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84 「セクシー田中さん」問題について

 なんと言いますか、言葉にならない事件が起こってしまいました。

 特に、アマチュアだとはいえ一応小説やイラスト、漫画などかいている人間として、非常にショックな案件です。


 すでに各テレビ局でニュースにはなっていますが、概要を少し。

 芦原妃名子先生が描かれた人気漫画「セクシー田中さん」という作品をもとに、昨年秋からテレビドラマが放送されていました。


 先に申し上げておきますが、私はこちらの作品を電子マンガで少し拝見したことがある程度。ドラマの方は存在自体をまったく知らずに時を過ごしてしまい、新年を迎えたクチです。

 実は普段、あまり民法のドラマの情報が入ってこなくてですね……。あの有名な人気作「VIVANT」ですら、評判がよいのを知ってから年末の一気放送で見た人間でして。


 閑話休題。

「セクシー田中さん」の原作マンガの方は、うまく言葉にできないさまざまな生きづらさを抱える人たちへの、押し付けがましくないエール……という風に受け取っておりました。人の心の機微を巧みに捉え、読む人に勇気を与える素敵な作品だと思いました。


 それがここへ来て、SNS上で炎上しておりました。

 なんのことかよくわからなかったのですが、要するに原作者である芦原先生と、制作者サイドの作品の再現方法にかなりのズレがあった模様。


 芦原先生がSNSで告白した内容によれば、先生はこちら作品をドラマ化するにあたり、とにかく「原作を変えないこと」を条件に提示していたのだとか。

 ところが、事前に出来上がってきた脚本をチェックすると、先生が望む形には程遠かったようです。要するに、かなりの改変が加えられていたと。


 先生は、こちらを手掛けた脚本家(女性。仮にA氏とします)とは一度も会ったことがなく、作品について話をしたこともないそうですが、一体なにがどうしてこんな形の脚本になってしまったのかが全くわからなかったのだとか。

 会ったことがなくても、間を取り持つ出版社や番組プロデューサーには作者としての意向は伝えてあったということなので。


 その後、両者間でさらにさまざまなトラブル、軋轢等々があった挙げ句、話し合いがあり、ドラマ終盤の二話ぶんだけ原作者である芦原先生が手掛けられ、脚本家A氏はそのサポートをした……と、いうことのよう。


 放送後、ドラマ終盤について批判的なコメントが書き込まれるようになり、それに対してA氏がイン○タグラムで「あれは原作者が書きました」と暴露。全体的に「だから、その部分の出来・不出来は自分には責任がない」といった、なんとなく恨みがましいというか、原作者への当てこすりのようにも取れるニュアンスのある書き方でした。

「今後はこのようなことがないことを願います」と、かなり悔しさをにじませるようなコメントも。

 SNSでは、この脚本家を擁護するコメントがいくつもついていたそうで。

 つまり、モノカキを自称する人やその他のアカウントが芦原先生を批判するというか、悪しざまに言うコメントをし始めました。「なるほど脚本のシロウトが書いたから、あんなにダメだったんだね」みたいなディスる感じのやつね……。


 それに耐えかねてか、芦原先生がこれまでの一年あまりの経緯を説明。これは、小学館さんとも話をした上で事実確認し、公開した内容だったようです。そこで、前述の内容が明らかになりました。

 それは、先生がここまで、相当つらいご経験をなさってきたことがうかがわれる内容でした。


 テレビ局側では、「先生とよく相談の上、ご納得いただいて製作した」とコメントを出したのですが、芦原先生のコメントとはかけはなれたものです。

 先生は、マンガを出版している小学館やテレビ局制作サイドのだれか(恐らくはプロデューサー)を通して制作側や脚本家に自分の要望を伝えたはずなのに、それがなんら反映されない脚本が上がってきてまず驚いた、とのこと。

 その後、何度か制作側へ苦言も呈し「内容を原作に添うような形にしてほしい」と要望されたようですが、なかなか聞き入れられず。何度も直しに直しを重ねてもらい、なんとかかんとか終盤近くまで放送されたという経緯。


 やむなく「終盤だけは」と、ご自身の手で脚本にされた……という流れらしく。

 ここまででも、雑誌の連載を抱えながら先生は相当なストレスと仕事量に圧迫されていたであろうことは想像に難くないです。


 ところが、先生がこれをご自身のブログで告白したところ、今度はSNSで脚本家がひどく叩かれて炎上する事態に。

 この脚本家さんはそもそも、さまざまな原作ありのドラマ脚本をかくにあたり、原作をひどく変えてしまうことで有名な方らしい。まあ私はよく存じ上げませんけども。

 例にあがった別のドラマは、原作をよく知らずにドラマを見て、私個人はとても楽しく拝見したので、実力のある書き手さんであることは間違いないと思いますけどもね。

 原作者さんへの深いリスペクトがあるかないか……という一点では問題があるのだとしても。


 ともあれSNSを見ながら「これは大変なことに……」と思っていたら、今度はいきなり、突然の芦原先生の訃報が流れたのでした。

 最後にSNSにつぶやいた先生のお言葉は


「攻撃したかったわけじゃなくて。

 ごめんなさい。」


 というもの。

 先生は行方不明になったあと、某ダムで亡くなった状態で見つかったそうです。


 なんなんだろう、これ……。

 もう頭を抱えます。

 なんでこんなことで、人が死ななくてはならないのか。

 まずわき起こったのはやるせない怒りでした。そして虚しさと悲しみです。


「創作者にとって、創作物は我が子同然」というのはよく言われることです。

 かく言う私自身は「我が子」という表現はあまり好きではないのですが、ともあれ「非常に大切なもの」「他のものとは替えることのできないもの」であることは間違いありません。


 漫画であれば、ストーリーはもちろんのこと、キャラクターの見た目から仕草、セリフの細かいところまで、作者の思い入れや創意工夫で一杯のはずです。

 それは芦原先生のみならず、どんな作品であっても、多くの漫画家さんや小説家さんなどが、時には編集さんと二人三脚で、日々頭と心を悩ませ、睡眠不足に陥りながらも全力をもって作品を作り上げ、世に問うているのではないかと思います。


 大切な大切な「わたしの」作品。

 もちろん作品は、受け取る人があってこそ「作品」になるものではありますが。

 それでもやはり、誰よりもまずは「作者の」作品ではあるはずです。


 法的な話を少しすると、あらゆる創作物には、作者に対して著作者人格権や同一性保持権が認められています。

 今回の案件で、先生と番組制作側がどんな契約書をかわしていたかはわかりませんが、その中に作者がこの権利を放棄する、という一文がない限り、この権利は守られなくてはならない。

 著作者人格権は、なにより著者の心を、精神的な側面を守るための法律です。これが守られなくなりそうだったからこそ、先生は脚本の書き直しを何度も求められたのでしょう。


 漫画家になるには多くの壁やハードルが存在します。

 雑誌に連載できて、それが単行本化され、ましてやアニメ化されたりドラマ化されたりするって、本当に一握りの天才だけに開かれる稀有な扉でしょう。

 芦原先生もまちがいなく、その「天才」たちの1人だったに違いありません。

 そんなかたが、こんな形で命を絶つことになるとは……。


 原作の「セクシー田中さん」はいまだ完結しておらず、連載中だったとのこと。どんな形で完結するのかも未定の状態だったそうです。

 作者がお亡くなりになったことで、こちらは未完になってしまうのでしょうか。それともあの「ベルセルク」のように、ラストまでを他のかたが引き継いで下さるようなことがあるのでしょうか。

 いや、今回に関してはそれはないかも。ドラマ化に際して、あれほど「自分の思うストーリーから逸脱すること」を嫌われた先生でしたから、他人が勝手に後のストーリーを作るなんて不敬なことは、基本的に誰にもできないでしょうね……。


 制作サイドが、一体どういうつもりで原作者の意向を無碍に扱い、こんな事態を招くことになったのか、そのあたりはまだまだ不明です。

 当の脚本家や彼女を擁護した他のアカウントは、まわりじゅうからの批判に耐えかねてか、軒並みアカウントを消したり鍵をかけたりして離脱しているようです。


 亡くなってしまった芦原先生だけが、ぽつんと宙に浮いた状態……。


 でも、でもね。

 どんなにつらくてもね、やっぱり死んではいけなかったと思うんよ、私は。

 生きてなければ、残ったやつらに好き勝手に、自分にだけ都合のいいことを言われるだけやし。

 生きてなければ、大切な作品だって守れなくなってしまうし。

 言うべきことは、ちゃんと生きて、相手にきちんとぶつけなければ。主張して、自分の権利を守らなくてはならんと思う。

 理不尽なことに1人で耐える必要なんてない、弁護士でも友だちでもなんでも、まず頼ればよかったのに……と、悔しい気持ちでいっぱいになる。


 でなければ、ご遺族は一体何を信じて、これからを生きていけばいいというの?

 遺された方々があまりにも哀れで、言葉にもならないほどです。


 ともあれ、今後は創作者側もよほど気を付けて、実写化のお話がきたときにはまず、著作権に詳しい弁護士に相談するとか、こうした問題に取り組んでいる創作者の団体に一度連絡してみるのがよいかもしれません。

 自分自身と作品を守りましょう。

 なにより、命を守ってほしいです。


「言葉にもならん」とか言いながら、また山ほどかいてしまった……お許しを。

 ではでは。

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