7話 大森林とキャンプ地と
俺が森の入り口にたどり着いたのは太陽が完全に沈む寸前だった。時刻は午後六時二十分。
森の入り口にあるセーフティゾーンに腰を下ろすと、俺は地図を取り出した。
「この先は森とだけ書いてあるけど…この規模からしてただの森って訳じゃないだろうな。」
俺は地図を睨みながら今後の進路を考えた。安物の地図な為どこまで信用していいかは分からないが、この地図の通りだとすればかなり広い森という事になる。どれくらい広いかと言えば、今通って来た平原の約二倍はある。
ただ、書いてある絵も随分とアバウトな物で、森の範囲には特に何もないように見える。
「くそ、お金ケチらずに中級くらいの地図を買えば良かったか…。」
今更後悔するが遅い。
とりあえず未知の領域を夜に探索する勇気は無いので、大人しく朝を待つ事にする。
空腹度と給水度がやや減っていたので、軽く飯にするか。…そういえば料理アビリティ持ってたな。
「料理か…。作れるかと言えば作れるが、材料が乏しい…。」
俺が料理を作れる理由はただ一つだ。
俺のダメ親が料理を作れないのだ。生卵を直で焼いて卵焼きとか抜かす馬鹿者だからな、どうやって食えと言うんだ全く。
セーフティゾーンにはキャンプ地として設置してある水源や調理場、モンスターの情報が載った看板等が置いてある。
その調理場の一つを借りて料理を始める。
道具屋で買った簡易調理キットを取り出す。アイテムボックスから箱みたいなソレを取り出して開けると、中には鍋と飯盒と箸とかお玉とかが入っていた。本当のキャンプセットじゃないかこれ?
食材はここまで来るのに倒してきたグラスラビットやホワイトシープの肉がある。逆に言えばそれだけだが。
「ん?こんなのあったっけ?」
よく見ると、肉の代わりにくず肉や骨付き肉と言った物までドロップしていた。おかしいな、確か情報ではこんなアイテムはドロップしなかった筈だが…
グラスラビットのくず肉《調理アイテム》《サバイバルドロップ品》
筋があってそのままでは食べられないくず肉。
料理の素材とするにはひと手間が必要。
ホワイトシープの骨付き肉《調理アイテム》《サバイバルドロップ品》
骨付き肉と言っても、肉の部分は僅かしかない。
無論、そのままでは食べられない。
ああ、そういう事か。これはアビリティのサバイバルの効果でドロップしたアイテムだ。
サバイバルは確か、ドロップアイテムの変化と隠れた採取アイテムが採れるようになるアビリティだったな、すっかり忘れてた。
「くず肉か。スジ肉も混じってるなこりゃ。」
スジ肉か…もっと道具があればスープか何かに加工できるんだが、料理レベル1な上に調理道具も揃ってない今じゃ料理できないな。
下処理せずに食ってみろ、生臭い上に脂だらけで食えたもんじゃないぞ。
結局、普通の肉の方を取り出して串に刺して焼いた。…普通の串焼きだ。何、料理じゃない?焼肉の一種だ、あれだって一応料理に入るだろう。
丁度いい焼き具合になったら、塩と胡椒を振りかける。よし、何とか美味しそうに出来たぞ。
草兎の串焼き(LANK:2)
グラスラビットの肉を切り分けて串に刺して焼いたもの。
腹持ちが良い。(空腹度5割回復)
評価ランク2で空腹度5割回復か。やっぱり肉を食べるとスタミナが付くからだろうか?
ちなみに携帯食料は2割回復。乾パンと肉は比べものにはならないか。
「あー、野菜が欲しい。食材屋で買っておけば良かったな。」
地図でも同じ思いをしたが、いざ街から出てみて不備に気づくとは情けない。…食べ物にこだわるのは日本人の特徴だからな。そうだろ?
十分程度で焼きあがった串を食べ終わり、俺は何をしようかと考えていると、ふと目に留まった物があった。
「…大森林地帯に出没する魔物一覧、か。」
目に留まったのは、キャンプ地の出口付近にある看板だ。そこには木で出来た簡素な看板に羊皮紙(だと思う)が貼られており、そこに魔物の絵と情報が書かれている。
出現魔物(確認済みのみ)
・グラスウルフ 適正レベル10~ 5~7匹の群れで行動する。噛みつきや突進で攻撃してくる。人間に対しては攻撃的だが、自分より格段に強い人間に対しては消極的となる。
・レッドウルフ 適正レベル20~ 群れでは行動せず、常に一匹で行動する、まさに一匹狼。グラスウルフよりも攻撃的になっており、また行動力も段違い。
・ノーブルトレント 適正レベル14~ 木に擬態して獲物が近寄るのを待つ魔物。木の魔物だが、れっきとした肉食である。地面から根を突き出して攻撃してくるが、元が木な為に火属性の攻撃に格段に弱い。
・ハイラビット 適正レベル9~ 森に棲む野兎。人を見ても襲わず、むしろ近寄ってくる人懐っこい性格。近隣の村では養殖もされている程。
・ウィンドエレメンタル 適正レベル15~ 森を漂う風の魔力を纏った精霊。人を見ても襲ってこない。数は少なく出会えたらラッキーと思え。物理攻撃は効きにくいが魔法攻撃が効く。
「うわっ、これマズイだろ…」
この森、思ったより危険だぞ…。いや、グラスウルフのうろつく平原の奥にあるから少しは敵も強くなってるだろうなーとは思ってたが、思ってたよりもはるかにレベルが高い。
グラスウルフは群れで行動。つまり、出くわしたら最低でも一対五で戦わなければならない、という事か。一対一で戦えるレッドウルフに至っては、レベル20オーバー。どう考えても初期装備+ジョブルーキーの俺が太刀打ちできる相手ではない。
「考えてもしょうがないし、明るくなったら考えよう。」
と、俺はキャンプ地の隅の方に寝っ転がってメニューを選択。就寝ボタンを押すと、俺の意識は急激に薄れていった。寝る必要があるVRゲームで、その中でも寝るっていうのはどうなんだろうか…。
タイガ《称号:ルーキー》
【ジョブ】《ルーキーLv5》
【メインスキル】《短剣技術Lv3》
《軽鎧Lv2》
《回避技術Lv2》
《補助武器Lv1》
【アビリティ】《サバイバルLv3》
《空腹度減少軽減Lv2》
《観察眼Lv1》
《生産技術Lv1》
《料理Lv3》
《エンカウント率減少Lv3》