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90「セクシー田中さん」問題について 4

 

 こんにちは。

 今回もまたこの件です。

 これについては、少し間を置いてはまた別の情報や記事が出るということが繰り返されているもので、今後もときどき書くことになりそうです。


 さてさて。

 ここへきてわたくし、今更ですが、あらためて芦原妃名子先生によるマンガ作品「セクシー田中さん」を、既刊の1巻から7巻まで拝読いたしました。

 多くのキャラクターがそれぞれ丁寧に描写されていて、芦原先生の思い入れと作品にこめたテーマがあらためて迫ってきて、時々胸の痛む思いがいたしました。この素敵な作品の続きがもう読めないのかと思うと、何とも知れないむなしい気持ちに襲われます。

 そしてまたあらためて、こちら作品をテレビドラマ版にアレンジするというのは相当大変な作業だっただろうな……というのを感じました。


 あれから「セクシー田中さん」の出版社内部の「第一コミック 編集者一同」の記名で、とある声明文が出されました。それはのちに出版社のホームページにも掲載されました。

 芦原先生の今回の訃報に対して、できごとの経緯の一部と、自分たちがこうした問題において作家への対応をどのように考えてきたかを語り、先生の訃報にふれて悲しんでいる、という内容のものです。

 正直申し上げて、こちらの声明文でも実際の経緯についてはあまり明らかにはなっていません。かれらがマンガ家にとっての「著作者人格権」がいかに重要なものかを認識しているということと、ドラマ化などの際には原作者の意向をしっかりとテレビ局等へ伝えることに努めてきた……といった内容でした。


 その声明が出される少し前には、当該の脚本家さんも自身のSNSで「芦原先生がブログで語った内容は知らないことばかりだった」という内容のことを公表していましたので、両者の認識はだいぶ異なっているらしい……ということだけはわかりました。

 片や「きちんと伝えてきた」、片や「ほとんど聞いていないことばかり」。

 いったいどちらが本当なのか。どちらも本当なのだとしたら、その齟齬はどこから生じたのか。ここが今後の焦点になりそうです。


 芦原先生と出版社、脚本家をつなぐのはテレビ局のプロデューサーということになりますが、この人たちだけは最初からずーっと「だんまり」状態で、そのせいもあってか、SNS上ではいろいろな憶測が飛び交っております。


 今のところは出版社とテレビ局が内部で調査する段階なんだろうなとは思いますが、いつまでもこの調子というわけにはいかないと思う。

 やっぱり、会社の利害に左右されずに事実をきちんと検証できる、第三者委員会のようなものが立ち上がるべきではないか……と個人的には思います。


 その後、原作ありのテレビドラマを制作したことのある元テレビ局社員の人や漫画家さんなど多くの人たちが自分の知見を披露してこられましたが、今回のドラマについてはやはり、体制にもかなり無理があったらしい、というのがわかってきました。

 基本的にこのぐらいの規模のドラマを制作する場合、全体を統括するチーフプロデューサー(CP)が1名、最低でも局Pが2名、プロダクションPが2名、といった体制でいくのがよいらしいのですが、今回のドラマではそれぞれ1名ずつしかいなかったそうな。


 それでは明らかに人手不足であり、目の前の仕事を回していくだけでやっと、それも目の回るような忙しさになるのだといいます。すくなくとも原作者の先生と現場をつないで細やかな意思疎通やケアを図ろうとするなら、到底これでは足りないだろうと。

 そんな中、あがってきた脚本に対して原作者である芦原先生から何度も直しが来ると言う状況。かなり現場は大変だったのではないかと。


 いや、しかし。

 それならもっとスケジュールに余裕をもって制作するとか、脚本が全部あがってから原作者の先生に全体的にチェックしていただき、OKが出てから撮影に入るとか、色々やりようがありそうなもの。

 そもそも両者の間に入っていた「だれかさん」が、脚本家に最初からきちんと「原作をほぼ変えないこと」という最も大事な部分をしっかり伝えておけばよかったのだろうと思うし。


 とはいえ、現場をわかっている方に言わせると、少なくとも今のテレビ局の体制では現実問題として、そこまで余裕がとれないのだそうな。

 実際、そういう作り方をすると非常にコストもかかるそうです。

 よく知らなかったんですが、脚本家には、1本あたり1時間のドラマの脚本料が大体100万円ほど支払われるそうです。それがもし、原作者からNGがきてボツになった場合、脚本料を捨てるに等しいことになってしまう。全11話のドラマだったら1100万円を捨てるのと同じことに……。

 ほかにも、その作品を一定期間ほかの局に使われないようにするため、原作者に対して「オプション契約」というのを結ぶ必要があるそうですが、この料金は映像化が実現しなくても戻ってくることはないんだそうな。この料金は、期間が長引くとより高額になっていくようですしね。


 また役者の配分についても問題が。

 ドラマの主役を張れる役者というのは多くなく、作品のイメージに合った人を……となればもっと選択肢は絞られてくる。役者は他局との奪い合いが常であり、そのため芸能事務所の「発言権」もどうしても大きくなりがち。「うちの〇〇にはこういう演技はさせたくない」みたいなことを言われると、原作にあったシーンを変更せざるを得なくなったり……ということも起こりがちなのでしょうね。

 そうした芸能事務所に対して、役者のスケジュールを押さえてもらうためのスケジュール管理やら調整やらなんやらもあり、ドラマ制作中のプロデューサーは非常に多くの仕事を抱えていて、土日も不休で働いてらっしゃるそうな。

 こうなってくると、もうドラマ制作班だけでなしに、テレビ局全体の構造的な問題もはらんでいる気がしてきますね。

 全体の利益を追求するべき会社という組織としては、そこはできるだけコスト削減したいものでしょうし。


 今回の件で、SNSでも話題にのぼっていたのが「出版エージェント」の必要性。日本ではまだ耳慣れないものですが、すでに海外では存在し、作者の権利を守るべく稼働しているのだとか。

 大リーグを例にしている人があったので紹介すると、たとえば大リーグの大谷選手が球団との交渉の際、間にエージェントをはさんで交渉していましたよね。

 企業などの団体と個人の間での契約や交渉となると、どうしても個人の立場は弱くなってしまう。自分もお金をいただく立場ということになるとモノが言いにくくなり、今回のように当然守られるべきだった大切な「著作者人格権」ですら侵されかねない事態にもなる。


 今までは出版社が漫画家とテレビ局の間に入って意向を伝える役割を担ってきたわけですが、出版社と漫画家の利害は必ずしも一致しないことがあるため、そもそもこの構造自体もまずかったと言えるのかもしれません。

 やっぱり、漫画家や小説家の利害や希望をしっかりと代弁でき、出版契約や映像化権契約時の契約実務を担当する「出版エージェント」の存在が求められている。

「出版エージェント」は、出版社とはちがって100%作家の利害を代弁するために存在するものです。

 こういう存在が最初からきちんとあるなら、原作者が原作とあまりにも異なる映像作品を勝手に作られてしまう……といった危険を、今よりもずっと回避しやすくなるでしょう。


 今後は日本でも、もっともっとこうした作者の権利を守るための機構が発展していくことを願います。

 ではでは、今回はこのあたりで。


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