にゆっくり振った。

 「私も見ていたんですよ、可畏の暴動をね。玄王の資格を持つ下弦は我々断界の12刀将の第1席なのです。彼が封じられると、断界は最大の危機に陥ります。だから、ヴァジュラを付けていたのだけど、巻かれて彼は騙されてあの地に降りたのです」

 「じゃあ、何故、それを黙って見ていたの?」

 「私達12刀将は各々特殊な能力を持っていて、私は眼の能力を持っています。動体視力や千里眼、邪視や空間全体を把握する能力です。だから、駆けつける前に見ているだけしか出来なかったのですよ。遅くなって申し訳なかったですね」

 彼は頭を下げるが、少年は寂しそうに手を上げて制した。

 「まあ、自業自得だし」

 「しかし、何故、幾ら君でもあの玄王の力を持つ存在を1人間が間違っても石化出来ないことを村人は理解出来ないのでしょう」

 少年は静かに呟いた。

 「神早見の一族で強力な力を持っているからさ」

 彼は首を傾げるが、切り株に腰かけて言った。

 「私は12刀将、新月の白澤はくたくです。立場上、私は単独行動を出来ません。後は貴方を護ることは出来ませんが、本当に危険な状況になったらこれを地面に投げて下さい」

 そう言って、白澤は1枚の白い紙人形を渡した。

 「憑代?」

 「では」

 彼は木々の中を高く飛んで姿を消した。

 深く息を吐いて歩き始めると、少年のところにヴァジュラが走ってくる。そして、袖を咥えて引いた。

 「どこかに連れて行こうというのか?」

 少年はヴァジュラに乗って森の横の湖の上を走った。ある岸に着くとそこにはアンティークの鍵が落ちていた。

 「これは古い洋館の鍵?違う。聖武具か」

 力を込めると鍵は日本刀に変化した。

 「不思議な能力が使えるのか。…能力変換の力かな」

 それを鍵に戻してポケットに入れると、今度はヴァジュラと共に森の北の山に向かった。ヴァジュラの羽根で空を飛んでいくと、山頂付近に古い社が見えた。そこに降りると、1人の青年が社から出てきて迎えた。気当てを受けたので、ヴァジュラから落ちそうになった。

 少年は警戒しながら、ヴァジュラを下ろすと飛び降りて構えた。

 「やあ、よくこんなところに来たね。俺は…あんどー、安藤龍あんどうりゅう。この神社の永遠の生き神であり神主だ」

 少年は敵ではないと把握すると、気当てが納まるのを待った。

 「流石だね、俺の気当てに普通に耐えるなんて。合格だ」

 そして、何も事情を聴かないで、社の中に導くとお茶を勧めた。

 少年は強くなりたいと伝えた。

 「君は森の民の一族だね。剣技の知識は大体入っていると思うけど、力のキャパシティは転生前のお蔭で強力だけど技と体力、発生がまだまだのようだね」

 そこで彼は自分の実力を見せる為に、鍵を取り出して日本刀にした。

 それを見た龍は眼を見開いた。

 「それは天御鏡あまのみかがみじゃないか。でも、百尾巻ひゃくびかんは宿っていないから、誰かが解放して連れて行ったんだな」

 少年は刀を構えて叫んだ。

 「大撃斬だいげきざん

 基本の大技、強力打撃の剣技を発した。彼らの剣技は略式詠唱で発動し、その言葉の数で強力度が変わる。今まで4文字だったが、3文字の大撃斬によりさらに強力な技を放った。

 最初に踏み込んだ地面は小さなクレーターのように凹み、次に刀を振り下ろすと大木が簡単に切り落とされて山の向こうに飛ばされて落ちて行った。

 そこでポンと手を叩いて少年に言った。

 「しばらく、ここにいると良い。俺が修行をして短期間で強くしてやる。ただ、小学校には行った方が良い。学校に上がる時はこの辺から出るぞ。それまでには、アスタロットくらい倒せるようにならないとな」

 「アスタロット?」

 「ああ、悪魔みたいな奴らだ」

 彼らは師弟となった。


                  エピソード0

                     1

 少年は謎の青年、龍に様々な異界のあらゆる知識や剣技、その他の能力や力の修行を受けることになった。

 「まずはあの場所で刀を取って来てくれ。それが最初の修行だ」

 龍は森の村近くの湖を指さした。

 駆け出した少年は、森の中を凄まじい速さで駆け抜けて湖の畔で立ち止まった。

 「この中に何かある」

 すると、影鬼が現れた。12刀将の1柱が召喚した刺客だろうと、少年は木刀を構えて凄まじい力を発した。

 剣技を発しようとする瞬間、その影鬼は光輝き縮んで猫の姿になった。

 「待て待て、おいらは白澤様の使徒、アムリタ。助けに来たんだよ」

 彼は剣をベルトに差すと一瞥して、湖の中に飛び込んだ。

 湖の中を潜り続けると底に光る物が沈んでいた。錆びた指輪である。それを拾って畔に上がる。アムリタはさっと尻尾で擦ると錆が消えて黒い金属が現れた。

 「これは?」

 「おそらく、アークから零れたロシェだろうね。でも、こんな小さなロシェは見たことない。ドラグモーターもないしなあ」

 少年は考えても仕方ないと、右手の人差し指に嵌めた。呪いはないようである。ふと、辺りを見ると風景が全然違う状況なのに目を丸くした。

 「ここは?」

 そこで空間が歪んでアムリタが現れた。

 「こんなところに次元移行したのか」

 「ここはどこなんだ?」

 アムリタは周囲を見回して言った。

 「実は創生龍グランフォーゼが次元を新たに作ったんだ。お前の次元と同じ空間、レベルの並行世界、ラグノガードだ。そこには魔神が封印されていて、チェイサーという生物がグランフォーゼによって生み出されて、彼らが守っているはずだ。と言ってもこれはご主人の受け売りで俺もよく分かっていないんだけど」

 そんな場所で何をすればいいのだというのか。

 龍の考えは3つあるだろう。

 この世界が自分にとっても重要でいずれ関係するから、ここを紹介してその知識を深くすることを進める。

 ここに彼が重要な武具を用意してあるので、それを取ってくること。それが必要であるのだろう。

 それを取ってくることが修行に必要な最低限な要素であるのだろう。

 周りは草原が広がり、その先に牧場、街、そして、巨大な大木が空高くそびえていた。

 「ザイ エジュ ベトゥリ、ワートゥリ」

 後ろからそう言って老人が近付いていた。この世界の住民、チェイサーエンドの1人である。

 「チェイサーエンドは独自の文化で言語を作っていたのか、すると、文字もあるのかもしれないな」

 アムリタの言葉に不可解に思った。

 「待て、何故、白澤はこの世界を知っているんだ?」

 「確か、約3500年前に12刀将がこの世界を発見して、この世界に拠点を作ったそうだ。下界に一番近い世界だから、都合がいいそうだ。アークが突っ込んだ下界に近いこの世界であれば、原始的な文明の世界は特に」

 「じゃあ、敵もここに来るかもな」

 12刀将が拠点にしているのであれば、この世界は危険である。いつ、能力を察知して責めて来るか分からない。

 「ところで、ここの世界の人間の言葉は分からないんだ?」

 「それは下界、空界、彼界は全く接していない並行世界だけど、この世界は作られた下界に最も接している世界だからな」

 「…理解の範疇外だな」

 「前から思っていたけど、お前は本当に子供らしくないな」

 猫の姿のアムリタを不思議そうに見ながら、未知の言葉で会話する少年達を老人が見ていた。ふと、少年は指輪を見て力を込めて見た。

 おそらく、この道具はこの世界に関わることが出来る道具である。ここに来るだけでなく、この世界の言葉や他にもこの世界に便利になる機能があるだろう。

 力を込めると徐々にこの世界の言葉の知識が脳裏に流れ込んできた。

 「お前さん達、外国の人かね。封印の大樹、世界樹が珍しいとは」

 「外国?この世界には国が複数存在しているのですか?」

 その言葉に老人は杖で頭を掻いた。

 「大丈夫かい?ここは世界樹の国。北に氷の国、北東に砂漠の国、東に海岸の国、東南に草原の国、南に砂漠の国、西に風の国、北西が山の国だよ」

 彼はこの牧場の主らしく、どこから生まれたのか牛のような鳥を養っていた。

 「この辺に特殊な武具の伝説を知りませんか?」

 少年の質問に老人は指を世界樹の方向に指さした。

 「世界樹の近くに聖者の丘がある。建国神話の主神、大龍様に遣える3柱神のアンドリュ様が用意した救世主様の為の聖剣が刺さる神殿がある。まあ、今まで抜けた者は存在しない」

 それだ。そう心の中で叫び少年とアムリタは街に向かって駆け出した。

 太陽が2つあるこの世界は気温が温暖であり、光の関係か周りの景色が微妙に見にくい状況にある。

物の色は太陽からの光が大気によって屈折して物に当たって跳ね返り、網膜に入るもので視角として知覚する。

 「ここは眼が慣れないと厳しいな」

 「そうか?別に大丈夫だけど」

 「式神には分からないだろう」

 牧場を超えて草原から街に近付くと賑わい始める。通りに草馬(植物と馬が合わさった形の動物)車と人通りが多くなり、街が囲まれた塀の門に関所があった。

 「どうする?」

 「塀を越えるしかないな」

 少年は鍵を刀に変化させると、構えた。

 「昇蹴岩断しょうしゅうがんだん

 凄まじいスピードで壁を蹴りながら少年は上に登って行った。あっさり越えるとすぐに別の剣技を発動する。

 「空転剣舞くうてんけんぶ

 刀を回転させて剣を下に振り下ろすと、ゆっくり舞い降りながら地に剣を刺した。

 「着地にも技を使うんかい」

 「人間だから、あの高さからは死ぬから」

 次に人目に付かないように駆け出して石造りの建物を縫って駆けていく。中央の広場を越えて世界樹へ近付くと小さな丘が隣にあり、白亜の神殿がそびえていた。

 だが、目の前に鎧を着た巨大剣を担ぐ存在が現れた。

 「我は12刀将の半月の月天がってん、向こうにいるのが弧月の月見つきみである」

 神殿の屋根から飛び降りると月見は剣を抜いて向かってくる。

 「聖龍剣 雷光らいこう

 月天の背後に少年は瞬間的に移動して剣を振るう。それをさっと避けて剣を横に振るが再度、少年は雷光を使って月見の真上に移動する。

 しかし、月見はすぐに移動して地に降りると、地を蹴って剣を振るった。

 「待て」

 新たな鎧の剣士が現れてその件を受け流した。

 「月下の炎騎えんきか、何故邪魔をする」

 「ここで暴れるな、邪神を起こしたいのか」

 月見は世界樹の根元を一瞥した。

 「魔神がこの程度で復活はしないだろう」

 「我々より下の存在が封印しているのだぞ」

 「だから、あんな少年にそこまでの力は使役せずとも倒せる」

 「その弱小な存在に玄王はやられたとでも言うのか?」

 全員は着地すると、月見は悔しそうに歯ぎしりをして剣を納めた。

 「ここでことを焦らずとも、彼には何も出来ん」

 炎騎の言葉に月天は頷いて月見を見た。

 「まあ、どうにでもしろ」

 彼らは姿を消した。


 村人達はその様子を見ていて唖然としていた。

 「何故、気配を消して移動が出来た?」

 アムリタの言葉に少年は答える。

 「七聖剣という剣技がある。その中でも奥義があるんだけど。龍王剣は動きが遅いが力重視の剛剣で、聖龍剣は正反対の心を鎮める素早さ重視の技だ。気配を薄くする効果もある。動と静だな」

 神殿に足を踏み入れようとしたが、村人が止める。神殿の守人も剣を向ける。

 しかし、先ほどの戦いを見ているので、震えている。少年は彼らは既に能力の差を思い知って自分を妨げることがないと判断して、無視をして神殿の中に入って行った。

 冷たい厳かな雰囲気が漂っている。

 「ここは?」

 少年は辺りを見回す。アムリタは言う。

 「そうだな、…この神殿は相当な力の存在が作ったようだ。邪気も結界で阻まれているようだな」

 彼は木刀を抜いて構えると、眼を先に見通した。空間に何も立ちはだかるものはない。姿勢を低くすると、駆け出して一気に駆けていく。

 「おい、少しは警戒しろよ」

 アムリタがそう言うが、少年はトラップはあるのだが、落とし穴も飛んでくる槍も剣技の瞬歩で全てかわされてしまった。

 肩に乗ったアムリタは囁いた。

 「楽ちんだけど、危険だな」

 大きな部屋に出る。そこは礼拝堂のようであった。祭壇に向かって歩くと、祭壇の後ろにある隠し扉を蹴り飛ばした。

 「どんな性格なんだ、まったく」

 頭を掻いてアムリタは呆れて少年を見下ろした。

 その奥には魔法円が大きく描かれた結界に囲まれた部屋に出る。中央には剣が刺さっていた。

 「これって、ベタな奴か。選ばれた人しか抜けないとかいう聖剣とか?」

 アムリタを無視して剣に近付こうとした。次の瞬間に下の魔法円が光り出して巨大なドラゴンが召喚された。

 「あれは異次元のレッサードラゴンだ」

 アムリタが説明をするが、少年は木刀を構えて叫ぶ。

 「瞬光剣しゅんこうけん

 しかし、剣技は発動しなかった。

 「これは剣技を封じる結界だ」

 アムリタの言葉も虚しく木刀を構えた少年に下ろされて無視された。

 ドラゴンは尻尾を少年に鞭のように振り下ろすが、軽々と跳び避けて剣に向かって駆け出した。

 「剣技だけだと侮ったな」

 気付くと剣に手が届いた。しかし、なかなか抜くことが出来なかった。

 ドラゴンは振り返り、炎のブレスを吐いた。と同時に少年は再び叫んだ。

 「ファイアソード」

 すると、木刀の柄に光の魔法円が発生して刃が炎に包まれた。

 剣技の力がアポリオに返還されて、無界の力を発揮出来たのだ。

 少年が持っていた剣に変化する鍵は、所有者の能力や力を変換することが出来るのだ。

 「…しかし、何故、僕にアポリオとこの力の知識が?」

 転生者、という言葉が頭を過った。上の次元から転生するとその時の人格は消滅せずに、潜んだまま生まれ変わる。その人格をペルソナという。

 その前世の魂、ペルソナが死を逃れる為にその知識を少年に与えたのかもしれない。

 剣を下げると炎が発射されて高く飛んだ。

 炎のブレスを避けることが出来たが、炎と炎の属性では勝ち目がない。

 そこで気付く。

 守護のドラゴンを倒して剣を手に入れることが修行の第1歩なのだ。これが基本の最低限の力であるのだ。

 少年は覚悟を決めて、炎の剣で空中に魔法円を描く。

 「フレアショット」

 魔法円から凄まじい光が発してドラゴンを包んだ。それは叫びながら翼を羽ばたかせて背後の壁まで飛んでいった。

 たまたま発した炎の剣で戦うしかない。この剣から発生出来る術式は炎系しかない。

 木刀とともに鍵を取り出して刀にした。二刀流のまま、次に木刀の炎の剣で素早い機動力にして、神武具の天御鏡を振るうことにした。上手く部屋から出ると、魔法円の外で賭けに出た。

 「龍王剣奥義、剛斬ごうざん

 壁を破壊すると共にドラゴンの背後から凄まじい斬撃を浴びせた。ドラゴンは咆哮を上げると前に伏せた。

 「やっぱり、魔法円の中だけ剣技を封印されているのか。しかも、一度発動させれば、中に入っても止まることはないのか」

 そして、少年の冷めた目を下に向ける。

 「でも」

 再び背後に飛び退き、大きく刀を振り上げた。

 「大破撃たいはざん

 宙で廊下に出た瞬間に振り下ろした。刃先が地に触れた途端に床に亀裂が走った。小さな亀裂が長く枝分かれして伸びる。

 だが、その中途半端な攻撃で十分だった。魔法円は破壊されて封印が解けて、さらに召喚されていたドラゴンは消えた。

 「瞬間型の魔法円だったか」

 予想は簡単についた。ドラゴンを万が一倒すことが出来ても、通常の生粋のドラゴン族であれば死してなお蘇る。ゾンビというべきだろうか。しかも、それは無差別に攻撃をしてさらに強力になる。

 それをも倒すことが成功出来ても、多大な呪いを受けてしまう。禍々しき呪いである。もし、倒す場合は封印か次元追放が基本である。

 だから、本気で通過型召喚を行うはずがないのだ。倒せないのは明らかだが、倒してしまったらさらなる不幸にさせてしまうからである。

 このトラップが入口と剣の間に来た時に入口を塞ぐように召喚されるようにしたのも、もし簡単に魔法円を破壊すればドラゴンを元の次元に返せると推測出来ても破壊する為には一瞬でもドラゴンと対峙して攻撃をかわしてその背後の入口から外に出て剣技を使用するしかないからだ。

 大きく息を吐いて少年は剣のところまで歩いていくと、ゆっくりと抜いていった。

 魔法円の封印が解けたからか、今度は抜くことが出来た。

 剣を抜き切ると壁に掛かる鞘に納めて背負った。

 

 神殿を出ると、聖剣を持った少年を村人達が集まって口々に言った。

 「あれは聖剣だ、救世主様だ」

 彼らは少年を見て頭を下げた。

 人ごみから龍が少年の前に姿を現した。

 「やはり、君は試練に打ち勝つと思ったよ。その剣は魔法円の封印が解けても誰でも抜けるように仕掛けをしていなかったんだよ。ある条件を持った強力な能力の者しか抜けないはずだから」

 少年は剣を彼に渡すと、微笑んで言った。

 「これから、修行は厳しいから覚悟をしてくれ」

2

 「しかし…」

 龍が大樹を見上げる。

 「この封印はアラブにあったはず。何故、ここに移動しているのだろう。それに海も存在している。この世界をこの世界にない能力で操った存在がいる」

 「12刀将じゃないか」

 その少年の言葉に龍は首を横に振る。

 「彼らはこの世界に関与しない。する意味もないしな。そもそも、彼らに物質や呪術移行の能力は持っていない」

 嫌な予感を少年は感じていた。

 「そういえば、この指輪は?」

 「向こうで見つけたここに移行出来る隕石だ。どこから来たのかは分からないが、複数振ってきている中の1つだよ」

 「龍は指輪なしでここに?」

 彼は剣を見せる。ドラグモーターと呼ばれる円形が回っている光の剣である。

 「こいつは次元を切って移動出来るんだ」

 そこに街人が寄ってきて、1人が言った。

 「私は預言者、サイドと申す者です。もしや、貴方は3柱神の1柱、アンドリュ様では?」

 老人の言葉に龍は答えなかった。

 「この世界に何がありました?あの後に何か大きな変化を起こす者が来ましたね」

 その言葉に彼は頷いた。

 「水を与えし神が降りてきました。この地に水を集めて海を作って下さった。自然の流れで雨や湧水、地下水に川が出来ました。しかし、この地に聖地を移動させました」

 その存在はこの地が下界の次元の壁の薄い場所だからだろう。創生したと言っても、所詮下界のコピーに似たようなもの。ここにこの世界の基地を作ろうというのには、理にかなっている。

 「グランフォーゼが俺に神器や聖武具、下界に遣わしてこの世界を作った理由は、全てが魔神の復活の阻止とそれを遂行する者達の排除だとはな。全てが手の内に踊らされていたとは気に入らんな」

 龍はそう言って、少年に向かって真顔で言う。

 「これから、仲間を集めるんだ。彼らは特殊な武器とお前と同じ指輪を持っている。既にこの世界に関わっているかもしれない」

 「要は、この世界に新神として現れた者達から魔神復活を阻止するということだね」

 龍は呆れた表情で少年を見下ろした。

 「お前はつくづく子供っ気がないな」

 その前に自由に動けるように12刀将の攻撃をなくす必要がある。その為には玄王の復活が必須である。

 「なあ、龍は石化の解除方法を知っているか?」

 彼は俯いて首を横に振った。

 「石化を解除する術は知らないが、解呪の方法は分かっている。ただし、強力な呪術には効かないが」

 「じゃあ、すぐに下界に戻ろう」

 すぐに少年は指輪に指を掛けた。

 「ちょっと、待て」

 指輪を外した少年は下界に移行する。しかし、戻った場所は最初にいた場所より遥か北の湖の上であった。そのまま水の中に飛び込んでしまった。光の剣で戻ってきた龍は光の翼で空を飛んで彼の手を引いた。

 陸に上げて呆れて後頭部を掻いた。

 「つくづく君は愉快な奴だな」

 「向こうとこっちは空間が同一だったことを忘れていただけだ」

 「今回はよかったが、もし物体の中に移行していたら融合していたぞ。これからは指輪を使う場所に気を付けるんだな。例えば、空高い場所ならどちらも邪魔なものはないから安心かもしれない」

 「そうだ、来て欲しい場所がある」

 少年は龍を石化した下弦の元に行く。幸い、結界は張ってあるが見張りはいない。光の剣を構えた龍は、こう言った。

 「この剣は見えないものを切ることが出来る。ただし、この剣の性能を超えない限りは」

 そして、振ると結界は簡単に経ち消える。さらに華麗に下弦に剣を振るうが石化を解除することは出来なかった。

 「やはりな」

 「まさか、敵はその剣以上の能力の?」

 「まあ、良いさ」

 そして、すぐに湖の向こう側の石に剣を振るった。その石は光輝き表面の石が光と散った。そう、その石は石化した人間であったのだ。

 …下界の人間と言えるかは別として。

 すぐにその人は龍を見てさっと跳んで接近した。

 「アスタロットは?」

 「過去の件なら、すでに片付いている。異形の存在さん」

 彼は葉月涼はづきりょうと名乗った。

 今までに感じたことのない強力で特殊な能力、力を発している。

 「礼をしましょう」

 涼はそう言うと両手に黒いオーラを溜め始める。

 「それは、アポリオ?」

 少年の言葉に涼は首を横に振った。

 「アルファオメガ。真理であり全てです。能力ではないとでも言いましょう」

 そして、それを辺りに広げた。

 次の瞬間、彼は色とりどりのオーロラの空に浮いていた。

 「ここは?」

 龍が呟く。

 「グラノガードだ。ただ、かなり昔の。おそらく、グランフォーゼがこの世界を作ってから1500年後の頃だろう」

 その大昔の並行世界で突如、空間に歪みが生じて3種の存在が現れた。

 「あれは化け物?」

 巨人族と魔導族、エレメント系の精霊族である。

 「おそらく、前にノガードが召喚されて腰を据えていたという世界の種族でしょう」

 彼らはすぐにチェイサー達、人間と争いを始める。その中で魔導族の中に魔導大帝と呼ばれる特殊な能力を持つ王が現れる。その王は封印の大剣にて巨人族を根城ごと炎の谷に突き立てて封印した。大半の精霊は中立の為に森の中で見守る。好戦的な者が人間と小競り合いをしていた。

 谷の大きな剣を見て怖れ慄くチェイサーは魔導族から離れて暮らすようになる。まず、空気の精霊と契約をして力を借りる。空間の歪みがあり、その作用で封印されし場所となった場所を探し出すと、チェイサーは逃げるように東の国に旅立った。

 10年後、彼らはその場所を中心に栄えた。

 世界樹を一緒に移した理由は、魔導族による魔神の復活の阻止である。

 

 2300年近く後に巨人族の下級戦士が封印の剣から飛び立ち魔導族と戦う。その残党がチェイサーのいる世界樹の大国にやってくる。魔導族の1人はそれを追ってきて、7つの魔導石を作り出した。魔導師の1人、カロンによって。


 魔導族は向こうの世界では異形のそこでは魔法と呼ばれていた能力を持っていた。しかし、彼らには欠点があり、他の世界の者と違い外にある力を取り込んで使役していた。

 ウィズコードという能力はウィズコードという力が空気に溶け込んでいる。それを取り込んで使うので、その場所にウィズコードがなければならない。

 ただの弱い人間となってしまう。

 そこで、ある方法を使った。それが魔導具である。それはこの世界に来る前にウィズコードを取り込んだ魔導族の存在そのものをウィズコード発生装置にするものである。

 死に面した者、意を決したものはそれになる。

 この世界で魔導具は3つ持ち込まれた。この次元の空気にウィズコードを発生させる発生の石。人工生命を作り出す創造の石。そして、次元を移行する魔導石を作り出す移動の石。その魔導石を持ってカロンは7つの指輪を作り出した。

 ところがそこで彼の思いもよらぬことが起こった。

 その場所が下界に近い場所であった。次元移行能力の強い魔導石によってカロンは下界に飛ばされてしまい、魔導石の指輪は光りながら散ってしまう。


 気付くと少年達は元の世界に戻っていた。

涼は頷くと、そのまま南の獣道に向かって去って行った。


 「さてと、その指輪の正体も分かったことだし。後6つを見つけてカロンを探し出そう」

 まず、少年は気になることがあった。

 この世界、下界にウィズコードが空気に含まれているのか。カロンは今までどこに姿を消していたのか。

 その時、最初に少年に指輪を見つけさせたのが龍であることに気付く。

 「まさか、知っているな?」

 「後は君に任せる」

 龍はそう言って姿を消した。溜息をついて森の中に目をやると、ヴァジュラが現れる。アムリタが再び姿を見せると少年の方に乗った。

 「あれに乗って案内してもらうといい」

 彼に従って羽根を避けてヴァジュラに乗ると、森の中に入って行った。森の民の集落の北に進んでいく。すると、少年に異様な雰囲気を感じ始めた。

 「結界が張ってある。この中に入らないと分からないんだ」

 少年は鍵を握り絞める。いつでも刀を出せるように警戒をした。すると、アムリタは急に毛を立てて目を光らせた。

 ヴァジュラは足を止めて目を細める。森の奥に薄らと巨大な岩が見えてきた。少年は飛び降りて駆け出すと、鍵を刀にして構えた。岩の傍に3つの気配を感じた。

 「まずい、殺気だ」

 少年は既に天御鏡を構えて叫んだ。

 「雷光伐らいこうばつ

 抜刀術で凄まじい速さの剣技を放つ。しかし、何も捕えることはなかった。

 「夜刀やとだ。気を付けろ」

 アムリタの言葉に少年は木の枝に飛び乗った。

 夜刀。剣技の世界の神話の魔神である。この森に降りた月夜見とは別の神族と伝えられている。

 しかし、3つの気配はそれとは何か違う。

 「我々は作られし生命、カロン様の使役者である。今も守護の役についている」

 少年は刀を納めて鍵に戻すと、神殿で抜いた剣を見せる。聖武具リジルは並行次元ラグノガードでは救世主の聖剣とされていた。

 「それを持っているということは、建国神話の救世主メサイアなのか?」

 「そうらしいけど」

 「それはタイムリープ出来る剣だ。大事にすると良い」

 そして、彼らの1人は少年を奥に導く。アムリタとヴァジュラも追おうとしたが、2体の人工生命体、ホムンクルスが阻んだ。

 「ここから先に行けるのは選ばれた者だけだ」

 アムリタは溜息をついてヴァジュラに向かって手を開いた。

 少年は岩の中に入って行くと巨大なドラゴンが待っていた。

 「カロンって魔導族じゃ?ドラゴン?」

 目を丸くしていると、脳の中に穏やかな声が響いた。

 「我は創生龍グランフォーゼ。貴公に聖剣を授けるから、魔神から世界を護りなさい」

 ドラゴンは後ろを振り返る。そこには1つの剣の柄だけが祭壇に乗っていた。

 「…まさか、これがカロン?」

 「さあ、転送刃式聖剣、グランセーバーを手にしなさい」

 「転送式?」

 「彼は聖剣と化した。彼は互換性のある刃を転生することが出来る。しかも、生命を一時的に刃として、特殊な能力を使役出来るのだ。試に私で試して見なさい」

 グランフォーゼは小さな分身を出した。それを見て少年は詠唱を始める。

 「創生のドラゴンの小さき分身よ。我に立ち塞がる者を打ち砕き、共に進むことを我は求める。転送、ドラグセーバー」

 小さなドラゴンは消えて柄に大きな刃は現れた。色とりどりに輝き、光の当たり方で玉虫色に変化する。

 その能力は不明である。完全に転送完了すると、その重さに持っていられずに地面に落とした。無理やり持ち上げようとして叫んだ。

 「龍王剣 鱗壊りんかい

 その剣は凄まじい勢いで持ち上がりそのまま振り下ろされた。地面が破壊されて大きな亀裂が走った。本来は強い剣撃なのだが、その剣の重さを振り下ろすのにエネルギーを使用したので、重い剣を普通に振り下ろした形になった。

 「流石に今の力では無理か。まあ、無理をするな。いずれ使いこなせるようになるのだ」

 そう言い残してドラゴンは姿を消した。


                   3

 龍の弟子になって修行を始めて数日後、鎧を着た剣士が境内に姿を現した。

 「我は12刀将のさく水無月みなづきだ。下弦の石化の容疑でお主を捕えに来た」

 少年はすぐに構えると、社からフラフラと龍が顔を見せる。

 「それは聞き捨てならないな。悪いけど、帰ってもらえると嬉しいんだけど」

 そこで、水無月は眼を見開く。

 「お主はあの時の人間。何故、まだ生きている?人間が文明を持ち始めた頃に会ったままの姿なのだ?」

 龍は微笑む。

 「そりゃ、俺は不老不死だからな」

 「馬鹿な」

 水無月は剣を抜いた。すると、龍は光の剣を手に発した。

 「ここで戦う?」

 「お主が邪魔をするのなら、やむを得ん」

 しかし、龍には勝ち目はないのは明白であった。そこに少年が立ち塞がった。

 「待て、ここは僕が相手をする」

 そして、鍵をポケットから取り出すと、天御鏡を出して構えた。

 「確かに同レベルの次元からの転生者のお主なら、我と戦うことも可能だろう。しかし、それは実力を出せるようになり、それなりの努力をしたら、の話だ」

 剣士が剣を振ると刃から真空の刃が飛んだ。

 「ざん

 同時に彼は叫んで剣を振った。凄まじい斬撃が真空の刃を叩き切って消滅させた。

 「まさか、現状のレベルで、しかも短期間でここまでとは」

 龍は唖然とする水無月に言った。

 「彼は短期間の少々の修行しかしていないのではないぞ」

 そう言って、ある聖剣を見せる。

 「それは聖武具リジルか。すると、お主に何十年と重々知識と力を叩き込まれたようだな」

 その言葉に龍は口笛を吹いた。

 「ほう、やっぱり知っていたか。これは時間を戻す刀。タイムリープという訳だ。しかし、使った者は経験した知識、記憶、身に付けた者、経験はそのまま持ち越せるのさ」

 彼は黒い人型を投げる。それは黒い大鬼に変化した。実力を量るつもりのようである。

 黒鬼は瞬時に少年の背後に回るが、同時に少年は剣を構えてバック宙をしていた。

 「回転斬かいてんざん

 刃は黒鬼の剣を捕えた。肩に乗って刃を交えた状態で、少年はさらに追い打ちを掛ける。

 「雷剛閃らいごうせん

 黒鬼は下がって剣を構えるが、その剣は砕け散り少年の刀が電撃を帯びて一瞬に切った。それは黒い紙人形に戻って燃え上がった。

 次に鞘に刀を納めて居合の構えを水無月に見せる。

 「遥かに予想を上回る能力だ。我々の一族に匹敵する程かもしれん。しかし、12刀将までではないわ」

 彼は大剣を振り上げる。刹那、少年は叫んだ。

 「龍王剣奥義 電砲斬でんほうざん

 鞘から凄まじい速さで刀を抜きつつ、鞘に這わせて走らせることで斬撃を強力にしていた。水無月が剣を振り下ろす前に彼の後ろに駆け抜けていた。斬撃が鎧に傷を付けていた。

 龍は手を叩いて説明を始める。

 「それは鞘を砲筒、刃を弾丸に見立てた技で、電気を鞘に帯電させてレールガンの状況を作った俺のオリジナルの技だよ。龍王剣 瞬砲斬しゅんほうざんの進化系だから、見たこともない、さらに知っている技より遥かに速く強力な技だから油断したんだろう」

 水無月は剣を納めて溜息を深く吐いた。

 「童、何故、それだけの力を持っていながら、一族を裏切ってまで見ず知らずの下弦を石化した?」

 その質問に少年は首を横に振った。龍が割って入る。

 「愚問だね。彼がやっていないからだよ」

 「そんなはずはない。玄王の右腕の可畏が我々を騙す訳がない。しかし…」

 そこにさらに剣士が現れた。しかし、普通の人間のように見える。

 「俺は元12刀将の1将、天万あまよろず斬月ざんげつだ。今は下界に輪廻なき転生をしてここにいる。君のようにね」

 斬月の言葉に龍はすぐに寄っていった。

 「久しいですね、斬月。林桃会りんとうえの際は天御鏡と剣技の知識を与えて頂き助かりました」

 その言葉と少年の持つ刀を見てポンと手を叩く。

 「あの時の光を司る無界の者がここで…か」

 「創生龍グランフォーゼにここで大きな役目があると輪廻無き転生をさせられて、現在に至っています」

 「確かにお互い自らが力の発生源であり、ペルソナが存在していない」

 「勿論、人格は1つです」

 そこで、斬月は水無月の方を叩く。

 「ここは一旦引け。明らかに彼らの言うことは一理ある」

 そこで、悔しそうに水無月は捨て台詞を吐く。

 「次はこうはいかんぞ」

 彼ら2柱はそのまま去って行った。

 龍は座り込んで息を大きく吐いた。

 少年は疑問が多々あったが、あえて何も言わずに刀を鍵に戻した。

 「そろそろかな。以前、聖剣の刃を取りに行った世界のラグノガードに再び行くぞ。折角、創生龍からもらった武器だ。カートリッジは多い方が良い」

 少年は眼を丸くした。龍は柄だけの剣を出して中央の筒を能力で回し始める。

 「これはアークにあるロシェという機械の武器で、ドラグモーターで起動するんだ」

 しばらくするとドラグモーターはある速さに回転を安定させるとドラグミストを発生させる。それが飽和状態になって、オーラコードは発生させて光の刃を発生させた。

 「これは次元剣、ダーインスレイヴといって、見えないものを切ることが出来るんだ」

 そして、次元を切るとラグノガードへの次元の切れ目が発生した。2人はゆっくりとその中に足を踏み入れて行った。


 そこは街の中心部の教会であった。

 「ここは?」

 「秘密基地だ。さあ、行こう」

 教会を出ると光の翼を発して、少年を抱えて空を飛んだ。

 「ここはいいな、向こうの世界だと街では電線が邪魔で仕方がない」

 凄まじいスピードで進む内に国をいくつか超えた時点で荒野が広がっていた。

 「ここからはチェイサーの世界じゃない。気を付けた方が良い」

 それが何を意味しているのかすぐに少年は分かった。

 突然、荒野の中に化け物が現れ始める。

 「あれは?」

 「バグだよ。大蟲が発生したらしい」

 少年は訝しげに眺める。

 「確かにこの世界はグランフォーゼが作ったんだが、その後に来た魔導族によってバグが発生したんだ。彼らが作ったのか、一緒に入って来たのかは不明だけど」

 その後、イギリスの辺りまで進む。

 「ハロウィンって下界であるだろう。あれは2000年以上前にケルト民族の豊作祭りでたき火を焚くものがあるだろう。後にかぼちゃをランタンにするようになったもの。あれはケルトでは11月1日が新年の始まりで、年末に悪霊が地獄から現れて子供をさらうというところから、子供に悪霊の恰好をさせて仲間に見せかけて助けるという仮装が祭りの始まりでもあるんだよな」

 「詳し過ぎるな」

 「伊達に長く生きていないさ。で、その始まりのイギリスの裏の場所に来た訳は、その悪霊というのがここから出てきたバグなんだ」

 少年は龍を一瞥して沈黙を保った。

 すると、オレンジの死神がデスサイズを構えてやってくる。

 「さあ、あれでも手に入れて来い。ここのバグは倒すとそれと契約することが出来る。バグは元の世界に戻るが、聖剣によってエッジとして転送出来るんだ」

 オレンジの死神は炎の顔をしている。

 「まさか、ジャックオーランタンか」

 名を明かされた途端に死神ははっきり姿を見せた。大鎌が炎を巻き込んで振るわれる。

 「斬」

 素早く天御鏡を発して瞬時にジャックオーランタンの後ろに少年がいた。と、同時にジャックオーランタンは真っ二つになって散った。

 倒したものを剣の刃に出来るのか、聖剣を出して確かめることにした。

 「転送、ジャックオーランタン」

 すると、緑の細い剣が発っして炎がその周りから燃え出した。

 「じゃあ、次はゴーストタウンにいくか」

 イギリスの裏に来た龍は少年とともに地上に降りた。

 破壊されたチェイサーの街は何かに破壊された状態になっていた。

 「ここのカースドラゴンを倒してもらおう。良い剣になるだろう」

 「でも、呪いはどうする?」

 「お前には2つドラゴンを倒す方法がある。龍殺剣という秘技があるんだ。それを覚えるか、前世のペルソナを発して分離させて操って倒すかだ。つまり、上の次元の存在は実体という体が存在しない。しかも、時間の概念がなく寿命も死も存在しない。ドラゴンゾンビの呪いそのものが意味をなさないから、呪いが掛かったところで無意味なんだ」

 そして、龍は1つの石を渡した。

 「その前に俺と契約をしよう」

 石を握ると龍の力を感じた。

 「この石は?」

 「まあ、契約の祝いとでも言っておこう。いざと言う時に役に立つさ」

 彼らは崩壊した街を見上げた。

 街の先に木々が迫っている。まるで森が迫って街を飲み込んでいるようだ。

 「まさか、モンスターベルトか」

 モンスターベルト。

 それは魔導族がやって来た次元の世界に存在する化け物が多く生息する森である。魔導界と繋がっているのだろうか。

 森の中から巨大なドラゴンが姿を現す。

 「まずい、いきなり出くわしたか。龍殺剣を教えてからでないと」

 そこで、咆哮するドラゴンに向かって少年は跳んで大きく聖剣を抜いて振り下ろした。

すると、ドラゴンは簡単に剣を弾いてしまう。

 剣を龍に預けると、次はグランセーバーを構えて叫ぶ。

 「転送、アンドリュ」

 龍の姿が消えて、少年の剣に光の刃が発生した。

 「大撃斬」

 思い切り1歩踏み込み、強烈な一撃を放つ。ドラゴンはそれを簡単に受け止めた。そして、右手の爪を振った。

 「ライトウォール」

 剣はバリアに変わる。それでも、大きく叩き飛ばされた。

 「勝って呪い、という問題じゃない。叶わないのか」

 「ライトスラッシュ」

 剣を振って光の斬撃を放つが、ドラゴンの尻尾で消される。そもそも、龍の力はアポリオである。自分の力を天御鏡でアポリオに変換しても、その力は完全ではないのだ。

 考えられるとすれば、自分の前世の力であるペルソナを発動できれば、或いは勝てるかもしれない。

 確か、ジョン-スチュワートがそれが可能だったはず。

 彼は森の民と深く関わっていた。森にある発掘場で研究の手助けをしていたのだ。

 しかし、今はその時ではない。

 「聖龍剣 飛翔」

 さっと高く少年は跳び上がった。その空中の少年にドラゴンは炎を吐いた。

 「空斬くうざん

 炎を切り裂きながらドラゴンの顔に接近する。

 炎が切れたその口に剣を向けた。

 「ライトショット」

 光弾が放たれた。口の中で爆発を起こし、ドラゴンはよろけた。

 「龍王剣 斬撃」

 凄まじい力の斬撃を連打した。ドラゴンはバランスを崩して倒れた。さらに追い打ちをかけて剣を振りかざした。

 「飛龍剣 流雷りゅうらい

 剣を振るいながら高く跳び、曲線に太刀筋が走る。しかも、流れるように早く斬撃が続く。

 飛龍剣は連続攻撃が主の剣技である。

 しかし、龍王剣のような打撃も聖龍剣のような一瞬に強力に出す強力な斬撃の力もない。

 それでも、特殊な動きなので相手の攻撃を避けながら攻撃を続けることが出来る。それは、意味がないのは言うまでもないが。

 突如、少年は地面に降りて、力を高めた。

「赤龍剣 神威かむい

足さばきが変わった。少年達の剣技は特殊能力のせいで足を交互に前に出す動きであるが、今は剣道やフェンシングのように右足が前に踏み出す動きになる。

次の瞬間、素早くドラゴンに接近して盲点から飛び出して剣を振り下ろした。そのまま跳び上がり、ドラゴンに一閃を与えた。

その時、頭に剣から知識が流れてくる。

龍が龍滅剣の知識を与えたのだ。

「龍滅剣」

さらに剣に力を込めてブレスごと振り下ろしながら着地した。

ドラゴンは動かなくなり、そのまま倒れた。

そのまま溶けていき、ドラゴンゾンビになった。そのとき、少年は振り返って見上げると、そこには巨大なエイシェントドラゴンが飛んでいた。

剣の力を解除すると、刃が消えて龍が現れる。

 「あれは龍王ノガード。ドラゴンならドラゴンを倒しても、呪いはかからないな」

 龍がそう言ってノガードに手を振る。

 「久しいな、アンドリュ。ドラゴン族の不始末は我に任せよ」

 ノガードは簡単にドラゴンゾンビを炎で滅した。

 ゆっくりと下りてくると、見下ろして言った。

 「少年、よく頑張ったな。特別に我と契約を結ぼうぞ」

 彼は頷いて契約をして、新たな聖剣の力を得た。

 「しかし、何故向こうの世界のモンスターベルトがこの世界に浸食しているんだ」

 龍の質問にノガードは森を見て言う。

 「おそらく、この次元の境界が弱まっているのだろう。何者かの手によって。その謎を明かして倒すのだ」

 ノガードは少年に言い残して去って行った。

 「それが、この指輪を持った者の運命さだめ、か」

 少年は指輪を眺めながらそう囁いた。

 「修行は終わりだ、帰ろう」

 龍は次元を切って、住処に向かっていった。


                   4

 龍の住処にヴァジュラとアムリタが待っていた。

 「どうだ、あの断界の12刀将に打ち勝つ力を手に入れたかい?」

 アムリタの問いに少年は首を傾げる。何かが足りない。龍はそんな彼の肩に手をやる。

 「とにかく、犯人は可畏なんだろう。多分、ラグノガードの大樹の傍にある『石の船』が根城だ」

 少年は頷いて行こうとすると、龍は呼び止める。

 「待て、いきなり行かずにまたグランフォーゼに会いに行っておけ。その剣の本当の力が分かるはずだ」

 珍しく真顔で視線をグランセーバーにやる龍がそう言った。

 「分かった、ありがとう」

 彼はあの創生龍のいた洞窟に向かった。

 すると、グランフォーゼが強制的にグランセーバーに自分の分身の刀身を発生させる。その重さに耐えられず、少年は剣の先を地面に落とした。

 「まだ、力を得ていないようだな。お主の中にある前世の力を引き出すしか、あの連中には叶わん」

 そこで、少年は首を傾げた。今まで攻めてきた12刀将を撃退してきた。束になっても負ける気はしていなかった。

 そこで創生の主は眼を細めた。

 「そうか、今までの連中に勝てたことが慢心を生んでいるのか。四天王の4柱、無月の創玄そうげん、満月の投総とうそう、上弦の閃山せんざん神無かんな奥離おうりには、今のお主では到底叶わんぞ。2界上の次元の者を甘く見てはいかんな」

 「全知の創生龍なら、従わないと」

 少年は剣を刃をなくしてしまうと、前世の記憶を取り戻そうと考えた。

 「前世の力、記憶か」

 そこで、グランフォーゼは少年が腰に仕舞ったグランセーバーに光を飛ばす。すると、それは輝き始めて形態が変化した。

 「それは転送刃式に装着、さらに操作式と変化させた。転送した刀身をそのままオーラアーマーとして装着できる。その転送した者の姿のオーラをまとい、その力を使役出来るのだ。アンドリュを転送した時に一部使役していただろう。あれは我が特殊転送した存在だから、バグが起きたのだ。そもそも、その剣はそういう仕掛けがあり、我はそれを解除したに過ぎん」

 少年はすぐにグランセーバーを握ると叫んだ。

 「深き森より出でた下級の龍よ、我が剣に宿りてその力を示せ。転送、レッドレッサードラゴン」

 すると、赤い鱗状の表面の刀身が発生した。それに力を高めて込める。

 「まだ、出来んよ。まずは、前世に集中するのだ。そのオーラは次に発して実体を出すことが出来る。それは自分の意志で動かすことが出来るようになる」

 「それで、鎧の連中を何とか出来るのか」

 少年はそう呟いて頷くと、走り出した。


 前世を知るには、恩があると言っていたアドネルに会うことにした。

 湖の前でアドネルを呼ぶと、すぐに姿を現せた。

 「自分の前世を知りたいのだけど、どうすればいい?」

 そこで、彼はグランフォーゼの方に視線を向ける。

 「上の次元は時間という概念がない。連れてってもらうといい」

 次にグランフォーゼに会いに行くと、巨大なドラゴンは待っていたかのように頷く。

 「実はこの場所に無輪廻の転生させたのは私だ。だから、以前の上の次元の魂であるペルソナは存在しない」

 ゆっくりと立ち上がると周りの空間を変化させる。

 目の前に巨大な空が広がっていた。緑色の空の下には大きな赤い氷が広がっている。先に剣山のような場所があり移動していく。

 鎧を着た剣士が並んでいる。この当時の12刀将のようである。

 「あれだ」

 ドラゴンの視線は一番右の刀を構える存在に向けられている。どうやら少年の前世の姿のようである。

 「何故、12刀将から転生を?」

 すると、彼らは大きな悪鬼達に向かい始める。

 「タルタロスだ。あれと戦いの最中にアルファオメガに目覚めたのだ」

 そう、この次元では剣技を持つ侍、刀将と悪、タルタロスが存在して戦っているのだ。

 その中の選ばれし12刀将の少年の前世は突如、大きな光を刀から発した。

 「あれは真理だ。能力でも技でもない。それを強力で大きな容量で扱うことはこの次元でも危険なことであった」

 光が氷の山を砕いてタルタロスの大部分を消滅させた。と同時にこの次元がゆがみ始める。

 「ここで我れは力を封じて転生をしたのだ。本来は永遠の英雄となるべき存在だが、力が強過ぎた。せめて、アルファオメガに覚醒しなければ、或いは…」

 空が割れて今と変わらぬドラゴン、グランフォーゼが現れて光を1刀将に注いで転生をさせた。

 

 次の瞬間、アークのある場所に来た。グランフォーゼがラグノガードを作り出した場面に現れたのだ。

 アドネルがその後に龍皇と対峙していた。その間に咄嗟に先程の12刀将の1柱、少年の前世が割って入った。

 「ここは我が顔に免じて双方、下がってくれ」

 龍皇は悔しそうに拳を握るが振り返って元の上界に帰った。アドネルは頭を下げた。鎧の剣士は手を上げて去っていった。


 「これがアドネルの言っていた恩か。確かにあのままなら完全に消滅していたかも」

 グランフォーゼは翼を羽ばたかせると元の世界に戻る。

 「まずは前世の記憶の鍵を見せた。思い出すには能力を発揮する必要がある。前世の能力が必要になるだろう」

 そこで少年は刀を抜いた。

 「まず、剣技の力をいつでも何時間でも発揮出来るようになる必要がある。お主らは剣技の力はその技の作動時しか発揮しない。だから、普段は下界人のようにオールコードの気配はない。もし、出来なければ技を発動してからその発動した能力を発動し続けることから始めろ」

 少年は刀を構えた。

 「硬刀剣乱舞こうとうけんらんぶ

 踊るように刀を振るった。剣技が終わっても剣に技の力を注ぎ続ける。すぐに消えてしまう。それを反復練習した。

 グランフォーゼは眠ってしまった。

 そこで龍のところに行き、少年は彼の剣の力で1週間を繰り返した。

 技の発動後にフォースを発動し続けた。そのコツを刀に力を込めるようにすることで保つことに成功した。

 そこから体全体に発することができるようになると、前世の知識が少しずつ脳に流れ込み始める。

 「転送、レッサードラゴン」

 グランセーバーで転送したレッサードラゴンに先ほどのように剣技のフォースを発揮し始める。

 「装備、レッサードラゴン」

 刃が光始めてドラゴンの形のオーラが発生して少年の体を包んだ。羽根を広げて羽ばたくと空を飛ぶことが出来た。

 地に降りて地面にパンチをすると大きく凹んだ。さらに口から炎を放つことが出来た。

 さらにオーラを濃くしてそのままレッサードラゴンに変化して、それを少年自身の体から放すことが出来た。それは少年の意のままに操ることが出来た。

 「これが前世の能力か」

 ところが、龍が寝転がりながら言い放つ。

 「それはグランセーバーの本来の能力。お前の能力は12刀将の能力だよ」

 しかし、前世の力を発揮出来なかったが、グランセーバーの本来の力を何とか発揮出来るようになった。

 グランフォーゼの元に戻ると、目を閉じながら声を出した。 

 「次に本来の前世の力、武器の力を理解して最大限に活用できる武具解放を身につけろ」

 剣技を放ってそのまま力を放ち続けると、グランセーバーに叫ぶ。

 「武具解放」

 次の瞬間、剣が光って形態を変化させた。

 「それは第1形態だ。今はその状態を保てるようになれ」

 少年は頷くと龍のところに戻り、タイムリープで修行を始めた。


                  5

 1年が過ぎた。少年は小学校に入学する為に近くの町に住むことになった。龍の紹介で後見人としてある人物が紹介された。

 「俺は神速見斬月かみはやみざんげつ。かつて、断界の12刀将だった者だ」

 そこで、少年は眼を見開いた。

 「かみはやみ?本家の?」

 「否、「そく」は速いという字の方で、分家の方だ。心配するな、全てを知っている。味方だ。そして、前世で恩を受けた者でもある」

 そう、前世が同じ12刀将であるのだから、接触が以前にあったとしても不思議ではない。

 彼が住むアパートに住むことになった。

 

 ふと、部屋で荷物の整理をしていると、斬月がそっと寄って囁いた。

 「お前、どうやってここに転生したんだ?お前も分家ということは、あの村で生まれた訳だろう」

 「グランフォーゼが輪廻なき転生をさせたらしいけど」

 その言葉に斬月は首を傾げた。

 「そうすると、前世の姿に近い状態でこの場所に来るはずだ。だから、お前は成人のような姿でこの場所に人間として現れたはずだ。俺のように輪廻でない限り、あの村で生まれることはないはず。だから、幼児なのに強力な力や思考を持っているんだ」

 少年はその言葉に目を丸くした。

 「じゃあ、何故…」

 「少なくても、記憶をなくしてその姿になったのは、誰かの呪詛の可能性は大きい。俺が探ってやる」

 少年は自分に剣技が使えるのはあの村出身だからだと思っていたが、前世の血であることを実感した。

 もし、元の姿になれば、どういう姿になって何を思い出すのだろうか。どういう能力を発揮出来るのだろうか。

 とにかく、彼は次の行動に移ることにした。

 ポケットから指輪を取り出すと、それをゆっくりとはめた。

 

 場所はラグノガードの砂漠。少し先に大樹が見えるので、町まではそう離れている訳ではないようだ。

 鍵を取り出すと天御鏡にして鞘を抜いた。構えると静かに囁く。

 「瞬歩」

 素早く走り砂漠を抜けると武具解放して刀を黒い妖刀に変化させた。さらに変化させて漆黒の武士の鎧を着た大人の姿に変化すると高く跳んだ。

 谷を越えて町の高い塀を超えると町の建物の屋根を跳んで世界樹に飛び移った。


 世界樹の高い枝に妖狐が眠っていた。その横に元の姿に戻った少年が駆け上がってきて座った。

 「九尾、玄翁げんのう和尚に殺生石を砕かれて、復活した後にSNOWCODEの血を継ぐ者に倒されたはずでは」

 九本の尻尾を振って狐は目を開けて視線だけ少年に向ける。

 「大きなお世話。貴方はまだ幼過ぎるからわらわの魅了は通じないのは残念。本来なら下界を掌握出来るくらいの能力はあるのよ」

 「妲己だっき玉藻前たまものまえになっても、自らの力がなければな」

 彼女は目を細める。

 「魔導界から来るんじゃなかった。確かに貴方は強力だけど、お子様なのよ。まあ、その能力がなければ噛み殺しているところよ」

 少年は微笑んだ。

 「第二形態になれば子供じゃないし、能力を使わなくても今の僕には叶わないさ」

 「前世の姿になったところで中身はお子様のまま。で、要件は?」

 彼はグランセーバーを見せる。

 「契約をして欲しいんだけど」

 「へぇ、わらわの魅了を手にしたい訳」

 少年は苦笑した。

 「変化の方だよ」

 その言葉に狐は顔を少年に向ける。

 「まさか、攻撃をとうとう再開するの」

 「まあね」

 狐は女性の姿に変化すると微笑んだ。

 「いいだろう、減るものじゃなし」

 彼女と契約を交わすと彼は親指を立てた。

 「ありがとう。じゃあ、この世界の神様の1派の改革をしてくるか」

 「せいぜい、死なないようにね」

 少年は下を出して頷くと天御鏡を構えて、先ほどの武具解放の第2形態になった。黒鎧は大樹から跳んで地に降りた。

 この世界の住人チェイサーエンドの言うグランフォーゼ率いる創生神族のエントア神族と12刀将のバーラル神族の2つの巨大信仰があった。

 バーラスの神殿の総本山であるエスオープ岩山の麓にある砂漠に浮かぶ石の箱舟、敵の本拠地に向かうことにした。

 

 カースドラゴンはエスオープ山の入り口に陣取っていた。この世界のモンスターベルトと呼ばれる魔物の森から来た存在である。龍が少年に最初に倒すように言っていた大物でもある。

 龍が倒すように言っていたということは、今の少年に倒せる相手であるということである。

 確実に倒すためにグランセーバーを出して叫んだ。

 「偉大なる古のドラゴンよ。契約の名において我に力を貸したまえ。転送、龍王ノガード」

 巨大なドラゴンのうろこの緑の刃が現れた。それは柄の下まで伸びていて、レッサードラゴンよりも厚く大きなものであった。

 そこで、ノガードの能力の知識が流れ込んでくる。

 「龍撃波」

 剣を振り下ろすと凄まじいエネルギー波が放たれた。カースドラゴンは空に飛んで避けると呪いのブレスを放ったが、少年はノガードのオーラをまとって翼で避ける。

 早く本拠地の石の箱船にいかないといけない。ここで時間を掛けている暇はない。すぐに片を付けることにした。

 「武具解放」

 剣がさらに巨大な光るドラゴンの日本刀になった。

 それを振りかざして叫ぶ。

 「龍斬剣」

 凄まじい勢いで呪いのブレスを飛び越えて、上から一閃を振り下ろした。カースドラゴンは咆哮を上げて倒れた。少年はゾンビにならない内にさらに剣を振るう。

 「秘剣 竜生九子りゅうせいきゅうし 贔屓びし 石化封印」

 刀を倒れたカースドラゴンに突くと、それは徐々に石に変化していった。

 秘剣は七聖剣の1つ、九龍剣である。

少年はため息をつくと、山を眺めてさっと跳んだ。

 山の中腹の社を超えて山頂の大木の上に立った。

 すると、半月の月天と弧月の月見が姿を見せる。少年は武具解放の剣の能力のみで簡単に2柱の剣を弾くと、そのまま山を越え始めた。

 木々の中を掛けていくと、次に月下の炎騎が現れた。

 「ここを通す訳にはいかんな」

 「貴方は僕が玄王の石化をしていないと分かっているはずだ」

 「それでも、ここを通せない」

 「闇の四天王がそんなに怖いのかい」

 彼は剣を構える。少年は無詠唱で刀を振るう。瞬時にして炎騎の鎧は割れた。

 「次は容赦しませんよ」

 少年の言葉に剣を置くと目を瞑って言葉を落とした。

 「さっさと行け、負けだ」

 彼はさっと山を下りた。山の裏に石の箱舟が砂の海に乗っていた。

 そこに人影が現れる。

 「とうとう、ここまで来たか」

 朔の水無月が姿を見せる。

 「悪いことは言わん、帰れ。この先には悪魔がいる。天万の斬月の代わりに加入した望の覇鬼はきという者だ。あれを止めることは出来ん。立場の回復の希望は分かるが、ここは下がって欲しい」

 そこで少年は力をさらに発した。

 「武具解放、第二形態」

 すると、体が徐々に大人の姿になって鎧を羽織った。

 「貴方は朔望さくぼう蛟龍こうりゅう様では。次期玄王と言われていた貴方が何故」

 「創生龍に転生されたんだけど、呪詛で力、形、記憶を封じられているんだ。武具解放で前世の能力を少しずつ解放しているけど」

 「貴方の姿、能力を忘れる訳も間違う訳もない。貴方が負ける訳も間違いを犯す訳もない。力を貸そうぞ」

 しかし、彼は頭を横に振った。

 「その心配はない。白澤と共に逃げていてくれ」

 少年はそのまま、礼をする炎騎の横を通って箱舟に向かって飛んだ。

 上空で武具解放を解除すると、グランセーバーにグランフォーゼの分身を転送した。扱えないがその重さと丈夫さだけでも十分な武器になった。

 凄まじい重さで落ちていき、敵の本拠地である巨大な石の箱舟の中心を突き破り真っ二つにした。そのまま沈む瞬間、砂の中で転送解除して武具解放の第二形態をして砂の中かた脱出した。瓦礫の中に4柱の剣士が立っていた。

 「四天王が勢ぞろいか」

 「貴様か、玄王の石化を放った虚けは」

 本気で月食童子のことを信じているようだ。

 「玄王が月食童子を探し、倒そうとしていたのは知っているか」

 彼らは嘲笑う。

 「まさか、可畏様がその童子だとでも言うのか」

 これは刃を交えるしかないと、少年は俯いて柄を強く握った。構えると、凄まじい気を発した。

 「青龍剣 包囲」

 太刀筋が4柱の周りを囲い、全ての攻撃を弾いて首筋に突きをして剣先を創玄に突きつける。

 「腕をかなり上げているようだな、小僧」

 「いかに古より強力な四剣士と言えども、勝ち目はない」

 少年の言葉に4柱は渋い表情を見せる。

 「言わせていれば」

 投総が刀を抜いて瓦礫から振り降りてくる。

 「秘剣 皇帝龍 五爪金龍 乱舞突き」

 全ての投総の攻撃を受けて弾いた。相手は略式詠唱をしないで剣技を繰り出すので、時間的に不利だが、それ以上に四天王の攻撃の強さには完全に少年の強さに匹敵していた。

 グランセーバーでノガードを転送すると、体にオーラとして転送して変化させた。さらに発すると、少年の体から離れてノガードを操ることが出来た。

 グランセーバーで転送した存在は意識を封じられるはずだが、龍王ノガードは発せられた分身なのに声を少年の脳裏に発した。

 『秘剣 みずち』を使えるようになれ。今のお主には力が出せないはずだが、1秒は本当の力を発揮出来るはずだ」

 少年は心の中で頷きながらノガードで応戦をする。強烈なブレスを放つと流石の四天王の1柱、投総でも防ぎ切ることが出来なかった。

 さらにノガードを発して操りながら、少年の本体も攻撃を放った。ノガードに放たせたブレスは広範囲の為に耐えるしかない。そこで多少なりにダメージを食らった瞬間に、予想外に強烈な剣技を少年が放った。

 「龍王後炎剣 打壊」

 投総の剣は折れて散った。体は吹き飛ばされて瓦礫を破壊しながら奥に埋まっていった。

 「まずは1匹」

 少年は次に高台にいる奥離を睨んだ。

 四天王はお互いに手を組んで戦うことをしないので、それが少年に功を奏した。手を出すことはしないので、1対1で戦える。

 「ご指名なら仕方がないな。…ただで済むと思うな、奇跡はもう起きない」

 奥離は距離を取って降りると、刀を抜いて目を閉じた。

 精神統一、つまり剣技ではない可能性があった。

 「火炎弾」

 奥離が炎を手から放つが少年はすぐにさっと避けた。さらに多くの炎弾を放つが、まるで予知していたかのように避けて刃を振るった。

 「大撃斬」

 それを腕で軽く受けるとさらに大きく跳んで距離を取った。

 「龍気砲」

 両手を構えると、強烈なエネルギー弾を放った。少々強めだが、凄まじい速さだ。それをさらに大撃斬で斜め前に進んで即座に避けてさらに刀を振るう。

 「聖龍剣 凪」

 少年の気配が消えたと思った瞬間、奥離の背後から凄まじい斬撃が振り下ろされた。流石に鎧は避けて光の血が散った。

 「四天王の依代が生き物だったとはな」

 少年はそう呟いた。

 奥離はさらに距離を取って、力を両手に溜め始める。

 「龍撃波」

 剣士相手に距離を取って遠距離攻撃はセオリーだが、攻撃を完全に読んでいる少年には意味がなかった。その強烈なエネルギー弾を完全に軌道を読んで跳んで避けると、強烈な気を高めた。

 「青龍剣 斬」

 刹那、少年は姿が消えたと思わせた次の瞬間、奥離の頭上から剣を振り下ろした。鎧を叩き切ると、流石に次は奥離は距離を取ることはしなかった。それが無意味なことに気付いたのだ。

 少年は囁く。

 「ドラゴンの技は全て分かっている。初動の動きとドラゴンの能力でわかるんだよ」

 そう、彼のドラゴンの能力はドラゴンの技を見ていただけでなく、ノガード等から情報を取り入れていたのだ。

 「龍斬剣」

 すぐに剣技を放つと、その言葉に戦意を少々揺るがせた奥離は大きな傷を体に受けて弾き飛ばされて倒れた。

 「2匹目」

 次に創玄に視線を向けた。


 彼は真剣な表情で刀を抜く。ノガードを消して武具解放をする。第2形態で大人の姿に変化して鎧姿になる。

 「螺旋斬」

 凄まじい力で回転しながら創玄に刀を振るう。それを彼は簡単に弾いて少年の背後に回る。

 「回転斬」

 後ろに回りながら剣を振るう。それを剣で受けて空中に打ち上げた。

 少年は空中で構えながら叫ぶ。

 「龍王剣 打閃」

 瞬間、創玄の目の前に迫っていた。剣で刃を受けるが、今度は強い力で弾くことが出来なかった。

 そのまま押し負けて後ろに飛び去った。

 「大撃斬」

 大きく踏み込むと地が凹む。刃が創玄の手前で空を切った。

 「我が流儀は霧氷流という防御に最も優れたものだ。どんな攻撃も無駄だ」

 そう言った瞬間に創玄は刀を少年の首筋に来ていた。

 「雷剛破らいごうは

 その刀を弾いて創玄の頭部に向けて剣先を向ける。そのまま剣筋は創玄の避ける方向に追跡するように振り下ろされる。

 刀で弾こうとするが、創玄の刀を避けて少年の刃は創玄の鎧を直撃して粉々に砕いた。

 「まさか、無詠唱か」

 創玄が冷や汗を流しながら囁く。

 そう、雷剛破を放った少年は詠唱なしで剣軌道を避けて強い切り付けの剣技を放ったのだ。

 意表を突けば何とかなるものである。武具解放で転生前の能力を多少使えるので、詠唱なしで技を使える状態は少なからず出来るようになるのだ。

 第1形態ですでにそれが可能であった。

 少年は気を高めて刀を構える。

 次の瞬間、凄まじい秘技を炸裂させる。流石に創玄も避けることさえ出来なかった。防御特化の剣士の弱点である。

 少年の姿は頭上に移動して3つの太刀筋が放たれた。最初、剣技でそのような技がないので驚愕したが、1つを避けて1つを刀で弾く。しかし、最後の1太刀は直撃して創玄はダメージを受けて瓦礫の中に突っ込んで埋まってしまった。


 残る閃山は慎重にゆっくりと降りると、距離を取って刀を構えた。

 「今の分身はどれも実態だった。速さで複数に見せた訳でも2太刀を幻で作り出した訳でもない。一体、何をした」

 「簡単、全てが本当の太刀筋だったんだよ」

 秘技の中には技でなく体力特化のものがある。姿を瞬時に動いて消して、敵の落とした刀、武具解放したグランソード、そして、天御鏡の3本を瞬時に用意したのだ。3本を同時に秘技を放ったのだ。

 閃山は刀を突きをする構えをして、それを距離のある状態で突いた。斬撃は放たれたが、簡単に弾いた。

「斬撃を放つ方法は剣技ではない。さっきの奴のドラゴンの能力と同じ別の能力の持ち主か」

 天御鏡の能力で少年はアポリオを高めた。

 「では、こっちも別の能力で戦わせてもらおう」

 閃山は焦る。唯一の他能力は斬撃を飛ばすものだった。

 少年は手を前に出すと、変換したアポリオを発した。光の魔法円が発生させる。

 「ライトニングショット」

 凄まじい光弾が放たれるが、それを閃山は刀で受け止めた。

 「ライトウィング」

 と同時に光の翼で空を飛んで背後に回って刀に光のエネルギーを溜めた。

 「プラズマブレット」

 刀にそのエネルギー弾を溜めたまま、閃山に向かって剣技を放った。

 「蛟龍剣 刹那」

 刀は閃山の飛ばす斬撃をプラズマに吸わせて刃を胴に叩きつける。鎧を剣技で叩き壊すと、プラズマエネルギーをそのまま放って強烈なダメージをさらに与えた。彼はそのまま地に崩れ落ちた。

 「残るはラスボスのみ、か」

 武具をしまうと瓦礫の上にある箱舟のブリッジに向かった。


                   6

 可畏は船長席で足を組んでいた。

 「まさか、本当に全部倒して我のところに来るとはな」

 少年は睨み付ける。

 「玄王の石化を戻せ」

 「貴様には関わりのないことだろう。それとも、一族おうちに無実を晴らして戻りたいのかい」

 少年は凄まじい気を発し始める。

 「どちらにしても、お前を倒せば術は解ける」

 「出来れば、の話だが。我を他の者と一緒にするなよ」

 ブリッジから天井を壊して空に跳んだ可畏は刀を抜いた。確かに今までの中で一番強力な力を感じた。

 「それより、前にも言ったが、我の下に付かないか」

 少年は刀を握って構える。

 「…無駄か。しかし、この石の船の足元では強打の技を出せないぞ」

 確かに大撃斬を出すにも、クレーターを作るほどに踏み込む。少年は攻撃の方法を考えた。

 そこに白澤が現れる。

 「お主も立ちはだかるのか、愚かな」

 白澤と可畏は凄まじい斬撃を放ち合い始める。

 「白澤さん、早く逃げて。流石の貴方もそいつには叶わない。今までの連中と桁違いなことはここからでも分かる」

 「それでもやらざるを得ん」

 しかし、その言葉も空しくすぐに電撃を帯びた強烈な斬撃を受けて、白澤は瓦礫に突き飛ばされて石の箱舟の瓦礫に埋まった。


 秘剣 蛟。この技は本来、強力な攻撃を連続で高速移動をしながら放つ最大奥義である。しかし、エネルギーも体力、精神力、全てが最大限のレベルでないと扱えない剣技であった。

 今はそんなことも言っていられない。不完全でもやるしかない。攻撃が2,3秒でも可能性がある限りは。

 小さく少年は呟く。

 「秘剣 蛟」

 凄まじいスピードで動くことが出来た。可畏は不完全な少年の技でも見切ることは出来ないようだが、刀を軽く振って攻撃をかわしていた。

 全力の技はまだ出せない。そこでチャンスを伺っている間に可畏が凄まじい技を放った。

 刀が奇妙な動きをして追跡するように動き、予測されたのか動いたところに刀がS字を描いて迫った。

 攻撃を全力で放った。

 刀同士が合わさり2者は動かなくなった。動きを止められただけでなく、未完全な蛟をも止められたのだ。勝ち目は万に一つもなくなったように思われた。

 そこに次元の歪みが現れ、中からアドネルが現れた。

 「成程、やはりここにいたか」

 彼の姿は変化していた。

 「アドネル、邪魔をしに来たのか」

 可畏がそう言うと、銀のローブの姿を見せて言った。

 「我は高界の存在になったのだ。上界の上の次元、高界の最高者フェイトの力でな」

 「フェイトさえ、我の邪魔をするのか」

 「今はアーク本体は守られている。ここを拠点にして下界からしか手を出せないが、その下界でも溢れた鬼、アスタロッドに邪魔されているのだろう」

 「それに下界には我々の一族がいる」

 そこで可畏は嘲笑った。

 「お前らアンドリュの子孫共等、視界にも入っておらんよ」

 「フェイトはアーク保守の為なら、多少の無理を我に命じたのだよ」

 「捻じれの位相の次元の者の言葉を聞くというのか」

 「フェイトと主は既に手を組んでいるのだよ、それにグランフォーゼに頼まれていることがある。ここに拠点を築き、ここに現れる全ての次元、世界の守護を依頼されたのだ」

 「流石の邪気を持つ悪神も創生神には叶わないということか」

 「ほざいておれ、時期にその小僧に滅せられるのだからな」

 そして、アドネルは光の玉を少年に放った。すると、彼は力が底から湧いてきた。

 「第3形態」

 少年がそう呟くと、姿が完全に前世の姿に変化して前世の能力が復活した。

 「これが前世の力か」

 「詳しいことはまだ言えないが、それが本来の今のお前だ。さあ、存分に戦え」

 日本刀を構えると略式詠唱なしに技を放つ。驚愕で動けなかった可畏は肩の装甲を粉々にされた。

 「これが旧12刀将の英雄の能力…」

 さらに斬撃が続く。

 つば競り合いと目に見えぬ動きの攻防が続いた。しかし、力の差は歴然であった。

同じ肩に熱さを感じてすぐに可畏は地面に逃げて、瓦礫に隠れた。炎の斬撃で火傷を負っていた。

 瞬間、背後に現れた少年は凄まじい剣技が放たれた。

 「馬鹿な、我が負ける等、神なる我が」

 可畏は石化を始めて動けなくなった。

 「流石、我を過去に救った英雄」

 アドネルは降りてきて可畏の石像を持ち上げた。

 「これは我が封印しておく」

 そして、去っていった。


 しばらくすると、復活した玄王 下弦が現れた。

 「我を月食童子から救った功績、礼を言う」

 「恐れ入ります」

 元の姿に戻った少年は頭を下げた。

 「頭を上げてくれ」

 そして、玄王は12刀将を召喚した。

 前断界の12刀将は下記のとおりであった。

月食童子こと月食の可畏、半月の月天、弧月の月見、月下の炎騎、朔の水無月、無月の創玄、満月の投総、上弦の閃山、神無の奥離新月の白澤。

 玄王の星流の下弦をいれて今は10柱であったが、可畏が下りたので9柱となっていた。

 「すぐに3柱を集めぬとな」

 満身創痍の彼らは玄王によりヒーリングを受けた。

 「しかし、あの最初に会ったひ弱な少年がなあ。そうだ、過去の12刀将の英雄であるし、お主、12刀将に入らぬか」

 その言葉に炎騎が進言する。

 「お言葉ですが、下弦様。我らと違う断界の存在でない者を12刀将に入れる等、許されませぬ」

 「貴公らが誑かさていたのを助けてくれたのだぞ。例外だ」

 少年は何を言わずに考えた。

 「とりあえず、暫定的にそうしよう。他の2柱の選抜は貴公らに任せる」

 少年は去ることにした。

 玄王は少年にある鍵を渡して、いざという時に役立つとだけ言い残した。そして、石の箱舟を直し始めた。


                   エピローグ

 少年は小学校に入学して3年になっていた。

 その頃には、かなりの実力を持っていて、斬月の指導で負け知らずになっていた。

 龍の言った7つの指輪を持つ神器を持つ仲間とグラノガードを守るという使命はまだ達成されていない。

 それでも定期的に向こうの世界には行っていた。

 玄王の星流の下弦にも顔を見せに行き、武神としてチェイサーエンドの民衆に崇められていた。

 仲間探しとその後の話はまた別の話にて。


                     続く


読んで分かったと思いますが、アンドリュが下界に来てからの話です。

その後に彼は日本で定住していて、その後の話に続いています。

少年のその後の話も楽しみにしていて下さい。

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