68 映画「首」
はいこんにちは~。
今回もまた映画のお話。
やっぱりほかの映画の時の予告編で知った、北野武監督のひさしぶりの作品「首」です。
舞台は日本、戦国時代。
そう、あのみなさんよくご存じの、映画にもドラマにもゲームにもなりまくっている人気の戦国時代ですね。
しかしこの作品、庶民の中にはいろいろと出てくるのですが、姫とか奥方とかいういわゆる時代劇的な「キレイどころ」たる女性陣はほぼ出てこない。キレイどころはおもに森蘭丸とか武将のおっさんとかです。
ひたすらひたすら、おっさんたちによる愛憎劇、そして腹の探りあいと化かしあいと殺しあいのドラマ。
正直、「おっさん」言うても当時のみなさんてかなりお若いはずなんですが(せいぜい三十代とか)、今作の俳優陣はだいぶお年を召したいぶし銀の方々が中心。
それだけに、演技はどなたも安心して拝見できましたが、内容は!
まっったく「安心して」なんて観られない!
とにかく首が飛びまくるし血まみれだし。有名な武将以外は、いつだれがどこで殺られるかわからんし。
あっちもこっちも「命、かるっっ!」の嵐でした。
いやいや、いつもの北野監督らしい狂いっぷりというか、からりとした容赦ない残酷さというか、もはやここまで突き抜けているとあっぱれです。あのお歳で「ビートたけし」として(おそらく作中もっとも性格のひどいキャラである)主演・羽柴秀吉を演じられた上、監督としてここまでできるスタミナは本気で見習いたいものです。
織田信長訳の加瀬亮さんもまたすさまじい狂いっぷり。昔のさわやか真面目青年を演じられていた頃しか存じあげないのですが、やっぱりすごい役者さんですね。
本気で怖かったわ……狂いすぎてて。そして多分、生粋の岐阜の方言(尾張弁)が自然すぎてあちこちよくわからない(笑)。父方の祖母が名古屋の人でしたが、あそこまで煮しめられた方言は話してなかったので。
今回は、たまたまですが某国営放送の大河ドラマでも家康公の物語だったわけですが(役者さんたちも結構同じ人が出ていたりもするし)、若々しく弱く、生涯を通じて悩みぬき、悲しみのうちにも必死に戦のない世を目指した大河家康とはまったく違う、今回の「首」の家康。
まさしく「タヌキ」な家康を、小林薫さんが飄々と演じておられます。これまたものすごく魅力的、そして恐ろしい。
個人的には明智光秀訳の西島秀俊さん、「きのう何食べた?」のシロさんなので、「いやアナタのお相手はケンジさんでは……??」とか思わなくもなかったのですが、荒木村重役の遠藤憲一さんとのぐちゃぐちゃな愛憎ドラマは見ごたえ十分で、めっちゃよかったですう……。
今作は北野監督が三十年もの間あたため続けてきたアイデアらしいのですが、なるほど、あの新選組で男色を扱った映画「御法度」のころから構想としてはあったのかなあ……なんて。若い頃、映画館で「御法度」を観た者としては納得です。
そういえば、黒田官兵衛訳の浅野忠信さんは「御法度」でも重要な役どころだったなあと思い出すなど。
今回は、あのエグさと愛憎劇と命の軽さっぷりが段違いにグレードアップして、あっちでもこっちでも武将たちが壮絶にいろんな形で愛し合っててもうほんとスゴイ。
わたくし一人でふらっと観にいきましたが、実はそのとき、両隣は妙齢のおじさまがたで。まあプレミアムシートだからある程度は距離があいてるんですけどもね。
むしろそっちのお客さんがたの反応が気になって、ちょいと集中できんかったわ、特にそういうシーンとかは。
「大丈夫? こういう内容やって、あらかじめわかって観に来てはる? 大丈夫……??」って(苦笑)。
エンドロールの時に猛烈に感じたことがありましてね。
それは、北野武監督の「人間なんてこんなもんよ」という、一種達観したというか諦観というか、そんな人間、世の中をぜんぶ高みから民渡している人の、全部を軽く笑いとばしながらもよく考えると実は重い、そんなメッセージを受け取ったような感覚でした。
あと、観ているうちにだんだんと人間の首が胴体とつながっていることの方が不思議に思えてくるのが怖かったですね~(ほんま怖い!)。
あの残酷さに慣れていく自分が怖い。価値観が北野ワールドにおける戦国の酷薄さに浸食されていくというか。
ともあれ。
ものすんごくお金をかけた時代劇映画で、北野武監督がまたもややってくれてますので、エグいのが大丈夫なかたは是非どうぞ!
ではでは。




