80 映画「正欲」
はいこんにちは。
今回は映画、特に邦画のお話。
原作は朝井リョウ氏によるベストセラー小説です。こちらは第34回柴田錬三郎賞受賞作品でもあります。
朝井リョウさんと言えば、「桐島、部活やめるってよ。」や「世にも奇妙な君物語」「何者」など様々な名作・問題作が人気となり、多くが映像化もされている新進気鋭の作家さんですよね。
私のいる学校図書館にも、いくつかお作品を入れております。
こちら「正欲」は、一般的に「ふつう」と言われる生き方がどうしてもできず、社会からいつも疎外されているような気持ちがぬぐえない人々、それによって深い寂しさや生きづらさを感じている人々をテーマにした群像劇。
それぞれの登場人物の視点から、丁寧にかれらの抱える苦悩や悲しみ、やりきれなさなどを描き出した秀逸な作品だなと思いました。
映画の概要はこちら。
監督は岸義幸氏。脚本が港岳彦氏。このお二人は以前、映画「あゝ、荒野」でもタッグを組んだとのことです。
2023年製作、134分。
主要な人物を演じているのは、稲垣吾郎さん、新垣結衣さん、磯村勇斗さん、佐藤寛太さん、東野絢香さん。
吾郎さんについては、不登校の小学生の息子がいる、頭の固い検事役ということで、ちょっと異色の立ち位置なんですが、そのほかの方々はみなさん、なにかしら理由があって社会に馴染めず、いわゆる「ふつう」に生きられない苦しさを抱えている役どころ。
正確ではないのですが、たとえばこんなセリフが耳に残りました。
「自分はずっと、地球に留学しにきているような感覚だった」
「この社会は、明日死にたいと思っていない人たちのために作られている」──。
いろいろなセリフが耳に残り、それらにいちいち考え込まされてしまう。
この世で「ふつう」と言われる生き方の型にはどうしても嵌まれず、まるで日々社会に磨り潰されているような、寄る辺ない気持ち、寂しく悲しく、無力感に囚われたような状態で孤独に生きている魂たち。
そんなことを痛切に感じさせられる映画でした。
これはもう、おひとりおひとりが受け止め、考えるための作品だろうなと。
とにもかくにも、みんなが孤独でなければいいよねと。
どんな形であれ、相手をある程度までは理解し、理解されて「ひとりじゃないんだ」と思えて生きられることが、人間にはなにより大事。
そんなことを思いました。
問題作なのは間違いないのですが、私は名作でもあると思います。
私が拝見した中でのことですが、「仮面ライダーゴースト」から始まって、朝ドラ「ひよっこ」や「昨日何食べた?」などなど、そのほかいろんな名作にご出演されてきた磯村勇斗さんが、この作品ではひと皮もふた皮も剥けて素晴らしい役者さんとして成長されていることも、個人的にとても嬉しかったです。
新垣結衣さんも同様です。前向きな明るい笑顔ばかりフォーカスされがちだったであろう彼女が、目の光を完全に失った暗くてうそ寒い、ドロドロした姿を演じ切るところに、役者としてのすごみすら感じました。
東野絢香さんのとあるシーンでは本気で泣かされてしまうことも。
本当によかった!
まことに心から素晴らしい作品だと思います。
まだかかっている映画館はあると思いますので、ぜひご自分の目で、心でご覧いただければと思います。




